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自分の二次小説があると知らされた僕。やる気を削がれました(1)

ちょっと複雑です

「はぁ……」


 個人勢や新人Vtuberを守るの止めようと決めた日の翌日。僕は窓から差し込む朝日で目を覚まし、眠い目を擦りながら身体を起した。肩の荷が下りて楽になったはずなのに溜息が漏れる。何も守らないというのは気が楽なはずなんだけど……


「後悔してる……のかな……」


 男が一度決めた事を曲げるのは許されない。男気と責任感が強い人間なら間違いなくこう口にするだろうけど、僕は男気も責任感も強くない。一度決めた事? 自分の信念よりも大切なものの為だったらいくらでも曲げるさ


「はぁぁぁぁ……」


 今度は深い溜息が漏れる。昨日の選択は何も間違ってない。配信のコメントについてはVtuber各自が対応すればいいし、SNSで変な奴に絡まれたらブロックするなりして自衛すればいい。僕がVtuberを見捨てた選択は何も間違ってない。間違ってないはずなんだ


「Vtuberの事考えるの止めよう」


 瑞樹さん達の事やVtuberの事を考えるから思考が後ろ向きになるんだ。考えを切り替えなくちゃ! そう思って頭の側に置いてあるスマホを手に取り、時間を確認しようと画面を点けると……


「DM来てるし……って、はぁ!?」


 DMの通知があった。差出人はアンジュ討伐隊さん。アンジュと戦う仲間の一人だ。ロック画面から見えた内容に僕は思わず驚嘆の声を上げる。通知の文面には“ブジャル君、君の二次小説を見つけた。しかも、アンジュとのカップリングだ”とあった


「何がどうなってるんだ……」


 僕は急いで討伐隊さんのDMをタップする。二次小説は別に珍しくもなんともない。個人勢や新人は知名度的な意味で限りなくゼロに近いけど、企業勢は同人誌や二次小説があるって噂で聞いた事あるし。じゃなくて! 気にするべき事は僕とアンジュのカップリング小説があるって点だ


「はぁ!? 冗談でしょ!?」


 本日二度目になる驚嘆の声。それもそのはず────


 “ブジャル君、君の二次小説を見つけた。しかも、アンジュとのカップリングだ。中身は自分の目で見てほしいんだけど、ハッキリ言おう。ボクが君なら首釣ってるレベルだ。https://www.pixel~”


 討伐隊さんの感想の後に添付されたURLをタップ。すぐにアンジュとのカップリングされた小説へ飛ぶ。URLから投稿されたサイトはpixel(ピクセル)だというのはすぐに分かった。まぁ、暗黙の了解で成り立ってる二次創作を投稿できて大衆の目に留まるサイトはpixelともう一つくらいだ


「は?」


 僕は読んだ瞬間スマホを落としそうになる。わけが分からない。二次創作だからリスペクトさえしていれば自由なんだけど……さすがにこれは……


「何でこうなるかなぁ……」


 内容の言及は避けるけど、簡単に言うとこの小説は文章力が~とかのレベルじゃない。どうしてこうなった? レベルだ


「僕とアンジュのどこをどう見れば恋愛要素があるように見えるんだ……」


 思わず眉間を抑える。色々と突っ込みたい


「勘弁してよ……」


 これを書いたユーザーは目が悪いらしい。アンジュと僕のやり取りに恋愛要素を見出すとは……眼科……いや、耳鼻科? それとも脳外科? とりあえず病院に行った方がいいレベル。


「念のためタグを確認しとかなきゃ……」


 僕はスマホのSNSを落とすとパソコンを起動させ、pixelにアクセスした





 タグの確認を終え、僕は重い気分でリビングへやってきた


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 深い溜息を吐きながら自分の席へ座るとそのまま突っ伏す。どうしてこうなった? とかの問題じゃない。どうやったらそう見える? 書いた人間はどういう感性をしているんだと問いただしたい


「何なんですかねぇ……ブジャアンって……」


 小説のタグに登場人物の名前があるのは解かる。“ブジャル”“アンジュ”のタグが付けられてるのは仕方のない事だ。だけど、理解に苦しむのは“ブジャアン”。要するに僕とアンジュのカップリングを意味するだろうタグなんだけど……今までのアイツとのやり取りでカップリングさせる要素が皆無だったからブジャアンタグを付ける意味が理解できない


「どうしたものか……」


 ある意味偽ブジャルよりも厄介だ。小説は自由で二次創作は原作やその人への愛があればいいんだけど、カップリングさせられるとは思ってなかった。止めはしないけど、なんというか、複雑な気分ではある。この手の事って作者を問い詰めるわけにいかないからなぁ……


「放置は決定なんだけど……はぁ……」


 創作は止めようがないから放置するのは決定事項なんだけど、アンジュが知ったらどうなるか……考えたくない


「なるようにしかならないか……」


 僕は考える事を止め、目を閉じた。朝食の用意しなくちゃならないんだけど……やる気が起きない。それくらいアンジュとのカップリングは僕の精神にダメージを与えたのだ



 ────────────なさい

 ────────きなさい

 ────おきなさい


 誰かの声がする……お願い、寝かせて……疲れてるんだ……


 ────────ると、起きなさい


 今度は身体を揺らされる。まだ寝てたいのに……


 “陽人、起きないとキスするわよ?”


