第六話 打ち明ける勇気
第六話 打ち明ける勇気
「――【一糸結命】――」
あたたかい。
優しそうな声が聞こえた。
ぼんやりと、誰かが助けてくれている。
そんな気がした。
一本の糸が、体を這うように。
体の中で、結ばれていくように。
痛みが引いていった。
「レン」
名前を呼ばれた。
ミオ。
俺は、ミオを守れた。
守れたんだ。
もう二度と、あんな顔はさせたくない。
そう思った。
ほのかに口が動いた。
口角がほんの少しだけ上がった。
「……強い子。守りたい気持ちが、力へと変えてるのね。素敵な愛ね。」
また優しい女性の声が聞こえた。ミオ、ではない。
愛。
愛、か。
ふふ。
これが、俺の気持ちなんだ。
「愛……してる……」
「……!!!」
小さく、声が出た。
レンの意識は、ふっと途絶えた。
――――レンの自宅――――
「……はっ!?ミオ!?!?」
「な、何!?」
レンは勢いよく上半身を起こした。
ミオは横にいて本を読んでいた。
「あ、いや。おはよ。」
「おはよう、レン。」
レンは自宅のベッドの上にいた。
記憶が途切れ途切れで曖昧だったからか、思わずミオを守りたいと思い、叫んでいた。
でも、いつも通りのミオだった。
「今日って、……何曜日?」
「今日は土曜日だよ。大学はお休みだよ。」
いつも通りの挨拶を交わし、たわいのない会話をする。
ベッドの横に折れた竹刀が、置いてあるのが目に入った。
「……あ。」
折れてるのに、なんだか誇らしく見えた。
「ねぇ、あのさ、……その、昨日の事、あんまり覚えてないんだけど……」
レンは視線を落としながら、昨日のことを思い出していた。
「俺、ミオの事。……守れた、よな?」
喉の奥が、少し乾いていた。
少し自信の無さそうな顔で、横目でミオを見る。
「…………うん。」
ミオは、短く返事をし、閉じた本に視線を落とす。
「……そ、そうか!守れたか!守れたんだ!良かったーっ!!……って、あれ?ていうか、なんで俺、自分家にいるの?」
胸の奥に詰まっていたものが、すっと軽くなった。
今更ながら、部屋を見渡すと自分の部屋であることを理解した。
「…………」
ミオは、答えなかった。
「…………俺ね。ミオじゃない、誰か他の女の人の声が聞こえた気がしたの。なんか、すごく暖かくて、なんていうか、その、助けてくれてるって気がして。……あれって、誰なの?」
レンの問いに、ミオは目を閉じた。
そして、拳を握り、立ち上がった。
勇気を出した目だった。
「レン、私ね、言わなきゃならない事があるの。だから、着替えたら、リビングに降りてきて。」
ミオはそれだけ言うと、部屋を出た。
「……ついに教えてくれるのかな。よし。ちゃんと聞かなきゃ!!着替えして!顔洗って!しっかり目を覚まそう!!」
レンは気合を入れた。
ベッドを飛び降り、服を着替え、階段を駆け下り、洗面台で水を出し、顔にバシャっと水を付けた。
「ひぃ〜、冷た!でも目ぇさめた!!」
タオルで顔を拭き、レンは鏡を見た。
昨日までの自分とは違い、覚悟を決めた顔だった。
炎がレンを包んだあの瞬間、ミオの気持ちが、レンの中に流れ込んできた気がした。
ミオは、助けて欲しいって、俺の中に流れてきた。
本当は、怖いんじゃないか?
