横四楓院絞男はフラフープがお好き
僕こと横四楓院絞男は自慢ではないが、持久力を求められるスポーティなスポーツが大の苦手である。長距離のマラソンなど見ているだけでも蕁麻疹が体中に群生するし、サッカー、バスケットボールなどの類の球技も見ているだけでその場で上の口からゲロを思い切りぶちまける自信がある。朝練で爽やかな笑みを浮かべているテニサー(♂)どもの脳天に鉛玉を打ち込んでやりたくなる衝動に駆られる時だってある。それは別にリア獣共が女子マネにいい顔してる姿が気に喰わないとか言う嫉妬心から来るものではないのであしからず。
しかし、だからと言って自分が嫌な事からいつまでも目を背け続ける臆病者な僕ではない。スパイだって、持久力は必要不可欠な能力である。しかし、身の毛もよだつリア獣御用達のスポーツを無理矢理やるのも肉体的にも精神的にもあかんヤツである。持久力を向上させるための訓練はしたいが、精神衛生上宜しくないスポーティな訓練はしたくない。そこで僕は楽しくかつ長期的に続けられる独自の訓練を考えたのである。
「ポウッ!」
ぺチッ
フラフープ、である。
言わずと知れた特に女性に人気のあるエクササイズグッズである。直径一メートル程のプラスティック製の輪っかの中に入って腰を思う存分ぐいんぐいんとフランダンスのように振って回転させるのである。主としてパフォーマンスや競技に使用されるが、大人の遊具としても注目されているエキサイティンググッズである。
「ポウッ、ポッ、ポウッ!」
ぺチッペチッ
『貴方の腰回りのその無駄な贅肉を落としてみませんか?』
エクササイズグッズのカテゴリィであるから無論ダイエットにも効果抜群であることは言うまでもない。体脂肪を効果的に燃やす有酸素運動なのである。しかもフラフープを十分間、飢えた獣のように振り乱すだけで約百キロカロリーも消費できると言われているのだ。成人男性の一日の摂取カロリーの目安量が約二千六百キロカロリーであるから約四時間ほど続ければ、元を取れるという寸法である。まあ、四時間も獣運動をするつもりはないが。スパイにとってダイエットが必ずしも必要であるとは言い切れない。しかし、脂肪を鎧に身に纏っていては肝心要な時に瞬発的かつ俊足的な行動ができない為、相撲取りのような体型はスパイとして避けるべきである。
「ポポウッ、ポウッ、ポウッ、ポッ!」
ぺチッペチッペチッ
最近取り入れ出したエキサイティング訓練であるから僕は当然初心者である。数回回しては落ち、そしてまた数回回しては落ち……ずっとこれの繰り返しである。別に声を出して行う必要はないが、何となく気分が高揚してつい可愛らしい声が出ちゃうお年頃な僕である。それに奇妙な発声もそれはそれでカロリーを消費しているからその行為に意味が無いとは言えないから良しとする。
「ポポポポウ! ポポウ! ポッウ、ハウッ、ポウッ!」
ぺチンッぺチンぺチン
ちなみに言い忘れていたが、今は昼休み、ここはグラウンドのど真ん中である。基本的にこの学園は体育と部活動以外のグラウンドの使用は禁止な為、誰にも邪魔されない僕だけのオンステージと化する。イソギンチャクのような動きで謎の輪を腰で振り回し、シャウトするスパイ……さすがの僕もこの行為を衆人環視の下でやる程の勇気はない。スパイだって、人一倍の羞恥心はあるんです!しかし、そろそろ声を出してフーピングするのも疲れてきたな……あと二セット程で止めるとするか。
「ポウッ! ポポポポポ……! ポーッッウッ! ポウッ……ぽむっ!」
「……。お巡りさん! お巡りさん! ぴーぽー! ぴーぽー! こっちです! 変な人がいます! 変な輪っかを変な腰使いでぺちぺち振り回してる変態です! 繰り返します! 変な輪っかを変」
ポァッ!?
介護施設に入居しているご老人のような動きでフラフープを回していると突然僕の背後から女子の声が。背後を振り返ると拡声器で声を出しながら校舎の方へ駆け出す一人の黒髪女子もとい田中某がいた。や、やばい!な、何か変に勘違いされとる!このままこの女子を校舎へ帰せば確実に僕の恥ずかしい醜態が皆に知れ渡り、そして僕は恥ずかしさのあまり恥死してしまう!