「────!?」


 僕はこの一言で勢いよく顔を上げ、声のする方を見た。すると……


「おはよう、陽人」


 寝間着姿で少しガッカリした様子の恋紋さんが立っていた


「お、おはよう……」

「そんなに私とキスをするのが嫌なのかしら?」

「そ、そうじゃないんだけど……ちょっとね」

「ちょっと? ちょっと何かしら? 私に言えない事なの?」


 恋紋さんの視線が刺さる。言えない事はないんだけど……心情としては言いたくないといいますか……Vtuberやってる人に自分の二次創作────それも小説が書かれましたとか言えると思う? 言えないでしょ……分かりやすく例えるなら配信者よりも先にリスナーにファンが付いたようなものだよ? 配信している側からすると複雑だろうし、人によっては快く思わない。だからこそ言うのが憚れる


「いえ……なくはないけど……僕的には言うのが憚れるというか……その……」

「その? その何?」

「え、えっと……」


 さっきよりも鋭い視線で僕を見る恋紋さんを前に口ごもる。今になってアンジュとブジャルのカップリング小説が書かれた事実をどう伝えたものかを迷うだなんて……


「えっと何? もしかして何か事件に巻き込まれたのかしら?」

「事件……といえばそうなのかもしれないけど……正直、当事者の僕としても複雑というか……その……」

「その? その何かしら?」

「えっとぉ……」


 頭を掻き、視線を右へ逸らす。彼女がVtuberだから言いづらいのではなく、相手がアンジュだから言いたくない。考えても見てほしい。自分の二次小説が書かれたとして、相手は誰もが知る嫌われ者でオバサンだったら? その中身が嫌われ者オバサンとの恋愛だったら? 人に言えないよね?


「はぁ、ハッキリ言いなさい」

「言えたら苦労しないよ……はぁ……」


 アンジュの事は恋紋さんも知っているからこそ言いたくない。僕にだって好き嫌いはある。人間でも食べ物でも。アンジュは嫌いな部類で天地がひっくり返っても結ばれたくない人間。他のVtuberや配信者だったら許せたのに……


「言えたら苦労しない? 事件に巻き込まれたのかしら? だったら遠慮なく相談しなさい。私が守ってあげるから」


 そう言って僕の方をガシっと掴む恋紋さんの目には炎が宿っているように見える。事件じゃないんだけど……こうなったらなるようになれだ


「えっと……スマホでアンジュssって検索してもらっていいかな?」

「何を言っているのかしら? ss? それは何なのかしら?」

「いいから、やってみて。そうすれば全て解かるから」

「え、ええ……」


 恋紋さんはスエットのポケットからスマホを取り出し、検索を始める。本当は見ない方がいいんだけど……隠し通せるものじゃない。時として諦めも大切だ


「検索したわよ?」

「うん」

「…………次はどうしたらいいのかしら?」


 僕は彼女の言葉に一瞬我が耳を疑った。どうしたらいいかって決まっている。pixelってサイトを開けばいい。僕が見たアンジュの小説はそこにあったのだから


「どうしたらってアンジュssって記載されたサイトを開けばいいんだよ?」

「それってどのサイトかしら?」


 またも耳を疑う発言が飛び出す。どのサイトってpixel以外ないと思うんだけど……


「どのサイトってアンジュssなんてあるサイトは一つしかないと思うんだけど……」

「一つ? 私は複数見つけたのだけれど?」

「え? 嘘でしょ?」

「嘘じゃないわよ。ほら」


 恋紋さんに差し出されたスマホの検索結果にはpixel以外にも速報掲示板や虹笛という二次小説とオリジナル小説が掲載できるサイトにもアンジュssの表記があった


「嘘でしょ……」


 複数のサイトにアンジュssがある事実に僕はガックリと肩を落とした。部屋じゃpixelばかりに目がいってて他のサイトを気にする余裕がなかったから油断していた……中身はともかく、複数のサイトでアンジュの小説を掲載していようとは……












今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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