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癒しの木  作者:
枝は折られた
24/120

 昔から割とぼんやりしている方だとは言われていた。

 親に兄妹、従兄弟、友達。昔は自覚はなかったけど、今は自分がぼんやりしているのがはっきりとわかる。おかしな話だとは思うけど。 

 私は時々私を俯瞰で見ている。その感覚はきっと、わかってもらえない。




 日頃のストレスは変わらないまま、テスト期間に入った。

 自由参加故に出席者は限られている。自分の担当以外は当然ながら参加しなくてもいいし担当者も全員があてがわれているわけではない。

 だが、1つの疑問がある。


「梨乃、これって部内だけの勉強会じゃないの?」

「その予定だったんだけど...」


 いつの間にか他の部活まで話が広がり参加者が増えたらしい。

 顧問も新任で他の先生に足して強く出られないのはわかるけど...。運動部のノリに委縮してしまっている子がちらほらいる。


「遥稀先輩、英語の問題教えてほしいです」


 杏ちゃんを筆頭に1年生が数名やって来た。

 後輩への解説は2,3年生それぞれ1時間と区切っていてその間はその場にいる人に聞いていいことになっている。

 1年生に解説していると梨乃の所には2年生が集まっていた。


「いや、遥稀の解説わかりやすすぎ」

「はいはい、口よりも筆記用具を動かせ」


 何故か1年生に混じって優弥もいる。

 事情を聞くと顧問に参加するよう言われたらしい。成績やばいって言ってたからかな...。


「優弥、後で騒いでいる子達注意してきて。同じ部活でしょ?後輩だけでいいから」

「えー?めんどくさ、」

「アクスタ」

「喜んで行ってきます」


 ランダムグッズで爆死した交渉材料はやっぱり強いな。推しがなかなか来てくれないのがネックだけど。


「遥稀先輩、できました!」


 今度は1年生。ざっと確認する限り問題なさそうだ。


「うん大丈夫。よくできてるよ」

「やった」


 頭を押し付けてくる杏ちゃんを撫でていると視線を感じた。気のせいか?」


「遥稀先輩、ありがとうございます!」


 今度はお礼と言わんばかりにハグしてきた。ついでに頭も撫でられる。

 子ども扱いされている気がするけど特に害はないので放っておくと満足したのか終わった。

 そして、ちょうど1時間経ったらしく空いている席へ移動する。今日は文系科目だから軽くでいいけど、理数科目はきちんと勉強しないとだ。


「よ、遥稀」

「げ、要...」


 肩を叩かれて振り向くと要がいた。


「お前、オレにだけ反応ひどくないか?」

「気のせい。それよりも何でここに...暇なの?」

「...。聞くなよ」


 要の後ろからさくらがすごい形相で睨んできている...。つまり、そういうことなのだろう。

 さくらの視線が怖いので場所を移動しようとすると今度は要に必死の形相で止められた。嫌ならはっきりと断ればいいものを...。

 しかし、私も巻き込まれたくない。さて、どうしたものか...。

 うん、逃げよう。


「遥稀、今いい?」

「梨乃、どうしたの?」

「英語のここなんだけど、和訳どうしら良いかなって」

「ああ、そこね、そこは」


 あれ?さくらがなんか近寄ってくる。要もあからさまにまずいと表情に出している。


「りーの!向こうで一緒にやろう!?」

「うん、ちょっと待ってね」


 要の所に行かないだと?いや、相変わらずこっちを睨んでいる。そして、梨乃に腕を絡めている。

 普通に怖い。


「私、和訳が苦手なんだよね。何かコツとかある?」

「あ、えっと、何となくのニュアンス?普段喋る時こんな感じだよなみたいな、パズルみたいな感じかな」

「ちょっと、梨乃に適当なこと教えないでくれる?」


 え...何故私は今さくらに怒られた?


「あーごめん、わかりづらかったよね」

「ほら、梨乃もう行こう!」


 め、めんどくさい。いや、さすがに言わないけど。それでも心の中で言う分には良いと思う。

 さくらに何かしたかな...。


「お前、嫌われてるな」

「そっちは好かれてるね」

「いうな...はぁ...」


 お互いため息を吐いて気分をリセットしようとした。

 まあ、いいや。今は梨乃の方に行ってるし邪魔してくることはないだろ。さっそく自分の勉強を進めよう。


「遥稀、良い?」

「なお、どうしたの?」

「ここで勉強してもいいかな?って」

「良いけど、でもいいの?」


 ちらりとさくらのいる方に視線を向ける。


「向こう、集中できないから」

「そう...」


 私が頷くとなおは座って勉強道具を広げた。

 こうしていると不思議な気分になる。数か月前まではよく一緒に行動していたから。同じクラスなのにいつの間にか疎遠になっていた。そう思っているのは私だけなのかもしれないけれど。

 いつから、いや、去年の修学旅行くらいからかもしれない。奇数グループでなおは人気者だった。

 バスの座席で常に1人になるのは私と美波だった。私と美波は1人席が嫌だ、なおと座りたいという2人に気を使って代わりばんこに座っていた。大変だねって笑いながら。

 申し訳なさそうにこちらを見るなおに対して逆に申し訳ない気持ちになった。


「遥稀はさ、さくらのこと苦手?」

「急にどうしたの?」

「いつも1人だから気になって...移動教室とか」


 苦手、と言ったところで状況は何も変わらない。それくらいはわかっている。

 きっとなおが今以上に板挟みになって苦しくなるだけだろう。それなら、私にできることは1つしかない。


「私のことは気にしなくても大丈夫だよ」

「え、でも、」

「さくらはなおと2人でいたいっぽいし。あ、でも、チビって言ってくるのはやめてほしいかな。そんなに変わらないのに」


 私はいま、上手く笑えているだろうか。上手く冗談っぽく言えているだろうか。

 私が選べる選択肢なんて最初から1つしか存在していない。大切な友達が孤立しないように突き飛ばすこと。その反動で私自身が崖から落ちることになったとしても。

 数か月で慣れることができた。だからあともう数か月私が我慢すればいい。

 そして、少ししてなおもさくらに声を掛けられて席を移動した。


「おーい、遥稀さん?大丈夫かよ?」

「何が?」

「何がって、いや、何でもない。それより、今週の展開やばかったよな?」


 私は大丈夫。そう、きっと大丈夫。

 握りしめた手に爪が食い込んで少し痛い。でも、その痛みは胸の痛みを少しだけ誤魔化してくれた。

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