第三十一話 家族
誘拐された獣人達を救出してから3日
ラータでは穏やかな時間が流れていた
誘拐された獣人達はアルカとともにアドラシアに帰っていき、肩を毒矢で射抜かれたパルミラは養生のためハヤテ達の住むログハウスで安静をとっている
-昼前のログハウス-
暖炉のそばのベッドで静かに寝ているパルミラと側で魔導書を読むトモキ
その外ではベルトリクスがタクマの戦闘稽古をつけている
玄関を叩く音が響きソフィーが扉を開けるとエルドが立っていた
「エルド様、どうなされたんですか?」
「こんにちはソフィー、ハヤテはいるかな?」
「すいません。ハヤテさんは朝からレオルンドさんとサンドラさんを連れて先日のホーマ族の遺跡に行ってるんです。」
「遺跡に?あそこはもう回収するものがないんじゃないのか?」
「なんでも遺跡の守護をしていたゴーレムを回収するとかで・・・」
「相変わらず忙しい奴だな。戻ったら私の屋敷に来るように伝えてくれ相談したいことがあるとな。」
「はい!わかりました。」
そっと玄関を閉めるソフィー
(そういえばサンドラさんっていつまでいるんだろ。妙にハヤテさんに近いし・・・)
-ラータ・冒険者ギルド魔法ギルド共同支部-
元冒険者ギルドの地下室では後日処理されたアンデッドゴーレムの一部となった人間の遺体が運び込まれておりアルドバとアンネの立ち会いのもとでアヤの希望で遺体の解剖を行おうとしていた
「アヤ。見ての通り一度アンデッドゴーレムの一部になっちまった人間なわけだが本当にいいのか?もう人の形してねえぞ?」
「ええ。いいのよアルドバさん。これは私の医者としての本分でね、見ずにはいられないの。人体がここまで形を変えられるなんて普通じゃ考えられない・・・」
白衣を着てメガネを掛けて口もとをタオルのようなもので巻いたアヤはこちら側の世界に持ち込んだバッグから医療道具を広げると迷わずメスを手に取りアンデッドゴーレムの胸に当たる位置に刃を当てスッと切り開いていく
メスで切り開かれる様子を見ていたアルドバとアンネはヒソヒソと会話をする
「すげぇ。あんな小さな刃で体を切り開けるのか・・・」
「アヤさんって体内の悪い部分を直接切り開いて取り除くお仕事をしていたそうですよ?」
「すげえな・・・アヤの技術と回復魔法があれば体内に異物が残ったような傷も完全に癒せるんじゃないか?」
「ええ。トモキさんはそうおっしゃっていました。」
「開創器。」
左手を横に差し出すアヤの言葉にアルドバとアンネはじっとアヤを見つめる
「・・・」
「・・・」
「あっ。いけない普段の癖で・・・助手がいないのを忘れてたわ。」
苦笑いするアヤは開創器と呼ばれる器具で切り開かれた部分を固定する
コンコン
ドアをノックする音とともに二人の魔法ギルドの職員が湯気が上がっている大きな金属製の桶を運んでくる
「言われたものを持ってまいりました。」
「こちらにお願いします。」
金属の桶をアヤの直ぐ側に置く職員はそのままアンネの側で見学する
アヤは使ったメスを湯気の立つ熱湯の中に放り込むとゴム手袋をした手で遺体の中に手を入れる
「あら?いくつか臓器がないわ・・・」
「アヤ。どういうことだ?」
「理由はわからないけど、胃から下の消化器官がないのよ。遺体が融合したって聞いてるけど融合の際に不必要となる器官が消滅したというべきかしら・・・。何かしらこれ・・・」
アヤが遺体の中から取り出したのはアンデットをモチーフにした金属製の像だった
「魔道具!アヤさん!それをこちらに!」
アンネは黒い布を取り出し広げアヤが魔道具を乗せると職員に指示を出す
「すぐに封印術式を!」
うなづく職員は布を包み別室へ運び出す
