23
結論から言おう。
遥稀は、いつも通りの実力は出せていたと思う。そう、ここ最近のいつも通りの。
型が始まった瞬間、いつも通り、その場の空気を支配した。
ミスなく終えることもできた。
だが、結果は入賞はした。だが、メダル獲得には届かなかった。
周囲の人間は遥稀に対して感嘆する。賞賛の言葉を投げかける。よくやったと称える。その様子を、オレは少し距離を置いて眺めていた。
オレは彼らのように遥稀を称えたいとは思わなかった。演舞する時に見せる遥稀が持つ独特の空気感を完全に出し切れていないように見えたからだ。
すぐにオレの出番も来て、移動する。オレ個人としては過去最高の出来だった自負はある。だけど、出番を終えた後、オレが気になったのは遥稀のことだった。
騒がしい会場内を抜け、外に出ると雲1つない青空が広がっていた。少し辺りを散策すると、人があまり寄り付かない日陰に遥稀は座り込んでいた。
「不満そうだな?」
声を掛けると、遥稀は一瞬オレの方に視線を向けて、すぐに眩しい青空を見上げた。
「まあ、メダル獲得は出来なくても仕方ないとは思ったよ。ただ、本人が納得できてないのに賞賛されるのはビミョー」
一切の感情が感じられない声で遥稀は答えた。
「お前ならそう言うと思ったよ。珍しく落ち込んでるじゃん」
「うん、すごく落ち込んでるから。要、飲み物買って来てー」
「落ち込んでるくせに、早速人を使おうとするな。…あ、お金は後でもらうからな」
「当たり前でしょ。よろしく」
遥稀は少し口角を上げてオレを見上げた。
そして、すぐに空を見上げる。再びぼんやりとした空気に押されるようにオレは自販機へと向かった。
まあ、ちょうどオレも飲み物は欲しいと思ってたからいいけど。
目当ての飲み物がある自販機でオレの分を購入し、遥稀の分を買おうとしたところでオレは手を止めた。何を買うか聞くの忘れた。
とりあえず、買っておくことにはする。今から戻ってまた買いに来るのはめんどくさすぎる。
以前、炭酸は苦手で飲めないと言っていたからそれ以外から良さそうなものを探す。遥稀の好みを考えると、ミルクキャンディを好んで食べる。となると、乳酸菌ドリンクでいいか。白いし、乳成分が入ってるのは同じだし。問題ないはずだ。うん、多分。
そんな適当なフィーリングで飲み物を買い、オレは遥稀のもとへと戻ったが、すぐに物陰に隠れた。遥稀の横には先生が座っていた。
「遥稀、お疲れ様」
「あ、先生…はい…」
「珍しく、悔しそうな顔をしているね?」
遥稀が息をのんだ様子がうかがえた。後ろからだから表情は見えない。
「…すっごく悔しいです…」
「それは、メダルを獲れなかったからかな?」
遥稀は首を横に振って否定した。否定のスピードが速い。
メダルを獲れなくて泣いているやつがいたらキレるレベルの潔さだ。いや、メダルを獲ったやつも多分キレる。みんな、そこを目指して稽古を重ねてきたのだから。
「メダルは、仕方のないことだって、思ってます。今のコンディションで獲れるほど甘くないって、わかってるので」
「それじゃあ、何が悔しいんだい?」
「私、おれ、稽古の時から集中できてなかった。学校でのこと、引きずるのはダメだって、わかってて、それなのに、あと、稽古を逃げ道にしちゃ、いけないことも、わかってたのに、結局、ぜんぶ、」
遥稀の一人称が久しぶりに崩れた、普段通りを取り繕うことさえ難しいのか、遥稀はなおすことなく言葉を吐き出す。肩を震わせながら。
「武器を落としたり、危ないこともあったね…」
「はい…でも、それを、言い訳にしちゃいけないって、わかってます…。大会までに、整えられなかったのは、おれの、落ち度で、そんな自分が、情けなくて、悔しくて…」
「そうか…」
先生はそれだけを言って黙り込んだ、遥稀も何も言わない。
遥稀の不規則な呼吸と風が吹く音だけが聞こえてくる。
「遥稀、始めた道場に来た時のことを覚えているかな?」
「…はい、」
「私はね、こんなに小さな子が始めることに、少し驚いたんだ。やっぱり体格が大きい方が見栄えするし、それに、最初はいつも何かに怯えていて、とても気弱に見えたからね」
「はい…」
「でも、稽古を重ねていくうちに、遥稀は見違えるほどよくなった。元々、人前で肩を型ることに関しては緊張した様子を感じられなかったけど。集中して、空気を作り、相手を自分の世界へと呑み込むことができる。こういう子はね、なかなか出会うことができない」
「ありがとう?ございます?…」
「結果は、振るわなかったけど、遥稀は私の自慢の生徒だよ。だから、胸を張りなさい」
「はい…」
「さあ、顔を洗っておいで。閉会式が終わったらみんなで美味しいご飯を食べに行こう」
「はい…失礼、します」
遥稀は立ち上がり、一礼をした。そして、手の甲で涙を拭いながら行ってしまった。




