第12話 華国の城
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目を開けると,真っ先に飛び込んでくるのは豪華な装飾がされた飴色の扉。
その周囲に縁取られた金と紅の模様は,先程から絶えることなく視界に紛れ込んでいるものと同じ物だ。
少し濃いクリーム色の壁にも同様の模様が描かれていて,染みは愚か,汚れ一つさえも存在しない。
目の前の光景に思わず天を仰ぐと,見えるのはやはり同色の天井に同じ模様。少し変わった模様の中心部は,ランタンのような光を灯している。
「どうかされましたか?」と問われたため,視線を下に戻して後ろを振り返ると,これまた細かい装飾がなされた飴色の衝立から,見るからに質の良さそうなベッドの端が見える。
そして声をかけられた方に少し視線をずらせば,僅かに光沢のある金髪のおさげと桜色の瞳のメイド服を着た少女が笑顔で立っていた。
(……うん。どうしてこうなった?)
僕は,旅をしていたのだ。このアニメの世界 (仮定)の敵組織「サンクチュアリー」に(多分)復讐を誓うヒロイズムに連れられて。その途中で桃色音楽姉妹ことリベラル____通称リベ____とリリカル____通称リリー____と仲間になり,サンクチュアリーの目撃情報があったという美と花の国「華国」に向かった。
そこには,幸運にもアニメ通りにサンクチュアリーの四天王の少女が現れ,戦闘になった。だけど戦力差は圧倒的で僕等は押されていったが,偶然じゃないけど通りかかった華国の女王マリア様に助けていただいた。
けれどその時,訳あり(?)な別の人がいた可能性があって……。
面倒なことだがその場にいた僕等に避けられるはずもなく,僕等は実質強制的に華国の城に寝泊することになった。
「うん。フレイム。現実逃避しても,現実は変わらないんだぜ」
隣で遠い目をしたヒロイズムに肩を叩かれた。
(……うん。知ってる。せめて現実逃避くらいはさせて欲しいんだけどな……)
「フレイム様,ヒロイズム様。私はリベラル様とリリカル様のところに行ってきますので!」
声をかけてきたメイドのミュリエルさんが笑顔で退室していく。
「あーーーー!」
ヒロイズムの虚しい叫びが広い部屋に響く。
(……にしても,すごい豪華だなぁ……。うちもそこそこの豪邸だったけど,城ってすごいなぁ……)
城の客室? は華の国だけあってものすごく豪華だ。マリア様はかなりこだわりが強いらしい。装飾が凝っている。
「なんかすごい花の香りがするな」
ヒロイズムが眉を八の字に下げて部屋を見回す。
「確かに……。アロマとかいうやつかな?」
僕はそういう方面は全く興味がないし,よく知らない。
光留の教育係だった橋本が,女性がそういう物を好むと言っていたような気がする。
けれど僕の周りにそういう物を好む人は愚か,女性だって殆どいなかった。
というか,話に聞くそういう物は香りが強いらしい。
そんなものを使っていたら迷惑だし,下手すれば父に処分されるだろう。
「フレイムー? どうした?」
僕がアロマという物に思考を飛ばしていると,ヒロイズムに声をかけられる。僕は軽く首を振って答える。
「なんでもないよ。それにしても……これからどうする?」
僕の言葉に,ヒロイズムが少し顔を下げる。
彼が考え込んでいるのを感じつつ,小さく溜息をついて傍に置かれた椅子に座った。
(……おそらく今答えは出ないだろうな。リリーとリベにも聞いてみるか)
それからしばらく経って,ミュリエルさんが夕食を運んできた。
(……なんか華々しい)
「眩しいな」
ヒロイズムが小さく零す。
この世界の食事は基本西洋だ。お米がないし味噌などの調味料もない。
特に違和感はないが,お米がないのは本当に堪えた。
転生してきて2日目に,思わず自室で「米ーーーー!!!!」と叫んだくらいだ。
母さんにものすごい不思議な目で見られたので謹んだ。
そうじゃなくて。
ミュリエルさんが運んできたものも勿論西洋の料理だが,見た目がすごい。ものすごくこだわりを感じる。
一口食べてみたが,味は普通だ。見た目がすごい。食べにくい。伝わるだろうか。
夕食を終えた頃に,ミュリエルさんが皿を回収しに来たのと入れ替わるように,マリア様がメイド____確かラウラさん____を連れてやって来た。後ろにリリーとリベもいる。
「何しに来たんだろうな」
ヒロイズムが僕の耳元で囁く。
「話は明日って言ってたよね」
僕が囁き返すと,それに気づいたのかマリア様が申し訳無さそうに微笑む。
「本当は明日ゆっくりお話したかったのだけど,先程門番から連絡があったでしょう?」
そういえば,それでマリア様との話は終わったんだった。
「その知らせの内容が,ね」
「……どのような?」
リリーとリベが椅子に座ったのを横目に,扉を閉めたラウラさんを背後に立たせてソファに腰掛けるマリア様に問う。
マリア様は一瞬目を伏せた後,内容を思い出すように少し上を見る。
「城付近で私同等の強大な魔力が動くのを感じたので,その元を調べてきます,と」
「その強大な魔力って……」
「あの深紅の波の使い手で間違いないでしょう」
リベの言葉に,マリア様が深く頷く。
(あの深紅の波の使い手……アゼリアって人か)
「マリア様,アゼリアさんのこと……」
リリーも思い出したのか,アゼリアという人物の説明を求める。
マリア様は,きつく目を閉じた後,周囲を見回し,僕達に向き直った。
「先ほども言ったかもしれませんが,始めから話しましょう。私より濃い深紅の波の使い手,アゼリアは,かつて私と王位を争い,数年前に姿を消した私の同母妹です」
(……同母妹……?)
若干の違和感を感じつつも,その先を待つ。
「アゼリアは,私よりも恐らく,優秀で努力家でした。けれど,王位を継いだのは私だった」
「……何故?」
リベがいつもよりやや強張った顔で問う。
「……わかりません。アゼリアは,私が王位を継ぐと告げられたすぐ後に,姿を消しました。その時のことをお話しましょう」
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ようやくアゼリアの説明らしい説明が出てきました。次回はアゼリア回想回です。