偽物と二次創作を放置すると決めた僕。ブジャルの正体がバレた日の事を思い出します(1)
義姉二人がブジャルの正体を知るキッカケ第一弾!
偽ブジャルと二次創作を放置すると決めてから三日。あれ以来僕はpixelや小説投稿サイトの閲覧を控えるようになった。二次創作は嫌いじゃないけど、自分と嫌いな人間のカップリング小説なんて見たくないからね
「平和っていいなぁ……」
休日の平和な昼下がり。僕は休みの日恒例のティータイムと洒落込んでいるんだけど……
「私は陽人と一緒にいるだけで幸せよ」
「恋紋ちゃんに同じく! 陽くんと一緒にお茶できるだけで幸せ~」
「私には陽人さえいれば他に何もいらないよ~」
珍しい事に恋紋さん、凛瑠葉さん、瑞樹さんも僕と一緒にティータイムを満喫している。今までは配信機材の買い出しや配信で僕一人だった。今日の昼配信はないのかな? まぁどうでもいいか。配信は誰かに頼まれてやるものじゃなく、自分がやりたいと思ってやるものだし
「リアクションに困るんだけど……」
女性────それも年上の人から褒められたり甘えられたりするは悪い気はしない。テレビに出るレベルの有名人や配信をする度に好意的なコメントを貰っている配信者なら特にね。嬉しくはあるけど、リアクションに困るのも事実。こんな時僕はどう返せばいいんだろう
「そこは素直に喜びなさいな」
「そうだよ! こんな美人に囲まれて文句言うなんて陽くん贅沢過ぎ!」
「今を逃すと今後一生ハーレムなんて体験できなくなるかもなんだよ? 満喫しなきゃ損じゃない?」
誰も頼んでない。なんて言うと彼女達が怒りそうだから黙っておこう。僕は平和なひと時を自ら破壊するほど愚かではない
「はいはい、嬉しい嬉しい」
「投げやりね」
「陽くん! もっと愛情をこめて!」
「陽人のいけず~」
「あのねぇ……」
子供のような恋紋さん達に嘆息を漏らす。僕はいつもこんな感じでしょ
「ブジャルじゃないだけマシだけれど、もう少し私達にデレてくれてもいいのではないかしら?」
「お義姉ちゃ~ん! って甘えてよ!」
「瑞樹~! って言って私の胸に飛び込んで来ていいんだよ~」
この人達は何を言っているんだろう……
「義姉に甘える年頃じゃないし、酔っぱらってすらいないのに女性の胸に飛び込むとか無理」
「「「ぶ~!」」」
「ぶー垂れてもダメ」
「「「ケチ!」」」
「ケチじゃないよ」
ぶーぶー文句を言う女性陣を軽く受け流し、僕はブジャルの正体がバレた日の記憶を掘り起こした
ブジャルの正体がバレた日────正確には恋紋さんと凛瑠葉さんがVtuberデビューして三週間が経過した頃。何の因果か義姉二人はUWОを初のゲーム配信にしたらしい。僕的にはホラゲーとか、壺に入った人が頂上を目指すゲームとか、麻雀とかにしてほしかったんだけど……配信者がプレイするゲームは自由だから別に何をやってもいいんだけどね。ちなみに、二人共初配信は雑談。自己紹介と今後の活動方針等々を話したと聞いている。聞いているって言ったのは僕が二人の配信を見てないから。瑞樹さんからそう教えられた。話を戻そう。ブジャルの正体がバレた日、僕は……
「必死必死ィ! どうしたどうした? そっちから先に喧嘩売ってきておいて逃げんのかなぁ~?」
アンジュの囲いが一人、プリンチ狩りに精を出していた
『ワレェ! これは逃げじゃなくて戦略的撤退じゃ!』
「あっそ。でも、俺からは逃れられないぜぇ~?」
逃げるプリンチ機をまるでネズミを誘導する猫のように追いかける僕。ゲーム内の事とはいえ、我ながらやる事がゲスだと思う。アンジュがいつも出没するエリアは地球。ペットは飼い主に似るって言うけど、リスナーは配信者に似る。僕がこの日いたのは地球の東京エリア
『はぁ!? ワシがその気になればオンドレみたいなクソガキ一瞬で倒せる!』
アンジュのリスナーはどうしてこう自分を客観視できない人が多いんだろう? 自分の使ってる機体と僕の使ってる機体の性能の差くらいUWОというゲームを研究すれば解かるでしょうに……
「やれるものならどうぞ。あ、俺もうアンタみたいな雑魚追いかけるの止めるわ。飽きたし」
強い人と戦うのは面白い。勝っても負けても勉強になるからね。でも、プリンチやアンジュと戦うとゲームって言うより作業と言った方が表現的に正しい。実際あの人達はゴキブリに近い存在だしね
『ワレェ、逃げるんか? あ?』
「逃げねーよ。ただ、追いかけるのは止めるだけだっつーの」
僕はメニュー画面を開きエリア移動を選択。僕が向かうのは当然、宇宙だ
『はぁ!? 逃げとるやないかい! ワレェ!』
「逃げなっつーの! ただ、地球でやり合うのは面倒になっただけだ! アンタの言葉を借りるなら戦略的撤退だ。バイチャ!」
