第二十話 これから
ポルカが世界から消えて3日が経過した
ポルカから避難してきた住民はラータ領主であるエルドの屋敷の一部とラータ内の使用されていなかった住居が全て開放され何とか寒さを凌いでいた
ポルカの冒険者と魔法ギルドの魔道士達はラータの冒険者ギルドの建物を仮の住居とし、それぞれの支部長のアルドバとアンネ、そして女神エレアはハヤテの家に身を寄せていた
-ログハウス-
ハヤテはポルカの一件から目を覚まさない、ダメージもひどく魔法ギルドの魔道士が交代で治癒魔法をかけ続けている
そして食堂ではアルドバとブレダ、アンネにレオルンドが集まりこれからエレアからハヤテのスキルについて話を聞くところだった
パチパチと音を立てて燃える暖炉の中にレオルンドが薪を焚べるとエレアが話し出す
「まず、私達女神と天使たちの歴史から話さねばなりません。私達女神は【天使の眷属】というのが皆さんの知っている常識だと思います、ですが本当は逆なのです。
私達女神は天使を従え神界を統率し、この地上世界に安寧をもたらせねばならない存在でした。
ですが天使たちの中から女神に対し反旗を翻す者が現れました。大天使ミカエル、ラファエルとガブリエル。この三人を中心とする天使勢力が女神に対して神界で戦争を仕掛けてきました。結果は私達女神の敗北・・・私達は敗れ立場が変わったのです。その戦争のときに13人の大天使は地上世界からそれぞれ13人の人間を神界に招きとあるスキルを与えました。
私達はそのスキルにどうする事もできずにいました。」
アルドバはふと聖国のことを思い出した
「その大天使が今の正教教会の母体となる天使ってことか。そうだ・・・たしか最上天使はミカエルって名前だった。」
「そのとおりです。当時の聖国アルトークは今ほど宗教的な色を持たない国でした。神界の実権を握った天使たちは地上に降りて13人の人間を使って現在の聖国を支配し今のような形が作られました。そして私達女神は各都市を監視するという名目で各都市に一人加護とは名ばかりの監視をすることになりました。」
天使の人数に疑問を持つブレダ
「ちょっとまって。大天使は13人いたんでしょ?あたしたちの知ってる歴史だと12人よ?数が合わないわ。」
「そうですね、地上世界を巻き込んだ長き戦争・・・あなた方は【大戦】と呼ぶ戦争の頃には12人になっていました。一人の大天使と加護を与えていた聖騎士は消息がわからなくなっていました。そして私がロストスキルと呼んだのはそこにあります。13番目のスキル【破壊を司るもの】は大天使ルシフェルが作り出した物なのです・・・彼が加護を与えない限り持っているはずなんかないのです。」
「なんでそんな大昔のスキルが・・・それじゃあ今の聖騎士達は代々大天使からの加護で今でも大昔のスキルを持っているってことね・・・あんなやばいスキルがあと12人もいるなんて・・・」
ブレダはハヤテとギガントの戦闘を思い出す
「いえ【破壊を司るもの】は特別です。大天使ルシフェルは【自由】を愛し、何よりも【秩序】や【支配】を嫌っていました。ですから【破壊を司るもの】は本来は敵味方区別すること無く攻撃対象にしてしまう恐ろしいスキルでした、ポルカではなぜか正教騎士団だけを狙っていたようですが・・・」
そこにいる全員がなぜ異世界から来たハヤテが古のスキルを持っているのかを考えていたが誰もその答えにはたどり着けず黙っていた
ギィ・・・バタンッ
玄関のドアが開く音がするとベルトリクスがログハウスに入ってきた
「ベルッ。こんなときに何をしていたんだ!」
立ち上がったレオルンドはベルトリクスに問いかける
「なんて言ったか・・・【ぷれはぶ?】になにか面白いものはないかとあさっておった。なかなか面白いものがあったのでな。」
