表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

前夜祭

12月に入り、風の冷たさも増した頃、全迷連技術総合大会が行われる。

迷宮科を持つ高校は全国に8校あり、年に一回その技術を競うのである。


今年はウチが幹事校なので全国から選抜された生徒がやってくる。

多くは寮の空き部屋が解放されて生徒たちの宿泊に使用されるが、中には舞鶴のホテルに宿泊する者もいるらしい。


日程は木曜の夜の前夜祭に始まり、金土日の3日間に渡って様々な競技が実施される。

この前夜祭は生徒会主催で行われる立食パーティーである。日本各地から来た各高校のチームを歓迎するウェルカムパーティということである。


俺たちも生徒会所属ということで接待係としてこき使われていたのである。


俺たち以外にはスカウトで罠解除のスペシャリストである高木さんも一年生チームだった。


大体、各チームが先生を含めて30人前後なので200人くらいの他校生を歓迎している。

もうハルシュタット王国のことは公表されていて、ロドリーゴ大使やルシーダ姫が来賓として挨拶した。ローラは妊娠しているので挨拶は免除である。


俺たちは一年生チームと挨拶するパターンが多い。

大体勝太郎とルシーダ姫、高木さんチームと俺、ローラ、清子のチームで手分けして挨拶に回った。

勝太郎や清子は全国大会優勝者なので結構顔が広いし、同門のものも多かったので挨拶にはもってこいである。

たまに俺と清子が祝言を上げたことを知っている人がいる。そういう人は俺の方を見てヒュッと息を吐いているが、そういう人には何食わぬ顔をしてローラを紹介した。

もうローラは帽子をかぶっていないので頭の上のかわいらしい耳がぴょこぴょこしている。

さすがに清子と俺のラブラブな姿をあからさまにろーらにみせるわけにはいかない。

そういう話をしているとロドリーゴ大使も来てくれて話を盛り上げてくれるのである。


そういう中で東京第一高校のメンツは異様と言えた。

白人と黒人が数人いる国際部隊なのである。

白人の一人はイラン人らしかった。ジャファリ君という男の子で、さっき高木さんと意気投合したそうで、罠解除のエキスパートらしい。

太ってはいないが骨格の太そうな背の高い男はケニアからの留学生でアダン君というらしい。彼とやや小柄な白人女性のキャシー、日本人の御簾君というのが模擬戦で団体戦として出場するらしい。

アダン君はスカッとしたいい性格のやつのようで、「正々堂々戦おうぜ」と握手を求められた。

御簾君は清子や勝太郎と子供の頃からの知り合いらしく、俺の方を見て「老師と戦ったんでしょ。信じられないね。清子ちゃんもこんなのと祝言をあげるなんてちょっと趣味があれだよね。」なんて言っている。

清子はどうやらこいつの性格を知っているらしくわざとらしく知らん顔をしている。俺だってこんなに安っぽい挑発に乗るほど馬鹿ではない。

俺が黙っていると彼は俺が怯えていると勘違いしたらしく「そう言えば黒井君が君たちってオニに襲われてチビって逃げ出したとか言ってたけれど本当?」とか言って嫌な笑みを浮かべた。


その時キャシーが露骨に嫌そうな顔をして御簾君を睨みつけた。

清子は「プッ」と吹き出して「あまりそんなこと言わないで。私たちも入学したばかりだったからびっくりするわよ。倒したけど。」とさりげなく言った。あまりにさりげなかったので御簾君には通じなかったみたいである。