「ま、待て……待ってくだしゃい」
「やだ! はなしてえ! 先生に言うんだから! 『佐藤くんがグラウンドのど真ん中でひとりで変態行為をしてました』って!」
僕が逃がさないように田中某の服の袖を引っ張ると、彼奴は駄々っ子のように声を張り上げる。な、ナニがひとりで変態行為だ!崇高なスパイの訓練を馬鹿にしやがって!ひとりで変態行為は自室のベッドの中か便所か風呂場かリビングか廊下かベランダでするよまったく!……あ、今の本番ではカットで。
「ご、誤解だ…………誤解でしゅ」
「誤解……そうなんだ? わかった、じゃあ先生には『佐藤くんがグラウンドのど真ん中でひとりえっちしてました』って言っておくから安心して……ネッ!」
い、言い方の問題ではない!しかも、心なしか何か酷くなってなあい?
「…………」
「ほらー、佐藤くんはすねるとすぐに無口になるー! にっしっし、冗談だよ、じょーだん! もー、佐藤くんはすぐ冗談を真に受ける子なんだからー、よーちよち」
田中某は僕の頭を愛撫しながら、にししと悪魔のような笑みを浮かべる。ち、畜生……僕を素直になれないガキ扱いしやがって。いつかそのスカートを捲り上げて、お前の恥ずかしいくまパンを眺めながら白米三杯喰ってやる。
「それ、フラフープだよねー! 私にもやらせてー! ……よっと、ほい!」
ぐいんぐいん
私にもヤラせて、と言う前に僕のフラフープを取り上げ腰を高速に動かしてフーピングする田中某。あ、とってもうまい……です……。普通初心者は二、三回回してはストンと床に落としてしまうものだが、目の前の女はぐいんぐいんと上手に何回も回しているではないか。ち、畜生……悔しいが完敗ですっ……!田中某は元々、運動神経がいいのだろうな。ウエストも細そうでスタイルもいいし。そういえば、こいつ部活はナニをやっているのだろうか。確か運動部だったはずだが、スパイである僕とて分からない個人情報もある。ま、まあ、別にこいつがナニをやっていても気になりませんけれどお~?
「ふふふん……ドヤァ」
フラフープを一回も落とさず回しながら僕に向かって馬鹿にするような笑みを浮かべる。こ、こいつ……。『佐藤くんはとってもへたっぴーだねー』顔がそう言ってる、絶対思ってる、心の中で生まれたての小鹿のような動きをする僕を馬鹿にしてやがるんだ。そうか、そうやって僕を馬鹿にする輩には何か制裁が必要だな。某国で『町内会のヘルスセンター』と恐れられていたスパイである僕を舐めたことを一生後悔するようなお仕置きをしてやる!
ピロンピロロン
「!? ちょっ……な、何、撮ってんの!? 何、撮ってんの!?」
僕はスマホのカメラで彼奴のフーピング姿を撮る。
すると田中某は頬を柘榴のように染め上げ、声を張り上げる。しかし、中途半端に止めるのを嫌ってかフラフープは止めない。人間、記憶は頼りにならないと言うしやはり記録で残しておかなければ……言っておくが、僕は上級者の姿を見てとっとこうまくなりたいのである。フフフ、こういう口実があればこの行為も正当化できるし、お仕置きにもなる。はあはあ、さあ羞恥に満ちたその顔を僕にもっと見せろ!ちがうそうじゃないぞ僕……恥死だ!生まれてきたことを後悔しながら羞恥という名の海に溺れて恥死しろ!
「一流のフーパーになる為にこれは必要な行為なのだ…………ごくっ」
「わ、訳分かんないよ佐藤くん……って、ギャー! 今度は動画撮ってるでしょー!! や、やめてやめてやめてー!!」
おっふ、ほ、ほう、これは。
動く……ぬるぬると動くぞ腰……!こ、腰使いが視界の環境的に大変宜しいですぅ。そ、そうか……こんなふうに、いざという時の行為n
「さ、さささ、佐藤くんのバカぁあああああーー!!」
べっちん!
「ンン゛ッポゥ!?」
そして、フラフープで脳天を思い切りシバかれてグラウンドの地面に沈んでしまう僕。『佐藤くんのオ●ニー中毒者ー!!』とかトンデモないことを涙声で叫びながら校舎の方へ逃げてしまった。ち、畜生……思い切りドつきやがって。まだこのフラフープがプラスティック製だったから良かったものの金属バッドとかゴルフクラブの類だったら僕は昇天しちまうところだったんだぞ。ま、まあ、いい。あんなメンヘラ女のことは忘れて、思い切りフーパー人生を楽しもう。
「ポポポ……ポーウッ! ポウッ! ポッ……はむぅッ!?」
ビキビキッ
あ、あかん……こ、腰……イワシて……もうた……。




