投げやりな心
「も、やだっ!やめてよっマティアス!」
ジタバタと四肢を動かし、ようやく解放された口は、彼を拒絶する言葉を吐く。
「これ以上、僕に関わらないで!惨めにさせないでよ!……かわいい彼女を、悲しませないでよ……」
大事にしてあげてよ……と言葉にならない思いが漏れる。
涙を見せないように唇を噛み締めて俯いた僕に、彼の感情を抑えたような低い声が聞こえた。
「関わるな、だと……?」
「そう!もう僕には関わらないで……僕もこれ以上君に関わったりなんかしないから」
どうか僕なんか放っておいて欲しい。これ以上期待させないで欲しい。
「どうでもいい僕のことなんて……放っておいてよ……っ!」
耐えきれず涙がこぼれた時、彼は音がするほどの強い力で地面を殴りつけた。
思わず上がった目線の先には、怒りを瞳に宿し、今にも噛みつきそうな表情でこちらを睨みつける、マティアス。
知らず識らずのうちに身体がすくみあがる。彼のこんな表情は見たことがなかった。
「どうでもいい……?」
怒りを真正面から当てられて、震えそうになる身体に鞭打って、僕は彼を睨みつける。
「そうだよ、僕のことなんか君はどうだっていいんだ!」
「黙れ……っ!」
「黙んないよ!」
これ以上、君は僕を傷つけようっていうの!?
「イベントなんかどうでもいいって断ったくせに。僕の誕生日なんか忘れたくせにっ。僕のことなんか忘れてかわいい彼女と楽しそうにしてたくせにっ!」
溢れ出す。
一度コップの表面からこぼれ出した水は、決してとどまることを知らない。
「どうせ僕は可愛げのない男だよ!耳が垂れてかっこよさのかけらもない平凡だよ!だけどっ……だけど、こんな僕にだって傷つく心があるんだよ……」
弱々しく吐き出された言葉に、彼が息を飲む音が聞こえた。