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帝国魔導士は休みたい  作者: たつみ
第一章
9/13

episode 6 休暇の最中


 砲弾の着弾する爆発音がないと不安になる程度にはどうやら俺も壊れてしまったらしい。西の方のヤマトという国と西の猛虎中華王国との戦争が以前あったようだが、その戦役に駆り出された兵士たちの大多数は、精神障害を負ったと言う。これもその類ではないか?

 俺は戦争を始めてからまだ二週間しか立っていないぞ??それで砲弾の音が恋しくなるとかいよいよ頭がおかしくなったらしい。

 モニカに一応聞いてみたが、そんなこと思てるうちは大丈夫なんじゃないですか??と無表情で言われてしまう。もっとこう、心配して欲しいんだが。その点アルフェリアは気にかけ、優しくしてくれる。見習ってくれ、彼女を。


 開戦から二週間。状況は悪くなる一方である。攻め込まれ、その勢いを止めることはできなく、国境線からやく200kmの侵入を許している。もちろん交通の要所や、要塞もかなり落とされており、そこから共和国は確実な信仰を続けている。しかし、帝国内に侵攻しているということは補給線も伸びているということ。そこを叩ければ活路は開くのだが、中央軍は防衛しか見ていないのかその戦力を預けようとしてこない。何が狙いなのか、それは定かではないがただの無計画での防衛だったら本当にやめてほしい。


 これからどうなることやら。後方のグランベルグを落とされるといよいよヤバくなってくる。グランベルグは帝国の補給線の中心地となる鉄道網のターミナルとなっている。ここを占領されれば、ここから補給を確実にして、帝国の喉元ミュンヘリアまでの侵攻が容易になってしまう。それだけは避けなければならない。この東部戦線自体が詰み盤面になる前に。


「また難しい顔してる!」


「ん??」


 簡易テントの布をめくり、入ってきたのは黒髪の少女、クロエだった。


「撤退戦の援護に行ってきたそうだが、怪我はないようだな」


「うん。結構敵が多かった」


「そうか、エルヴィンは??」


「中隊長殿とお話ししてる。ルノーは怪我は??」


「この通り。後数日で原隊復帰さ」


 そうだ、原隊復帰なのだ。負傷兵が怪我を癒したら前線に投入されるのは当たり前だ。あーあ、まずい野戦栄養食を食べていたこの数日間の方が楽だったな。

 回復術式を使ったらこんな早く治るなんてな。一ヶ月は休めると思っていたんだけど。骨折すら2日で治癒するとか意味わかないよな。魔導士の特権とはいえ、重傷以外すぐに直してしまうというのも考えものだな。


「私、今回の出撃で4騎落としてやったの!魔導士!」


「へぇ、やるじゃん」


「でしょ!やっぱ私天才か、ルノーが言うなら間違いないね!」


 過大評価すぎると思うが、微笑ましいのでよしとしよう。クロエを見てたら祖母の家で飼ってたハスキー犬を思い出すな。可愛かったな、リッカ。


「そういえば、そろそろ援軍来るってね」


「ああ、もうすぐ合流だろうが、大して戦力にはならないだろう。仮想敵国が多すぎる以上、少なくとも大公国方面、北方連合方面に軍を置いとかないと行けない以上、西武方面軍と中央軍からの引き抜きになってくるからな。」


 北方連合、大公国が軍事的圧力を強めていることもある。下手に軍を動かせない。西方のスヴィエト連邦は不可侵条約を結んでいるが、奴らのような頭も赤な奴らは何しでかすかはわからない以上、軍を置くのも必要だろう。

 やはり、手っ取り早いのは徴兵か。ようやく徴兵制が議会で可決されたらしいが、戦力になるか。まともに訓練されてない兵を置くのは帰って面倒を産む可能性がある。愛国心の強いのもいるだろうが、やる気のある無能は味方を殺すこともあるのだ。


「そうなの??」


「ああ、多分な。まぁ、外れたほうが大助かりだが」


 あーあ、一騎で一個師団壊滅させれるやつとかこないかな。

 夢物語だが、そんなのいれば結構楽になるかもしれないのにな。


「失礼しますね、いつものって今日はお客様ですか」


 最近の恒例である、モニカが様子を見にきた。律儀なやつだ、一度面倒を見た奴にはこうして様子を見にくる。俺なら一回やったら戻らないぞ?めんどくさいからな!


「あ!モニカさん!」


「はい、こんにちは。戻っていらしたのですね。ガルバ砦の撤退戦ご苦労様です」


 そう言って微笑む。


「ルノーは、もう大丈夫そうですね。回復術式を回し続けてたので当然と言えば当然ですがね」


 そう、俺は回復術式を回し続けていた。なぜかって??そりゃ、暇だったから。


「おかげさまでな。他に、することもなかったし」


「そうですね。明日にでも復帰できそうじゃないですか」


「っっ!?傷が開いた!これは、痛い」


「バカなことやってないで傷を見せてください」


 ち。


「さーいえっさー」


「なんですかその覇気のない返事は?いえ、あなたに覇気なんて求めても仕方ありませんでしたね」


 その言い草、流石に酷いと思う。

 前回も俺の体のこと細くないですか??細っ!もやし!!って散々バカにしてくる始末。男のデリケートな問題だぞ?それ。それに俺は細マッチョだ。大柄な軍人たちと比べられてたまるか。


