プロローグ
13年ぶりに小説書きたいと思って投稿しました。
第一章は全部書き切っているので、毎日3話投稿したいと思います。
鉄の尻尾が、盾の外側を回り込んできた。
石の柱が並ぶ、薄暗い広間だった。入口に一つだけ吊るされたライトが、床に転がった柱のかけらを白く照らしている。ひんやりした空気の中に、湿った石の匂いと、魔物の生臭さが混じっていた。
尻尾が狙っているのは、盾の陰から一歩だけ出ていた仲間だ。
二葉瀬アイカの体は、考えるより先に動いていた。
仲間の前に滑り込んで、左腕を上げる。受け流す角度を作る時間はない。
正面から来る。
腕の骨がきしむのを覚悟して、奥歯を噛みしめた。
ごん、と鈍い音が広間に響いた。
痛くない。
目の前に、灰色の壁が立っていた。
厚みのある石の板が、アイカの手首のあたりから生えるように伸びている。鉄の尻尾はその表面にめり込んで止まり、細かい石の粉がぱらぱらと床に落ちた。
盾の魔道具でも、こんなものは出ない。
石の板の向こうで、魔物が戸惑ったように首をかしげている。仲間たちの息をのむ音が、背中のほうで重なった。
そのとき、耳のすぐそばで小さな音がした。
小石が坂を転がっていくような、ころころした音。
アイカはゆっくり、自分の左手首を見下ろした。
麦の穂のように編まれた革の帯の上に、平たいドームの形をした石が乗っている。灰色に、少しだけ緑。てっぺんの青い魔石から細い輪が何重にも広がって、その輪を数えきれない線が横切っている。
昨日、幼馴染から受け取ったばかりのブレスレットだ。
その魔石の上に、何かが座っていた。
親指の先くらいの、灰色の丸いもの。短いこぶみたいな手が二本あって、点みたいな目が二つ、じっとこちらを見上げている。体の表面には、ブレスレットと同じ細い線がうっすらと浮いていた。
丸いのは、石の板のほうを短い手で指さした。
それから、自分の胸のあたりを、ぽんぽんと叩く。
アイカは瞬きをした。
消えない。
頭に浮かんだのは、昨日の夕方の作業場だった。
削り粉で白くなった指先で、紙袋を突き出してきた幼馴染の顔。いつもの、ちょっと照れたときの早口。
「練習で作ったやつ。よかったら」
練習で。
手首の上で、丸いのが、ころ、と小さく鳴った。
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