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地下深く眠るもの

 呼水町は、今喧騒の中にあった。

 今回の水抜き作業は、試験的なものとはいえ、巨大な採掘場のうちのいくつかの鉱区の水をそっくり抜くため、その規模はかなり大きい。膨大な機材が運び込まれ、それに携わる人間の数も日に日に増えていった。

 そんな中での爆発事故である。

 大きな事件などとは縁のなかった田舎町に降って湧いた大事件。怖さ半分、面白半分で、人々は浮足立った。

 工事は完全に中断した。

 警察は、主犯の森村の家宅捜索を実施。様々な資料が押収されたが、いずれも専門性の高いものばかりのため、警察は識者に協力を要請し、そこから様々な情報が流出していった。

 その中の情報に食いついた男がいた。

 男は、情報の真偽を確認するため、昔の伝手を頼った。

「寺壕先生、電話です」

 職員室に戻った寺壕は、同僚から受話器を渡された。

「はい、寺壕ですが」

「おっ、声変わんねえな」

「・・・・どなたでしょうか?」

「モロだよ、モロ」

「モロ?・・・・諸田・・・諸田真か?」

「当たり」

「いきなり、どうしたんだ?お前、たしか共同通信社に勤めてたんじゃなかったっけ」

「ああ、あそこはやめた。今はフリーだ」

「フリー?・・・・まあ。お前にはその方が合ってるかもな。由美とは大違いだな」

「由美?由美って、鳳由美か?」

「ああ、実は最近会ってな」

「あいつ、確か宇宙関係の・・・ああ、JAXAか。お固い所にまだいるのか?」

「今は出向で風応町にいる」

「風応?隣町じゃねえか。じゃあ、以前の情熱が復活か?」

「そんなんじゃねえよ」

「そうか、由美か・・・いい女になったんだろうな。今度一緒に飲みに行こうぜ」

「飲みに行こうぜって言ったって、お前今どこにいるんだ?」

「ああ?呼水町に決まってるじゃん」

「何?」

 諸田のバイタリティは、中学の時から変わらなかった。有言即実行。飲み行こうと言ったその翌々日には、風応町の駅前の飲み屋で、3人はテーブルを囲んでいた。

「では、変わらぬ友情に乾杯」

 諸田の音頭で飲み会が始まる。

「でも、奇偶ね。わたしも、つい2、3か月前からなの。その前だったら、すれ違いよね」

「神様はね、見ているんだよ。お互いを必要とした時に、友情をはぐくんだ者同士をまた結び付けてくれる。おっとそうだ」

 諸田は鞄から名刺入れを出した。

「今はこういう肩書き。よろしく」

「フリージャーナリスト諸田真。ふーん、じゃあ自分の追いたいものだけを追い続けてるってことね?」

 諸田は、生中をグビッと行きながらうなづいた。

「フリーって言ったって、いったい何を追ってたんだ?」

「しばらく前までは、スタードロップ彗星だった」

 寺壕と由美は、思わず顔を見合した。

「まあ、JAXAの職員がいる前で言うのも何だが、あれは普通の彗星じゃない。調べれば調べるほどおかしなことが出てくる。実は、いろんな伝手使って、相当な著名人まで取材したんだが、結局最後は正体不明のままで終わっちまう。なんか、突き抜けないんだよな。結局どこ当たっても同じ答えなんで、あきらめた」

「それじゃ、今は何を取材しているの?」

「彌絡石採掘場跡の再開発」

「採掘場?」

 寺壕は聞き返した。

「今、あそこをジオパーク化しようって動きがあるが、数年前の地下水噴出事故。あれの原因を突き止めないまま、とにかくあの地域のリゾート開発が先に立って、突き進んでいる。なんか、危険な匂いがしないか?しかも、例の爆発事故だ。犯人は、採掘場再開発が危険なので、それを食い止めるために事件を起こしたって話も聞く。俺は、この地域の地下にはなんか、とんでもないものが隠されていると睨んでいるんだ」

