14
ふわふわぼんやりとした温かい世界。スンとして鋭い冷たい世界。私は今、その2つの世界を行き来している。集中力が切れた時に感じる不安な感じと集中して他のことを考えなくて心地いい感覚。
いずれどちらかを選んでもしくは統合しないといけないのはわかっている。
でも今は、少しでも不安を消したい。そう思ってしまうのはダメですか?
「カウンセリング?」
「うん...相談室の先生が紹介状を出すからって」
あれからまいと蒼の強い薦めによりスクールカウンセラーとの面会および相談をして少しでも心身が楽になるようにと病院でのカウンセリングを薦められた。
思っていたよりも私の状態は悪かったらしい。
「月に2回くらい行くことになった。でも、何を話したらいいかわかんないし、こわい」
「ああ、確かに。どういうものなのかわからないからな。でも、そんなに身構えなくても良いんじゃないか?聞かれたことに応えるだけでも良いと思うし、無理はしないように言われたんだろ?」
「なるほど...」
蒼のアドバイスに考えを巡らせる。少しだけ緊張が和らいだ気がした。
「お、何楽しそうに話してんの?遥稀ちゃん」
冷や汗が背中を伝った。声を出したいのに出せない。目の前が暗く、頭の中が真っ白になっていく、
「は?無視すんなよ。お耳とお口ないんですかぁ?」
嘲笑しながら言葉の刃を投げられた。声を聞くだけで呼吸が徐々に浅くなる。
反論したいのに声が出ない。口を動かしても漏れるのは息だけ。全身も竦んで動かすことさえできない。
「最近発売された本の話をしてたんだよ」
「は?本?」
蒼は私を庇うように言葉を返した。
「ああ。すごく感動できて泣けるんだよな。良かったら貸そうか?」
机の中から1冊の分厚い本を出して挑発的に微笑みながら言った。
「いや、いい」
蒼の態度に興味を失くしたのかそれだけ言うと去っていく。
私の手の震えは止まらないままだった。
「遥稀、大丈夫か?」
声はまだ出ない。心臓も暴れている。
私はどうにか頷いて大丈夫だと伝えた。
「いや、聞き方が悪かったな。えっと、」
「遥稀、顔色が悪いよ?大丈夫?」
聞こえてきた声に視線を向けるとなおが立っていた。申し訳なさそうな表情をしている。
「...遥稀、ごめんね」
「えっと、なにが}
情けない声音だけど一応出すことができた。
「勝手に、遥稀なら大丈夫って思ってた。いつも堂々としていてきちんと言い返せて強いから」
「...なお...」
蒼は少しの呆れと憐みの視線をなおに向けた。
なおは私がなりたかった「強い人」のイメージを私に投影させていたらしい。私のことを本当に「強い人」だと思っていてクラス内で起こっていたことに対しても特に気にしていなかったと。
でも、そんな幻想的なイメージは崩れ去ってしまった。理想を裏切られて失望したのだろう。
「...まいちゃんに聞いたの。遥稀がとても傷ついて泣きながら助けてって言ってたって。それで、遥稀のこときちんと見てあげてって怒られちゃった。...ごめんね、勝手な幻想を押し付けて、見ないふりをして」
ごめんなさい。そんな悲しい顔をさせたかったわけじゃないのに。
こちら側には来てほしくなかった。こちら側を知ってほしくなかった。本当は臆病で弱い私を見せたくなかった。
「なお、わた、私は、大丈夫、大丈夫だから、気に、しないで」
「ううん、今度は、私が気にしたいの。だから、気にさせて。だって、遥稀は友達だから」
「...そっか」
「あ、でも、顔色悪いから保健室には、」
「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」
心配をかけたくなかったのに結局心配されてしまった。
何だかとても嫌な気分だ。まいがなおに伝えて事に対して怒りを覚えたり気分が悪くなっているわけではない。
ただ、周囲を巻き込まないように行動することができなかった自分の弱さに腹が立つし気分が悪くて許せない。
「遥稀、手」
「え、?」
蒼に言われて手を出す。犬のお手みたいになってしまった。
「いや、違くて、そんなに握ったら痛いだろ?」
蒼は私の指に触れてゆっくりと開かせた。
促されて見ると手のひらには爪が食い込んだ跡が刻まれていた。
「やっぱり、具合悪いの我慢してる?遥稀、何かをぐっと我慢する時手をぎゅっと握る癖があるよね」
「そう、なの?」
「うん、ねえ、遥稀、」
「なおー!」
遠くでさくらの声が聞こえる。
「行ったら?さくら、呼んでるよ」
「でも、」
「私は大丈夫、大丈夫だから。心配してくれて、ありがとう」
今の私はきちんと笑えているだろうか?口角を無理に上げたから痛い。手も口も心も何もかも。
なおの言葉は嬉しくて、少し暖かくて、でも少し痛い。
優しさは嬉しいのに少し怖い。きっと私が弱いから受け入れるのに時間がかかってしまうんだ。大丈夫。きっと、すぐになれるし、受け入れられるようになる。
それまでお願い。少しだけ待っていて。




