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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男

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銀の力

 思いがけぬ平和な放課後を楽しい食事会で過ごした夜。

 新開発区の泥人間を蹴散らしながらアパートに帰った舞奈は、日課の健康体操をこなしてからシャワーで汗を流し、ベッドに潜りこんで気分よく眠りについた。


――そして夢を見た。いつか花屋で見た20年後の夢を脳が反芻したのだ。


 それは相も変わらず荒唐無稽な夢だった。

 だが、他愛ない夢として片付けるには生々しすぎる夢でもあった。


 夢の舞台は文明が崩壊した20年後の世界。

 荒廃した世界に国はなく、2つの勢力が飽くなき闘争を繰り広げていた。

 ひとつは圧倒的な軍事力で世界を滅ぼした支配者たち。

 もうひとつは支配者に対抗するレジスタンス。

 シンプルな構図ではあった。

 いっそテックがやるようなゲームの世界の出来事だと言われた方が納得できる。

 

 そして戦争の主役は人でも戦車でもなかった。

 もちろん艦船でもヘリでも飛行機でもない。

 装脚艇(ランドポッド)

 戦車から鋼鉄の手足が生えたような形をした歪な鋼鉄の巨人だ。


 ひょんな事からレジスタンスに協力する事になった舞奈は、彼らの指導者を兼ねた女博士から装脚艇(ランドポッド)の操作法を学んだ。

 ボーマン博士。

 彼女は鋼鉄の巨人の開発にも携わったとされる重要人物だった。

 知的で胸も大きいイイ女でもあった。

 だが彼女の指導は苛烈を極めた。

 スパルタという訳ではないのだが、淡々と割と無茶めな指示を出してくる。

 その上で成果は出ているのだから文句も言えない。

 結果……舞奈は本来なら異能力による機体との同調が必要な鋼鉄の巨人をマニュアルで操る術を会得してしまった。

 夢の中の主観ではあるものの1年という異例の速さで。

 やれやれだ。


 そうこうするうちに革新的な新型機の登場をきっかけに両者の闘争は激化。

 紆余曲折の末に舞奈は敵の本拠地に殴りこんで、支配者を倒してゲームをクリアし、20年前――現実の世界に帰ってきた。


 実のところ、そんな夢を見た理由は理解しているつもりだ。

 直前の仕事で手に入れた赤い石に、持ち主にとって有用な技術や知識を夢を通して与える効果があったらしいのだ。

 舞奈にとって、それは装脚艇(ランドポッド)の操作法だった。


 現に夢の中で学んだ装脚艇(ランドポッド)の知識は現実の世界でも通用した。

 スカイフォールの騎士団たちが操る鋼鉄の巨人に成り行きで乗って、例によって同調する事はできなかったが手動で完璧に動かす事ができた。

 その結果、現実の世界では一切の犠牲を出さずに舞奈は装脚艇(ランドポッド)戦闘を制した。


 だが夢の中に出てきて、現実には影も形も存在しないものもあった。

 20年後の世界で舞奈に与えられた新型機だ。

 宇宙からの技術で造られたとされるそれは他の装脚艇(ランドポッド)と一線を画していた。

 歪な人の形ではなく、スマートで丸みを帯びたリスの形をしていた。

 巨大な刀剣を媒体にした装脚艇操手(ポッドテイマー)の異能力を主な攻撃手段とする従来の機体と異なり、多数の強力な重火器を装備していた。

 何より同調の機能がなく、マニュアルでしか操作できなかった。

 まるで舞奈専用に設えられたように。


 だが、まあ、どんなに有用であっても夢は夢だ。

 本当に荒唐無稽で無意味な部分があったからといって非難する謂われはない。


――そんな事を考えながら夢から醒めた。


 と、まあ、そのような妙な夢見の朝でも、小学生の本分は変わらない。


 なので舞奈は昨日と同じように登校していた。

 1ダース半ほどの泥人間を倒しながら新開発区を踏破し、検問の衛兵に挨拶。

 企業ビルの警備員にも挨拶しながら統零(とうれ)町の灰色の通りをだらだら歩く。

 頭上に広がる青い空には白い雲がたゆたっていて、気持ちの良い朝ではある。


 見上げた雲を眺めながら大あくび。


 夢の事をさほど気にもしていないのは、他にも気がかりな事があったからだ。


 たとえば先日の食事会の帰り際に鷹乃がこぼした『鉄鼠』という言葉。

 その意味を聞いてもはぐらかされるばかりだった。

 大規模な装脚艇(ランドポッド)戦闘とかいう割と洒落にならない預言とセットで言ったのに。


 あるいは明日香が冴子から聞いたという謎の人物について。

 先週の日曜にあらわれた不審者の一部を屠ったらしい警備員とは別の何者か。


 あるいは、今回の一連の事件の首謀者の正体と居場所について。

 考えないといけない事が2つも3つもあると、どれも満遍なくあんまり真面目に考える気がしなくなるのは人間として当然な心の動きだと舞奈は思う。

 でなきゃやってられない。

 舞奈も別に、暇でもトラブルを抱えるのが好きな訳でもない。


 なので流れる雲から目を落とし、普段と変わらぬ灰色の通りを歩いていると――


「――なんだありゃ?」

 地響きを立てながら大きな何かが走って来た。

 大型トラックだ。

 本当に大きい。

 まるで学校の用務員室にタイヤがついて走ってくるような、常識外れなアメリカンサイズのトラックだった。


 うっかり轢かれないよう歩道の端に寄りつつ注視する。


 ブロロロロ!


 ゴゴゴゴゴ!


