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4.スイカ山のスイカ神社

 なっぱと、しっぽくの字のくーたろうと、でんちゅーの三びきは、ヒマワリ畑の中をずんずん進んで行きました。

 ヒマワリ畑を抜けると、そこはもうスイカ山のふもとで、丁度目の前に大きな石の鳥居がありました。そこから山のてっぺんまで、長い長い石段が続いています。

「この石段をずっと上ると、スイカ神社があるんですね」

 遥か先の方まで続く石段を見上げて、なっぱが言いました。

「見て見て、なっぱ君。木がいっぱいあるよ」

 木登りが大好きなでんちゅーが大喜びで言いました。でんちゅーの言うとおり、スイカ山はたくさんの木々に覆われていました。

 まるで緑色をしたブロッコリーみたいだなと、なっぱは思いました。

 生い茂った木々のあちこちから、ジージーミンミン鳴くセミの声がまるで雨音みたい響いています。

「なっぱ君、見て見て」

 いつの間に捕まえたのか、でんちゅーがセミをくわえていました。ジージー鳴きながら暴れるセミを誇らしげ見せます。

 くわえていたのを離すと、セミはジージー鳴きながら、飛んで行きました。

「ちょっと木に登ればいっぱいいるから簡単に捕まるよ」

 そう言うと、でんちゅーは近くの木にするするっと登って、またジージー鳴くセミをくわえて来ました。

「よーし、オイラも」

 今度は、しっぽくの字のくーたろうが別の木に登りました。しっぽくの字のくーたろうは、でんちゅーほど木登りは上手ではありませんでしたが、それでも器用に登ると、ミンミン鳴くセミをくわえて降りて来ました。

 しっぽくの字のくーたろうと、でんちゅーがくわえていたセミを同時に離すと、セミはジージーミンミン鳴きながら飛んで行きました。

「なっぱ君も、一緒にセミ捕ろうよ」

「でも、ぼく木登り上手にできないから」

「平気平気。簡単だからすぐに上手に登れるようになるよ」

 そう言われると、なっぱも登れるような気になってきました。なにより、自分もセミを捕まえてみたくなったのです。

 なっぱは一番近くにあったセミがとまっている太い木にツメを立てて、エッチラオッチラ登りました。

 ようやくセミがとまっているとこまで登って、捕まえようと手を伸ばしたところで、セミはピタリと鳴くのを止めて飛んで行ってしまいました。

「ダメだよ、なっぱ君。もっと素早く登らなきゃ」

 でんちゅーはそう言うと、またするするっと登って、セミをくわえて降りて来ました。

 なっぱはくやしくて、何度も木に登ってセミを捕まえようとしましたが、うまくいきません。

 その間、でんちゅーとしっぽくの字のくーたろうは、セミを何びきも捕まえては逃がし捕まえては逃がしを繰り返しました。

 あんまり夢中で遊んだので、三びきは疲れてしまいました。三びきが涼しい木陰でちょっと休んでいると、おかしなことに気がつきました。

「なっぱ君、なっぱ君。なんだかセミの声が大きくなってない?」

 でんちゅーが聞きました。

 確かに遊び始める前に比べて、セミの声が大きくなったような気がしました。

「ひょっとしたら、セミが怒って集まって来たのかな。だったら怖いな」

「そんなことがあるもんか。もし怒っていたって、セミなんかみんな捕まえちゃえばいいんだ」

 しっぽくの字のくーたろうは、本当は自分でもチョッピリ怖いなと思いましたが、何でもないように言いました。

 セミの声はますます大きくなってきます。ついには自分の声が聞こえなくなってしまうぐらい大きくなりました。

 でんちゅーは怖くて石段を上ってその場から逃げました。

 それに釣られてしっぽくの字のくーたろうもなっぱも石段を駆け上りました。

 一生けん命に石段を駆け上る三びきの後ろからミンミンジージー鳴くセミの声と、ブーンという音が追いかけて来ました。

 チョッピリ振り向いて見ると、たくさんのセミがまるで雨雲みたいな大きな塊になって三びきを追いかけて来るのが見えました。

「大変! セミが追っかけてくるよ! 急いで!」

 三びきは大あわてでスピードを上げました。心臓がバクバクいって破裂しそうです。それでも一生けん命に駈けました。

 何びきかのセミが追いついて、身体にとまります。尖ったカギヅメを突き立てて、ストローみたいな口でチクリと刺しました。

「痛い痛い、痛いよー」

 三びきは泣きながら、石段を駈け上りました。

 駈けて駈けて、ついに石段のてっぺんまで上って来ました。

 石段の終わりにはまた大きな石の鳥居がありました。そこをくぐるとスイカ神社の境内でした。右と左に石でできた大きな狛犬がいます。

 その間を抜けると、左側に手を洗う水を張った手水鉢がありました。三びきは大急ぎで手水鉢の水の中にザブンと飛び込みました。

 水に潜ると、体にくっついていたセミは離れて水の上をブンブン飛びました。

 後から追いついてきたセミたちもそれに合流して水の上をブンブン飛び回っています。今、水から出たらセミたちのチクチク攻撃でタイヘンな目に遭ってしまいます。それで、なっぱたちは水の中から出ることができませんでした。

