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横四楓院絞男はラノベがお好き

 古き良き書物の香り。

そして、人の喧騒もなく唯々ゆっくりと時間が流れていくこの空間。

昼休み。ランチタイムを終えた僕こと横四楓院絞男はここ、学園のライブラリーに秘密裡に訪問している。週一と低頻度ではあるが、癒しを求めにここにやって来ることが僕の秘かな習慣となっている。癒しと言っても別にこのライブラリーに愛くるしいアルパカだとか舐め猫が常駐しているわけではない。このライブラリーに入るといつも決まって真っ先に僕はとあるコーナーに一直線に向かうのである。


「フフ……なんだ、これは?」


 僕はすぐさまとあるコーナーの新着本の一冊を手に取り、ほくそ笑む。本の背表紙に書かれたタイトルを読み上げる。


「『俺のパツキン老婆が俺のおいなりマンに対してミステリーとか言っちゃってリア充爆発しちゃってんだが、俺の陰●の勃ち具合が半端なくハイパーエクスイリュージョンな件について(月経社)』……か。この作者は気が狂っているか、サイコ●スとしか思えないな」


 文句を言いつつもそのキチ●イ本を手に取り、近くの座席に腰をかける。とあるコーナーと言ったが、ぶっちゃけると『ライトノベル』コーナーのことである。この学園のライブラリーは新着の本を週一の頻度で取り寄せてくれるという変なところで太っ腹なので僕は足繁く通っているわけだ。まあ、このライブラリーの司書のババアどもも脂肪吸引的に太っ腹を絵に描いたような老害ばかりだがな。……それはいらん情報だったな。


 今、スパイだてらにラノベとか……とか思った奴がいるだろうが、如何にラノベが素晴らしき書物であるか誤解無きよう説明しておくとする。ライトノベルとは『軽小説』と俗に言われる部類の小説である。軽、という名を示す通り従来の小説程、重くなく軽妙な文体で描かれる小説と言って差し支えないだろう。軽小説であるが故に、最近流行の萌え絵や美少女のハンコ絵などが軽妙な文章とともに添付され、文庫本として低価格で市場に売り出されている。


 だいたいライトノベルはスパイの必須要素である『想像力』や『妄想力』を培う上で必要不可欠なオタクアイテムなのである。軽妙な文章から今その場にいるかのような臨場感で複雑怪奇な登場キャラクター思考回路を読み取り、そして次の展開を自分の頭の中で『創造』し、答え合わせ・擦り合わせを行う。そう、すなわちこれは思考で至高な訓練なのである。萌え美少女のあられもない姿がみたいだとか全裸少女に靴下を履かせたいとかそういう俗物的な欲求では決してないことをここで追記しておくとしよう。


「さて……」


 頭の中で勝手に自論を呟き、勝手に一人でうんうんと納得した僕はキ●ガイ本のページをゆっくり捲る。


「あー、ここにいた! もー、探してたんだから佐藤くん!」


 最初のカラーページを捲った瞬間に聞き覚えのある女子に声を掛けられる僕。スパイとして極秘休憩中の僕に遠慮なしに声を掛けてきやがった無礼者は田中某である。また性懲りもなく来やがった、何てタイミングだよ。


「…………」

「もー! また無視するー! こんなところで何してるんだよー」


 読書に決まっているだろ。何だ?コイツの瞳には僕がレジ打ちしているように見えるのか?なら、さっさととっとこ眼科及び精神科に逝った方が良い、だから今すぐこの場から立ち去ってくれ。


「よいっしょっと……あ、本読んでるんだ」


 田中某は僕の真横の座席に腰かけて目ざとく僕のライトノベルに目を向ける。ち、畜生……こいつ、気長に居座るつもりだ。よし、僕もそろそろ覚悟を決めよう。スパイたる者、こんなメスごときに心を乱されてはいけない。そうだ、愛銃のトカレフを奪われようと、鼻の穴に鉛筆を挿入されようと、便所の個室を上から覗かれようと……ナニをされても動じない鋼の精神をもってこの女と対峙しなければ一人前の諜報員になれやしないぞ。


「いっしっし、それビニ本でしょー、やーらしいんだ」

「ふっふっふっ……ふざけるなっ! これのどこがビニ本だ!! 頭おかしいんじゃないか貴様ッ」


 バァンッ!!


「キョエェエエーー!! そこの横四楓院絞男くぅん!? 図書館ではうるさくしちゃだめってママに教わらなかったかしら!? キョエェエエーー!!」

「ヒッ……ご、ごめんなさい」


 天然ちりちりパーマの司書のババアに怒られてしまった。ち、ち、畜生……動じないって言ったばかりなのについ反応してしまったぞ。


「わーい、おこられてるおこられてるー、佐藤くんカワウソw」


田中某は僕に指差して、ケラケラと陽気に笑っている。くっそう、ここにトカレフがあれば目の前のメスなど今頃ハチの巣なのに。その指先をあらぬ方向にへし折ってやろうか……ゴ●ゴさん、一発お願いします。


「…………」

「ありゃりゃ……激おこ? ごめんごめん。でもね、佐藤くん。確かに女子の中にはそーいうビニ本を毛嫌いする子もいると思うけれど私はそーいうのは寛容だから任せてよ」


 ……お前にナニを任せろと?あと、ビニ本じゃねー。


「それに、そーいう二次元もいいけれど……チラッ、チラッ」


 田中某はウインクしながら、両腕で自分の胸を僕に見せつける様に寄せ上げる。ハハハ……何の真似だそれは?まだ毛も生えてなさそうなメスがいっちょまえにナニをイキがってやがる。


「…………フッ」

「…………っ!」


 あまりの目の前のメスの愚行に思わず鼻で笑ってしまう僕。

すると田中某は蛸のように頬をぷくぅっと膨らませ、涙目で僕を睨み付ける。あ……やっべ、やりすぎぃ……そう思った瞬間にはもう手遅れであった。


「佐藤くんのばかぁっ!!」

ボッコォ

「クポォッ!?」


 ジャ●ク・ハ●マーばりの裏拳を顔面にまともに喰らった僕は椅子から引っくり返ってしまった。そして、田中某は『佐藤くんのロリ専ー!』とかとんでもない事を叫びながらライブラリーを去って行った。ち、畜生め……漫画でも美男子の顔面に裏拳を入れる女なんてなかなかいないぞ、せめてビンタで許してください。


「キョエェエエーー!! そこの横四楓院絞男くぅん!? 図書館で騒ぎを起こしちゃダメエエェ♡ってパパに教わらなかったかしら!? キョエェエエーー!! ……抱きなさい」


 天然ちりちりパーマの司書のババアは怒鳴りながら、自分の胸元を僕にチラリズムする。ふ、ふざけるな。何で貴様みたいなババアを僕が夜のオカズにしなければならないのか。あと、先刻から思っていたんだけど何でこのババア、誰にも教えていない僕のコードネームを知っているのだ?僕は鳥肌が立った。

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