「あとは・・・骨格が変形してるわね・・・金属を溶接したような感じ・・・人の骨をつないでゴーレムの形を形成していたのね。酷いことを・・・この遺体は巨大な人体で言ったら胸のあたりね。あとは特別変わったものはなさそうね。この遺体はどうするの?」
「街から離れたところで高火力の炎魔法で焼き尽くすつもりだ。」
「そう。なら縫合糸が勿体無いから、切り開いたところは閉じないわよ?」
「ああ。それで大丈夫だ。後で冒険者たちに運び出させる。」
「私はこの解剖の記録をまとめときたいから家に帰るわ。アンネさん、この中に浸した道具に浄化魔法をお願い。」
「ええ、綺麗にしたら家に届けますね。」
アヤは顔色一つ変えずにギルド地下室から出ていく
「アヤさん。すごいですね。平然としてました・・・」
「【医者】ってやつはなんでも死体相手に勉強することもあるらしいぞ。あれは相当な数の死体を見てきたんだろう。さて、さっさとこいつを焼却しちまおう。あんま長い時間放置したら他のアンデットを呼んじまうからな。」
地下室から冒険者ギルドロビーに上がるとアヤはたくさんの冒険者達から視線を集める
男の冒険者たちはヒソヒソと声を立てる
「すっげーいい女・・・」「黒い髪なんて珍しいな。」「なんでも郊外に住んでるハヤテって冒険者の仲間だって話だ」
「おい姉ちゃん。俺と一杯付き合わねえか!?」
アヤは声の方を見上げると2メートル近い大男がアヤの胸に視線を向けていると他の冒険者達が野次を飛ばす
「やめろアルゴ。相手は女性だぞ」「このクソ酔っ払いが!」
「はぁ・・・」
アヤは溜息をつくとともに悪態をつく
「ごめんなさい。わたくしが共にお酒を飲むのは生涯ハヤテと決まってますの。トロールと酌み交わすお酒はなくてよ。」
アヤは悪態と共に流し目をするとクスクスと笑う者やアヤの仕草に頬を赤く染める冒険者達
「ちったぁ美人なくらいで調子に乗りやがって!」
アルゴがアヤの左腕を掴むとアヤは白衣の下から一本の畳んだ状態の扇子を取り出し、男の親指の付け根に突き立てる
「いででで!」
アルゴは痛みのあまり手を離す
その様子を見ていた冒険者たちは唖然とする
「あんな華奢な女性が・・・」「可憐だ・・・」
アヤは両手を優しくアルゴの首に手を回し両手の親指で首を指圧するとアルゴは絶叫する
「いでぇぇぇ!!まいった!まいった!」
「次は人体破壊するわよ?」
「わかった!わかったってば!」
「本当に野蛮な人ばっかりね。どういう教育してるのかしら・・・そもそも学校もないんだから教育もないわよね・・・」
アヤはボソッと小言を呟くとギルドをあとにしログハウスへと帰宅していく
-ログハウス-
アヤがログハウスに戻るとトモキの召喚する【アンブッシュプラント】が数体召喚されおり武器を構えるタクマとベルトリクスに向かって水魔法で作り出された弾を何発も投げ出している
二人がその水の弾を避け続けている姿を離れた位置から見つめているアヤ
「何してるの?」
「何って魔力弾を避ける練習だ!はぁはぁ・・・見りゃ分かんだろ!」
息を荒げながら答えるタクマにムッとするアヤ
「わかんないから聞いてんでしょうが!」
アヤは地面にあった石を掴み何個もタクマに向かって投げる
「やめろ!あぶねえ!」
「アヤ!俺も巻き込むな!」
ベルトリクスにもタクマが避けた石が飛んでくる
「あらいいじゃない。きっといい訓練になるわよぉ。」
ひたすら石を投げ続けるアヤの様子を部屋の中から見ているトモキとパルミラ
「トモキ様、あれ・・・よろしいのですか?」
「いいんだよいつものことだから。住む世界が変わろうと何も変わらないんだねぇ。」
穏やかな顔で外を見るトモキを見て不思議な感覚を覚えるパルミラ
「あら?あれは?」
トモキがパルミラの指差す方向を見るとラータに入っていく50人ほどの兵士の一団が見える
「なんだろう・・・」