ベルトリクスの手に持っていたものはアルバムだった
「お前ら、ハヤテのスキルの話どうこうするのは構わんが。仮にハヤテが正教教会となんら関係があったとしてどうだと言うんだ?」
レオルンドはベルトリクスの話にハッとする
「俺はポルカでハヤテに命を救われた。それは正教教会に反するものであって俺にとってその事実だけで充分だ。それにラータの中での戦いで変わり果てたハヤテをソフィーは見ていたのだろう?だがソフィーは今でもずっと寝ているハヤテのそばにいる。ちなみにルミカもな。・・・つまりそういうことだ。なんでスキルを?とかではない、持ってしまってるものは仕方ないんだ。これからどう立ち振る舞うかだ。」
レオルンドはたてがみに手を当て頭をかく
「少し顔を洗ってくる・・・」
「おう、頭冷やしてこい。お前らももう少し客観的になれ。」
ブレダ・アンネ・アルドバの三人は深くため息を付いて力を抜いた
「ええ。ありがとうベル。」
「ブレダ、ハヤテの部屋に行ってソフィーとルミカを呼んできてくれ。面白いものを見せてやると言ってな。」
二階に上がっていくブレダ
「じゃあ私はお茶を入れ直しますね」
アンネはキッチンに立ちお湯を沸かす
「・・・」
ベルトリクスはエレアをじっと見る
「女神様、あの男・・・ハヤテは味方です。」
リザードマンであるベルトリクスが人間のハヤテを味方と言ったことに驚きながらも笑顔になるエレア
「ええ。そうですね。貴方を助けたという事実があるんですもの。あの人は私達の味方ですね。」
しばらくすると首から上をびっしょりと濡らしたレオルンドが帰ってくる
食堂に全員が集まるとベルトリクスはニヤリとしながらアルバムをテーブルに置いて一ページ目を開く
全員が覗き込むとそこには高校生時代のハヤテの写真があった
「ハヤテくん今と変わらない。」
ブレダはじっくりと見つめる
「そういえばこっちに来て若返ったって言ってましたよね?本当は34歳とか・・・」
ハヤテの本来の年齢に驚くアルドバ
「なんだと!俺と近いじゃねえか・・・しかしこれはどうなってんだ??絵じゃねえみたいだし、まるで魔道具でその時間だけを切り取ったみたいだ・・・」
写真が存在しない世界の者らしい反応でじーっと見つめている
「この人が先日ハヤテさんが言ってたタクマさんですかね?」
一枚の写真にはブレザー姿のハヤテと肩を組む顎髭を生やした笑顔の男が映っている、その二人を挟むようにタクマの横に気の弱そうな華奢な男とハヤテの横に細目(いわゆる糸目)の黒髪の女が写っている
この4人の写っている写真が多く高校時代・中学時代・小学時代それぞれの写真が存在した
「むぅ・・・、誰ですかねこの女性。どういう関係なんでしょう。」
ムスッとするソフィーに冷静に返すアルドバ
「これよう・・・こっちから見るんじゃねえか?そうすればガキの頃から成長するだろ。察するに幼馴染とかそういうんだろうな。」
ブレダはその言葉に反応する
「なるほど!あたしとエルドみたいなもんね。」
そう言っていると二階からトランクスパンツにTシャツ姿のハヤテが降りてきた
「あー、身体中いってぇ・・・」
「ハヤテ殿!」
レオルンドはハヤテに駆け寄り身体をペタペタ触る
「どこか悪いとこはありませんか?!」
「ないって!お前はちっと心配しすぎだ。」
ハヤテはテーブルに置かれたアルバムに気づく
「うっわぁ。懐かしいなー!どこで見っけたんだこれ。」
ベルトリクスはしっぽを小さく振る
「ぷれはぶで見つけたのだあの小さい冷える箱・・・【れいぞうこ?】と言ったか?あの裏にあった。」
「うっわぁ・・・俺のずさんっぷりが表れてるな。」
アルドバは真剣な顔つきでハヤテを見つめる
