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偽物が無関係なVtuberを誹謗中傷していると知った僕。彼女を冷たく突き放しました(1)

偽物ってマジで迷惑

「はぁ……」


 ブジャルの偽垢が猫丸雲母ってVtuberを誹謗中傷していると知らされた僕は落ち込んでる瑞樹さんを使わせてもらってる方の部屋に連れ込んだ。中へ入り僕達はすぐにベッドへ横になり、沈み切っている彼女を抱きしめながら今後どう動いて行くべきかを考えてるんだけど……溜息しか出ない。ブジャルを恨む人間がいるとしたらアンジュと彼女を肯定しているリスナーだけ


「陽人……」


 瞳に涙を溜め、こちらを見つめてくる瑞樹さんの頭を撫でる。友達が傷つけられたんだ、彼女が落ち込むのも無理はない。落ち込む理由は理解できるんだけど、現状何も思い浮かばない。かと言って偽物を泳がせて猫丸雲母さんに引退でもされたら恨まれるのはブジャル。つまり僕だ


「どうしたものかな……」


 瑞樹さんから見せられたスクショにあった誹謗中傷の内容が「信者の教育すらまともにできないんですか?」「お前の囲いが迷惑を掛けた! 謝れ!!」という理不尽極まりないもの。どちらもアンジュが言いそうな事だ。そう言えばアンジュは複垢の錬金術師だったっけ……自分を肯定してくれる人が少ない上にいざって時に誰も助けてくれないから複垢使って並みいるアンチに応戦してたなぁ……文章と言い方がワンパターンですぐに見破られていたけど


「どうにかならないかな?」

「うーん……物の言い方的な話をすればアンジュなんだけど……まだ何とも……一番手っ取り早いのは偽垢を凍結させるしかないんだけど……」


 SNSのアカウントを凍結させるのは簡単。ひたすら通報すればいいんだから。でも、同じアカウントをひたすら通報するのは非常に面倒だ。何回も何回も通報しなきゃならないんだから。それに、通報したからと言って即座に凍結されるわけじゃない。運営が害悪だと判断してようやく凍結される。早期凍結を狙うなら複数の人間が一斉に通報するのが早いと思うんだけど……瑞樹さんや麻子さん、美南海さんみたいな普通に配信してるVtuberを巻き込むわけにはいかないし……


「ないんだけど何? 何か問題あるの?」

「問題はないよ。一人あるいは数名で偽ブジャル垢を通報するだけだしさ。ただ、同じ事を繰り返すのは疲れそうだと思っただけで」


 今更だけど、僕は猫丸雲母さんのファンがどれくらいいるか知らない。新人Vtuberと一言で言っても上を見たらキリがない。下を見ても同じ事言えるけど。チャンネル登録者数=ファンの数じゃない事は言っておく。耐久で登録者数獲得したところで所詮は一時期の事。耐久やってる時に増えたからと言ってその後も配信を見に来るかと聞かれたら答えは否。頑張ってるから少しでも力になりたくて登録したけど、終わったら見に来なくなりましたなんて事もあるし。不安気な顔してる瑞樹さんに残酷な事実を突きつけるのは酷だから言わないけどね。簡単に言うと新しくオープンしたお店と同じ


「それはそうだけど……雲母ちゃんの事を考えると疲れそうだとか言ってられないよ……」

「だね……」


 本当だったらブジャルの偽物は僕一人でどうにかするべきなんだよね……まさか関係ない人に手を出すとは思わなかった。偽物の正体が誰であれ、許すわけにはいかないなぁ……


「陽人……私のリスナーにも協力を仰いでいい? これは見過ごせない……」


 そう言った彼女の目は怒りで燃えていた。友達が誹謗中傷されてるんだから怒るのは当然なんだけど、瑞樹さんにネガティブな記事を投稿させるわけにはいかない。何より、関係ない人をこれ以上巻き込ませたくない


「ダメだよ」

「え……?」

「本来これは僕一人の問題。瑞樹も猫丸雲母さんも関係ない。人手が欲しいのは事実だけど、だからと言って無関係な人を巻き込んでいい理由にはならないよ。瑞樹がS(・)N(・)S(・)上(・)で大っぴらにブジャルの偽物を通報してくれと頼むのは認められない」


 SNSというのは不特定多数の人間が見ている。瑞樹さんはVtuberだからフォロワーも多いと思う。彼女が声を掛ければすぐにでも多くの人が集まるのは確かなんだろうけど、ブジャルの偽物にも見られると思うとSNSで動くのは賛成できない。そう、SNSで動くのはね


「でも……」

「でもじゃない。確証はないけど、あの文章から見るに偽ブジャルの正体はアンジュだよ。瑞樹はアンジュの事知らないと思うから言うけど、アイツは誹謗中傷と注意、批判の区別が付かない奴なんだ。下手な事されると困るんだよ」


 新人Vtuberの事を悪くは言いたくないけど、ハッキリ言って新人Vtuber達は見通しが甘い。僕がしたアンジュ関連の投稿に時々反応を示す人とか特にそうだ。自分からライオンの檻に飛び込んでくるとかバカじゃないの? としか言いようがない。あのオバサンに目を付けられたくなかったら投稿された記事を見てもスルーするのが得策。反応すると粘着されそうって思わないのかな? そう言えば……猫丸雲母って確か……いや、もしそうだったら……