「清子もそんな弱いのと祝言を上げずに僕を選んだ方が良かったんじゃない?」と御簾君はいう。

ちょっとどころじゃなく調子に乗りすぎである。

これは何か言わなきゃと俺が身構えた瞬間、清子は言った。

「お断りよ。」

一言でバッサリと切られた御簾君は言葉をなくして立ち尽くした。


キャシーは英語で「あなた鬼だけじゃなくドラゴンも倒したの?」と聞いてきた。

どうやら鑑定をかけられたようである。

「相手の許可なく鑑定をかけるのはマナー違反じゃないかな。」

「ごめんなさい。でも御簾君の言ったことを確かめたかったの。私にもぜひ鑑定をかけて。」

いきなり鑑定の許可をもらってしまった。


名前 キャサリン・ハミルトン 種族 人間 レベル37 HP300/300 MP358/358 スキル  剣術Lv.8 弓術Lv.5 回避術Lv.5 無属性魔術Lv.7 土魔法Lv.8 礼儀作法Lv.3 言語理解Lv.2 称号 米国陸軍中尉、剣術の達人、ゴブリンスレイヤー、ドラゴンスレイヤー、米国探索者トップランカー


この子、米国探索者のトップランカーなんだ。

「ミスターカイザキ、どう?私のステータスを見てくれた?」

「ああ。君は米国のトップランカーなんだね。」

「模擬戦では格の違いを見せつけてあげるわ。」

「戦うのを楽しみにしているよ。」

キャシーも俺もニッコリして健闘を誓い合った。

「ところでミスターカイザキ?あなたローラ王女のパートナーなのにミズ・キタバタケと結婚式を挙げたの?」

うっ、キツイところをついてこられた。

「あー、猫獣人の国では一夫多妻制なんだ。」

「あなた、人間でしょ?」

なんだか一気にコーナーに追い詰められた感じである。

「あーその。」

俺が答えに詰まっていると、キャシーには俺の耳元で「亜人側に付くのならあなたは私たちの敵ね。」って囁かれた。


前夜祭が終わって、後片付けをしていると、清子がやってきた。

「お疲れ様、健斗。」

「清子もね。」

「やっぱりあいつら東京第一が一番の敵みたいね。」

「そうなんだ。」


清子の話によると御簾君は全国中学生武道大会では勝太郎と決勝戦で戦った相手だそうである。なので俺については叩き落としたい一人になっているようだ。

アダン君は全アフリカ探索者ランキング1位の猛者であるらしい。

残念ながらそれがどのくらいの強さなのかはわからないのだけれど。

キャシーについても全米探索者ランキング1位で、まだ高校生にも関わらず陸軍から中尉の階級をもらっているらしい。

「多分キャシーは米国政府のエージェントとして動いている可能性があるわね。」

「米国政府の目的って?」

「そうねえ、やはり猫獣人の国が話題になっているからそこかしら。」

「あの異世界への道は杉山さんが突破されないようにガチガチに固めているから大丈夫だとは思うけれど。あとはローラや他の獣人たちの安全か。」

「大使には連絡しておいた方がいいかもね。」


連絡といっても相手は米軍である。携帯電話やメールなどは盗聴されているかもしれない。そうなると下手に連絡すると傍受されて裏をかかれるかもしれない。俺にできることは先に帰ったローラの安否確認くらいしかないだろう。


東京第一高校はウチの校内ではなく舞鶴のホテルで宿泊しているはずである。一応、生徒は前夜祭のパーティが終わった後に全員タクシーで送り出しているはずである。


俺はパーティの後片付けを終えると、ローラの携帯に連絡した。

ローラはすぐに携帯に出てくれた。


彼女はもう家に帰ってお風呂にも入ったようである。

俺はローラ聞かれたので帰ったら軽食の準備をしてほしいことを伝えて戸締りはしっかりしておいてねと言って電話を切った。

実際、俺たちは挨拶に忙しくてパーティの食事はほとんど食べることはできなかったのである。


もう遅いので列車もほとんど走っていなかったのだが、なんとか時間を合わせて列車に乗り込み、家に帰ることができた。さすがに学生の身分でタクシーは贅沢である。


家に辿り着くと何も知らないローラが出てきて「ちゃんと軽食の準備はできているからね。」と言ってくれたのでこちらもホッとした。

もうシェフは帰っていたが、今日はロドリーゴ兄弟のうち何人かが警備に来てくれているようだ。

俺が洗面所に行った時に侍女の1人がついて来てくれて「警備は増やしましたのでご安心ください。」と耳打ちしてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