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癒しの木  作者:
枝は折られた
22/120

 楽しい時間と辛い時間の落差は激しい。

 どれだけ前の時間が楽しくても辛い時間がやってくると台無しになってしまう。 

 楽しさが消えて最後には辛さしか残らない。楽しい時間は実は辛い時間よりも残酷なのかもしれない。

 辛さを増すためのスパイスであり毒にもなるのだから。





「それじゃあ、あとは各班で協力して進めてください」


 5,6限は社会科の新聞づくりだ。本来は5限だけの予定だったけど変更になったらしい。


「うちの班は平安時代っすね」

「戦国時代あたりなら武将の名前で文字数稼げたのに」

「まあ、仕方ないよな。くじ引きじゃ。まずはテーマを絞り込むか」


 蒼がリーダーとなりある程度の役割分担やテーマについて決めていく。うちの班は1人欠席で他の班よりも少ないから手早く決めないといけない。

 文章作成・イラスト・清書の3つに分けて作業にかかる。


「枠組みはこんな感じっすかね?」

「イラストはここら辺でいいか。記事の配置はどうする?」

「とりあえず時系列でいいんじゃない?あ、サトさんそこは空けておいた方が良いかも」

「了解っす」


 分担がしっかりしているからか思いのほかスムーズに進んでいる。


「記事はこんな感じでいい?」

「お、良いじゃん。さすが遥稀」

「それじゃあ、出来上がったのから清書していくっすね」


 この調子で進めていけば6限目の半分くらいで終わるかもしれない。


「遥稀達のところ、早いね」

「役割分担が上手くいったからかも」

「おーさすが遥稀。人に命令して動かすの上手いもんね?黒板消す時とか、」

「役割分担してまとめてくれてるのは蒼だよ」

「へ、へーさすが蒼くん、リーダーシップがあるって言うか、」


 さくらは気まずそうに言って自分の席へと戻っていった。


「発表原稿、こんな感じでいい?」

「さすが、補足まで書かれてる...よっし、早く終わったら何する?自習らしいけど」

「国語の作文っすかね。全然終わってないんすよね」

「俺も。遥稀は?」

「作文は終わってるから本の続きを読んどく」

「え、授業時間内で終わったんすか?」

「うん、800文字くらいだったし、うん」

「さすがすぎる。コツとかあるの?」

「んー?思いついたことをこう、バーッて書くかんじ?」

「うーん、そもそも思いつかないから詰んだな」


 2人はそう笑いながら原稿用紙に向き合っていた。私も苦笑しつつ本に向き合う。



 しばらくして、私の周囲が騒がしくなった気がするけど、気にせずに文字を追いかける、

 向けられる視線も言葉も無視をする。

 そうすることでしか私は私を守れない。


「おい!聞けよ!」


 突然、本が取り上げられ、机を叩かれる。

 目の前の人物を見据え、必死に平静を装う。怯えを、恐れを悟られてはいけない。

 落ち着いて、冷静に、感情を出すな。無機質になれ。


「...。何?」


 私から出た音は思ったよりも低くて冷たくて一切の感情を感じさせないものだった。


「授業中に読書していいと思ってんのかよ?」

「きちんと提出を終えて先生も良いって言ってたから問題ないと思うけど」

「へー?他のやつらは課題したり新聞作ったりしてるのに?」


 なんだ、それ。新聞は各班で作るものだし、課題も終えているなら取り組む必要はないはず。ただ、いちゃもんをつけたいだけだろ。

 そして、そいつは私の前に提出用のプリントを置いた。


「世の中、助け合いが大切だよな?」

「は?」

「うっわ、怖っ。口悪い不良じゃん」


 思わずリアクションを取ってしまった。

 ニタニタ笑いながら言うのが不快で腹立たしい。取り巻きのやつらもニヤニヤとこちらを見ている。


「優しい遥稀ちゃんならやってくれるよな?」


 なんだ、それ。

 いつも牛乳を置く嫌がらせや虫のおもちゃを投げてきたり机に押し付けてきたり、悪口を言ってくるくせに。なんで、こんな奴らに優しくしないといけないの?

 私の中で何かが切れた音がした。


「優しくないからやってあげない」


 私は精いっぱいの笑顔でそう言って机の上に置かれた本を開いた。

 普段の態度を鑑みても優しくするだなんて無理だ。私はそこまで情が深いわけでも優しいわけでも親切なわけでもない。そんな義理はどこにもないのだから。


「うざ、このチビがあんま調子にのんなよ?」


 こちらを睨む視線を感じる。が、それを無視する。

 震えるな、怯むな。怖くなんてない。


「さっきからうるさいけど、早く終わらせないと居残りじゃね?」


 蒼の冷めた声が聞こえた。

 舌打ちをされて机と椅子を蹴られた。

 私の前から人影がなくなった途端、緊張が解けていく。体が震えて涙が込み合上げていく。手足は急速に冷えていって頭の中が冷たくて熱い。


「遥稀、ごめん、俺がいたら少しはマシだったのに」

「いいよ、大丈夫、ありがとう」


 大丈夫。気にしなければ、本当に大丈夫。


「そ、そういえば、来週からテスト期間っすね」


 サトさんが話題を変えるようにそう言った。


「部活休みか。提出物も仕上げないとだな」

「あ、苦手科目詰め込まないとだ...」

「遥稀、文系科目の勉強教えてくれ。ついでにノート見せて」

「じゃあ、交換条件で数学教えてね」


 話題転換で少しだけ和んだ。

 終業まであと少し。そうしたらあとは部活だけ。

 さくらは嫌味を言ってくるけど慕ってくれる後輩もいる。普通に話せる同級生もいる。部活の時間は少しだけ肩の力を抜くことができる。

 でも、そんな時間ももう少しで終わってしまう。

 部活という目的が無くなっても私は学校へ行くことができるのだろうか。

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