 エンジン音も地面を踏みしめる音も規格外なトラックは横から見ても規格外だ。

 荷台は乗用車を縦並びで数台は積めそうなくらい長い。

 そいつに二重になった大きなタイヤが片側に6個とかついた頭おかしい代物だ。

 そんな怪物トラックが、見やる舞奈の前を砂埃を巻き立てながら通り過ぎる。


「こりゃまた男子が好きそうな奴だなあ」

 舞奈は苦笑しながら荷台を見上げる。

 銃を持った衛兵が並ぶ統零(とうれ)町でも滅多に見ない代物だ。

 流石の舞奈も積み荷が気になる。


 だが、どれほど見やっても、ホロがかけられた何かとしか判別できない。

 地味な色の丈夫そうなホロで、上から下までしっかり覆われた巨大な何か。

 大きさはホロの下が家になっていて住めると言われれば信じられるほど。

 だが歪さからすると戦車のようにも思える。

 否、戦車だとしたらトンデモ兵器に分類されるサイズ面での規格外だ。

 あるいは複数の戦車が並んでいる可能性も考えられる。

 そのように訝しみながら荷台を眺めていると――


「――ん?」

 いきなり目前でトラックが停まった。


「道のど真ん中に停められると迷惑なんだが……」

 図体を考えて動かしてくれ。

 苦笑した途端――


「――!?」

 運転席のドアが開いて人が降りてきた。


 白衣を着こんでサングラスをかけた、やや年のいった美女だ。

 頭の後で尻尾みたいに適当にくくられた金髪は、舞奈がよく知っている県の支部のレインと同じ色。


 だが舞奈が驚いた理由は別にある。

 彼女が昨晩の、あるいは何時か花屋で見た20年後の夢に出てきた博士と瓜二つだからだ。

 ボーマン博士。

 20年後の廃墟の世界で、彼女はそう呼ばれていた。

 異能力も術者の才も持たない故に装脚艇(ランドポッド)と同調できない舞奈に、ボーマン博士は鋼鉄の巨人をマニュアルで操作する技術を叩きこんだ。

 忘れようとしても忘れられない。

 指導が厳しく、流石の舞奈にとっても少しトラウマだという理由も少しある。

 だが、それ以上に彼女は知的で成熟していて、美人で胸も大きいイイ女だった。


 そんな夢の中の彼女と瓜二つの女性が、現実の街でにこやかな笑みを浮かべながら舞奈に歩み寄ってくる。そして、


「そこの君、少し時間を頂けるだろうか?」

「あんたみたいな美人の頼みを断る奴はいないよ」

 にこやかに問いかけてきた。

 舞奈も何食わぬ顔で挨拶を返し、


「よかった。道を尋ねたいんだが構わないかい?」

「お安い御用だ。ここらは毎日通ってる庭みたいなものなんでな」

「助かるよ」

 続く言葉に不敵な笑みを返す。

 20年後の夢の中でもそうしていたように。


 それにしても目前の美女の、如何にも外国人な外見にそぐわぬ流暢な日本語。

 廃墟の世界とは違う状況で聞くと、イントネーションもレインと似ている。

 凛とした大人の彼女と、内気でおどおどとした女子高生のレインに共通点などないはずなのに、それでも何か関わりがあると思わせられる程度には。

 そんな彼女は――


「――こういう名前の会社の建物なんだが」

「どれどれ、ちょっと借りるぜ」

 一枚のメモを差し出す。

