偽物と二次創作を放置すると決めた僕。ブジャルの正体がバレた日の事を思い出します(2)
人に甘えるのも誰かとずっと一緒にいるのも難しいですね
恋紋さんに正体がバレた……しかも、ブジャルモードになってるところまで見られていたなんて……今思い返すとこの日は厄日だったとしか言いようがない
「まさか配信荒らしで有名なブジャルが陽人だっただなんて意外だったわ」
意外だったと言う割に驚いた様子を見せない恋紋さん。僕の悪名はアンジュとは縁もゆかりもないVtuberにまで知られていたとは……
「げ、幻滅した……よね……」
本心を言うと恋紋さんにブジャルの正体がバレて幻滅されようとどうでもよかった。PK在りきのゲームで何をしようとプレイヤーの自由なんだから。屁理屈を言うと僕はPKして遊んでただけで配信を荒らしてはいない。ただ殺した相手が配信者で配信中にそれをしたってだけで。本心を悟られぬよう、僕は小さ目の声で言った
「別に幻滅なんてしてないわ。コメント欄で誹謗中傷してないのでしょ?」
「う、うん……僕がやるのはPKで配信のコメ欄荒らすのは筋違いだから……」
「だったら幻滅はしないわ。UWОに限って言うのなら運営側がPKをよしとしているのならされても文句は言えないもの」
「恋紋さん……」
「でも、私の事はPKしないでね。ゲーム内でとはいえ、陽人に殺されたら配信切って泣きながらお部屋に突撃するから。いいわね?」
「う、うん……肝に銘じておくよ」
恋紋さんが幻滅してくれてなかったのは幸いだった。だけど、彼女はどうして僕が配信のコメント欄にいない事を前提で話したんだろう? もしかしたらコメント欄でも暴れてるかもしれないのに
「ならこの話は終わりよ。喉が渇いたから陽人のグラスでコーラが飲みたいのだけど?」
「もう好きにして……」
途中までイイ感じだったのに最後で全て台無しだよ……。と、これが恋紋さんにブジャルの正体がバレた時の話。次は凛瑠葉さんにバレた時の話をしようと思う。凛瑠葉さんにブジャルの正体が見破られたのは深夜。ちょうど僕が一人リビングのソファーでくつろいでいた時の事だった
「まさか恋紋さんにバレてたとは……」
恋紋さんにブジャルの正体がバレたのは僕にとって完全に予想外の事だった。まさか覗き見されてたとは思わなかった
「はぁ……」
ブジャルの正体は秘密にしてるわけじゃない。ただ、ブジャルの時は口が悪くなるからなるべくならバレたくないのが本音。口が悪いとか注意されたくないしさ
「瑞樹さんに続き恋紋さんもかぁ……」
天井を見上げながらブジャルの正体を知ってる人物の名前を呟く。何の解決にもならないなんて理解している。ブジャルの正体が瑞樹さんと恋紋さんの二人にバレてるんだぞっていう戒めだ。戒めたところで事実は変わらないんだけどね
「身内にバレるのは問題ないんだけど……やりづらいなぁ……」
ネット上で不特定多数の人間に正体がバレたなら慌てるところなんだけど、幸いな事にバレたのは身内だけ。特に問題はないんだけど……五味陽人は自分で言うのもなんだけど、人当りのいい好青年だ。大してブジャルは害悪配信と愉快な仲間達限定の煽り厨。かけ離れ過ぎている
「動きづらくなってものだ」
実際は今までと大差ないんだけど、この時はなぜか動きづらくなったと感じた。多分だけど、恋紋さんのせいだろう。元々何かにつけて口うるさかった人にバレたせいで動きづらくなったと無意識のうちに自分の行動を制限しようって心理が働いたんだと思う
「動きづらくなったって何が?」
一人悩んでいると背後から女性の声がした。振り返るとそこにはTシャツ、スエット姿の凛瑠葉さんがいた
「何でもないよ」
ブジャルの正体がバレて動きづらくなったとは言えず、素っ気なく返した。瑞樹さんも恋紋さんも普通に配信してるならブジャルやアンジュに関わるべきじゃない。当然、凛瑠葉さんも
「何でもない事ないでしょ~?」
そう言いながら凛瑠葉さんは僕の隣に腰を下ろし、顔を覗き込ませてきた。確かに何でもない事じゃないけど、彼女には関係ないし、関わっちゃいけない。ネット限定で言うと僕には関わらない方が吉。関わった挙句、アンジュに八つ当たりされたら確実に配信が荒らされる。本人は被害者ぶってるけど、客観的に見ればアンジュは加害者。本人は認めようとしないけど
「何でもないよ。凛瑠葉さんには関係ないし」
「冷たいなぁ……私ってそんなに頼りないかな?」
「頼りないとは言ってないでしょ。ただ、関わるべき問題じゃないから関係ないって言ってるだけ」
新人や個人勢はもちろん、企業勢のVtuberもアンジュとは関わるべきじゃない。アンジュに一度でも物申すと粘着される。だったら最初から関わらない方が世の為人の為何より自分の為なんだけど……
「ブジャル君は悩み事を人に相談できない人なのかな?」
「相談できないんじゃな────って、今なんて?」
「だから、ブジャル君は悩み事を人に相談できない人なのかなって」