「……ううん。今は推測するのはやめよう。ちゃんとこのあと話してくれるはず。……よし!行くぞ!」
レンは少し考えたあと、パチンと頬を叩き気合を入れた。
ガチャリと、リビングのドアを開けた。
「おまたせ!」
「レン、ここ座って。」
ミオが目の前の席を指さした。
「うん。あ、お茶入れてくれたんだ!ありがとう!」
「……うん。」
レンはテーブルの上にあるお茶を見た。
「……」
椅子に座りテーブルに付くと、お互いに無言になった。
レンはなんて声をかければいいのか分からず、口を開いては、閉じてを繰り返していた。
ミオからすぅっと、息を吸う音が聞こえた。
「レン、あのね。私、今からとても大事な話するの。だから、驚かないで聞いてね。」
「……今更、驚かないよ。」
「そう。……私ね。本当はミオって名前じゃないの。本当の、……名前は。――ノア・マーテル。」
「…………ノア。」
言葉を探すように話すミオに、レンは真剣な目でしっかりと聞いていた。
ノアという言葉に、聞き覚えがあった。
体育館での、あの日。
レンだけが覚えていた、あの事件。
大男が言っていた、『ノア』という名前。
レンの中で、違和感が合致した。
「……そうなんだ。」
一言だけ、レンは呟いた。
「私は、……日本の裏側、シャングリー国から来たの。シャングリーでは、大統領の秘書をしてたの。」
「……秘書?」
「うん、秘書。大統領、レオン・ヴァルセインの秘書って事。」
ミオは言い切ると、視線を落とした。
「……凄いんだな。」
レンは同い年のミオのしていたことに、驚いていた。
「レンも、薄々察してるとは思うけども、私は異能力が扱える。それに、追っかけてくる人達も異能力が扱える。」
「異能力……じゃあ、あいつら……」
昨日、戦った男達を思い出していた。
手ぶらだったのに、鉈や爆弾を次々と出していた。
異能力という言葉に、レンは納得した。
「……私は、異能力者を生み出す異能力を持っているの。だから昨日の人たちも、私が異能を与えた人たち。」
「……なるほど」
「私の力は【契約継承】簡単に言えば、異能を付与する能力。これは、レオンの【絶対契約】によって『終末秘書契約』として【契約継承】の力を授かったの。この能力は、【絶対契約】の延長線上の能力、だから私が死ねば、【契約継承】を受けた人達もみんな死ぬ。」
「私は追われている身だから、……だからこそ、レンの事は巻き込みたくなかった。私を助けようとしてくれている気持ちも伝わってくる、でも、それはあなたを道連れにしてしまうから、私は遠ざけたのに。……あなたは、それでも着いてきた。」
ミオは、真っ直ぐにレンの目を見た。
「……どうして?」
ミオの声は震えていた。
湯のみの湯気がゆらりと消えていった。
「……どうしても何も。ただ、守りたいから。俺は何度でも言う。俺はただ、ミオを守りたい!」
レンは揺るがなく真っ直ぐにミオを見つめた。
「……うん。ありがとう。その気持ちが、あの日すごく入ってきた。レンの強い気持ちが、伝わった。……だから、私はレンに【契約継承】を行った。」
ミオはまた視線を落とした。
「私、レンを巻き込みたくなかったのに、それでも着いてきて、二人で生きるなんて言われたら。……レンを助けたいと思った。【契約継承】を行うことでしかあの場では助けられないと思ったから。あなたに異能を与えた。」
「だから、俺は炎が使えたんだね。」
「そういうこと。あなたの炎は【守炎】名前の通りね。気持ちを強く持てば持つほど強くなると思うわ。」
「そっか、何となくそんな感じしてた。……ちなみに、なんで追われてるの?」
レンは一番気になっていたことを質問した。
「……正直、私にも分からない。どうしてレオンが私を逃がしたのか、どうして間接的な事を起こすのか。私には分からない。でも、レオン的にはこれは遊びなんだと思う。」
ミオはレオンの言葉を思い出した。
『逃げなさい、ノア。私は鬼になります、そしてお前を捕まえに行きます。』
「鬼ごっこ、私にはそう思えた。」
ミオは静かに呟いた。
「……えーと、ミオが大統領の秘書をやっていて、その大統領のレオンが、あぶそりゅ……何とかってやつで、あーく……なんとかで、えーーっと、……悪の組織に追われてるって話だっけ?」
「……えっ」
レンがまとめた話を聞いて、口が塞がらなくなったミオ。
パキッと、家鳴りがした。
「あー、うーん……うん、そうだね。」
少し悩んだ末に、苦笑いした。
「そのー、異能力ってのはなんであるの?」
「なんであるの?えーっと…………詳細は聞かされてないけども、世界を美しくするためだとか。私的には、世界を壊すための異能力だとは思うけどね。」
「悪の組織だ!」
「……………………うん。……そうだね。」
ミオは、小さく笑った。
ぴちょんと水滴が落ちた。
「ふふ……」
「え、なに笑ってんの!?」
「レンの説明、すごく分かりやすいから」
「だろ?」
「……うん」
少し沈黙が流れた。
レンが立ち上がる。
「腹減った!」
「え?」
「外に食いに行こうぜ!だって朝飯食ってない!」
ミオはチラリと時計を見た。
「今、もうお昼かも」
「えっ?」
レンも時計を見た。
「11時56分!?!?えっ!?!?俺朝ごはん食べてないってこと!?」
「んふふっ」
焦ってお腹をさすっているレンに、ミオは笑いがこぼれる。
「……やっぱ、その顔がいいよ。」
「……え?」
「ミオは笑ってる顔が似合ってる!」
「笑ってる方が可愛いぜ!」
「俺はミオが好きだ!」
突然の告白に、ミオは目をぱちくりさせた。
「あ、ありがとう……わ、私も」
「よーし!飯行こーぜ!」
「……もお。」
ミオも小さく言おうとしたが、言葉を遮るようにレンはパチンと手を叩いた。
ミオは呆れつつも、そんな真っ直ぐなレンが好き。
だからそれ以上は何も言わなかった。
外から二人を見つめる視線があることを、
二人は気が付かなかった。