「ハヤテと言ったな、お前さんあの時の記憶はあるのか?」
「・・・ポルカの事か?・・・あるよ。むしろあれは・・・俺の意思でやったんだ。」
その言葉に全員が驚く
「幻覚だったのかは今ではわからないけど、白銀鎧の男が俺にこの力があることを教えてくれた。でもあのスキルはもう使おうとは思わないよ。使ってる最中に意識があっても俺の意思で動いてるわけじゃない。
それにさぁ・・・今でもそうだけど・・・身体にくる反動すごいんだよ・・・身体中痛くてさぁ・・・」
ぐったりとテーブルにより掛かるハヤテはアルバムを見る
「ハヤテさん、この顎髭を生やした人が先日お話にあったタクマさんですか?」
ソフィーが写真を指差す
「ん?ああ、そうだよ。んでこっちの気弱そうなやつが【竹下トモキ】にこっちの女が【神宮アヤ】。俺とタクマは施設から一緒だったがトモキとアヤは小学校からの付き合い・・・つっても小学校この世界にねえもんな。タクマとは3歳からの付き合いでトモキとアヤは6歳から付き合いだな。」
ハヤテは嬉しそうにアルバムをめくる
「このトモキはな、小学校ってところで小さな子供に勉強を教える教師って仕事をしててな。アヤも医者でなんでもそっちの業界ではカリスマと呼ばれるほどのすごいやつで、どんな難病や怪我も治しちまうんだ。」
ハヤテの腹から大きな音が鳴る
「腹減ったな・・・なんか食べるものあるかな?」
ソフィーは笑顔で応える
「はい!すぐに用意しますね!」
「そういや、あれからポルカの避難してきた人たちはどうなったんだ?」
「住民の人達はラータの空き家とエルドの家の一部を開放して仮住まいにしてもらってるけど。ポルカの冒険者と魔道士達はラータの冒険者ギルドの建物に入ってもらってる。もっともベッドも足りないし、もうすぐ水も凍る寒さになるっていうのに床で寝たりと結構厳しい状況よ。アルドバとアンネ、そして女神エレア様はアタシたちの家に泊まってもらってるわ。」
「そうか・・・。ちょっと飯食ったらエルドのところに行ってくる。ちょっとこの状況は良くないしな・・・」
ハヤテは暖炉のそばに干してあったツナギを着る
「レオ、あとでラータの武器屋で木こり用の斧と釘、それと雑貨店で布生地と細い紐をありったけ買ってきてくれ、斧は最低でも20本は欲しいな・・・釘は買い占めて構わない。ソフィーちゃん街に買い物とか用事はあるかい?」
「はい。調味料と食材を買い足したいです。」
「オッケー。じゃあこれレオに預けるわ。」
ハヤテはレオルンドに金の入った袋を渡す
「ベルもレオとソフィーちゃんについて行ってやってくれ。荷物も多そうだし。」
「おう。」
「アルドバのおっさん。男の冒険者を貸してくれ、伐採作業を手伝ってもらいたいんだ。数は多けれ多いほど助かる。」
「構わんぞ、どうせ今すぐクエストができるような状況でもないしな。」
「アンネさん。魔法ギルドって女の人が多いんだっけ?」
「はい・・・殆どが女性ですよ。」
「じゃあ裁縫仕事でもしてもらうか。ソフィーちゃん、裁縫道具もいくつか仕入れてくれるかな?」
「わかりました!」
「ここまでやってもまだ金は余るな・・・ブレダとアルドバのおっさんは俺の背中に張り付いてるルミカを連れて農家を回って藁を仕入れてくれ。こっちの世界の農家はこれから春までは仕事も少ないだろうから藁は相場より1割高く買ってやってくれ。」
ハヤテの背中からルミカをはがすブレダ
「ねぇそんなに買い込んだりして何をやるつもりなの?」
「何って、避難民や冒険者や魔道士たちが冬を越すための仮設住居とベッドを作るんだよ。後で建てる場所はエルドと打ち合わせするから道具が揃い次第木材の確保をしてもらいたいんだ。」
