第十九話 燃え落ちる街とロストスキル(後)
-アドラシア-
アドラシア地方の中央に位置する雲を突き抜ける巨大な山
この地に住む亜人たちは皆この山を【生と死の山】と呼ぶ、この山の頂上には生と死を司る神鳥が居ると信じられ聖なる地として崇められている
-生と死の山・頂上-
魔力が渦巻く不思議な空間、その中央に赤く燃え盛る炎の様な羽を持つ巨大な鳥が静かに目を閉じ鎮座している。
そしてその鳥を守るように人の様な形をした鳥の獣人【ガルーダ】が囲んでいた
「客か・・・」
女性の声の巨大な鳥が目を開け起き上がると山の頂上にドラゴンの群れが降り立つ
「なんじゃ、ニーズヘッグ。私のところに来るとはめずらしい。」
ニーズヘッグと呼ばれる黒いドラゴンは眷属のドラゴンを下がらせ巨大な鳥の前まで歩く
「不死鳥よ。お前さんがこちらに引き込んだ人間・・・どうするつもりだ?」
力強い男の声で話すニーズヘッグに対し不死鳥は起き上がり羽を伸ばす
「あれはあちらの世界にいる私の半身がやったこと。それにアレは元々はこちらの魂ぞ。」
羽をたたむ不死鳥はニーズヘッグを見返す
「だがしかし、このままではいかぬな。本来我々【監視者】は手を出さないのが掟じゃが。仕方ない、ちと手を出さしてもらおうかの。」
ニーズヘッグは呆れる
「お前さんは何をやるにも面倒くさがる所がある、忠告しに来て正解だったぞ。帰るぞ!眷属共!」
ニーズヘッグは翼を羽ばたかせアドラシアから北東に向かって飛んでいく
それを見送っていた不死鳥
「・・・世話焼きめが。まぁ良い、あの者が役目を果たさねばこの世界は進まんのじゃ。どっちにしても行かねばなるまい。ガルーダたちよ、下界に降りるぞ。」
槍を持ったガルーダたちは不死鳥に続き山を降りていく
-ポルカ西側街道-
負傷したコルトを介抱しながらレナとエナはベルトリクスを見ていた
本来の武器をくるくると回しながら聖教騎士団中隊長を睨みつけるベルトリクス
「さて、大層なことを言ったもののどうしたものかな・・・あれだけ図体がでかいから動きもさほど早くはないが・・・」
そう言っているうちに中隊長はベルトリクスに向かって走り出し巨大な斧を縦に振り下ろす
ベルトリクスは槍を横にして斧を受け止めるがその一撃は重く苦しそうな顔をする
「蜥蜴風情が一人で私を倒す気でいるのか。聖教騎士団も舐められたものよ。」
「くっ。この図体・・・さすがに重いな。【限界突破!】」
槍をなぎ払い中隊長を跳ね除けるベルトリクスはすぐさま左手を槍から離し印を組み詠唱する
「水の大精霊ウンディーネよ。我が矛に恩恵を与えたまえ!」
ベルトリクスの槍に巻き付くように空気中の水分が集まり流れる水が姿を現す、ベルトリクスは槍を横一閃に薙ぎ払い水でできた刃が飛ぶ斬撃として放たれる
水の刃は中隊長の兜に当たるとミシミシと音を立てて兜が割れる
「これは驚いた・・・そなた本当に人間か?」
割れた兜から現したのはひどく変形し醜い顔でとても人間と認識するのも難しいものだった
「うるさい!!私はこの力を得るために代償としてこうなったのだ!裁きの炎を持ちて!立ちはだかる者に浄化の一撃を!【イグニススラッシュ!】」
炎をまとった巨大な斧を縦に振り下ろすとベルトリクスは槍で受け止めるが、斧にまとった炎はベルトリクスを包み込み叫び声をあげる
「リザードマンさん!」
レナとエナは炎に包まれるベルトリクスの姿を見て立ち上がる
【アイススピアッ!!】
レナの唱えた氷の槍は中隊長の左目を潰すとベルトリクスを包んでいた炎は消え中隊長が奇声をあげる
「ヒーリング!ヒーリング!」
エナは魔力が続く限りベルトリクスに治癒魔法を唱えるがベルトリクスは両膝を地面についたまま沈黙する
「リザードマンさん!起きて!死なないで!」
「このクソガキがぁ!」