トモキ達がラータをみていると街の方角から女神エレアが低い位置を兵団から見えないように飛んでログハウスへ戻ってくる
「ふぅ・・・」
ほっとしたのか胸をなでおろすエレア
「エレア様?どうかなされたのですか?」
「トモキさん。実はエルシア王都からポルカ消失の件で調査の兵たちが来たのです。私はポルカと一緒に行方不明とされてますから姿を隠すようにとアルドバ様から・・・」
玄関の扉を開けアヤ、タクマ、ベルトリクスもログハウスの中に入る
「しかしポルカの一件からしばらく経つぞ。来るのが遅すぎなんじゃないのか?」
「あっ!ハヤテのチビゴーレム達って見られたらまずいんじゃないか?!」
窓からログハウスの正面に整列させられたビルダーズ達の様子を見るタクマは驚き声を上げる
ビルダーズはハヤテに命令されるわけでもなく隠れるようにログハウスの裏へと行進して行く
「もしかしてあいつらって意思とかあるのか?勝手に動いてるぞ。」
「自己防衛とかあるんじゃないのかな?」
冷静に書物を読みながら答えるトモキに目を向けるタクマは呆れ顔をする
「お前って変に肝が座ってるよな」
「とにかく私とベルさんは二階に隠れていましょう。死んだはずの私がいるのもそうですが首都の人族は亜人種の方を快く思っていないので・・・」
「うむ。そうしよう。」
ベルトリクスと女神エレアは二階の自室へと移動する
一時間ほどが経過した頃レオルンドとサンドラがログハウスに帰ってくる
「只今戻りました。おや?ベルの姿がないようだが・・・」
「おおレオ。帰ってきたか。実はエルシア王都からポルカの件で調査の兵がラータに来てるんだってよ。亜人のお前たちは出くわすのはあまり好ましくないだろうとベルと女神さんは二階に潜んでるよ。」
タクマの説明に少し動揺するレオルンド
「なんと・・・姉上、我々も二階へ上がりましょう。王都の人間では我々を嫌悪する者もいましょう。」
「ええ。そうね。」
サンドラは二階に上がっていく
「あれ?レオ、ハヤテは?」
「ハヤテ殿ならエルド殿の所に寄っていくと仰っていましたが。」
「そうか。まぁアイツ一人なら問題にはならないか。レオも二階に上がっておいてくれ、兵士が来たら俺たちでなんとか対応するよ。」
レオルンド達を二階に隠してから数分後、6人の兵士がログハウスに向かってくるのが見える
「おい!家のものは居るか!!」
兵士は乱暴にドアを叩くとタクマはニコニコを笑顔で出迎える
「はいはい何でしょう」
「この家にポルカからの難民はいるか!?」
「いやぁこの家にはいませんねぇ・・・」
兵士の一人が玄関からログハウス内を覗くとトモキとアヤの姿を確認する
兵士はアヤの姿を見るとにやけた顔でタクマの肩を押しのけ家の中に入ろうとする
「念の為に中を調べさせてもらうぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!ここの家主は今出かけてる!許可なく入れるわけには!」
「だまれっ!」
兵士の一人は剣を収める鞘でタクマの顔を殴りつけるとタクマは家の中に吹っ飛ぶ
「ってぇ・・・」
タクマが起き上がろうと顔を上にあげるとアヤの細い目が開いていた
「アヤよせ!」
アヤはタクマの顔を見ると開いた目をまた細めるとタクマはアヤに耳打ちする
(相手は王都の兵士だ、下手に問題を起こさないほうがいい。)
(でもアンタ血が・・・)
(口の中切っただけだ・・・)
兵士は二階へ上る階段に気がつく
「二階も調べさせてもらう!」
兵士が階段を上がろうとするとタクマが立ちはだかる
「だから家主が帰ってないからダメだって・・・」
タクマの態度に腹を立てた兵士は数人がかりでタクマに殴る蹴るの暴行を加える
「やめてくれ!」
