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第三十二話 ボクシング(前)

-ラータ・冒険者ギルド-


朝から建物の補修工事をしているハヤテは木製のはしごを使い二階部分の外壁の板をバールを使ってバリバリと剥がしている


「うっわぁ、使ってる木材ほんとに廃材レベルだな・・・」


二階外壁をテンポよく剥がしていくとソフィーが使っていた部屋に差し掛かる


「えっ」

「えっ」


外壁の板を剥がして部屋の中が見える状態になった時、ハヤテが見たものは着替えているアンネだった

アンネは顔を赤らめいそいそとローブを着る


「ごめんなさい!こんな早くから作業すると思っていなくて!」


「いやいやこっちこそごめん!やる前に声をかけるべきだった!」


ハヤテは両手で顔を隠し着替え中のアンネを見ないようにする


「は、ハヤテさん。もういいですよ。」


「うん、本当にすまなかった!」


アンネは照れ笑いすると部屋から出ていく


「いやぁタイミング悪かったな・・・あとでまた謝っとこう。」


ハヤテが作業に戻ろうとすると大きな声でハヤテを呼ぶ声が聞こえる

はしごから下を見るとタクマとレオルンドがはしごの下から見上げていた



「てめぇ!ハヤテ!ラッキースケベしやがったな!」


はしごを掴み揺らすタクマに止めようとしているレオルンド


「タクマ!そんなことをしたらハヤテ殿が落ちてしまう!」


「落とそうとしてんだ!野郎ばっか美味しい思いしやがって!」


「おいタクマ!マジでお前そういうとこだぞぉ!」


「やかましいわこの天然女たらしがぁ!」


「なんだとこの煩悩クソヒゲコックが!」


次第にハヤテとタクマの悪口合戦が始まると街の住民たちが見物に集まってくる

その様子に気がついたレオルンド


「あわわわわわ・・・これはまずい・・・」


ハヤテははしごから飛び降りタクマに向かって右の拳を振り上げるとタクマも右の拳を振り上げる


「「おおおおおおおっ!!」」


ハヤテとタクマの拳が衝突すると二人を中心に衝撃波が広がる


(まずい!非常にまずい!!)


レオルンドの顔が真っ青になっていく

キョロキョロと周囲を見渡すレオルンドは視界の先に道具屋から出てくるアヤとベルトリクスを見かける


(良かったぁ!アヤ殿ならなんとかしてくれる!)


レオルンドは必死に手を振りアヤとベルトリクスを呼ぶ


「どうしたんだレオ?ってあれは一体何やってるんだ?」


ベルトリクスの視線の先には拳や蹴りを同じタイミングでぶつけ合うハヤテとタクマがいた


「いや実はハヤテ殿とタクマが喧嘩になってしまって・・・」


「どうせくだらない理由でしょ?昔っからよ。まともに相手するほうが疲れるわよ。」


アヤは冷静に発言するがレオルンドが小声で喧嘩の理由を伝えると普段穏やかでニコニコしているようなアヤの細目が開く

レオルンドとベルトリクスは視界の中に入っていたアヤを見失うとアヤはハヤテとタクマの間に立っていた


「アヤ殿!危ない!」


アヤに向かってハヤテとタクマの拳が向かってくるがアヤは着ていた白衣のポケットから閉じたままの扇子を取り出しハヤテの腕の内側に当てるとハヤテは逸らされた拳の方向に吹っ飛ぶ

すかさずアヤはタクマの腕の下に潜り込み腕を両手で掴むと身体を捻りそのまま一本背負いを繰り出す


「いってぇ!!」


タクマは地面でのたうち回るとアヤは素早く仰向けに倒れているハヤテの上に(またが)


「ねぇ?どういうことなの?アンネさんの着替えを覗いたって?裸を見たって?」


「いやあれは事故だ。ってかアヤ、ちかいちかい。」


ハヤテを問いただすアヤの顔がハヤテに接近していてお互いの唇が数ミリメートルというところまで接近していた


「あんたアタシの裸だって見ないのに他の人の裸は見るの?アタシね、アンタが寝ている時の記憶読みの魔道具使って見たのよ?ブレダさんのおっぱい掴んで、それに飽き足らずソフィーちゃんのおっぱいまで揉んで。まぁたしかにぃ?ブレダさんは私達の世界でもワールド級のおっぱいしてるわよ?でもね?私だってEはあるのよ?日本人でも大きい方にしっかりはいってるのよ?それをアンタはソフィーちゃんのおっぱいまで揉むとか何なの?見た目こそは高校時代の肉体に戻ってるけどアンタ本来は34なのよ?犯罪よ?ここが日本だったらアンタはもう檻の中なのよ?」