中隊長は斧を持っていない左手でレナを激しく殴りつけるとレナは数メートル離れたコルトのもとまで吹き飛ぶ
「楽に殺してやるのも私なりの慈悲だが、貴様は許さん!私の部下たちの慰みものとしてくれる!」
レナはコルトのそばで気絶している一方、エナはひたすらベルトリクスに治癒魔法を唱え続ける
「お願いリザードマンさん、死なないで。」
必死に詠唱を続けるエナの後ろに歩み寄る中隊長
「お前も部下たちへの手土産にしてやる。」
エナの頭に左手をかけようとする中隊長
「!!!!」
宙に舞う左手、一瞬のことで何が起きたのかもわからず左手を目で追いかけていた
「わ、私の左・・・手・・・か?」
事態を把握した中隊長は悲鳴をあげる
「この亜人ごときがぁ!!ぶっ殺してやる!!」
中隊長の左腕の切り口から大量の血が吹き出す、ベルトリクスはよろ付きながらもゆっくり立ち上がる
「人間の娘よ。感謝するぞ。・・・あとは任せてくれ。」
涙を浮かべながら喜び気絶しているレナのもとへ走るエナ
「もう終わりにしよう。俺もさっさと仲間のところに合流したいのでな。」
ベルトリクスは槍を地面につきたて両手で印を結び詠唱を始める
【全ての命の源よ 優しき流れに激しき流れ 廻れ・・・廻れ・・・廻れ 循環せしその力 大精霊の神名において 悪しき者を流し打ち砕け・・・】
中隊長が気づくと近くの川の水が干上がり、川底の石や泥も巻き上げているためか茶色く巨大な水竜巻が巻き上がる
【マッディ・サイクロン!】
水竜巻は獲物を飲み込む蛇のようにうねり中隊長を飲み込む
激しい水流に揉まれ混じった石が中隊長の鎧をへこませていく
「息・・・が・・くる・・・しい」
水竜巻はしばらくすると収まり巻き上げられ空から降ってきた中隊長はただの肉塊となっていた
その姿を確認したベルトリクスは足を一歩前に出す
「さて、ハヤテたちを追いかけるか」
そう言って力尽き倒れるベルトリクス
「リザードマンさん!リザードマンさん!」
駆け寄るエナの後方から近づいてくる馬車から降りてベルトリクスに駆け寄るブレダ
「ベル!ちょっと大丈夫!?アンネ!ベルの治癒を!」
ブレダはそばに転がる中隊長の肉塊を見つける
「あの鎧・・・師団の中隊長。ベル一人で・・・やったの?」
-ポルカ-
たくさんの冒険者やポルカ憲兵の死体があちこちに転がる
その中を走るハヤテとレオルンドは変わり果てた街を見回すと瓦礫の片隅にしゃがみこんでいる小さな子供と母親の影を見つける
「おい!なにやってんだ!?早く逃げないと・・・」
ハヤテとレオルンドは親子に駆け寄るがその姿に二人は絶句した
母親が子供を庇うように抱きしめた姿のまま固まった焼死体だった
「なんだよ・・・これ」
ハヤテはその場で崩れ落ちる
「ハヤテ殿・・・」
「俺の世界じゃ・・・人が一人死んだら大騒ぎだ。でもこっちの世界では兵士や冒険者が戦って死ぬのは仕方ないって思ってた。実際に俺もこの世界に来て初めて人を殺した。
でもあれは敵だと認識したから・・・殺さなきゃ・・・なんの罪もない人が殺されると思ったから・・・
だけど、これはなんだよ。なんでこんなひどい殺され方をされなきゃいけないんだよ。」
ハヤテは震えた声でレオルンドに語りかけるが、レオルンドはハヤテの呼吸が少しづつ荒くなっていくことに不安を感じていた
「ハヤテ殿の世界のことはわかりませんが、これがこの世界なのです。・・・これが聖国の・・聖教騎士団のやり方なのです。」
少し離れた瓦礫の中から子供の鳴き声が聞こえ、ハヤテは必死に瓦礫をかき分けるとそこには両足を怪我した少女がうずくまっていた
「おい。しっかりしろ!」
ハヤテがゆっくりと少女を抱き上げると安心したのかハヤテの首にしがみついて泣き出した
「もう大丈夫だよ。レオ、この子の回復できるか?」
「これを。」
