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癒しの木  作者:
せめてあなたに優しい風を
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8

 集合時に話した通り、俺達は洋服を見に来た。

 いくつか遥稀に提示していき、反応を見て好みを探っているわけだが、割とかわいい感じものも好きらしい。普段の様子からシンプルなものを好んでいるのかと思ったけど意外だな。


「蒼はさっきから誰の洋服を見てるの?」


 ある程度見て回った時に遥稀が聞いてきた。


「誰って、遥稀のだろ?最初に話したじゃん。洋服も見てみるかって」

「え、自分のじゃないの?」

「いや、俺の服見てもつまらないだろ」


 世間的なイメージでは男性よりも女性の買い物の方が時間が長いと言われている。一概には言えないけれど、姉と買い物に行ったときに物凄く長く感じるので少なくとも俺の周囲ではそんな感じなんだろう。

 俺もそれほどこだわりがあるか、と言われると普段着に関してはそこまでないので案外あっさり決まってしまう。

 今回は遥稀に似合いそうなものを重点的に見ていたわけだが、本人にその気はなかったらしい。わかってはいたが。時折生返事なこともあったし。

 だけど、その返答の中で自分が着るわけではないから意識しないからこその好みを探ることができた。


「まあ、さっきから適当な返事しかしてない時点で察してはいたけど」

「ご、ごめん。服は可愛いけど、さすがに私が着るのはちょっと...女の子らしくて似合わないと思う」

「そうか?今着てるのとさほど変わらないと思うけど」

「まいみたいに可愛かったらいろんな色が似合うんだろうけどね」


 ああ、まただ。

 遥稀は時折、というか自分が絶対的な自信を持っているもの以外には極端に自信がなくて不安そうな顔をする。本当は好きなのにその好きなものから向いていないから、らしくないからと見ないふりをする。


「遥稀も似合うと思うけどな」

「お世辞をありがとう」

「お世辞じゃないって」


 実際にお店の人も褒めていた。恥ずかしそうにはしていたが嫌だという気持ちは感じられなかった。どちらかというとその瞳に映った感情は羨望や憧憬。

 そして、話す時に出てくる敬語。これは、緊張していたり言語化するのに不安を覚えている時の遥稀の癖。


「似合うかもしれないけど、着られるかもしれないけど、もしも着て似合わなかったり、きちんと着れてなかったら...って考えると少しだけ怖い...自信がないから」


 遥稀は俯きながら言った。

 教室にいる時とはまた違った不安感が今心の中を占めているのだろう。その不安はきっと体験したことないことに対する警戒と何かが変わるかもしれないという恐怖心、あるいは過去に試して酷いことを言われた傷からきているのかもしれない。

 遥稀はこう見えていろんなコンプレックスを抱えている。これは、以前まいが話していたことだ。

 体格に、冷静で時には冷徹に取られる思考。発想力や想像力、感受性が豊か過ぎる故に言語化しづらい気持ち。まいは遥稀は人と違うものが見えていると言っていた。

 遥稀が指をさして言葉を発するとただ流れている雲は様々な形に変化し、物語性を持つ。文章にだって温度や香りを持たせることができるのが遥稀のすごいところでまるで魔法のようだとも。

 俺といる時はそんな話をする事がなかったからきっと封印してしまったのだろう。

 それこそが遥稀のコンプレックス。自分の考えや思いを理解されることなく否定される。

「癒木遥稀は度を越した変人である」俺も遥稀と関わるまでそんな風に勝手に思っていた。

 空想や空虚を愛し、理解しがたいことを語る、頭のおかしな変人。


「俺はさ、遥稀のこと、カッコいいと思うよ」

「え、カッコいい?」

「前に大会見に行ったことあっただろ?その時に自信を持って堂々と演舞してる姿はすごくカッコいいと思った」

「あ、ありがとう?」


 そう。遥稀はカッコいい。いつだって堂々としている。それが弱みを見せたくないがための虚勢であり、精いっぱいの強がりだとしても。

 必死に前を向いて心でファイティングポーズをとっている様は誰よりもカッコいいと思う。俺にかけてくれた優しくて力強い言葉もすべてがカッコよかった。


「あいつらは酷い言葉を言ってくるけど、そんなの全部聞かなくていいと思う。だって、遥稀の悪口はあいつらしか言ってないから」


 遥稀の悪口を言うやつは決まっている。そいつら以外は遥稀の悪口を言っているのを聞いたことがない。それはきっと遥稀の人徳がなせるわざで、ストレートにお礼や賞賛を言える長所が行かされている部分でもある。後輩たちも遥稀のことを慕っている様子をよく目にするし。

 遥稀が変人である部分は否定されていなくても忌避されるということはないと言える。体育の時のチーム分けでも最後まで余ることはないと言っていたどころか争奪戦になる始末だそうだし。

 敵チームになるといい仕事して厄介って言われてたな。


「で、でも、私が可愛くないのは事実なわけで、というか、普通の人間は面と向かって本人に悪口を言わない良識を兼ね備えているし」

「それ、あいつらが普通じゃないって暗に言ってるからな」


 遥稀はしまった、という顔をして慌てている。

 相当溜まっているんだな。普通の人間じゃないって言われているのは正直いい気味だと思う。


「ふっ、ってか、そんなこと言えるくらいには元に戻って来たんだな...いいじゃん。遥稀のたまに毒づくところ、俺、結構好きだし」

「ば、馬鹿にしてる...」


 正直、馬鹿だとは時折思ってる。こうして伝えているのに伝わっていない部分に関しては。


「そんなことないって。でも、普通の人は面と向かって誰かれ構わず可愛いとも言わないんだよ。言うのは、本当に好意を抱いているか、信頼しているか、素直な人間だけだろ。後はそれ以外の目的か。まあ、言わないと本人には伝わらないものでもあるけどな」


 言ったところで全く伝わっていない人間も目の前にいるわけだし。好意を伝えるのは本当に難しい。


「蒼?」

「遥稀、本心かお世辞かわからない言葉でも良い言葉は素直に受け取っておいた方が良い。本心だった場合、相手の気持ちを無視することになるかもしれないだろ?」


 本心を言うと、遥稀の胸が俺の言葉で埋め尽くされてしまえばいいのにとも思う。言わないけど。


「うん...」

「そんで、お世辞でも良い言葉を言われたらいやな気持ちにはならないじゃん?」

「まあ、うん」

「それなら、良い言葉は素直に受け取ろうぜ」

「...。ありがとう」


 遥稀はふわりと笑った。言葉をかみしめているようで言葉が伝わったことを嬉しく思う。


「それから、自信をつけるにはやっぱり、好きなものを身に着けることだろ」

「好きなもの?」

「おう。さっきの反応から好みに合いそうなものは大体わかった。今度はそれを見に行こうぜ」

「すごい観察眼をお持ちで」

「限定的だけどね」


 この観察眼は今のところ遥稀限定だ。

 だてに観察していないからな。

 立ち上がると遥稀もゆっくりと俺の後に続いた。少しのワクワク感は伝わって来たし大丈夫だろう。さて、本当に遥稀の好みかは五分五分だけど、まあ、どうにかなるだろう。

 俺が自信を持たないと遥稀はきっと不安になるだろうから。

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