ハヤテの耳に唇を付け小声かつ早口で話し続けるアヤ


「いや見てたんならすべて意図してないってわかるだろ。ってかこわいこわいこわい。」


青ざめたハヤテの顔を遠目に見ているレオルンドとベルトリクス


「アヤ殿・・・じつはすごく強いのでは・・・」


「あんな動き見たこともないな」


「あれは合気道ってやつだ・・・いてて」


ゆっくりと立ち上がるタクマ


「あれはな相手の攻撃の際に生まれる運動エネルギーを利用して自分の攻撃に転じるんだ。あれだけはアヤがずば抜けてるんだよ。まぁお袋さんが合気道の師範だったからずっとやってきたんだよな。」


タクマはアヤの目が開いてるのを確認する


「いいかお前ら。ハヤテのキレるスイッチもそうだがアヤもああやって目が開いてるときは真剣(マジ)モードかガチギレしてるかだから気をつけろよ?・・・いってぇ、俺も買い出し行かなきゃ。」


自分の腰を抑えながら街の中へと歩いていくタクマを見送るレオルンド


「あのぉ・・・」


ハヤテとアヤに近づくアンネ


「私の部屋の壁はぁ・・・あのままじゃ外から丸見えなんですが・・・」


「あっ、ごめん。アヤ話は後でだ、ギルドの補修を昼までに終わらせないと。昼になったらエルドのところに行かなくちゃいけないし。」


しぶしぶハヤテから離れるアヤ


「ハヤテさーん!」


ハヤテを呼ぶ子供の声に反応するアヤ

アヤの視線の先には杖をついてよろめきながらも双子の妹のレナとエナに支えられ歩いてくるコルト


「よぉコルト。お前歩いて平気なのか?」


「まだ傷口は痛むんですが寝てばかりもいけないと思いまして・・・それにずっと冒険者を休んでいては僕たち三人が生活するのに必要なお金も底をついてしまいますし。」


「金なんか気にすんなよ、どうせエルドの家にいるんだし。」


「でも・・・」


「でももクソもねえだろ。今は身体を完全に治すことだけ考えてろよ。」


ハヤテはコルトの頭をグリグリと撫でると作業に戻っていく

その後姿をじっと見つめるコルト達三兄妹


「どうしたんだ?」


三人が振り返るとレオルンドが立っていた


「ハヤテ殿が気になってるようだが、何か用でもあったのか?なんなら私が伝えてやろう。」


「い、いえ。なんでもないんです。」


「そうか・・・そうだ先日の傷跡を見せてくれ。」


レオルンドはコルトの服をめくり火傷の痕を見ると腰のポーチから小瓶を2つ取り出す


「まともにくらっていたからな。これを毎日傷につけておくといい。」


レナは小瓶を受け取ると頭を深く下げる


「ありがとうございます!あの時、助けていただいただけでなく薬まで・・・」


「いいんだ。気にしないでくれ。」


レオルンドはギルドの方へと歩いていく


「・・・」


「兄様・・・ハヤテさんって・・・」


「うん。ババ様の言っていた内容とあっている・・・でもまだ言っちゃダメだ。ババ様の予言なら時期が来れば自ずと物事が動く・・・」


「それまで・・・母様(ははさま)や姉さま達は大丈夫でしょうか・・・」


「大丈夫!信じよう・・・」


三人は手を強く握り合う



-昼のエルドの屋敷-



メイドの案内されるまま応接室に案内されるハヤテ

応接室ではエルドと昨晩であったエルシア王都の兵士長が鎧姿でなく貴族服を着ていた

兵士長はハヤテが部屋に入るなりじっと目を見つめてくる


「んで?なんの話だっけ?」


兵士長の前にドスンと座るハヤテは兵士長をじっと見返す


「昨晩の件だ。一時的とはいえ私の兵が失礼をした。まずは謝罪を受けてもらいたい。」


兵士長は金貨の入った袋をテーブルに置くとすかさずハヤテは袋の中身を確認する


「まぁ昨日の件はこれでいいよ。話は終わりか?こう見えて結構忙しいんだが・・・」


「ハヤテと言ったな。お主、転移者なのだろう?」


その言葉にハヤテはエルドを見る


「安心しろハヤテ。この者はガーランド。我がラータ家に代々仕えてきた一族の者でな。私もお前と同じくらい信用している者だ。」