レオルンドは先程コルトにも使った小瓶に入った液体を少女に飲ませると足の出血が止まり傷口が塞がる
「良かった、軽傷なのでこれで完全に癒えるでしょう。」
「他に誰か居ないか!?」
ハヤテの大声に反応してか、女性の声が聞こえる
「お願いします!ここから出してください!」
声は崩れた冒険者ギルドの瓦礫の下から聞こえるとレオルンドは瓦礫をかき分け床の扉を見つける
レオルンドが扉を力いっぱい開くと中から数人の住人とポルカの街の女神エレアが姿を現す
「ありがとうございます。最後の馬車で逃げようとしたのですが、大きな爆発とともに馬車が吹き飛んでしまって・・・」
「ハヤテ殿、ここはひとまずみなさんを連れてポルカの外に移動しましょう。」
「わるいレオ。その役目頼んでいいか?俺はあのおっさんのところへ行く。」
「ハヤテ殿!」
「あのおっさんが死んだら・・・ソフィーちゃんが悲しむから。だから頼む、ブレダたちもきっともうすぐ来てくれる。」
ハヤテはレオルンドが止めるのを振り切って街の中央へ向かう
-ポルカ中央の大通り-
たくさんの死体が地面に転がる中、ハヤテはただひたすら戦場の方へと走っていく
死体の中には兵士や冒険者ではなく、ポルカの住民たちの姿もありハヤテの足取りは重くなっていく
(くそっ。なんで戦えない住民まで殺されなきゃいけないんだ。)
そして視界に入った死体は幼い少女のものだった
少女の親だろうか、少女の左手に手をつないでいたのはちぎれた大人の腕
「ああ。イライラする。こんな理不尽なことがあるかよ。」
「そんな理不尽を壊すために俺がいた。」
ハヤテの視界に映っていた燃えるポルカの街はガラスのように崩れ落ち、真っ暗な空間が広がる
ハヤテの前に姿を現したのは、度々ハヤテの意識に流れ込んでくる映像の白金鎧を来た男だった
「こんな理不尽な世界。誤った秩序。聖国の作ったあらゆる物が気に入らないから俺は13番目の大天使とともに裏切った。」
「お前・・・夢で見たやつか。」
「壊せ、このくそったれな秩序を。お前にはそれができる、叫べ、怒りのままに。」
男はハヤテの胸に拳を当てる
「できれば魔女が復活するまではこの能力は制御ができないから何度も使うな。それと・・・よく帰ってきてくれた。我が半身よ。」
ドックン・・・
ハヤテの心臓が大きく鼓動する、鼓動の激しさ故か胸を抑えてうずくまるハヤテ
「はぁ・・・はぁ、スキル・・・発動・・・」
-ポルカ北門-
アルドバを中心とする冒険者と憲兵の連合と聖教騎士団は互いに多くの死者を出しながらも戦線を保っている
「もう住民は全て逃げただろうか・・・」
負傷しながらも他の冒険者の傷を癒やすアルドバは東側を見ると、轟音を立て何かが建物を破壊しながら進んでくるのに気がついた
「何だあれは・・・お前ら!少しラインを下げるぞ!」
アルドバの号令とともに冒険者たちは後退する
「アルドバさん、あの音は何なんです?」
「さぁな。方向的に騎士団にぶつかりそうだが・・・」
騎士団の直ぐ側の建物が崩れ土煙から姿を現したのは自我を失ったハヤテだった
けたたましい咆哮をあげ騎士団の一人の兵士に飛びかかると右手で首を掴み、兵士を民家の壁に押し付けながら左手で顔面を兜ごと殴る
「ブレダんとこの若造!また変わっちまったのか!」
アルドバは大声で指示を出す
「よしテメェら!東門へ走れ!このままラータまで行くぞ!」
ポルカ憲兵や冒険者たちは怪我した者は互いに肩を貸して動き出すがそこへ騎士団の魔道士が炎の玉を打ち込むとハヤテは掴んでいた兵士を盾にして炎を防ぐ
ハヤテは騎士団の鎧の胸部分に刻印された聖国のエンブレムを見つめる
(コワセ・・・コワセ・・・)
騎士団の一人が赤く発光する貫く槍をハヤテに向かって投げるが左手で槍の先端を掴み受け止めるとニヤリと笑いながら槍を投げ返す
