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癒しの木  作者:
再び花が咲くように
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13

 遊びに行くのならハルに楽しんでもらいたい。

 そんな風に考えてプランを練ってはいるけど、なかなかピンとくるものがない。

 ハルの好きなもの...。小説や漫画、ゲームの話は聞いたりするけど、それ以外の好みについてあまり知らない自分に落胆する。

 

 可愛いものは好きなはず。持っている小物は結構可愛いもので揃えられていたっけ。確か、蒼くんが最初にくれたクリスマスプレゼントのシリーズで揃えているって言ってたけど。きっと、ハルの好きなものをどうにか蒼くんが選んだのだろう。

 本当にこういう部分の観察眼は凄い。見習いたいとは思わないけど。


「水族館は前に行ったって言ってたし、ショッピングもなんだか違う気がする...」

「まい、そんなに悩まなくても...。まずはまいがどこに行ってみたいで考えてみたらどうだ?」


 先輩にはそう言われたけど、行ってみたい場所がたくさんあるから悩みどころだ...。

 水族館に、ショッピング、ピクニックにテーマパーク。きっとどれも楽しんでくれるだろうけど、他の目的も考えると場所選びは慎重に行いたい。

 蒼くんを応援したいわけじゃないけど、覚悟は受け取ったわけだし...手伝うのも癪だけど、ハルにはきっと必要なことなわけで...。

 ...考えすぎて少し疲れちゃったかも...。


 適当にSNSでも見よう...。

 可愛いスイーツや写真を見ると少しだけテンションが上がってくる。きれいなフルーツをお花のように切って並べたり、生クリームで動物を作ったり、どれも可愛くて、ハルが昔に話してくれた空想を思い出す。

 ふわふわの雲が形を持っていろんな冒険をしたり、いろんな心を持っていたりすごく楽しかった。いつの頃か話してくれなくなったけど。


 そんな思い出にふけりながらスクロールしていると、1件の投稿に目が留まる。


「固まってどうしたんだ?ああ、昔からあるテーマパークか...結構キャラクターが多くてファンが熱狂的なイメージがあるよな」


 ここだ。

 私は写真から目が離せなくなった。

 どうして忘れてたんだろう...。ハルが1番最初に教えてくれた好きなキャラ。実用的なグッズをいくつか持っていて筆箱も使ってたのに。

 そっか...。ハルは成長するにつれて、自らの好みを封印していたんだ...。だから、本当の好みを知る人は少なくなっていった。

 封印した理由は分からないけど、それでも、ここならハルが素直に心から笑ってくれるかもしれない。


「まい、決めたのか?」

「うん。圭吾先輩、Wデートはテーマパークにしよう。ここならハルも楽しんでくれると思うから」


 私が自信満々に言うと先輩は笑ってくれた。

 ハルへのお誘いは蒼くんにお願いするとして、私達ができることは...っと。


「舞依ちゃん、少しいい?」

「あ、どうしたの?」

「えっと、他クラスの子が呼んでて...」


 私は軽く頷いて席を立った。先輩ももう教室に戻るらしい。

 それを見送ってから私は廊下へと出た。




「それで、用って何かしら?」


 廊下に出るとさくらと、その彼氏。確か、川崎くんだったっけ?蒼くんが要注意人物認定をしていた子ね。

 何故か、さくらの表情は固い。そのことに疑問を抱きつつも私は問いかけた。


「清水さんって癒木さんと仲が良いんだよね?」

「ええ。そうだけどそれが何?」


 さくらは何も話さない。

 らしくない気がする。ハルに対して酷い態度は取るけど、それ以外には割と明るき声を掛けるタイプだったはず。八方美人と言われていたけど、その明るさに対してハルはすごいと褒めていた。

