遅刻して登校した僕。アンジュの被害妄想が暴走した事を知らされました(1)
アンジュさん・・・・マジですか
衝撃の告白から一夜明け、月曜日。瑞樹さんからお願いされて彼女の部屋で一緒に寝る事になったんだけど……こうなるとは思ってなかった。月曜日というのは新たな一週間始まりの日と同時に全人類が憂鬱な気分となる。僕も例に漏れず憂鬱だ。学生はまた一週間学校があるから憂鬱、社会人は仕事があるから憂鬱。ニートや求職者は職探しをしなければならないと思うから憂鬱。憂鬱しかないな、月曜日。僕は────
「う、動けない……」
寝息を立てる瑞樹さんから物理的に拘束されていた。柔らかいやらいい匂いがするやら……理性より煩悩が勝る男子高校生には大変辛い状態です
「すぅ、すぅ……はると~」
僕の夢を見てるのか幸せそうな顔をする瑞樹さん。もう少しこのままでもいいかな? と思うけど、朝食の用意もある。どうにかして抜け出さないといけない。いけないんだけど……
「力強いよ……」
簡単には抜け出せそうにない。抱き着く力が無駄に強く、ちょっとやそっとじゃ抜け出せそうにない
「起こすしかないよね……時間も時間だし」
頭上に置かれた時計を見ると六時を指していた。僕は一度家に戻らないといけないし、瑞樹さんは女性だから身支度に時間が掛かる。けど……
「そうも言ってられないよね……」
幸せな夢を見てる人を起すのは気が引ける。休みの日ならゆっくり寝かせておいてあげたいけど、今日は平日。仕方ないね。僕は抱き着いてる瑞樹さんを抱き寄せ……
「フンッ!!」
全力で抱きしめた。恋愛ドラマで出てくるような感じじゃなく、彼女の身体に悲鳴を上げさせるつもりで。すると……
「ふぎゃっ!!」
幸せそうな表情から一変。妙な声と共に彼女の顔が苦しそうなものへと変わる
「ほ~ら、早く起きないとさらに力強めちゃうよ~?」
好きな人に抱きしめられるって幸せな事なんだと思う。ただし、許容範囲で。僕は今、明らかに瑞樹さんの許容範囲外の力で抱きしめている。現に彼女は苦しそうに顔を歪めている
「うぅん……く、苦しい……痛いよ……陽人……」
この状況でもまだ寝てられるとは……配信荒らされて落ち込んでいた人とは思えない。次元が違うから比べるのはおかしいんだけどさ
瑞樹さんをガチの全力で抱きしめてから五分。彼女はやっと目を覚まし……
「もう、陽人ったら♡」
なぜか嬉しそうな顔をした。今まで苦悶の表情だったのにおかしくない? マゾなの?
「おはよう。さっさと起きて」
「陽人のいけず」
「いけずで結構。夜になったら好きなだけ甘えさせてあげるから起きて」
「むぅ~、朝だって甘えたい!」
「だったらもう少し早く起きてよ」
「は~い」
彼女は若干不満そうな表情を浮かべ……
「────!?」
キスしてきた。昨日不意討ちのキスしたから文句は言えないけど、寝起きにキスされるとは思わなかった
「ふふっ、おはようのキスだよ。驚いた?」
柔和な笑みを浮かべる彼女に文句を言う気は起きないんだけど、こうした形で不意討ちされるとは思わなかったな
「驚いたよ。いつかは不意討ちされると思ってたけど、こんな形だとは思ってなかった」
「昨日の仕返しだよ」
「はいはい、驚いた驚いた。だから起きようね。朝ご飯食べたいでしょ?」
「うん」
僕達は起き上がり、部屋を出ると僕はキッチンへ、瑞樹さんは洗面所へ向かった
朝食が終わり、家を出て僕は自宅へ、瑞樹さんは職場へ向かった。彼女の職場は地下鉄大通駅から徒歩五分程度らしい。それ以上の事は何も知らない。瑞樹さんの職場の話はいいとして、僕は地下鉄バスセンター駅の適当な入口から地下へ入り、大通駅を目指す。バスセンター駅と大通駅、札幌駅は地下で繋がっている。信号待ちをしなくていい分、地上を歩くよりも時間は短縮できる。いや、地下鉄乗れよって話なんだけど、それだと乗り換えがあるから面倒臭い
札幌駅に辿り着くと辺りは出勤する人で溢れかえっていた。大通駅を通過した時点で出勤する人は多かったけどね。どちらの方が人が多かった? と聞かれると比べものにならない。どっちの駅も人は多いからね
「遅刻……しそうだから一本連絡入れとくかな」
スマホを取り出し、学校へ電話を掛けた。事情を適当に説明し、遅刻するかもしれないという事を伝え、電話を切ると僕は電車の改札を目指した
札駅から千歳線の苫小牧行きに乗り、最寄り駅である平和で降り、家を目指して歩く。道中、柏高校の制服を着た人を見かけたけど、僕はちゃんと遅刻するって連絡は入れてある。後ろめたい事なんて何もない
「これは確実に遅刻確定か……」
駅へ向かう生徒を見てふとスマホで時間を確認すると七時二十分と表示されていた。平和から新札幌駅までは電車で三分程度だから今から電車に乗れば余裕で間に合う。けど、一度家に帰って制服に着替えてからだと遅刻確定。休みの日に僕のものは少しずつだけど、瑞樹さんの家に移しておこう
帰宅すると僕は脇目も降らず自室へ向かうと今日の授業で使うものをカバンに詰め込み、家を出た
学校へ到着し、そのまま教室────ではなく、一度職員室へ行き、遅刻届を貰ってから教室へ。担任への説明は適当に従姉の看病という事にしておいた。家出して従姉の家に転がり込んでますとは言えなかった
「よぉ! 陽人!」
教室へ着くなり甲谷に捕まってしまうとは……今日は厄日かな?