アルドバが振り返りハヤテの方を見た時には騎士団の数人が投げ返した槍に貫かれ肉体が砕かれていた
(前に見たのと様子が違う・・・騎士団以外には見向きもしてねえ。なんなんだ一体・・・)
咆哮を上げながら次々と騎士団の兵士を素手で殺していくハヤテを気にしながらも東門へ走るアルドバたち
-ポルカ東門-
意識を失ったコルト、ベルトリクス。レナとエナを乗せたブレダとアンネがそれぞれ操る馬車がポルカに到着すると、レオルンドが少女を抱えて逃げ遅れた住民や女神と共に街から出てくる
「レオ!ハヤテくんは?」
「ハヤテ殿ならアルドバ殿の所へ!私もすぐに戻ります!この子を頼みます!」
レオルンドはそっとブレダに少女を託すと再び街の中へ入ろうとする
「おーい!」
東門から出てくるアルドバや冒険者たち
「お前らも早く逃げろ!あの若造、またおかしくなっちまった!」
その言葉に一目散に街の中へ走るレオルンド、少女を荷馬車に乗せ出てきた冒険者から弓矢を奪い街の中へ入っていくブレダとアンネ
「お、おい!お前ら!くそっ!こいつら逃さねえと・・・」
重傷者を荷馬車に乗せて他の冒険者に荷馬車を任せるとアルドバも街に戻っていく
「アルドバ様・・・」
街に戻っていく者たちを見ていた女神エレアは街から来る異様な気配に気づく
「うそ。まさかそんな・・・」
-ポルカ中央の大通り-
ほとんどの騎士団の兵士が死に、ハヤテの前に騎士団の大隊長が立っている
「なんなんだお前は・・・魔人の類か?」
ただ唸り会話すら成り立たないハヤテに詠唱を始める大隊長
「悪しき者の動きを封じ、光の矢にて滅せよ!ライトニングシャワー!」
ハヤテの周囲の地面や宙に小さな無数の魔法陣が現れ、おびただしい数の光の矢がハヤテを貫く
獣のようなうめき声とともに大量の血を流し倒れるハヤテ
「ウインドリッパー!!」
レオルンドの風の刃が大隊長に襲いかかるが軽くかわされる
「ハヤテ殿!!」
地面にうつ伏せに倒れたハヤテ
「獣人か・・・それに冒険者に魔道士。この者が何なのかは知らないがこうなったら私一人でこの殲滅を実行するとしよう。」
大隊長は腰から金属製の鞭を取り出し構えるとブレダは大隊長に向かって弓を放つ
「アンネ!ハヤテくんの意識封じ、解けたの?」
アンネはハヤテに近寄り治癒魔法を唱える
「いえ、まだ封じは有効になってる。・・・違うんだわ、意識どうこうの話じゃない。これ・・・スキルよ。」
レオルンドの援護をするように矢を放つブレダはアンネの言葉に驚き振り返った瞬間に金属鞭がブレダの首に巻き付く
「しまった!ブレダ殿!」
レオルンドがブレダの方へ動こうとすると大隊長が大声を上げる
「動くな獣人!動けばその女の首が飛ぶぞ!この形状を見れば察しが付くだろう。のこぎりで切るように傷口はズタズタになるぞ。」
レオルンドは構えを解き剣を地面に置く
「レオ!だめ!あたしの事は気にしないで!」
「すいませんブレダ殿。ハヤテ殿ならきっとこうするんだろうなって思ったら・・・」
レオルンドはブレダに微笑む
「さぁ、さっさと殺せ。」
レオルンドは大隊長に向かって両手を広げると大隊長は驚きの表情を隠せずにいた
「なんなんだお前は・・・あれを食らってなんでまだ立ってる・・・」
レオルンドが後ろに振り返るとブレダの首に巻き付く金属鞭を両手で掴むハヤテ
「ハヤテ・・・くん。」
大量の血液を失ったせいか視線が定まらずにフラフラしているハヤテは大きな咆哮とともに金属鞭を引きちぎる
「化物がぁ!」
大隊長の放つ炎魔法をまともに食らうハヤテは大きくよろめくが何とか二本の足で立っている
「ハイヒーリング!」
ハヤテに治癒魔法をかけたのはアルドバだった
「今のが最後の魔力だ、もう何もできねえぞ・・・」
アルドバは地面に座り込みぐったりするとハヤテは大隊長に向かって走り出す
「来るな・・・来るな!!」
ズドン!
