迫りくるもの
「だめです!もうあきらめましょう!」
「いや、まだできることがあるはずだ」
「この星は、こうなる運命だったんです!」
「トーホム・エンザは、我々のことをあきらめなかった。そして、この星にとって我々が最後の希望なのだ。宇宙から歌を失ってはならない」
「でも、それではこの星に、あれを残していってしまうことになります!もしあれが、あいつらに見つかったら・・・」
「いや、もしここに再び生命が現れるなら、必ずそれを止めてくれる。なぜなら、彼らはトーホム・エンザと同じ星に生まれいずる者だからだ」
・・・・トーホム・エンザって誰だ?
今、話しているのは一体誰だ?
この星って・・・・。
良太はそこで目覚めた。
夢じゃない。
全くの暗闇だったが、その声ははっきりと脳裏に刻みつけられている。その声は、聞こえると言うより、脳の中心に直接響き渡った。
今まで経験したことのないような感覚。
採掘場から救い出された後、良太はたびたびそんな感覚にとらわれるようになった。
そして、時々現れる月と宇宙のイメージ。宇宙空間を飛ぶ光は彗星だろうか?
他の人には言えなかった。
採掘場の事故で幻覚に悩まされた人たちは、それを周りの人に話した途端病気扱いされ、精神病の烙印を押されたのだ。
自分も同じ目に会う。
誰も信じてくれるわけない。
イメージは突然現れる。その一つ一つが、細切れになってはいるものの、何らかのつながりがあるのは分かっていた。そう、なぜか良太には、そのことが分かっていたのだ。
だが、それがすべてつながらなければ、断片の中の謎は決して明かさることはない。
俺はもしかして病気なのか?
本気でそう思った時もあった。
だが、そんな時、必ず不思議な暖かい感覚が体の内からあふれて来て、現実の世界に自分をつなぎ止めてきた。
懐かしく、清らかで、柔らかなイメージ。
その感覚がどうして湧いてくるのかは分からなかったが、そのおかげで、今日も良太は普通の中学生活を送れていた。
その日、天体部は、寺壕先生の引率で風応町に向かっていた。
由美が公方天文台の所長に賭け合って、天体部の部員にスタードロップ彗星を見させてくれることになったのだ。
公方天文台は、風応駅から車で50分。駒霧岳と呼ばれる小高い山の頂上に建っていた。
バスを降りて、木で作られた階段を上ることさらに20分。ようやく公方天文台が見えてきた。
「ようこそ、わが後輩たち」
出迎えた由美は、緊張した面持ちの生徒たちに、気さくに声をかけた。
「わたしは、鳳由美といいます。あなたたちと同じ、鵬台中学の卒業生。そちらにいる寺壕先生とは同級生。同じ天体部にいました。今日は、ぜひ色々な事を学んで行って下さい」
「鳳さんは、もしかして妹がいますか」
正臣は質問した。
「どうして?」
「同級生にも鳳って名前の子がいて、そんな苗字珍しいから」
「大当たり。今鵬中の3年よ」
やっぱり麻耶の姉さんか。何か似てると思ったんだ。
正臣は心の中で叫んでいた。
「こちらは、技師の芹沢さん。望遠鏡のことは何でも聞いて」
傍らにいた若い男性が、軽く会釈する。
「技師の芹沢です。皆さん天体部ということなので、今日は天体望遠鏡の仕組みのことなどについても勉強して行ってもらえたらと思います」
寺壕は生徒たちの方を見ながら由美の横に寄りそった。
「今日は本当にどうもありがとう。これで、俺も単なる理科教師じゃなくて、それなりの天文学関係者と面識があることを生徒たちに自慢できる」
「どういたしまして。この間のお礼よ」
「お礼?俺、なんかしたっけ?・・・ああ、コーヒー奢ったか」
芹沢の案内で移動し始めた生徒達の後ろを歩きながら、おどける寺壕。だが、そんな寺壕に由美は真顔で言った。
「・・・・スタードロップ彗星の速度が落ちているの」
「何?」
「まだ、木星と火星の中間だけど、秒速300キロ以下に落ちている」
「発見された直後の約半分のスピードだ」
「太陽以外の引力に大きく左右されることはないと思うけど、それならば、太陽に近づくにつれてスピードは速くなるはず」
「明るさは?」
「それが、変わらないの」
「変わらない?」
「太陽に近づくにつれて明るくならなければならないはずなのに、明るさが変わらないということは、つまり・・・」
「スタードロップ彗星自体が明るさを調整しているということ」
「どう思う?」
「考えられることは、一つだけだね」
「何?」
「超巨大戦艦」
「何それ?」
「君は、天文学を学んでいると言うのに、さらば宇宙戦艦ヤマトを知らないのか?」
「知らない」
「映画の最後に出てくるラスボス戦艦だ。最初は彗星の姿で現れるが、実は宇宙船だったってオチだ」
「冗談はやめて。まさか、異星人が彗星に乗って地球を侵略に来たとでも言いたいわけ?」
「当たらずとも遠からずだと思うね。少なくともスタードロップは外的な要因に頼らず、スピードと明るさを自ら調整している。厳密にいえば、彗星のカテゴリーから外した方がいい」
「仮に異星人だったとしたら」
「彗星に化けて宇宙を飛んでくる科学力を持っているんだぜ?戦ったら負けに決まっている。相手とのコミュニケーションの方法を探って、和平協定を結ぶしかないだろな」
「・・・・」
「由美が悩むことじゃない。ここで観測できたということは全世界の天文台で観測できているはずだ。賢明な世界中の英知が、その謎を探っているはずだ。一人で悩むのはよせ」
天体望遠鏡を覗いている生徒たちを見ながら、寺壕は由美にくぎを刺した。
巨大な光学望遠鏡は、階段を上ったその先に、星を観察するレンズがある。部員たちは、階段を上りながら順番待ちしていた。
次は、良太の番だ。
天体望遠鏡のレンズを覗き込む。
その瞬間、頭を何かに撃ち抜かれたように大きく首をのけぞらせて良太が後ろ向きに倒れた。階段から転げ落ちそうになり、あわてて他の部員達が、良太の体を抑える。
「良太!」
寺壕は、良太に駆け寄った。
良太は大きく目を開けていた。良太の眼が、寺壕の方に動く。
「せ、先生・・・」
「大丈夫か?」
「あれは・・・、あれは彗星なんかじゃありません・・・」
「何?」
「止めなくちゃ・・・・地球は・・・・あいつに・・・・」
「いい。しゃべるな。落ち着いたらゆっくり話を聞く」
「担架を・・・」
そう言うと、由美はその部屋を飛び出して行った。