アンジュ達のホームグラウンドが地球なら僕のホームグラウンドは宇宙。自分のやりやすいエリアに移動し、戦術を考えるのは当たり前だ
宇宙に移動したところで僕はボイチャを一端オフにし、ヘッドホンを外し深く息を吐いた
「毎度毎度懲りないねぇ……」
アンジュは自分から喧嘩を売る事もあるから自業自得な部分があるけど、プリンチや他の囲い達は違う。僕が野良でやってるとあっちから喧嘩を吹っ掛けてくる。それもかなり高い割合で。アンジュと野良で会わないのは彼女が配信以外でUWОをプレイしないから。この日プリンチと戦う事になった経緯は単に野良で楽しんでたら鬼メッセが届いてしつこかったから
「カレーのシミよりしつこいとか勘弁してよ……」
最近は技術の進歩でカレーのシミなんか簡単に落とせる洗剤が売られている。昔は付いたらすぐに服を洗わなきゃ落ちないと言われていたカレーのシミがしばらく放置しても簡単に落とせるようになるだなんて技術の進歩は素晴らしいと思う。だけど、アンジュやプリンチ達は違う。一度目を付けられると簡単には離れない。と、カレーのシミとプリンチは置いといて、ブジャルの正体がバレる少し前まで話を飛ばそう
プリンチと戦い始めて一時間が経過。戦いと言っても宇宙に移動してからは僕が一方的に爆撃してただけだから戦ってたとは言えない。彼を爆殺に飽きた僕はログアウトして一息ついていた
「さすがに雑魚とはいえ、一時間もやってると疲れる……」
ヘッドホンを外し、部屋を出た僕はリビングへ向かった
「みんな配信中か」
リビングに入ると瑞樹さん達の姿はなかった。詳細なスケジュールは分からないけど、この時は配信中なんだろうと姿がない事を気にも留めず、そのままキッチンへ入った
コーラとグラスを持ってリビングへ戻ると自分の席へ座り、グラスにコーラを注ぐと一気に飲み干した
「もうこれがないと生きていけない……」
アンジュと不愉快な仲間達の相手をした後は炭酸の利いたコーラに限る
「あら、陽人。そんなに私と二人きりになりたかったのね」
二杯目のコーラを注ごうとしていたところで恋紋さんが見当違いな事を言いながらやってきた。僕がタイミングを見計らって先回りしたみたいな言い方は止めてほしいんだけど、今までみたいに険悪な関係じゃないからよしとしよう
「たまたまだよ。それより配信終わったの?」
「ええ、たった今終わったところよ」
「そっか」
「ええ。それより、私もコーラが欲しいのだけど?」
「なら自分でグラス持って来て」
「それより、私もコーラが欲しいのだけど?」
「なら自分でグラス持って来て」
「そう。それより、私もコーラが欲しいのだけど?」
「だから、自分でグラス持って来てってば」
「陽人の使ったグラスでコーラが飲みたいのだけど?」
「自分で持って来ればいいじゃん」
「嫌よ。好きな男の子とは関節でもいいからキスしたい年頃なのよ?」
凛とした表情で理解に苦しむ事を言ってのける恋紋さんに僕は言葉を失くす。プリンチと戦った後だったせいか溜息すら出なかった。
「知らないよ……」
どうにか言葉を絞り出したはいいけど、一言しか出なかった。アンジュと不愉快な仲間達はまともに接すると人の思考回路に悪影響を及ぼすって事を忘れていた
「知っておきなさい。ブジャルの時はハイテンションなのに陽人になるとどうしてテンションが下がるのかしら?」
「そりゃキャラ作って────今なんて?」
僕は彼女が何を言ったか理解できなかった。ブジャルという名前は配信者でUWОをプレイしてたら知る機会はあると思う。だけど、ブジャル=五味陽人という答えに辿り着きはしない。僕は身バレ防止のために口調や一人称、声まで変えてるんだから
「あら、もう一度言わないといけないかしら? ブジャルの時と陽人の時じゃテンション違うわねって言ったのよ?」
「ど、どうして僕がブジャルだと……?」
「どうしてって、トイレに行った帰りにお部屋を覗いたら陽人が普段とは違う口調で喋ってるじゃない。最初は陽人もはっちゃける時があるのねとほっこりしていたのだけど、その後配信に戻ったら陽人が言っていた事と全く同じ事を言っていた人がいた。それがブジャル。その先は言わなくても解かるわね?」
「う、うん……」
「そういうわけで陽人のグラスでコーラが飲みたいのだけど?」
何がそういうわけなのか全く理解できなかったけど、恋紋さんにブジャルの正体がバレたって事だけは理解した。まだ恋紋さんと瑞樹さんにしかバレてないから大丈夫だよね? 数分後、この期待がアッサリと打ち砕かれる事になるとこの時の僕は思ってもいなかった
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