鈍い音と共にハヤテの右手は鎧を貫き大隊長の胸に突き刺さる
「やめてくれ・・・取らないでくれ・・」
咆哮をあげながら引き抜いたハヤテの右手には大隊長の心臓が握られていた
「アルドバ様!」
翼を羽ばたかせながら飛んできた女神エレア
「女神様!まだ逃げてなかったのか。」
エレアは青ざめた顔でハヤテを見ていた
「ロストスキル・・・なんであれが・・・」
その時、甲高い鳴き声が響くと全員が空を見上げる
「神鳥・・・」
レオルンドは呆然とする
空には燃え盛る大きな鳥が羽ばたきながらハヤテを見ており、それを中心にポルカを包囲するように大きく円を描きながら上空を旋回するガルーダ
「なに・・・あれ」
アンネは不安になりブレダとレオルンドの所に駆け寄る
「あれはアドラシアの霊峰に住むと言われる不死の神鳥・・・フェニックス。なぜ神鳥がアドラシアから出てきたのだ・・・」
神鳥はハヤテに向かって滑空すると足でハヤテを踏みつけ地面に押さえつける。
ハヤテは神鳥の爪の間から顔を出している
レオルンドは駆け寄り神鳥にひざまづく
「神鳥よ!なにゆえこのハヤテ殿を攻撃する!」
「レオニールの子孫か、アドラシアの外で会うとは・・・安心するがいい。こやつを傷つけはせぬ」
神鳥はハヤテを見つめながら落ち着いた優しい声で女神に声を掛ける
「女神よ、お主ならこれをどうすればいいかわかるであろう?」
エレアはレオルンドのそばに来る
「獣人さん、その剣少しお貸しください。」
そういうとレオルンドの持つ剣に腕を当てて傷を作る
「女神様!何を!」
腕から血を流すエレアはハヤテのもとに歩み寄り自らの血をハヤテに飲ませる
「我、女神エレアの血をもって命ずる。我らの生み出しし業よ、我が名に従い静まり給え。」
暴れるようにもがいていたハヤテはしだいに静かになりそのまま眠りにつくと神鳥はゆっくりと足をどかす
「さて、死者たちは私が導いてやろう。」
ポルカの街に転がる死体は淡白い光りに包まれると肉体ごと光の中へ消えていく
「あれだけの死体が・・・」
ブレダは幻でも見ているかのようにキョロキョロとあたりを見渡す
「お前たち人間は【場所の記憶】が読める魔道具があるんだったな・・・いま奴らにこの男の存在を知られるわけにはいかぬ。」
神鳥は大きな鳴き声を上げるとガルーダたちは旋回をやめ手に持った矛に魔力を集め始める
「お前たちも早くここから去るがいい。この場所は記憶が読めぬように処理しておく」
レオルンドはハヤテを背負い全員を引き連れて東門から街の外へ出ると何も乗っていない荷馬車が一台残されていた
アルドバとレオルンドはハヤテを荷台に乗せ、魔力の尽きたアルドバもダルそうに荷台に乗るとある光景に気づいた
「ポルカが・・・俺たちの街が・・・」
ポルカを囲むガルーダ達は魔力を神鳥に飛ばすと神鳥は全てを燃やし尽くさんばかりの炎でポルカを焼いていく
木造の建物は一瞬で灰になり、石造りの建物やポルカを囲む防壁は融解し溶け落ちていく
アンネは腰が抜けたのかその場で崩れ落ちフードを外しただ燃えゆく街を見る
「こんな魔力・・・感じたことがない・・・これが神と等しい存在だっていうの?」
レオルンドは地面に座り込んだアンネを荷馬車に乗せると炎を見つめる
「これだけの魔力で焼かれればあの魔道具でも読み取ることはできないでしょう。さぁラータに帰りましょう!もたもたして我々の存在を知られるわけにはいきません。」
「若造には助けられた。思ったより多くの憲兵と冒険者を逃がせたし。西に向かった奴らはしばらく時間を開けてから連絡をとったほうが良さそうだな・・・」
アルドバは横になっているハヤテの顔を見る
「女神様、この若造のスキル・・・落ち着いたらちゃんと聞かせてもらえますかい?」
女神エレアはブレダと一緒に馬車の横を歩いている
「はい。皆さんにお話します。今はただ、失われたはずの13番目のスキル【破壊を司るもの・ガヴァニング・デストラクション】とだけ明かしておきます。」
一行はラータに向かい荷馬車を進めた
-続く-