 いったいいつまで水に潜っていればいいんだろうと思っていると、セミたちは三度手水鉢の周りをぐるぐる回るとどこかへ行ってしまいました。

 三びきは水の中から顔を出してふうと息を吐き出しました。

「行っちゃいましたね」

 なっぱが言うと、しっぽくの字のくーたろうとでんちゅーがうんとうなずきました。

「ホント、怖かったよ」

 でんちゅーが言ったのに、なっぱとしっぽくの字のくーたろうが、うんうんとうなずきました。

「もう水から出ようぜ」

 しっぽくの字のくーたろうが言って、なっぱとでんちゅーがうんうんうんとうなずいたときです。

「このねこたちはどっから来たのかな、あー」

「さあて、突然やって来たね、うん」

 なっぱたち三びきの後ろから声がします。

「突然やって来て、いきなり水浴びするなんて、礼儀を知らないねこたちだな、あー」

「全くそのとおりだよ、うん」

 三びきはそっと振り返りました。するとそこには、境内の右と左にいた石の狛犬が二ひきいました。

 でんちゅーは、ひーと声を上げて、また水の中に潜ってしまいました。

「また水浴びを始めたよ、あー」

「ホントに礼儀知らずのねこたちだね、うん」

「ごめんなさい」

 二ひきの狛犬が怒っているみたいなので、なっぱは謝りました。

「ごめんなさいって言ったよ、あー」

「ごめんなさいと言ったね、うん」

 狛犬はお互いの顔を見合わせました。

「ごめんなさいより先に言うことがあるよね、あー」

「全くその通りだね、うん」

 なっぱは困ってしまいました。ごめんなさいより先に言うことがあるって、いったいなんだろう。

「こんな礼儀知らずなねこは頭から食べてしまおうか、あー」

「そうだね、頭からバリバリ食べてしまおう、うん」

 食べられたらたまりません。そのとき、なっぱは、本当はいないいるのにおらんが言ったことを思い出しました。

 まずは最初はあいさつだよと、おばあさんねこはなっぱに言いました。

 そうです。なっぱたちは、セミに追いかけられてあわてていたので、すっかりあいさつをするのを忘れていたのです。

「こんにちは」

 なっぱは二ひきの狛犬に向かって恐る恐る言いました。

「おやおや聞いたかい、あー」

「聞いたとも、うん」

 狛犬は言いました。

「このねこはこんにちはと言ったね、あー」

「このねこはこんにちはと言ったさ、うん」

「では我々も言わなければならないね、あー」

「言わなければならないとも、うん」

 それから二ひきの狛犬は声を合わせて言いました。

「こんにちは」

 それに釣られて、しっぽくの字のくーたろうも言いました。

「こんにちは」

 するとまたに二ひきの狛犬は声を合わせて言いました。

「こんにちは」

 それで、でんちゅーも水の中から顔を出してびくびく言いました。

「こんにちは」

 またもや二ひきの狛犬は声を合わせて言いました。

「こんにちは」

 その後ニひきの狛犬はしばらくの間お互いの顔を見合わせました。

「これはこれは、驚いたなあ、あー」

「それはそれは、驚いたさ、うん」

「ねこは三びきとも言ったね、あー」

「ねこは三びきとも言ったさ、うん」

「それじゃぁこうしていられないね、あー」

「とてもじゃないがいられないさ、うん」

「元に戻っておとなしくする他ないみたいだね、あー」

「元に戻っておとなしくするさ、うん」

 そう言い残してニひきの狛犬は、石造りの台座の上にぴょんと飛び乗ると、なっぱたちが来たときと同じに、じっとして動かなくなりました。

「びっくりしたねー」

「うん。ホントに怖かったよ」

 でんちゅーがなっぱに答えました。

「怖いことなんかあるもんか。オイラは最初から平気だったぜ」

 しっぽくの字のくーたろうが言いました。でも、全身ずぶ濡れの濡ネズミでは、そんなことを言っても本当かどうか怪しいものでした。

 三びきはようやく手水鉢の中から出ると、全身をぶるるっと振るわせて、水をはじきました。

 ぎらぎらとした夏の太陽がスイカ山の木々の間からなっぱたち三びきに降り注ぎ、見る間に濡れた毛を乾かしました。

 そよと吹いた風がふわふわの毛を気持ちよくゆらしました。

 三びきはあんまり気持ちよくて目を細くしました。

「危ない危ない、寝ちゃうとこだった」

 なっぱは頭をぷるぷる振りました。

「しっぽくのくじくーたろうさんも、でんちゅーさんも起きてください」

 なっぱが言うと、しっぽくの字のくーたろうも、でんちゅーも細めていた目を擦りました。

「スイカの木は裏にあるんでしたよね」

「そうさ、神社の裏さ」

 しっぽくの字のくーたろうは、本当はいないいるのにおらんが言っていたことを、まるで前から自分が知っていたように言いました。

「こっちだよ」

 そう言って、しっぽくの字のくーたろうは歩き出しました。なっぱとでんちゅーはその後について歩きました。


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