 流石にこちらは科学者らしく針金のような文字だが、一応は読めるカタカナ。

 舞奈はそれをひったくる。

 そのまま近くのビルの衛兵に挨拶しながら近づいていって……


「……地図を描いてもらったぜ」

 戻ってきた。

 道を尋ねてきたのだ。


「あんたさっき、ここらは詳しいって言ってなかったかい?」

「会社の名前をいちいち覚えてる訳じゃないからな」

 苦笑する美女に、素知らぬ様子で笑みを返す。

 美女は裏面に雑な図が描かれたメモを受け取りながら肩をすくめる。

 そして舞奈の顔を覗きこんで……


「……あんた、こいつの積み荷が気になるのかい?」

 ニヤリと笑った。

 舞奈がチラチラと荷台を窺っていたのに気づいたのだろう。

 子供の扱いに慣れているのかもしれない。


「いやまあ、話して良かったらで良いんだが」

「ハハッ。そういう事情は知ってるって訳かい。そいつは話しやすい」

 軽口に笑みを返す。

 守秘義務について子供に気遣われるとは思っていなかったか。

 そんな様子も夢の中で出会った博士と似ていたので、舞奈も相好を崩す。

 今朝方に反芻したばかりの夢と同じ仕草で美女は少し考えて……


「……君、ゲームは好きかい?」

「まあ、やった事はあるが」

「そうかい。こいつは、まあ言うなれば使い物にならない玩具さ」

「玩具にしちゃあデカいな」

「遊びによって玩具の大きさも変わるからね」

 そう言い置いて話を続ける。


 目当ての場所を教えてもらった礼のつもりなのかもしれない。

 そういった律義さも舞奈が知る夢の中の女性と変わらない。

 あるいは、まあ、そういう所だけはレインと似ていると言えなくもない。

 そんな美女は――


「――こいつは同じサイズの玩具に比べてスマートで、性能も格段に良い」

「そりゃあ結構な事じゃないか」

 素知らぬ顔で言葉を続ける。

 舞奈も笑みを浮かべながら軽口を返す。


 丈夫そうなホロに厳重に包まれた『玩具』の正体が何なのかはわからない。

 舞奈が知っているサイズが最も近い代物は……装脚艇(ランドポッド)だ。

 目算ではスカイフォールの騎士団が使っているウォーメイジより一回り小さい。

 チベット軍の主力でありルーシアの乗機でもある阿含(アーガマ)よりは二回りほど小さい。

 だが、それを面と向かって尋ねると正解でも不正解でも守秘義務契約違反だ。

 舞奈も、ひょっとしたら彼女も。

 だから……なのかどうかはわからないが、


「だが、その玩具にはリモコンがないのさ。どんなに性能が良くても動かせなけりゃ宝の持ち腐れさね」

「他の玩具のリモコンじゃ動かないのか?」

「良い質問だ。だがダメなんだよ。あまりに玩具の出来が他と違いすぎて、普通のリモコンじゃ性能を十分に発揮できないのさ」

 禅問答のようなやりとりを続ける。


 その言葉が意図するものが舞奈の憶測と同じなのかを確認する手段はない。

 だが彼女と小難しい話を続けるのは悪い気分じゃない。

 夢の中でも、現実でも。


「じゃあ、どうすりゃそいつを動かせるんだい?」

「可能性があるとするなら、玩具を直に持って動かす事かね。リモコンの代わりに玩具の角を握って、右に左に動かすのさ」