アンネに以前施された【意識封じ】を解呪してもらいながら、考え事をしながら食事を勢いよくかぶり付くハヤテはあることに気づく
「そういえば魔法で土の属性ってあったよね?」
ハヤテの背中に両手を当てて解呪の魔法陣を展開するアンネ
「ええ。ありますよ。」
ハヤテは窓の外を指差す
「あそこに見えるでかい岩を細かく砕けるかな?あとは地面に穴を開けたりは?」
アンネは少し考えるとひらめいたように明るい表情をする
「できますよ!攻撃魔法や妨害魔法を発動の一歩手前でやめればいいのです!」
「おっし!じゃあ一気に工期が短くなるな!」
食事を食べ終わるとハヤテは忙しそうにログハウスから出ていく
「じゃあお前らまた後でな!」
見送る一同
「あんだけ傷ついて起きたばかりだっていうのに・・・忙しい野郎だな。」
呆れるアルドバにかえすブレダ
「いつもあんなもんよ?さぁてアタシたちも言われたことやりましょ!もう冬はそこまで切るんだからグズグズしてると凍死者出るわよ!」
-ラータ-
街の中を見渡しながら歩くハヤテ
「ポルカの人たちが居るってのもあってやっぱ普段より人が多いな。」
暫く歩くとラータの冒険者ギルドの前に差し掛かると異音に気づく
「この建物・・・完全にキャパオーバーだよな・・・そもそも建物自体が廃材でできたようなもんだしなぁ。」
エルドの屋敷に向かって歩きながらブツブツとつぶやき考える
「避難してきた冒険者と魔道士が40人・・・住民が約100人・・・そのうち5人家族世帯がほとんど・・・。冒険者と魔道士は二人づつルームシェアさせるとして20部屋のアパートタイプ・・・一般の家族に集合住宅はきついよな、そもそもこの世界の人が集合住宅ってものを理解しそうにないし。やっぱり戸建てを20棟から25棟かぁ・・・エルドから避難民の名簿見せてもらってから決めるかぁ。」
屋敷についたハヤテはエルドに迎え入れられる
-領主執務室-
「ハヤテ、もう身体はいいのか?」
「おう。もう完全復活だ!」
「そうか、それならばいいのだが・・・ハヤテ、実は困ったことがあるのだ。」
「避難民の住居だろ?俺もその話でエルドに相談があってきたんだよ。」
その言葉を聞いたエルドは嬉しそうに書物が入った戸棚から街の全体図を取り出す
「それではさっさと話を進めよう!どこにどういう建物を立てるのだ?」
ハヤテは図面をじっくりと見る
「この街の防壁の中に建てるとすると東門の近くの空き地に冒険者と魔道士の住居を建てて、街の東側はまだ空き地が結構あるからそっちに建てたいな。そうだ、避難民の名簿見せてもらえないか?」
「ハヤテ・・・お前字が読めるようになったのか?」
「・・・あっ。」
呆れるエルドは名簿を広げる
「知りたいのは家族の人数と組数でいいのか?」
「助かるよ!あとメモするから紙と書くもの貸してくれ。」
エルドからの説明でハヤテはどんな建物をいくつ建てればいいのか考えていく
「戸建てが21棟か・・・」
驚くエルド
「21の家をたてるのか!?冬はもうそこまで来ているぞ!」
「任せろ!なんとかする!それとエルドに頼みたいことがあるんだけど。」
「なんだ?」
「金をくれ!木材はラータの周りの木を伐採するからいいんだが、窓に使うガラスやら金物やら必要で俺の持ち金じゃ明らかに足りないんだよ・・・」
「そんなことか!ちょっと待ってろ。」
机の引き出しから大きな袋を取り出し、ドシンとハヤテの前に置く
「250万バッツある。好きに使ってくれ!」
「いいのか?」
「ああ。足りなければどんどん言ってくれ!これからみんなラータの住民になるのだ金に糸目はつけんよ!」
「助かるよ!道具と材料が揃い次第すぐに取り掛かるよ!」
「頼んだぞ!」
ハヤテは硬貨の入った袋を担いで家に帰っていく
-続く-




