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学園祭当日、ハルは緊張とわくわくを混ぜたみたいな表情でやって来た。
「遊びに来たよ」
そんな風に軽く言ったハルの頭を撫でて私はハルを席まで案内した。
ハルが注文したパンケーキは蒼くんが運んでいる。
「舞依ちゃんの妹?」
「違うわ。昔からの友達」
「へぇー小っちゃくて小動物みたいだね」
「わかる。マスコット味あって可愛い」
ハルは早速注目を集めているみたいだった。
ちょこちょこと蒼くんに笑いかける姿がかわいいとか、小っちゃくて可愛いとか。
「でも、蒼くんがあんなに優しい表情?っていうか柔らかい表情しているの初めて見たかも」
「ね?ほら、この前1年の蝶かわいい子に呼び出されてた時も嫌そうな顔してたし。普段舞依ちゃん以外の女子とあんまり喋らないのに」
「ねえ、舞依ちゃん、あの子ってもしかして蒼くんの彼女?」
「違うわね。まあ、蒼くんの一方的な片思いってところ?まだまだハルは渡せないけどね」
蒼くんのハルに対する接し方、やっぱりわかる人にはわかるのよね。むしろ、ハルはどうして気がつかないのか不思議なくらい。
気がつかないふりをしているようには見えない。感情を隠してしまうのが得意になってしまったハルだけどそこまで器用でない。だから、気づいていることに気がついていないふりをするのは無理なはず。
本当に気がついていないのか見ないふりをしているのかあるいは両方か。長い間、一緒にいるけどハルの心の底をうかがい知ることをできた試しは私にはない。
要くんあたりなら見透かしていそうな気がするけど、要くんが教えてくれるはずはないし、結局誰もハルの本心を知らないのよね。
蒼くんの1番のライバルは案外要くんなのかもしれない。
私達とは違った特別な関係性がハルと要くんの間には確かに存在しているのだから。
ふいにハルの方に視線を向けると、クラスメイトの男子がハルに絡んでいた。完全に困っている。
顔を引きつらせながらもどうにか会話をしている姿には心を打たれるものがあるけど、いい加減に止めないといけない。
私が止めに入るとハルは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
無理に話すことないと言うと、蒼くんのお友達だから悪いようにはしたくないと遠慮がちに答える。私の友達の場合でも同じことを言ったのだろうけど、意外と蒼くんの存在がハルの中で思っていたよりも大きくなっていたことに私は驚いた。
「チェキ、お願いしても良いですか?」
ハルがまたもや遠慮がちに男子に声を掛けた。
男子は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたものの、撮ってもらう対象が自分でないことを察すると肩を落としながら返事をした。
少し可哀そうだと思ったけど、ハルを困らせた罰だと考えると妥当なのかもしれない。
...やっぱり可哀想。
写真を撮るブースに移動すると蒼くんは羨まし気にこちらに視線を送っている。周囲からはそんな彼に同情のような視線が注がれている。
じっとハルを観察していた蒼くんだけど、ハルと視線が合った瞬間に戸惑いつつもこちらへと近寄ってきた。
「え?俺も?」
「早く早く」
「わかったから」
ハルは蒼くんの手を引いて画角に入るように誘導した。
その様子が少しだけ羨ましく感じた。まあ、蒼くんを睨むくらいの八つ当たりは許されるか。
複雑そうな表情を浮かべつつカメラを構える男子に若干同情しつつ私とハルはカメラに向けたポーズを取った。
シャッターが押される瞬間、蒼くんは少しだけハルに近寄ってドヤ顔をしていた。
…これは、完全に牽制ね。所々から小さな悲鳴が上がる。
「蒼くんって意外とっていうか、かなり子供っぽいわよね」
「いや、それまいだけには言われたくないからな?」
「私の方がまだマシよ。節度はきちんと守っているもの」
「積極的にいかないと、遥稀は気がついてくれないだろ」
蒼くんは言い訳のように呟いた。
彼もきっと必死なのだろう。そして、それと同時に葛藤もうかがえる。ハルが気がついてしまったら関係性が壊れるかもしれない。だけど、気がついてほしい、って所かしら。
「積極的に言っても気づいてもらえないならぷろーち方法を変え画法が良いんじゃ...。」
「そ、それは、確かに」
ハルは受け取った写真を満足そうに眺めているし、絶対に気がついていない。
元々、協力するつもりはなかったけど、ずっと近くで言見ている分、じれったさも感じてくる。ハルが傷つかない限りはある程度、手を貸してもいいのかもしれない。
私はそんな風に考えながら蒼くんに少しの間ハルのことを任せて着替えに向かった。