「分かった……SNSで言うのは止める……」

「分かってもらえて何よりだよ」


 瑞樹さんは分かったと言いつつ唇を噛む。大切な友達が傷つけられてるのに何もできない自分が許せないんだろうな……


「SNSで言わなきゃいいんでしょ?」

「そうだよ。SNS以外でだったら偽ブジャルの事をどう言っても構わない。ただし、言うだけね。手を下すのはなし。この戦いは僕一人の問題だから」


 全てを一人で背負う事はないんだろうけど、無関係なVtuberやリスナー達を巻き込む事もない。偽物とは僕一人で戦う。キャラじゃないけど、何を失ったとしても新人Vtuberやそのリスナーは絶対に守り通す


「僕一人って……陽人一人で戦うつもりなの……?」

「当たり前でしょ。偽物の正体がアンジュだったら関係ない人巻き込みたくないしさ」

「関係ないって……私、アンジュさんに配信荒らされたんだけど? それでも関係ない?」


 そうだった……真実がどうかは置いといて、瑞樹さんはアンジュに配信荒らされたんだった……関係……ないとは言い切れないよね……だけど、彼女を始め他のVtuberや配信者がアンジュと戦うのオススメできない。アイツの言動が理解不能だからとか、学習能力がないからとかの単純な理由ではなく、輝かしい未来の為に。だからこそ僕は……


「関係ないよ。瑞樹も美南海さんも麻子さんもね。所詮はネットの世界。ブロックしたら終わりの世界なんだから瑞樹達は大人しくそうしといて。アイツとは僕がやり合うからさ」


 瑞樹さんを冷たく突き放す。新人関係なく普通に配信しているVtuberや配信者はアンジュと関わるべきじゃない。粘着され、風評被害に遭ったら夢は潰え、最悪引退されるかもしれないって考えると本人の為にも応援してくれてるファンの為にも僕やアンジュを恨んでる人達だけで決着を着けるのが筋ってものだ


「私達の為に戦ってくれるのは嬉しいけど、陽人は────ううん、ブジャル君はどうなるの?」

「疲れたら適度に休むし、悩んだら同じ志を持った人に相談するさ。関係ない人達には迷惑掛けないよ」


 瑞樹さんには言ってないけど、アンジュを忌み嫌っているのは僕だけじゃない。同士はたくさんいるから僕一人だけで戦うわけじゃない。配信をしている身の瑞樹さんにあのオバサンがネット民から嫌われてる事実を伝えはしない。彼女や他のVtuberはアンジュみたいな嫌われ者の事なんて考えず、ただファンを楽しませていてほしいからね


「関係ないって……私は陽人の彼女だよ? それでも関係ないって言える?」


 やけに食い下がるな……


「関係ないでしょ。瑞樹は五味陽人の彼女であって水越みかはブジャルの彼女じゃないんだから」


 彼氏彼女の関係はリアルでの話。ネットじゃ水越みかとブジャルは付き合ってすらいない。アンジュとの問題はネットでの話だから瑞樹さんには全く関係ない。被害者と加害者って意味じゃ関係なくはないけどね。瑞樹さんはこれを最後に一切口を開く事はなく、ただ無言で僕をきつく抱きしめてきた。冷たくし過ぎたかなとは思ったけど、アンジュみたいなアタオカに関わらせないためには仕方ない……仕方ないんだ




 あれからしばらく僕達は一言も口を利かず、ベッドから起き上がりリビングへ向かった。大した距離じゃないのに遠い気がしたのは多分、僕が瑞樹さんを突き放したせいだ


「…………」

「…………」


 向かい合ってテーブルに就き、互いにコーヒーを啜る。僕達の間に会話はない。瑞樹さんが過激派Vtuberだったら協力してって手放しで言えただろう


「陽人」

「何?」

「陽人にとって私って何なの?」

「何なのって……いきなりどうしたの?」


 瑞樹さんが口を開いたかと思えば唐突に理解不能な質問をしてきた。何なのと聞かれてもどう答えたらいいか分からない。彼女と答えるべきなのか、従姉と答えるべきなのか……それとも、配信を荒らしたVtuberの一人と答えるべきなのか……つい質問で返したけど今の僕じゃ彼女の質問にちゃんと答えられる自信がない


「別に。ただ私って陽人にとってどんな存在なのかなって思って聞いただけ。それで? 私は陽人にとってどんな存在なの?」

「どんなって……いきなり聞かれてもすぐには答えられないよ。リアルだと従姉で彼女。ネットだと……守るべきVtuberの一人かな」


 今の僕じゃこう答えるのが精一杯。リアルの関係は事実だし、ネットの関係は……ちょっと嘘吐いたけど、余計な事を言って喧嘩してもつまらないから言わない


「そっか……でもさ、私は────ううん、私だけじゃないけど、自分の身は自分で守れるよ? 私達Vtuberはリスナーを守る義務があるからね」


 Vtuberに限らず配信者はリスナーを守る義務があるのは解かる。だけど、相手がアンジュだったら話は別。アイツは他の配信者や意見した人の名誉を著しく汚すから普通のネットストーカーを相手取るのとはわけが違う。自分の身は自分で守れる? バカじゃないの? 複数のアカウントを使ってまで粘着してくるような奴を相手にどう自分の身を守るって言うんだか……


「瑞樹はアンジュの事を知らないからそんな呑気な事が言えるんだよ。アイツは普通の奴とは違う」


 僕は一言だけ言うとコーヒーを啜った。アンジュは例えるならゴキブリ。しぶとさも複垢の数も。アイツをネットの世界から追い出すのに何年……いや、年単位は大げさだけど、どれだけの時間を要するか……考えたくもない。だからこそ瑞樹さんや他のVtuberはアンジュに関わるべきじゃないんだけど









今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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