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癒しの木  作者:
枝は折られた
21/120

 最初は何が怖いのかをきちんとわかっていた。でも、今は、何が怖いのかが分からなくなりつつある。

 終わるのも終わらないのも怖い。そんな矛盾を抱えている自分が気持ち悪くて怖い。

 そして、何より何が怖いのかわからなくなってしまった自分が1番怖く感じる。私はきっと大切な何かを1部壊してしまったのかもしれない。





 手すりを掴み、1段1段、ゆっくりと階段を下っていく。痛くない方の手で、落ちることのないように注意深く。階段を見るだけで冷や汗が背中を伝っていき気持ち悪い。


 保健室で湿布を貰い、軽く会話をして再び階段の前に立った。あえて人通りの少ない所を選んだので誰もいない。深呼吸をして私は階段を上り始める。

 そして、踊り場を越えたところで私は段差にうずくまる。

 なんだか疲れてしまった。息苦しくて心が痛い。ああ、また涙が滲んできた。

 ああ、また、頭が、ぼんやりしてきた。



「あ、遥稀おかえり。どこに行ってたの?」

「保健室。手首が痛くて」

「あ、さっきの...」

「湿布貰ったから平気」

「そっか。良かった。あ、ねえ、」

「なおーあ、遥稀どこに行ってたの?」

「保険実」

「ふぅん。そうなんだ。大丈夫?」


 猫なで声で話しかけられてぞわぞわする。


「ねえなお、今度どこに遊びに行く?あ、デートに誘ったら乗ってくれるかな?」


 さくらはちらりととある男子生徒を見た。なおは困った顔をしていた。

 その男子と仲のいいほとんどの人が望みが絶望的にないことを知っているからだろう。

 さくらは3年間いや、中学以前も含めると恐らくそれ以上に長い期間アタックをしているものの、振られ続けている。

 習い事が同じで交流がある私自身、男子本人に相談を受けていた。断っても迫られて辛いと。そして、たびたび助けを求められる。

 さくらの恋について興味関心がない私は放置することが多いが、さくらはそのことが大層気に入らないらしい。その他にもきっと気に入らない部分はあるのだろうけど。

 疲れるので考えたくもない。

 向こうは勝手に盛り上がっているし放置して本でも読もう。


「あれ、それもしかして新刊?」

「うん。昨日見かけて買った」

「まじか...」

「青の3巻と交換で借りる?」

「おけ、明日持ってくる」


 交渉は恙なく成立した。本から一切目を離さずに話しているとさくらが寄って来た。


「要くんも読んでるんだ?遥稀ってば貸して言っても私には貸してくれないんだよ」

「へ、へーそうなんだ」


 なおは困っているし要はどう逃げるかを考えているようだ。


「背だけじゃなくて心も小さいよね」


 せめて私より10センチ以上大きくなってから言ってほしい。

 反論すると余計にめんどくさいので無視を決め込むけど。


「あ、そう言えばオレ英語の課題終わってなかったわ」

「え?そっちのクラスは出てないって聞いたけど」

「あ、いや、」


 要がこっちに助けを求めてきている。


 求めるな。助けを出したら巻き込まれること必須なんだから。いや、もうすでに巻き込まれているから関係ないのか?


「すみません、遥稀いますか?」


 ふと、声のした廊下に目を向けると優弥が立っていた。この気まずい空気から逃げ出すために私は優弥に駆け寄る。


「優弥、どうしたの?」

「あ、いや、オレ今日行けないから先生に言っといてほしくて」

「わかった。伝えとく」

「ありがとう。ってか、新曲のMV公開されてたんだけど見た?」

「まだ見てない。家帰ったら見る」

「今回のマジでやばかった...推しが輝きすぎてて、」

「お、優弥、今日休みなのか?」


 優弥とそんな会話をしていると要が助かったと言わんばかりに話しかけてきた。後ろの方は見ないようにしよう。


「あ、要先輩こんにちは。家の用事で...兄貴も休みっす。そんなわけで、遥稀のことよろしくっす」

「は?」

「家の近くまでだろ?任せとけって」

「いや、1人で帰れるが?」

「いや、それオレらが先生に殺されるんだよ」

「うんうん。最近不審者も出るらしいし。部活の時とか地味に心配してたんだよな、先生」

「後輩と帰ってるし、万が一後輩が危険な目に遭わないように護身用でペンも忍ばせてる」

「変なところで男前にならなくていいんだよ。というわけでお願いします」

「あ、ちょ、優弥」


 行ってしまった...。

 要も空気を読め。後ろから禍々しいオーラを感じているのは私だけではないはず。後ろを向きたくない。


「遥稀、部活終わったら道場って忙しいね?」

「あーうん...大会近いから」

「そう言えば前々から気になってたけど何の道場に通ってんの?」

「あれ?蒼くん知らなかったの?遥稀は古武術を習ってるんだよ」

「古武術?なんか意外かも」

「兄ちゃんの影響」

「先輩も凄かったよな。元気か?」

「うん、高校で部活楽しんでるよ」

「要はなんとなく想像つくけど、遥稀はやっぱり意外かも。がっつり文系って感じするし」

「いや、がっつり文系だから」

「うそつけ。演舞中闘争心メラメラのくせに」

「でも、演舞中の遥稀は本当にかっこいいよね。武器を使いこなしている感じが」

「今日は棒の調整するって言ってたよな?」

「うん、筋力は付いてきたけどまだ振り回されてる感があるからかな。大会用に調整するって言ってた」

「へー調整とかあるんだ。あ、でも手首...」

「あー調整だけして今日は帰ろうかな」

「え、ちょ、オレは?」

「先生とマンツーマン指導...良かったじゃん」

「へー要くんも大会に出るの?応援行ってもいい?」


 タイミングを見計らっていたらしい。さくらも会話に加わった。

 逃げられなかったか...。


「ああ、まあ、出るけど、」


 要はタジタジだ。追い込まれている。


「ねえ、遥稀、私も応援に行ってもいい?」

「え、良いけど、面白いかどうかはわからないよ?」

「うん、大丈夫。絶対に行くから」


 なおが楽しそうならいいか、と私は日程を教えた。蒼も予定が無かったら応援に行くと言っていた。

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