「ブジャルって誰の事?」
「陽くん」
真剣な表情でジッとこちらを見据える凛瑠葉さんの表情に迷いの色はなかった。もう二人にはバレてる。今更隠したところで無駄なのは明白だった
「確かにブジャルは僕だけど、その事どこで知ったの?」
「どこってこの家以外にある?」
「ない……です……」
「でしょ? 正確にはちょっと辞書借りようとして陽くんのお部屋に行った時になんかハイテンションだな~って思って覗き込んだら……ね? い、一応、ノックはしたよ?」
「あー……理解した」
UWОをしている時は常にヘッドホンを付けている。だからノックされても気が付かない。恋紋さんと凛瑠葉さんにバレたのは僕の油断が招いた事。完全に自業自得じゃないか
「陽くんでもハイテンションになる事あるんだね」
「僕がハイテンションになったら悪い?」
「う、ううん……」
「だったらいいでしょ。別にSNSや配信のコメント欄で誹謗中傷してるわけじゃないんだから」
SNSやコメント欄で誹謗中傷は僕の主義に反する。荒らし行為はゲーム内でPKしてなんぼ。PKなしだったら敵に気に入らない人を攻撃するように仕向けてこそ。誹謗中傷する奴は三流の荒らしだ
「そうだけど……その……大丈夫なの?」
「何が?」
「粘着とか……されないよね?」
凛瑠葉さん不安に満ちた表情を見て一瞬真実を言おうか迷った。彼女が聞かんとしている事は解かる。けど、アンジュの事はハッキリ言って新人や個人勢が知る必要はない。だから僕は……
「凛瑠葉さんが何を思ってそんな事を聞くのかは分からないけど、粘着はされないし、されてないから大丈夫だよ」
嘘を吐いた。本当はアンジュに粘着されている。それを言ったところでどうにもならない。いや違うか……粘着されたところでアンジュ程度だったら脅威にすらならない。喧嘩吹っ掛けといてすぐに逃げるオバサンなんて恐れる必要ないでしょ
「嘘だよね? 本当はアンジュって人に粘着されてるよね?」
「────!?」
「嘘吐いたって無駄だよ。全部知ってるんだから」
僕は目を見開いた。驚いた……まさかブジャルがアンジュに粘着されてる事を知ってるとは……調べれば分かる事なんだけど、凛瑠葉さんが知ってるとは思わなかった
「全部知ってるって何をどこまで知ってるの?」
「言ったでしょ? 全部知ってるって。ブジャル君がアンジュって人に粘着されてるのはもちろん、その人のリスナーさんがブジャル君に喧嘩吹っ掛ける事があるってのも知ってるよ」
「そっか……」
反論の余地なし。どうやって調べたのかは知らないけど、ここまで知られている以上、隠し通せる気がしなかった
「そうだよ。それで……さ、大丈夫だよね……?」
「何が?」
「家に押しかけられるとかない……よね?」
「ないよ。アンジュは人に喧嘩売ってすぐに逃げ出す臆病者だからね。粘着されてるのは事実だけど、SNS上でブジャルと関わった配信者に直接被害があるわけじゃないしさ」
「ならいいんだけど……何かあったらすぐに相談してね?」
「何もないんだけど……」
この時はまだ偽物が無関係なVtuberに迷惑掛けるとは思ってなかった。当然、アンジュとカップリングされる事なんて全く予想してなかった。
「だとしてもだよ!」
「はいはい、何かあったら相談するよ」
「よろしい!」
この日はそのまま凛瑠葉さんとリビングで寝落ちした
で、現在────
「陽人、たまには義姉に思い切り甘えるのも悪くないと思うの」
「陽くん、たまには甘えてよぉ~!」
「陽人。年上の女性に甘えていいんだよ?」
僕は女性陣から頻りに甘えろと迫られている
「甘えろって言われても困るんだけど……」
甘え方を知らないわけじゃないけど、何もなしに甘えろと言われても困る。唐突に欲しいものを聞かれても困るでしょ? あれと同じ
「陽人……私の接し方が悪かったのね……こんなに捻くれちゃって……」
「陽くん……もっと優しくしてあげればよかった……」
「一人暮らしを始めた時点で私が強引にでも陽人を連れ去っていればこんな事には……」
目元にハンカチを当てる女性陣。僕が変わってしまったみたいな言い方だけど、男子高校生にとって義理とはいえ、姉に甘える行為がどれだけハードル高いか知らないのかな? それと、彼女に甘えるって人前じゃ凄く恥ずかしいんだよ? 僕はまだ羞恥心あるよ?
「甘えるのって簡単じゃないんだよ……」
SNSでVtuberの人が時々ずっと一緒にいましょうみたいな投稿してるけど、誰かとずっと一緒にいる事は簡単じゃない。その人が抱えてるものを一緒に背負う覚悟がなきゃ。人に甘えるのだってそう。相手を信じて自分が抱えてる悩みや不安をぶつけられるかぶつけてもいいと思われるようにならないとね。何が言いたいかと言うと、瑞樹さん達が要求している事ってかなり難しいよって事
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




