ブジャルの正体がバレてから考えすぎな僕。とりあえず考えを切り替えます
今更ながら正体バレると思ってなかった
身の毛もよだつアンジュのリアル写真を見てしまい、軽く死にたくなった日から一週間が経った日曜日。家にいるのは珍しい事に僕一人。女性陣は配信に必要な機材を買い出しに行ってて不在。優雅な休日のティータイムを満喫していた。ゴールデンウィーク中は全くゆっくりできなかったから久々の安息。ちなみに今日の飲み物はオレンジジュースだ。
「平和って素晴らしい……」
義姉二人がVtuberデビューしようと僕にはどうでもいい。暴言吐いてれば荒らすだけだから。普通なら配信で暴言はもちろん、他者の悪口や愚痴なんて吐かない。まして、他の配信者の枠を荒らす事も。アンジュが異常というか、キチガイなだけだ
「この平和が長く続けばいいのに……」
アンジュの配信を荒らしてただけだったんだけど……会いたいって言う奴は出てくるし、コラボしたいって言い出すバカなVtuber出てくるし、オマケに正体バレるし……もしかしてアンジュって疫病神? いや、僕が絡まなければ済む話なんだけど……
「もう絡まなければそれでって次元じゃないか……」
事の始まりは僕がアンジュに誤射してしまった事なんだけど、それに対してスゴイ剣幕でアンジュが怒りをぶつけてきた。当然謝ったけど、姫プが十八番のアンジュは許してくれるわけがなく。SNSで僕を晒し者にしたのがキッカケだった。謝ったのに晒し者にするのは酷い過ぎる。僕以外の人にも同じ事してるから嫌われるのは言うまでもない。あのオバサンが別の配信を荒らしてるのは単に自分がチヤホヤされない八つ当たりだから始末に負えない
「チヤホヤされたいだけなら乙女ゲーでもしてればいいのに……」
暴言、悪口、愚痴を吐いてる上に金の話しかしない配信者を誰がチヤホヤする? 金なんかよりも大切なものがあると理解してないVtuberなんて誰が応援する? 誰も応援なんてしない。アンジュには一生かかっても理解できるわけないか
「ネットでもリアルでも金なんかよりも大切な物を大事にしていかないとダメなんだよなぁ……」
世の中には金なんかよりも大切な物がたくさんある。Vtuberなら応援してくれているファンだったりコラボしてくれるVtuber仲間だったりと色々。Vtuberじゃない人だったらそうだな……自分が困難に陥った時、例え顔なんて見えなくても助けてくれる人。ネットだったらこれだろう。リアルだとネットと被る部分あるけど、自分が心から信頼できる人かな? 僕にはない物だから絶対にとは言えないけどね
「哀れだなぁ……」
金以外を信じられないアンジュに哀れみを抱きつつ僕はオレンジジュースを飲み干した
久々の平和なティータイムを終え、部屋に戻った僕はベッドに寝転がるとぼんやり天井を眺める
「そろそろ潮時かなぁ……」
ブジャルの存在が徐々に明るみに出てき始めている今、これまで通りにとはいかない。Vtuberとコラボしてしまった以上、僕一人の問題じゃなくなってきているからだ
「どうしたものか……」
有象無象ではあるけど、友達は多い。だけど、ブジャル関係の事を相談するのはナシ。僕が配信荒らしだとバレてしまうからね。配信荒らしに関係なく、ネット上で悪さをしているのはあまりいい事じゃない。だから誰かに相談するわけにはいかない。けど……
「僕がいなくなればアイツが調子に乗りそう……」
ブジャルが消えればアンジュが調子に乗る。僕の名前使って瑞樹さんや他のVtuberの配信を荒らしに行くだなんて火を見るよりも明らかだ。かと言ってブジャルで荒らし続けるのは長い目で見ればキツくなってくる。瑞樹さんに正体バレちゃったからね
「追々考えるか……」
結局いい案が見つからなかった。幸いな事に今日に至るまで何回か瑞樹さんが配信してたけど、ブジャルの名前は一度たりとも出てこなかったから大丈夫だとは思う。今すぐ動く事もないだろう
「考えすぎかな……」
バレる、他のVtuberに迷惑が掛かると考えるからネガティブ思考に陥るんだ。気にしなければどうという事はない
「切り替えますかね」
考えを切り替えベッドから起き上がるとそのまま部屋を出た。まさかこの油断が後に大ピンチとなる事になろうとはこの時の僕はまだ知らなかった
平和なひと時から二日後────
「なぁ陽人! お前は年上の方がいいよな!」
「いいや! 年下だろ! 陽人!」
教室でいつも通りのんびり過ごしていたところに甲谷と男子生徒の議論に巻き込まれていた
「えっと……何の話?」
午後の授業へ向け、エネルギーを補給すべく昼食を食べていたところでこれだ。全く、勘弁してほしいよ……
「だーかーら! 彼女にするなら年上の女と年下の女! どっちと付き合うかって話だよ!」
「オレは断然年下の女だ!」
身を乗り出す二人はハッキリ言って気持ち悪い。年上でも年下でも僕はどっちでも……よくないか。瑞樹さんは年上だし
「僕の好みは秘密じゃダメかな? ほら、教室じゃ気まずいしさ」
「陽人~、そりゃないぜ~」
「そうだぞ~、周りを見てみろよ」
「え? はぁ……」
甲谷と男子生徒に言われた通り周囲を確認すると同級生達の箸が止まっていた。どうやら聞き耳を立てていたようだけど、僕の恋愛事情そんなに気になる?