「それで、呼水町に戻ったのか」

「そういうこと。で、テラ、こんな酒の場で何なんだが、お前の実家ってたしか、室伏湖の遊覧船とかやってたよな」

「ああ、今でもやっているよ」

「じゃあ、船はいっぱい持っているわけだ」

「いっぱいってほどじゃないけど」

「実は、頼みがあるんだが・・・」

 その頼みというのは、格安で船をチャーターしたいということだった。1週間貸し切り。

「まあ、払うもんは払うから、多くは聞かないでくれ。ただし、これだけは誓う。決して犯罪には使わない」

「当たり前だろ。・・・とにかく、親父に賭け合って見るよ」

 寺壕の親は、呼水町の商工会会長。旅館と室伏湖の遊覧事業を一手に引き受けていた。

 諸田は、寺壕の伝手で格安で船をチャーターした。

 その日がちょうど休みだったので、寺壕は、諸田の乗船に立ち会った。

「乗るのはお前だけなんだろ?なんでこんな大きな船を?」

「乗るのは人じゃない。機材だ」

「機材?」

 室伏湖に出る前日、船に大型の機材が運び込まれた。今は、それに付随する小さな機材が運び込まれている。

「これは?」

 船首に設置された大型機材を見て、寺壕が尋ねる。

「世界最新の岩石測定装置だ。半径15キロ以内の岩石分布を計測できる。特殊な波を出して計測するんだが、それが、水の中であれば、計測範囲はさらに広がる」

「そんな、すごい装置があるのか?」

「ロシア製だ。レンタル代もばかにならない」

「100万単位か?」

「数千万単位だ。技師込みでね」

「数千万?お前、どこからそんな金・・・・」

「副業だよ」

「副業?」

「広告収入だよ。ブログやツイッターのな」

「インターネットか。でも、そんなに儲かるものなのか?」

「共同通信にいた時に取材したネットビジネスの成功者から色々教えてもらってね。それがなけりゃ、今の俺はない」

「フォロワーとかいるのか?」

「さあな、正確に数を把握したことはない。実は、ある方法を使ってネズミ算式に情報が拡散する方法を発見した。その方法を使えば、俺が一言つぶやくだけで、全世界の数十億人に一気に情報がいき渡る。詳細は企業秘密だけどね」

「全世界が求める情報が一気にいき渡るなら、こんなに素晴らしいツールはないが、知られたくないことがそこに載っても一気に数十億人に知れ渡るんだろ。やっぱり、インターネットは怖いね」

 船とは全く関係ないそんな話題で盛り上がっている間にも、機材は次々に運び込まれる。乗船する人間は、半分が外国人だ。

「悪いな、ここから先は、関係者以外立ち入り禁止だ」

 機材の積み込みが完了すると、諸田は寺壕に告げた。

「なんだか外国人ばっかりだからな。一緒に乗船しても、俺には全然面白くないだろう」

「格安で船チャーターしてくれてありがとう」

「壊すなよ。お前は保険対象じゃねえんだから」

 寺壕は下船の途中で振り返り、諸田を指差して言った。

「分かってるよ」

 諸田のその声が合図になったように、チャーターした船は、湖へと去っていった。

 その三日後。

「テラの意見を聞きたい」

 諸田からの連絡を受けた寺壕は、学校が終わると書類整理もそこそこに、湖の埠頭へと向かった。

 日が暮れかけた埠頭に、諸田がチャーターした船は停泊していた。

「悪いな。もう暗くなるというのに。だが、一刻も早くお前の意見を聞きたかったんだ」

「いいのか、俺みたいな素人の意見で」

「見たこともないものにぶち当たった時、専門的知識はかえって邪魔になる。お前は、理系の優秀な頭脳を持ちながら、目の前の事象だけにとらわれない広い視野を持っている。そういう奴の意見を聞きたいんだ」

「べた褒めするのが不気味だが、付き合うよ。なんつったって、関係者以外立ち入り禁止に踏み込めるんだからな」

 建物の光が、暗い湖のふちに色とりどりに反射する。それも、遥かに遠ざかり、船の灯りだけが、夜の湖面を切る白い波頭をわずかに浮かび上がらせる。

 船は、15分ほどして、ブイが浮いている湖の中央付近で止まった。

「あのブイが目印だ。これから特殊な波の発射装置を湖に沈める」

 船の舳先から、ワイヤーに繋がれた球形の装置が夜の湖に静かに潜っていく。

 それを確認すると、画像確認用のモニターのある船室内に戻る。

 船の床は、大小様々なケーブルが走り、油断すると足を取られて転倒しそうになる。モニターは、2メートル四方のテーブルに大きな海図を広げたように緑色に光を放っている。

「この画面には、岩石の分布がその成分によって、緑や赤などに色分けされて出てくる。当然、大地の下は岩石だから、すべて色で表示されるはずだ」

 外国人が、何やら諸田に話しかける。ロシア語か?それに、諸田もロシア語で答える。

「これから特殊な波を放射する」

 諸田がそう言った瞬間、緑一色だった画面が色とりどりの画面に変わった。

「・・・・どう思う?」

 諸田はその画面を見て、寺壕に聞いた。

 画面には、色が付いていない白い部分が表示されていた。

「この白いのは何だ?」

 寺壕が、諸田に聞く。

「装置が岩石として識別できない何かだ。これは最新の機械。地球上に存在するありとあらゆる岩石を検出できるはずなんだ」

「じゃ、この白いのは岩石以外の何かということか」

「あるいは、まだ発見されていない成分を持つ岩石か」

「地球上に存在しない何かという可能性も?」

「ああ、その可能性も十分ありうる」

 寺壕は、あらためて画面に目を落とした。

「・・・・この白い物は何かを形作っているな。不規則に分布していない。すべて繋がっている」

「お前もそう思うか。だが、この画面いっぱいに広がっているとすると、その長さは軽く20キロメートルを超える。室伏湖から入谷大地の半分以上まで食い込むほどの広がりだ。相当巨大な何かがこの地下に埋まっていることになる。・・・一体何だと思う?」

「第一印象を言っていいか?」

「ああ」

「俺の第一印象は、宇宙戦艦ヤマトの超巨大戦艦」

 諸田は、笑いながらうなづいた。

「同じだ。俺もそう思った」

「それは冗談としても、これがもし何かの形とするならそれは・・・・」

「船。巨大な船だ」

 寺壕は、諸田にうなづいてみせた。 

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