二階から駆け下りたレオルンドはタクマの前に立ち塞がる
「レオ・・・俺はいいから」
「いいわけがなかろう!ここまで怪我をしながら我々をかばっていてくれてるが・・・我慢できるわけがない!」
レオルンドに続いて二階から降りてくるサンドラとベルトリクス
「亜人共がぞろぞろと!」
兵士たちは剣を抜き亜人である三人を見つめる
「ほう・・・」
兵士の一人がサンドラを見つめている
「獣人にリザードマン・・・なぜここに亜人共がいるか知らんが取り調べを行う!奴らを拘束しろ!」
兵士たちはレオルンドとベルトリクスの両腕に黒色の細い鎖を巻き付けて拘束するとサンドラの腕を掴み引っ張る
「よく見れば中々の上玉もいるじゃないか・・・汚らわしい亜人の分際で」
「まったくだ。この耳と尻尾さえなければいい女なのによぉ・・・」
兵士はサンドラの肩を撫でるように触ると視線を胸元に向ける
「どっちだ汚らわしいのは・・・」
「あ?」
サンドラは兵士を睨みつけると兵士に唾を吐き捨てる
「亜人の分際がぁ!」
兵士はサンドラを殴りつけると転倒したサンドラの腹に蹴りを入れる
「この亜人を表に連れ出せ!亜人とはいえ所詮は女・・・男の怖さを思い知らせてやる!」
兵士たちがサンドラを玄関前まで引きずるとアヤはすきを見てレオルンド達の拘束を解こうとする
(だめ。はずれない・・・どうなってるのこれ)
(アヤ殿これはおそらく魔道具。私のことはいい・・・余計なことをしたらアヤ殿まで危害が来るぞ)
咳き込みながら起き上がるタクマはトモキの肩をかりる
「まずいな・・・最悪のパターンだ・・・」
「タクマ・・・私達のために・・・すまない」
落ち込むレオルンドにタクマは深刻な顔をする
「それだけじゃねえんだよレオ・・・お前たちを庇った理由はそれだけじゃない・・・」
タクマはトモキに寄りかかりながらログハウスの外に出ると兵士たちがサンドラを囲んで身に着けていた装備品などを剥ごうとしている
「お前らマジでそこまでにしとけ!それ以上やったら大変なことになるぞ!」
「貴様!人間のくせに亜人の味方をするつもりか?もう一人女がいたな、見せしめにその女も犯してやってもいいんだぞ?」
兵士はタクマの後ろにいるアヤをにやけた目つきで見つめる
「あぁそうかい。俺は忠告したからな?殴られてやったのもお前らのためでもあったのに・・・」
兵士たちは周りに目もくれずサンドラの服を破く
「おーこりゃ上玉だぜぇ!」
「人間じゃないのが惜しいくらいだ」
「じゃあさっそく俺から・・・」
兵士の一人がサンドラに覆いかぶさろうとするとタクマが声を漏らす
「ほんと最悪のパターンだ・・・」
兵士の一人が顔をあげると拳を振り上げたハヤテが兵士の目を睨んでいる
「え?」
兵士たちは何が起きたのか理解できなかった
6人いたはずの兵士が一人減っており、その兵士がいた場所に拳を振り下ろした後のハヤテが立っていた
ハヤテは服を破かれたサンドラを見ると歩幅を開き真後ろの兵士に裏拳を繰り出す
兵士は被っていた兜ごと顔面を砕かれ壊れた兜の隙間から血が流れ出す
「な、何だ貴様は!」
兵士たちは武器をハヤテに向ける
「何してんだお前ら・・・」
今にもはち切れそうな怒りの感情を押さえつけたハヤテの声を聞き
弱い獲物を見つけ狙いを定めたようなハヤテの目を見て兵士たちはすくみ震え上がる
「聞いてんだ・・・答えろよ・・・」
兵士はハヤテからにじみ出る殺意のようなものを感じ取って震えている
「ヒィッ!こ、殺せ!そいつは我らに反抗する不届きも・・・!」
言い切る間もなくハヤテは兵士の顔面を兜事掴むと握力だけで頭部を握り潰そうとする
「聞いてる事に答えろよ。サンドラに何をした?タクマの怪我はなんだ?レオとベルの拘束はなんだ?」
「や、やめ!」