「な? ここでお前の好み言っといた方がいいんじゃねぇの?」
「甲谷の言う通りだぜ? オレも気になる」
甲谷達がニヤリと笑う。コイツら、楽しんでるな?
「そう言われても……別に僕は特別年上がいいとか年下がいいっていうのはないんだけど……」
僕にとって付き合う女性の年齢は関係ない。自分といて幸せだと思ってくれるだけでいいんだから
「「ないのか!?」」
「ないよ。年齢なんて所詮は自分より早く生まれたか遅く生まれたかを表すものでしかない。僕にとって何の意味も成さないからね。年齢で付き合う相手を選ばない」
人間はいずれ老いる。アンジュのリアル写真を見てると年齢なんて所詮は自分を基準に早く生まれたか遅く生まれたかを表すものでしかなく、意味はない。アイツに絡まれていい事があったとするならば付き合う基準に年齢が入らなくなった事と容姿なんてものよりも性格の方が重要になった事、ネットでもリアルでも金なんかよりもずっと大切なものが存在すると分かった事くらいだ。他は……ない。アンジュは人間の欲望が服着てるような存在だし
「それを言われると……」
「オレ達がバカみたいに思えてきた……」
実際年齢で付き合う相手を選ぶだなんてバカとしか言いようがないんだけど黙っておこう
「別にバカじゃないでしょ。恋愛をする上で付き合う条件ってのは必要なわけだしさ」
本音を言うと恋愛や人間関係をする上で容姿や肩書、年収に拘る奴はバカだと思う。見た目が良くたって性格がクソな人とは一緒にいたくないし、肩書なんてその人に付けられたアクセサリーみたいなもの。年収で人間の価値が決まるわけじゃあるまい。金なんて使えばなくなる。あると思うからもっと欲しくなる。いつ不況が訪れ、路頭に迷うか分からないご時世。金よりも心の豊かさを求めた方がまだマシだ
「「だよな……」」
僕に絡んできた時の勢いはどこに行ったのやら……二人は完全に意気消沈していた
「あ、あはは……」
僕が説教をしたみたいなんだけど……苦笑しか浮かべられないんだけど……
「俺達戻るわ……」
「今度から恋愛についてちゃんと考える……」
「う、うん、そうした方がいいと思う……」
ちょっと自分の恋愛観を話しただけなのに自分の席に戻って行く二人の背中はまるでリストラされたサラリーマンみたいだった
居た堪れない昼休みと地獄のような午後の授業を終え、帰り支度を済ませ、教室を出ようとした。その時────
「「陽人!」」
「陽人君!」
夢乃達に捕まった
「何?」
「「「一緒に帰ろ!!」」」
マジですかい……一緒に帰るのは構わないけど、僕の帰る場所は瑞樹さんの家。その事実を知っているのは父さんと義母の千夏さんだけ。彼女達にバレたらなんて言われるか分かったものじゃない
「ゴメン、今日はこの後用事で寄るところがあるからまた今度ね」
「「「え~!」」」
「本当、ゴメンね?」
夢乃達に平謝りをし、僕は足早に教室を後にした。寄るところなんてない。瑞樹さんと一緒に住んでるってバレたら面倒臭い事になる予感しかしないから嘘吐いただけ
学校を出て近くのバス停に到着するとちょうどいいタイミングでバスが来た。僕は来たバスに乗ると後方二番目の席に座り、窓の外を眺める。夢乃達────いや、夢乃に瑞樹さんと一緒に住んでるとバレたくないのには理由がある
「あの二人昔から仲悪いんだよね……」
夢乃と瑞樹さんは昔からそりが合わない。顔合わせるといつも喧嘩ばかりで仲がよかったところを見た事がない。多分、本能的にあの二人は合わないんだろうな……
「いい加減仲良くできないかなぁ……」
二人が喧嘩して仲裁するのは僕だ。二人共ものの良し悪しが理解できる年齢なんだから仲良くしてほしいものなんだけど……去年の正月を思い出すと期待できそうにない
夢乃と瑞樹さんはどうして仲が悪いのか? 最大の疑問を抱きつつ、僕はバスに揺られた
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