「エルドがそう言うならいいんだが・・・」


「ガーランドは今では王家に仕えてはいるがラータ家への忠実も健在だ。」


ガーランドはハヤテの目を見ると自分のことを話し出す


「安心されよ。この事は私だけの話にしておく。実は私の家もな転移者の血を引いているのだ。」


「へぇ。子孫を残してるってことはやっぱり元の世界には帰れねえのか。まぁいいんだけど。」


「それでな、我が先祖はそちらの世界では【ボクサー】という仕事をしたそうで、その技術は何百年も代々我々一族に受け継がれてる。」


「ボクサーかぁ。・・・ん?何百年?日本で何百年って・・・ボクシングなんて栄えてなかったぞ・・・もしかしてこの世界っていろんな時代から転移してくるのか?」


首を傾げ悩むハヤテ


「ハヤテとやら、昨晩のそなたを見ていて確信した!拳のみで相手を圧倒する技量。どうだ?私と一つ手合わせを願いたい。」


「なんで・・・」


「このボクシングと言うもの。ただの兵士相手に活用できなくてな・・・それでハヤテに相手を頼みたいんだ。技術を継承しても使い所がないので困っていたのだ。」


「だからって・・・好き好んで喧嘩するつもりもないし。・・・そもそもボクシングだってテレビで見た程度だし・・・」


エルドは呆れ顔でハヤテに頼み込む


「すまんハヤテ。ガーランドはこういう時はなかなか諦めてくれないんだ。私からも頼めないか?」


「エルドまで・・・うーん。じゃあ明日でいいか?」


「おお!受けてくれるか!感謝するぞハヤテ!」


目をキラキラさせて喜ぶガーランドはハヤテの両手を握る


「明日の昼前にギルド前の広場でいいだろ?」


「ああ。承った!」


「じゃあ俺はこれで帰るぞ、金はもらっていくからな。」


そういうとハヤテは金貨の入った袋を持って屋敷から出ていく



-ログハウス-


ハヤテは自室に金貨の入った袋を置くと玄関に出てビルダーズを呼び集める


「よし、お前ら一号機から順に俺の前に来い!」


そう言うとハヤテはプレハブから油性マジックを取り出しビルダーズの頭部に1から順に番号を振っていく

その様子を見ているアヤ


「ねぇ、それ何してんの?」


「いやぁ、こいつら番号で呼べば反応するんだけどさぁ。見た目がほとんど同じだから見てわかんねえんだよ。」


「だからって油性マジックで・・・」


アヤの視線の先にはビルダーズの1号機と2号機がお互いの頭部の数字を見ている


「ってかハヤテ、相変わらず字ぃ汚いわねぇ・・・」


「こればっかりは成長せんな。」


苦笑いを返すハヤテはすべてのビルダーズに番号を書き終えると木材の伐採を命じる


「あのロボット達って多分自分の意志あるわよね?」


「ああ。あるね。普段からごちゃごちゃ喋ってるし・・・」


「・・・え?」


アヤはハヤテを見返す


「喋ってる?・・・ねぇ、あんた疲れてない?」


「なんで?」


「なんでって誰もアレの声なんか聞いたことないわよ!」


「・・・ああ。きっとあれだ、頭ん中に入ってる機械のせいだ。一応声に出さなくても命令できるし・・・」


ハヤテは空を見ながら少し考え事をする


「そっかぁ。発声することができたら色々面白そうだな。そういやアヤはトモキやタクマみたいに魔法を覚えたのか?」


「一応アンネさんに魔法の基礎知識と魔力制御の練習は教えてもらってやってるけど・・・私の属性ってなんなのかしら?まだ使ったことないから分からないのよねぇ・・・」


「え?何でも使えるんじゃないの?属性とか縛りあんのかよ。」


「全属性使えることには使えるんですって、でも自分の適性のある属性を伸ばしたほうがいいって言われたの。トモキみたいに魔力は無尽蔵じゃないし。」


「へぇ。なんか思ってたのと違うな。てっきり何でもできるんだと思ってたよ。」


ハヤテはアヤの話を聞きながらプレハブから以前聖教騎士団から鹵獲した突撃槍(ランス)型の魔道具を取り出す