「ほれ、脱いだぞ」


「どうも」


「…………」


 ………クロエ、めっちゃ見てくるな。目を手で隠してるつもりだが、ガッツリ目が見えてるぞ。まぁ、お年頃だしな。思春期ガールにはこの体は刺激的すぎたか。


「口に出てますよ。もやしの体で何が刺激的すぎですか??」


「………ほう、なら居合わせてもらうが、その貧相なまな板でよく俺にもやしと言えるな」


 モニカは少しキョトンとする。数秒後顔を真っ赤にする。


「ま、ま、まままままな板じゃありませんし!!少しくらい!ありますから!」


「少し??俺の胸板の方が大きいだろ」


「は、はぁ!??」




「全く、何やってんだか」

「ふふふ。楽しそうね」


 俺は、エルヴィンとアルフェリアがテントの入り口で片方はため息を吐き、もう片方は笑っていることに気が付かなかった。





ーーーーーーーーーーーーーー


 



「もう歩けるのか」


「ああ。大体治った。おかげで腹は減りまくったけど」


「わかるぞ。俺も筋肉減ったからな」


 モニカは別の患者の元へと向かった後、俺たちは4人で中隊の元へ歩いていた。

 回復術式は魔力を消費して身体的なダメージを回復を強烈に促進させるものだ。回復というが実際は自然治癒である。ので、その修復過程で必要なエネルギーは当然体の身体組織、主に脂肪から取られる。ダイエットにはもってこいだろうが、残念ながら魔道士しか扱えない。その理由は単純で魔力は基本的に人間に宿っているのだが、その引き出す手段を取れるのが魔道士なのだ。

 コップに水があり、それをストローで飲むとなった場合、そのストローを持っているのが魔導士なのだ。


「でも、本当に良かった。空から落ちてきた時は本当に心配したんだから」


「悪い悪い。それに関してはこっぴどく叱られたはずなんが」


 気を失って、モニカに見てもらった後ものすごい剣幕で3時間ほど俺はアルフェリアに絞られていた。正直めちゃくちゃ怖かった。普段優しい奴が怒ると怖いというが、それは都市伝説ではなかったのだ。

 まぁ、あの時は俺が独断行動をとって心配させた以上、何も言い訳はできないんだけど。

 もっと私たちを頼ってほしい、か。まさかそんな家族みたいなことを言われるとは思ってもいなかった。


「その感じ反省してないね??」


 にっこりと可愛い笑顔のはずなんだが、その後ろには死神が立ってるような満面の笑み。

 すんません。


「反省してるって。今度は全員と一緒に行動するさ」


「…そうなんだけど、そういうことじゃないのに」


「はい??」


 少しいじけたような顔をする。

 俺は何か選択を間違ったのだろうか??わからん。女心ってやつか??


「でも、久しぶりに4人揃ったね!」


 クロエがそういう。確かに思い返してみれば二週間ほどずっと誰かしら欠けていた。全員曲がりなりにも無事に生きていけてる以上、幸運な方かもしれない。別の同期達は軒並み戦死しているのだから。


「そーだな。全員北や南、挙げ句の果てには最前線での囮。魔導士は本当にクソみたいな業務内容だな」


 エルヴィンが両腕を挙げ、がくりと俯きながらそう言う。

 その通りだよ。本当に。体に穴をあけられて数日で原隊復帰とかどんな労働環境だ。生まれ変わったら帝国以外の、合衆国とかに生まれたいものだ。合衆国は自由の国らしいし、法律の元の自由を謳歌してればいい生活なんて、羨ましいな。


「でも、みんなが無事で本当に良かった。と・く・にルノー君」


「悪かったって。もう勘弁してくれ」


 俺がそう言うと三人は笑い出す。

 久しぶりのこの感じ、士官学校の頃を思い出す。別にこう言うのも悪くない。戦争さえなかったら結構楽しかったんだろうけど。

 

「あ、ここにおったんかいわれ」


「はい??」


 4人で歩いていると1人の男に呼び止められる。

 その姿は軍服をしっかりと整えた、出っ歯でメガネをかけたいかにもの男である。

 この手の姿形視してるやつって実在したのか。いかにもじゃん。


「そうそう、えーと名前なんやったか、ああ。ルノーや。ルノー」


 なんなの?なんなのこの人。俺この人と面識にないぞ?こんな一度見たら忘れる方が難しい人。

 そして何その口調、どこかの田舎出身か??


「参謀本部のお偉いさんが探しとった。いけるないきーや」


「わ、わかりました」


「ほいなら、ああ」


 どこかへ立ち去ろうとした男は振り向き、歩こうとしたにも関わらず再びこちらに目を向ける。


「自分の自己紹介まだやったな。わいの名前はヤベ・エラフンドや。研究員やっとるさかい。とりあえず皆さんよろしゅう。ほんじゃさいなら」


「「さ、さようなら」」


 一方的に自己紹介してどこかへ行ってしまった。

 俺たちは開いた口が塞がらない。こんな個性的な人間がいるとは、研究員って言ってたな。なぜ、研究員が最前線に??わからん。だが、お偉いさんとやらに呼ばれているようだから行かねばなるまい。


「い、行ってくるわ」


 そう、他の三人に告げて俺はスタスタと野戦司令部へと向かっていく。


 

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