 その明るさがなりを潜めているんだなんて...。


「清水さんは、さくらと癒木さんがちょっとしたすれ違いをしているのを知っているよね?」


 すれ違い、という言葉に引っかかるけどひとまず続きを促す。

 手っ取り早く終わらせるためには話を全部聞いてからまとめて対処した方が良いでしょう。


「そのことに対して、どうにか誤解を解きたいんだ。友達同士、誤解したままなのは何だかかわいそうだろう?」


 相変わらずさくらはうつむいたままで何も言わない。本当にらしくない。

 いつもならハルの話題が出るだけで嫌そうな顔をするのにその様子も見られない。正直言って異常だ。


 さくらはハルに嫉妬している。それは誰からも見ても明らかなこと。嫉妬だけならまだしも異様な執着心も見せていて、こちら側としては橋渡しどころか接触すらしたくないししてほしくもない。


「さくらは?」

「え、」

「さくらはどうなの?」

「それは、誤解を解きたいって思って、」

「川崎君には聞いてないわ。私はさくらに聞いているの」


 顔を上げたさくらは戸惑いの表情を浮かべている。

 この子、本当に誤解を解いて仲直りしたいって思っているのかしら?そんな風には見えないけど。


「私は、」

「清水さん、さくらを責めるような口調はやめてくれるかな?」


 川崎くんはさくらを庇うように言った。

 その様子にさくらは嬉しそうにしている。いや、それだけじゃない。川崎くんの瞳には確かな優越感が宿っているのが見て取れる。

 なるほど...。か弱い人間を守ることでヒーロー気分になっている川崎くんと自らがか弱いと思い込んで庇ってもらったことに悦びを覚えたさくら。ある意味お似合いで、ハルが拒否反応を示したもの納得できる。


「悪いけど、私は可哀そうだと思えないわ」

「な、2人は友達で、」

「友達だった、だけでしょ?はっきり言うけど、ハルはさくらのことを不必要だと思って切り捨てたの」

「は、遥稀が?」


 そんなに驚くことかしら?

 むしろ、今まで何もなかったことの方が奇跡に近い。1度懐に入れた人には優しくて甘いハルだけど、ようやく決別する覚悟ができたのにそれを邪魔するだなんて許せない。


「き、切り捨てだなんて、友達に対してあんまりだと思わないのか?」

「むしろ、よく保ててた方だと思うけど...。それに、忠告に対して無視し続けてたのはそっちでしょ?もしかして、ハルなら何を言っても許してくれるから平気だと思ってたの?バカにしないで」

「ち、違くて、ほ、本当に、遥稀が、私を...?」


 絶望と憎悪がないまぜになった表情...。

 これを見た時、ハルは何を思うのだろう?

 正直、ハルのあの冷たい怒りを真正面から受けておいて変わらないのはある意味凄い。あれは、冗談ではなく本気だった。


「蒼くんに聞いたけど、ハルに謝罪しようとしてたのよね?それを断られた時点で望みはなかったと思うけど」


 2人の表情が固まる。

 きっと、意地を張って素直になれないだけとか甘いことを考えていたのだろう。

 そんな生易しいことあるはずないのに。

 私は固まったままの2人を置いて教室へと戻った。


 正直、さくらには同情というか、共感する部分もある。

 最初はきっと純粋に仲のいい友達だったはずなのに。ハルの人とは違う部分に触れて、何かが変わってしまった。

 人とは違うことへの憧れと羨望が嫉妬へとねじ曲がってしまった。

 元々気の強い性格で人と衝突することが多かったさくら。ハルだけは邪険にしなかったことから執着心を高めてああなった。

 私も1歩間違えば、と考えたことは何度もあった。


 だけど、だからと言って傷つけて、なじり続けていい理由にはならない。

 ハルの負った傷はあまりにも大きくて深い。癒すのは時間がかかるし、もしかしたらその傷を抱えたまま今後生きていかないといけないのかもしれない。

 きっと、さくらが心からきちんと謝れるようになるまで、ハルは謝罪を拒否し続けるのだろう。


 ハルも息苦しい道を選んでしまったのね。

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