「お、おはよう」
「おう! 珍しいな、お前が遅刻なんて」
「ま、まぁね。ちょっと事情があってさ」
正直、今は甲谷と話したくない。この前メッセで絡まれた時改めて思ったけど、コイツは面倒臭い。メッセでも対面でも同じノリで来られると疲れる
「事情?」
「色々とね」
「そうか」
土曜はアンジュを含め二人の配信者とリスナー、甲谷を相手取り、翌日は瑞樹さんって年上の彼女(仮)ができました。とは言えない。確実に面倒な事になるのは目に見えている。高校生の年齢は一番恋愛に多感な年頃。教室で恋愛の話をするってのはライオンの檻にエサを投げ込むのと同義だ
甲谷との話を早々に切り上げ、僕は自分の席に着くとそのまま突っ伏した。彼と話すのは本当に疲れる。タダでさえ瑞樹さんを起すので精神的に疲労困憊してるのに甲谷の相手とかしてられない
ぼんやりと過ごし、気が付けば放課後。僕は────
「やっと終わった……」
大した事もしてないのになぜか疲労感に襲われていた。朝は瑞樹さんの相手をし、学校では甲谷の相手。途中、丈達と長村、夢乃に突撃されて本当に疲れた。早く帰りたいけど……帰ったら帰ったで地獄。僕に安住の地はないのかな……
「はぁ……勘弁してよ……」
口うるさい義姉に気を使わなきゃいけない義母、ぐうたらで家事すらまともにできない従姉。僕を抱き枕と勘違いしてる幼馴染に騒がしい同級生達。何だろう……僕の周りは動物園なのかな?
「「「陽人!!」」」
「陽人君!」
ほら、噂をすれば……甲谷達の登場だ
「どうしたの?」
「今日もアンジュの配信に乗り込もうと思う! 今回は陽人も来てくれ!!」
「陽人からアンジュに配信荒らすな! って言ってやってよ!」
「お願い! 陽人君!」
「一緒に悪い奴を退治しようよ! 陽人!」
アンジュのヤツ、また何かしたのか……懲りないねぇ……甲谷達が身を乗り出してるところを見るにかなり重大な事っぽいけど……
「その前に何があったか話してもらっていいかな? 何があったか全く分からないんだけど……」
「わ、悪い……麻子姉ぇにとってよくない事が起きてな」
「よくない事?」
「あ、ああ……まずは何も聞かずにこれを見てくれ」
甲谷が見せて来たのはアンジュのSNS。そこに書かれていたのは────
“綾のせいでアンジュの評判が落ちた!!”
“アンジュに嫉妬してないで登録者数増やす努力しろよ! 園田綾!”
“ブジャルに死ねって言われて寝れなくなった!”
などという濡れ衣と自意識過剰極まりない戯言。他にも甲谷達や瑞樹さんへの言いがかりもあった
「はぁ……」
呆れるしかない。被害妄想が肥大化するとこうなるのかと逆に感心すらしてしまうよ
「溜息吐いてる場合じゃないんだよ! このままじゃ麻子姉ぇやみかさんの評判が落ちるんだぞ!」
「そうよ! お姉ちゃんやみかさんの評判が落ちたらどうするのよ!」
「陽人君! 一緒に悪を成敗しようよ!」
「陽人! 力を貸して!」
彼らが怒り心頭だったのはこのせいか……確かにアンジュのした事は最悪。でも、彼女の書いてる事は全てが濡れ衣と被害妄想。取るに足らない事なんだよね……
「気持ちは解るけど、この人の言ってる事は証拠あるの?」
結論を言おう。アンジュの言ってる事は全部デタラメ。嫉妬してるのは本人じゃないから分からないけど、麻子さんがアンジュの評判を落としたとは思っていない。甲谷達はアンジュを知ってから間もないから焦ってるんだろうけど、僕からしてみれば今更だ。証拠を確認したところで出てくるわけがないのは分かりきっている
「ないが……」
「だったらどうして焦るの? 証拠がないなら堂々としてない! って言えばいいでしょ?」
「それはそうなんだが……」
「そうなんだが?」
「その……なんだ? 園田綾を知らない人が見て誤解しないかが不安なんだ……」
「そっか……でも、僕は従姉の看病あるから行けない。ゴメンね?」
「そうか……悪いな、妙な事頼んで」
「看病があるなら仕方ないわね」
笑顔を浮かべているけど、あからさまに落ち込んでる甲谷と丈達。僕が彼らとアンジュの配信に突撃するのは非常にマズい。UWОのサブ垢は持っているけど、そっちだと機体のスペックが低すぎて狙いを定めるのとかが大変な上に満足に動けない。本音を言うと複垢でのログインは面倒だ
「本当にゴメン。看病あるから帰るね」
「お、おう……」
落ち込む甲谷達と分かれ、教室を出た
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