「ハハッ! そりゃ簡単だ。あのデッカいのを動かせる巨人がいたならな」

「そういうことさ。バットがないのに野球をするようなものなんだよ」

 彼女は少しやけばちに言って、


「だもんで、こっちの会社で預かってもらおうと思ってね」

「厄介払いか……」

 そう言葉を終える。


 それが規格外の大型トラックによる来訪の目的らしい。

 いきなり話の規模がショボくなった気がする。

 だがまあ、現実の社会の都合は夢と違って世知辛い。

 舞奈もそれは嫌というほど知っている。

 なので美女と一緒にやれやれと苦笑してみせる。


 玩具の正体が実際には何なのか、明日香がいれば探れたのかもしれない。

 装脚艇(ランドポッド)は魔力で動く。

 だが魔力探知ができない舞奈にとってはデカい玩具以外の何物でもない。

 だから代わりに――


「――もうひとついいかい?」

「まあ、話せる範囲でならね」

「あんたの名前を知りたいんだ。下の名前がボーマンならでいいんだが」

「ボーマンは苗字だよ」

「そっか」

 尋ねてみる。

 別に舞奈が見た夢の中の人物と、目前の美女が同じ名前かどうかを確認できたからと言って何かが変わる訳ではないのだが。

 それでも美女は苦笑しつつ、


「……何処かで会った事あったかい?」

 少し驚いたように舞奈を見やった。


 大人の彼女から小5の舞奈にそうしようとすると見下ろす格好になる。

 しかも大きな胸越しに。


 そんな彼女の表情を見れただけで、博士の名前という夢からの情報に装脚艇(ランドポッド)の操作方法と同じくらいの価値があったと思える。

 だが、そんな思惑はおくびにも出さず、


「いやな。同じ苗字のカワイ子ちゃんを知ってるんだ。あんた、レインって名前のお……妹さんがいるだろう?」

「ああ、そういう事かい」

 別の理由をでっち上げて何食わぬ口調で答えてみせる。

 彼女――現実の世界のボーマン博士は笑う。


 こっちもビンゴだったらしい。

 先方も舞奈の答えに合点がいった様子だ。

 何故ならレインの苗字もボーマンだ。

 言われてみれば発音だけでなく、ちょっとした仕草もレインと似ている。

 むしろ、こちらのほうが現実に役立つ情報だ。


「レインは娘だ」

「やっぱりそうか」(お姉ちゃんじゃなくて)

「……あんた、地味に失礼な子だね」

 ボーマン博士(母)は一瞬だけ口をへの字に曲げる。

 いや、いくら美人とはいえレイン+20歳ほどの女性を本気でお姉ちゃんだと思ったら高学年としては問題だろうと舞奈は思った。


 それでも舞奈の口元には笑みが浮かぶ。

 内気なレインとの初顔合わせにして彼女以外のメンバーが全滅した県の支部の異能力者グループ【グングニル】との共闘任務。

 あの作戦で、レインを救えて良かったと心から思う。

 彼女には陽気な親友だけでなく、知的で美しい母親までいたのだ。

 そんな舞奈を見やり、


「なら多分、君の事も聞いてるよ。志門舞奈君?」

「大正解だ」

「そいつは良かった。……娘に聞いた通りの子供だね」

 ボーマン博士は苦笑する。


「そいつはどうも」

(レインちゃん、あたしの事どういう風に話したんだろう)