兵士が激しくもがくとハヤテは兵士を掴んだ腕を上げ兵士を浮かせるとすぐさま地面に叩き付ける
兵士は激しく吐血しピクリとも動かない
「ひいぃぃ!!」
残った四人の兵士の表情は真っ青になり怖気づく
「たすけてください!お願いします!」
命乞いする兵士にゆっくりと歩み詰めるハヤテは拳を振り上げる
「ハヤテ!」
名前を呼ぶと共にハヤテの顔に拳を入れるタクマ
殴られたハヤテは吹っ飛ぶとタクマは冷静に話しかける
「ハヤテ、やりすぎだ。お前の性格は長い付き合いの俺がよく知っている、だがこれはなんだ?そこの二人死んでんじゃねえか・・・どうしちまったんだお前・・・」
「・・・」
ハヤテは倒れたまま黙っている
「へ、兵士長!」
兵士の声に全員がラータの方を向くと兵士の集団がこちらに向かってくる
その中で戦闘を歩く男は中でもひときわ大きな体格で大きな大剣を背負っており、その横をエルドとアルドバそれとアンネが歩いている
ログハウス前を見渡す兵士長
転がる二人の兵士の死体、服を破かれたサンドラに拘束されているレオルンドにベルトリクス
「説明せよ。」
サンドラを襲っていた兵士の一人が誰よりも早く返事をする
「はっ!我々がこの者たちの事情を伺おうとしたところ、急にこの者たちが反抗し仲間を二人殺されました。」
「やろう・・・」
タクマは兵士を睨みつける
「ほう・・・」
兵士長は答えた兵士の目を見る
「お前たち6人は憲兵団から先週私の兵団に転属された。その理由はわかるか?」
「へ?それは兵士長が我々の能力を買ってくれたからでは・・・」
その瞬間、兵士長の後ろにいた兵士が剣を抜き6人組の1人を斬りつける
「な・・・ぜ・・・」
「お前たちが王都の憲兵として数々の悪行を働いていたことを・・・私が知らぬと思ったか?」
兵士長は背中の大剣を手に取る
「身分の低い国民への暴行。一部の商人から賄賂を受け取り。余罪はまだまだある・・・せめて我が兵団で更生するかと思いきやこの有様。安心しろ、貴様達はここへ来る途中に魔物と遭遇し戦死を遂げる。それでよろしいでしょうか領主殿」
「それでハヤテたちの気が済むとは思えんが、それでいい」
エルドは兵士長にそう伝えると対象の兵士たちを冷たい目つきで見つめる
「苦しまず死ねるよう私が手を下してやる。」
兵士長が大剣を振るい二人の兵士が声も出せずに息絶える
残る一人の兵士はなんとか生き残ろうと辺りを見渡す
「く、くるなぁ!この亜人が死ぬことになるぞ!」
側にいたサンドラの首に剣をあてがう兵士
それを見て兵士長は大きくため息を吐く
「はぁ。私に殺されておれば苦しまずに済んだものを・・・最後まで愚かな奴め。」
「クラフトゴーレム!」
兵士とサンドラの後ろに空間の裂け目が現れクラフトゴーレムの腕が伸び兵士の頭を掴む
「殺せ!」
ハヤテの声に反応し、裂け目から完全に姿を現したクラフトゴーレムは兵士の両腕を掴み左右に引っ張る
「いだい゛!やめて!」
兵士が痛みのあまり泣き叫ぶのをよそにハヤテはサンドラのもとまで歩きゆっくりとサンドラを抱きかかえる
「嫌な思いをさせたな・・・すまない。」
小声で発した言葉は少し震えておりサンドラにしか聞こえなかった
「ハヤテ様・・・」
抱きかかえられたサンドラは無言でハヤテの首に両手を回す
「ハヤテ。明日の昼にまた今回のことで話をしよう。屋敷まで来てくれないか?」
「・・・わかった。明日の昼な。」
エルドの呼びかけに振り向くことなく応えるハヤテはログハウスの玄関で拘束の魔道具を着けられたレオルンドとベルトリクスを見てサンドラを暖炉側の椅子に座らせ毛布をかける
「それは魔道具。いま兵にはずさせよう。」
兵士長が兵士に合図を送るとハヤテは大きな声で応える
「いらん!・・・もういいから死体片付けて今夜は街に帰れ・・・」
