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癒しの木  作者:
せめてあなたに優しい風を
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12

 試験が終わり、いよいよ卒業式の日になった。

 既に泣いている先生や涙ぐんでいる女子を横目に遥稀の表情を伺うといつも通り、というか一切の感情を見せない表情をしていた。

 寂しいのか安心しているのか判別できないくらいに何もわからない。

 遥稀を観察していると数人から声を掛けられた。

 学ランの第二ボタン、か...。卒業すると一気に接点が無くなるからせめて思い出にでもってところか。渡すつもりはないけど。


「ごめん、入学オリエンテーションの時制服で行かないとだからあげられない」


 半分嘘で本当だ。

 制服で行くのはそうだけど、外れていても目立たないボタンと交換することは十分に可能だ。なんなら、制服を買った時の予備のボタンもある。だけど、あげたくない。あげたい人はちゃんといるから。

 遥稀は俺の断り文句を素直に信じているらしい。つくづきピュアだと思う。

 人の吐く嘘を疑わない。できるだけ人のいい所を見ようとする。だから、最後の最後までさくらを切り捨てることができなかった。

 懐が深いと言えばそうなのだけど、きっとそれは遥稀の甘さによるものなのだろう。まいに聞いた話だと、昔は遥稀とさくらは対等な人間関係を築いていて仲のいい友達同士だったらしい。

 ただ、学年が上がるにつれてさくらが遥稀を見下すような態度が目立ち、増長するようになった。遥稀はさくらと仲が良くていい面を知っていたからこそ切り捨てるのが難しかった。

 1度懐に入れると甘くなる、とまいがため息を吐いてぼやいていた。だからこそ、傷つかないように助けてあげたいとも。


「乙女心は免罪符にはならないと思うよ...?」


 そんな遥稀のつぶやきが聞こえた。

 それを聞いてぎくりと肩を震わせている女子が何人かいる。いろいろと自覚があるようだ。


 式は滞りなく進んでいった。

 最後に教室で待機してクラスごとに後輩たちが作る花道へ向かう。遥稀はぼんやりと席に座っていた。

 この姿も見納めだ。


「遥稀、」

「あ、蒼、なに?」

「後で写真撮らね?」

「蒼も?いいけど、私と撮って楽しいのかな?」


 そんな風に遥稀は言うけれど、結構いろんな人に好かれていると思う。友達や後輩、周囲の人間関係を大切にする人だから。


 その事実に少しだけ妬くこともある。だけど、遥稀本人は人に好かれているという自覚が著しく薄い。きっと、今までの体験が原因なのだろう。ある種の人間不信なのかもしれない。

 期待することを恐れているようにも見える。

期待さえしなければ傷つくことはないから。

だけど、いつまでもそのままではいけない。

 だからまずは、俺やまいに期待することからできるようになってほしい。


「移動します。準備してください」


 係の生徒から声を掛けられて遥稀は席を立つ、

 そして、机を寂しそうに撫でて教室を見回した。なんだかんだ少しの寂しさはあるらしい。

 ほぼ1年、俺達はこの席を占領し続けたから。


「遥稀、もう行くよ?」

「うん」


 なおの声に軽く返事をして遥稀は教室から出た。

 俺も心の中で少しだけ感謝する。遥稀と過ごせたこの教室に。遥稀にとっていい思い出は少ないだろうけど、俺からしてみればそうでもなかった。

 遥稀が初めて助けを求めてくれたのも俺のことを庇おうと勇気を出してくれたのも笑いかけてくれたのもこの教室だから。だから、ありがとう。

 カーテンが少し揺れて俺たちの背中を押した気がした。




 遥稀と写真を撮るために待ち合わせをした場所にどこからか聞きつけたのか後輩の女子が来ていた。

 最後の思い出に、ってことか。


「蒼先輩!お願いします!付き合ってください!」

「ごめん、無理」


 どうやら即答しすぎたらしい。

 後輩女子は驚いたようにこちらを見つめていた。

 ああ、思い出した。1学期に1度断った子だ。特徴的なリボンをしているので思い出した。サトさんが2年で1番可愛い子って言ってたな。

 だけど、その背後に隠れているオトモダチの存在に少しだけ嫌気がさして早々に断って戻ったんだっけ。今もいるな、後ろに。


「り、理由を聞いても良いですか?」

「理由って...」


 そんなものいくつもあるが、どこから言えばいいだろうか。


「癒木先輩と付き合ってるって噂は本当なんですか!?」


 若干引きつつも馬鹿にした様な目で聞いてきた。


「遥稀とは付き合ってないよ...。まだ」

「それじゃあ、付き合ってくれても、」


 弱弱しく甘えるような感じて言ってきたけど、どこか自信と先ほどの馬鹿にしたような表情を瞳の奥に宿している。

演技下手かよ。


「ごめん、無理」


 俺は口角を上げて即答した。もちろん、目は笑っていない。

 言いたいことは色々とあったがやめておく。肩を震わせて行ってしまったから。


「絶対にバレては、」


 さて、隠れきれていると思っている2人にもそろそろ声を掛けないとか。


「遥稀?」

「げ、」


 ...。今のは少しだけ傷ついた。...。


「あ、蒼、は、早かったね?」

「もしかして、見てた?ってかいつ来た?」

「い、今来たとこ」


 遥稀は目を逸らしながら必死に誤魔化している。

 わたわたしていて何だか可愛い。

 今最大の謎は何故なおがここにいるのかだけど。俺が聞くと事情を軽く説明した後にニヤニヤしながらシャッターを押すと申し出てきた。


 なおの指示に従って結構な近距離になってしまった。遥稀は何も気にしていないみたいだった。その後もいくつかフォローしてもらったりしたけど絶対に面白がっているだけだろ。


「とりあえず、まだ繋がりを維持することは出来たかな」


 2人が行った後俺はぽつりとつぶやいた。

 ある程度の付き合いはこれでどうにか保証されたことだろう。だけど、問題はここからだ。

 高校はバラバラ。進学先で遥稀に好きな人ができないとも限らない。


「蒼先輩、部活で写真撮りますよ」

「ああ、わかった」


 後輩の声掛けにより俺は少しだけ思考を止めた。

 まあ、どうにかなるだろう。少しの名残惜しさを感じつつも俺もその場を離れた。

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