 釣られるように舞奈も口元に笑みを浮かべる。

 途端――


「――ベラさーん。何時まで油売ってるんすかー?」

 トラックの助手席から別の女が顔を出した。

 舞奈が見やると手を振って挨拶してきた。


 対して舞奈は苦笑する。

 こっちは普通に見覚えがあったからだ。

 チャムエルカーの運転手だ。

 なのに本当に知らない間柄みたいににこやかに手を振ってくるのだから、厚顔無恥な高等魔術師の面目躍如だと少し思う。


 そもそも、あいつが顔を見せたら色々な情報がダダ洩れな気がする。

 少なくともトラックと荷物、預かり先の会社が魔術結社と関わりがあるという事は舞奈にバレた。

 その事実に先方も気づかない訳はないと思うのだが。

 それでも、まあ、あえてそこには触れずに――


「――ベラさんって言うのか。良い名前だ」

「そうだよ。わたしの名前はベラ」

 代わりにボーマン博士に笑いかける。

 博士も舞奈に笑みを返す。


「だが気をつけな。わたしを不機嫌にさせないコツはフルネームで呼ばない事さ」

 そう言い残してボーマン博士は舞奈に背を向け、歩き去る。

 トラックの運転席に上ってドアを閉める。

 そんな様子を見やりながら、


(なら何で娘さんに同じコンセプトの名前つけたんだ……?)

 舞奈は小さく苦笑する。


 トラックは再び地鳴りのようなエンジン音を立てて走り出す。

 荷台の上の、歪な形の大きなホロが遠ざかっていく様子を見やりながら……


「ベラ……」

 舞奈は小さくひとりごちる。

 口に出すなと言われたばかりのボーマン博士のフルネームを、


「ボー――」

 続けた途端――


――BERABOW!


 何気なく避けた舞奈のツインテールの端を、何かが鋭くかすめた。


 それが拳だと舞奈は思った。

 周囲の空気を動かす身体の動きを察知できるレベルの舞奈の直観と反射神経があれば回避は容易い。

 だが完全な不意打ちだったので少し驚いた。


 もちろん周囲に人が来て殴られた訳ではない。

 そんなものは普通に察知できる。


 射点(?)の位置から、走り去るトラックからだという事にも気づいた。

 現に小さくなっていたトラックの運転席のドアが閉じた。

 もちろん飛び道具ではない。

 不機嫌になったくらいで撃たれたらたまらない。


 要は弓か拳銃くらいの距離からの打撃である。

 それも大概に荒唐無稽だが、そういう事ができる術があると聞いた事がある。

 たしか梵術に【梵天の拳撃ブラフマー・ムスティナ・ハン】という、まあ要するに腕を凄く長く伸ばして殴ってくる術があるらしい。


「……あの人も術者だったのか」

 舞奈は苦笑する。

 20年後の夢の中ではその情報は無かったが、まあ悪い気はしない。

 現実の世界で大きな歪な玩具に関われるような人間ならば、博士であると同時に術者でもあると言われた方が説得力もある。


 そんな事を考えながら舞奈はトラックと逆の方向……学校へ向かって歩き出す。

 舞奈には舞奈がやらないといけない事が山ほどあるからだ。

 いつまでも夢の余韻に浸っている場合じゃない。


 一方、トラックの助手席(国内のトラックとは場所が逆)でも……


「……ほう」

 ベラと名乗った金髪の美女は、自身の拳を見やりながら口元に笑みを浮かべる。


「やめてくださいよベラさん。人前でそれやると【協会(S∴O∴M∴S∴)】や【組合(C∴S∴C∴)】から怒られるんですよ。わたしが」

「人前じゃないさね。普通の人間には見えない術なんだよ」

 運転席からの、割とガチめな苦情に何食わぬ笑みを返す。

 そういう部分が今しがた話した――そして術で殴りかかった子供と少し似ている事実に気づかぬまま、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「相手には何も見えず、気づかれないうちに殴れる術なのさ。普通の相手ならね」

 ひとりごちて、


「まあ、そりゃそうなんですがね」

 対する運転手の苦笑には気づかぬふりをして――


「――なるほど、レインの言った通りだ。色々と合点がいったよ」

 満足げに笑う。

 そして――


「あるいは、あの子供なら『鉄鼠』を――」

 続く呟きは、運転手を含む何者の耳にも届かなかった。


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