「なぁに?それ?」



「前に聖教騎士団と戦ったときの戦利品。この魔道具なんか他の使い道ないかなぁってさ。」


そう言いながらハヤテは魔道具のレバーを握ると突撃槍の先端から炎の球体が産まれる

ログハウスの裏にある大きな岩に向かって突撃槍を向けるハヤテ


「狙いは・・・こんなもんかな?」


魔道具のレバーを開放すると炎の球体は勢いよく射出され岩に直撃すると激しく爆発する



「・・・」

「・・・」


ハヤテとアヤはお互いを見る


「これなんか使いたいよな?」


「私にも使えるの?」


「使えるぞ。魔力ゼロの俺でも使えるんだから。試してみるか?」


「いや、いい。怖いもん。」


「この形って使い勝手悪いよなぁ。せめて俺たちの世界で馴染みのあるバズーカとか・・・」


「馴染みあってたまるか!」


「よし!これの構造が知りたいから分解しよう!まだ数本あるんだ、一本くらい壊したって構わんか!」


ハヤテは魔道具を持って自分の部屋に戻っていき、その後姿を見つめるアヤ


「まったく・・・いつぶりよ。そんな目を輝かせるの。」


少しうつむくアヤは優しく微笑む


「あれこそが私の好きなハヤテなのよ。」



-数時間後-



ログハウス内では住民達が各々食事をとっていた

ブレダは酒を片手に機嫌がいいのかタクマに悪絡みする


「タクマくん来てから毎日おいしい料理食べられて幸せだわぁ!」


タクマはブレダの胸の見つつも恥ずかしいのか直視できないでいる


「いや酒ばっか飲んでるじゃん・・・」


「そういえばハヤテくん。明日は兵士長のガーランドと戦うんでしょ?エルドから聞いたわよぉ。」


ブレダの言葉に全員がハヤテを見る


「お前どういうことだ!?今日話しつけたんじゃないのか?」


タクマの言葉に反応するサンドラ


「やはり私達亜人のせいで・・・」


「違うって。しかも今日は亜人がどうのこうのって話すら出ていないよ。謝罪と慰謝料代わりに金をもらった。・・・あっ、そうだソフィーちゃん今日もらった金も管理しといてくれ。やたら金貨ばっかあったけど数えてないから頼むよ。」


「はい!わかりました!」


「それでハヤテ殿。あの男と戦うというのはいったい・・・」


「ああ。実はあいつ転移者の子孫らしくてな、転移したご先祖様はボクサーだったんだと。そんで代々ボクシングを受け継いできたらしいんだが相手がいないから困ってたんだと。」


トモキは呆れ顔でハヤテを見る


「ようは相手を頼まれたと?」


「はいトモキくん正解。」


レオルンドとベルトリクスは不思議そうにハヤテに尋ねる


「ボクシングというのは?」


「ボクシングっていうのは俺達の世界の格闘技・・・・格闘技っていってもわからんか。まぁ武器を使わない戦士の一種がボクサーだと思ってくれればいいよ。」


「お前ボクシング経験なんてあったっけ?」


「ない。」


「ノートパソコンとかスマホにボクシングの動画とかないのか?」


「ないなぁ。興味持ったことないし。」


タクマはハヤテの何も考えずに話を受けたことに呆れると自分のスマホを取り出す


「世界タイトルの録画だ。後でプレハブの電気使わせろよ?」


「おお。サンキュー!」


ハヤテを始めレオルンドなど亜人たちがスマホの録画された動画を食い入る様に見るが十数分するとハヤテは動画を見るのをやめる


「おっし、もういいや。じゃあ俺は明日に備えて寝るわ。おやすみー。」


ハヤテは階段を上がり自室へと入っていく


「明日、ハヤテ殿は大丈夫なのだろうか。」


心配するレオルンドをよそに酒を飲み始めるタクマ


「心配ねえって。もうボクシングは【覚えた】んだから。俺もこれ飲んだらもう寝るわ。」


タクマは酒を一気に飲み干すとあくびをしながら二階へと上がっていく


-続く-

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