ハヤテはレオルンドとベルトリクスの前に立ちレオルンドの両腕に着けられた鎖状の魔道具を両手で掴む
「おおおおおおお!!!!」
ハヤテが唸り声をあげると魔道具はミシミシと音を上げ引きちぎられる
その様子を見ていた兵士長と兵士たちはどよめきを隠せなかった
「なんてことだ・・・」「魔獣の拘束にも使われる鎖だぞ!」
そうしているうちにハヤテはベルトリクスの魔道具も引きちぎる
「何という力だ・・・みな各自奴らの死体を片付けラータ内にもどれ。」
兵士長の言葉にすぐさま反応し行動する兵士たち
「レオ、姉さんのこと・・・すまない。アヤ、タクマの手当とサンドラになにか着るものを・・・」
ハヤテはそう言い残し二階の自室へと入っていく
「ハヤテ」
タクマはハヤテの様子に違和感を感じていた
-数時間後のレオルンドの部屋-
夜もふけ深夜になるころレオルンドのベッドにはサンドラが寝ておりレオルンドは椅子に座りサンドラの側で座ったままウトウトしていた
「ねえレオルンド?起きてる?」
「ええ。起きてますよ。どうされました?」
「・・・私ね・・・恋をしてしまったかもしれない・・・」
サンドラの言葉に目を大きく開きおどろくレオルンド
「い、いきなりどうされたのですか!?」
サンドラは顔を赤くしながら毛布で目から下を隠す
「今日で二回目だった。ハヤテ様に助けてもらって抱かれたの・・・私達獣人の女戦士は里の強い雄と子供を作り子孫を繋いでいく。それが当たり前だと思って生きてきた、私もいつか里の誰かとそうなるのだと・・・」
「それが獣人族のしきたりでしたからな・・・」
「最初はハヤテ様を見てもなんとも思わなかった。でもさっきの事で私の中でモヤモヤしていたものが何なのかわかった・・・私はハヤテ様が好きになったんだって。」
「・・・姉上。姉上の気持ちは理解しました。ですが相手がハヤテ殿だと恋敵が何人かいますぞ?」
「それでもいい。たとえ私が獣人で相手が人間だとしても・・・この気持ちを偽りたくない・・・」
レオルンドはハヤテのことを考えると少し笑みがこぼれた
「人種の壁はないでしょう。ハヤテ殿なんですから。」
「そうね。」
レオルンドとサンドラが声を立てないように笑うと部屋のドアをノックする音が聞こえる
「レオ。ちょっといいか?」
「タクマか、どうしたんだ?」
「ちょっとハヤテのことで話がある。サンドラも一緒に下に降りてきてくれ。」
ハヤテ以外が一階に集まるとタクマが話し始めた
「今日のハヤテのことなんだが、ハヤテにはキレるスイッチがあるんだ。」
「明らかに先程のハヤテ殿はおかしかった・・・タクマ、知っていることを話してくれ」
レオルンドの言葉に頷くタクマ
「俺とハヤテが施設・・・この世界だと孤児院か、そこの出身だって事は前にハヤテから聞いてると思う。俺もハヤテも家族がいないからそこにいた。」
「はい、その話は聞きました。タクマさんが先に引き取られて、その後ハヤテさんが偶然近所の夫婦に引き取られたと・・・」
ソフィーの返しを補足するタクマは遠い目をしている
「俺は料理屋を営んでいる老夫婦に引き取られた。血がつながった息子が二人いるのにな。引き取った理由はもう一人くらい息子が欲しかったってな。俺はその夫婦に可愛がられてたんだ、年だけ見たら老人と孫みたいな印象だが愛されてるってわかってた。
年の離れた義理の兄さんたちも俺をかわいがってくれて夫婦が死んだときも残した店を俺にくれるとまで言い出したんだ。それだけ家族に愛されてた・・・幸せだった。」
タクマは自分のことを話している間は穏やかな顔をしていたが急に顔色を変える
「ハヤテは逆だった。」
全員が真剣にタクマの話を聞こうと口を閉じた
「ハヤテを引き取った夫婦は子供に恵まれてなくてな、それでハヤテを引き取ったんだ。この言葉だけなら幸せになりそうだがそうじゃない。その夫婦は世間体だけでハヤテを引き取ったんだ、いい年をした夫婦なのに子供もいない・・・そんなくだらない世間体を気にしてハヤテを息子にした。
ハヤテは引き取られるなり家に置かれてるだけだった、人形みたいにただそこにいるだけ・・・まともに会話もしない、会話したとしても目も合わせない。俺と違って愛されるなんて感じたこともない。」
「ひどい・・・」
ソフィーは薄っすらと涙を浮かべる
「だけどな、ハヤテはずっと笑顔を壊さなかったんだ。いい子にしてればいつかきっと優しくしてくれるって・・・お互いに引き取られてから俺は久しぶりにハヤテに会った時にさ・・・(なんて薄気味悪い奴になってしまったんだろう)って思ったんだ。それからしばらくしてハヤテを引き取った夫婦に本当の子供ができたんだ、そしたら夫婦は更にハヤテを見ることはなくなった。」
思い出しながら話すタクマに怒りがこみ上げているのか口調がすこし震えている
「それからハヤテは自分から生き方を変えたんだ。いつかきっと自分で幸せな家族を作ろうって。俺たちが10歳の頃、小学校って言う学び舎でトモキとアヤと出会った、その時の話は今は省くがハヤテにとって俺とトモキとアヤは特別な絆で結ばれた家族だと言った。」
毛布にくるまったサンドラは家族という言葉に引っかかった
「でも家族って夫婦がいて子供がいて・・・そういうものでしょ?」
頷くタクマ
「俺たちの住んでいた国【日本】ではこんな言葉がある・・・【同じ釜の飯を食う】ってことばで意味は他人同士が同じ家で同じ食い物を食うみたいな意味で、主に共存している集団を指すが。ハヤテはそれを家族として捉えている。」
「では我々も?」
ベルトリクスの言葉に頷くタクマとアヤ
「そう。つまりハヤテにとってお前たちも家族なんだ。レオにベル、そしてルミカ、サンドラ、パルミラ。そして女神さんもハヤテにとっては欠けてはいけない大切な家族なんだ。だからハヤテにとってその家族が傷つくという事は何よりも許しがたい事なんだ。」
「それでタクマは我々をかばおうと・・・」
「それもそうだが、俺にとってもお前たちは一緒に暮らすファミリーだ。どっちにしてもやることは変わらなかったさ。」
目を閉じて聞いていたトモキが口を開く
「ハヤテはこの世界に来ても自分の家族を守りたい・・・ただそれだけなんだ。だからみんな、ハヤテを怖がらないで欲しいんだ・・・お願いだ。」
トモキが頭を下げようとするとパルミラが止める
「家族の危機なら駆けつける・・・アンデッドゴーレムの時もそうでしたね。そのおかげで私達も助かりました。私はトモキ様の言いたいことはよく伝わりました。」
ポタポタと大粒の雫が落ちる音が聞こえ全員が顔を向けるとレオルンドが号泣していた
「ハヤテどのぉ!ハヤテどのぉ!」
「レオ!うっさい!ハヤテが起きる!」
アヤがレオルンドの口を塞ごうとする
「あーもう聞こえてるよ。」
ハヤテが階段を降りて来る
「ハヤテ殿ぉ!」
泣きじゃくるレオルンドはハヤテの腰にしがみつく
「うわっレオ!鼻水!ったくべらべらと人のこと喋りやがって・・・すまないな。ああなると俺も訳わかんなくなっちまって・・・」
「全くだ。結局俺は殴られ損じゃねえか。」
「だから悪かったって。・・・今回のことは明日あの兵士長とやらにけじめ付けさせるさ。だからお前らは変なこと考えないでさっさと寝ろ。やりたいことが一つも進まねえや・・・」
ハヤテの言葉を聞いた一同は安心しそれぞれ自室に戻っていく
「ハヤテ殿・・・」
「何だレオ?」
「今夜は私が一緒に寝ましょうか?」
ハヤテは青ざめた顔でレオルンドを見るとレオルンドはモジモジしている
「いらん!」
-つづく-




