第11話 君臨
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「君臨」とは,特殊魔術の一つで,王位についた者が大陸を統べる皇帝に与えられるものだ。
特殊魔術は基本一つしか手に入れることができないが,王だけは二つ手に入れることができる。らしい。
「らしい」になるのは,前にも話した通りマリア様を始め,主人公に関わった国王はいないから。
ずっと存在自体は匂わされていたが,影も形もなかったのだ。
そしてヲタク知識が正しければ,「君臨」はその名の通り,国王が民や逆賊等々を無理矢理従わせる魔術だ。
その方法は様々で,物理的に押さえつけることも,魔力で威圧して押さえつけることもある。
もしこれが君臨なら,マリア様のは魔力での威圧だろう。
「マリア様っ……」
「お止めくださいませっ……!」
メイド達が蹲って悲鳴を上げた。
ミュリエルさんも蹲っていないものの,怯えたようにマリア様を見つめている。
「マリア様……あの,先輩達には負担が大きいです……」
ミュリエルさんが困ったように言葉を絞り出すと,蹲っていたメイド達が目を見開いて口々に叫んだ。
「まぁ! 何故貴女が平気そうに立っていられるの!」
「信じられません! 私達を嘲笑って!!」
甲高いメイド達の罵倒に,ミュリエルさんはビクッと震えて壁に張り付く。
「やっぱり貴女,マリア様の異……」
「お黙りなさい」
茶髪のメイドがミュリエルさんを指差して叫ぶと,シェイラが静かに止めた。
その目には恐ろしい程の怒りがあるように見える。
(異……? 異って言うと……異常……異世界……異世界転生……? え? それ僕の場合のことだよね? ミュリエルさんも?)
別に自分以外に転生した人がいないと思っていた訳では無い。
そこまで頭が回らなかっただけだ。
もしかしてミュリエルさんが威圧に耐えられるのは,転生者だからなのか。
(いや,それは違う気がする。僕は耐えられないから)
そこまで考えて,即座に否定する。
後でミュリエルさん本人に聞いた方が良いだろう。
「あぁ,ごめんなさいね。ミュリエルの言う通り,貴女達には負担が大きいわ」
マリア様がフッと笑った瞬間,威圧が消える。
メイド達は呆気にとられたような顔で脱力した。
「なっ……」
シェイラが信じられないと目を見開く。
僕も内心驚愕していた。
生まれてからずっと,裏社会で教育を受けてきた「光留」が衝撃を受けたのだ。
理由は簡単。
シェイラが「お止めくださいませ」と言っても止めず,ミュリエルさんが「負担が大きい」といったあとに,その言葉に従って止める。
それはミュリエルさんの言葉を肯定し,他のメイド達の意見より重視していると宣言しているに等しい。
それも「ミュリエルの言う通り」と前につけたのだから,策略が巡らされているようにしか見えない。
マリア様にとって新人メイドミュリエルさんはメイド長であるシェイラよりも意見を尊重する間柄であるとアピールする為に。
(……国の事情に首を突っ込みに行く趣味はないけどね)
「さて,お話を続けましょうか。何処まで話したかしら?」
気を取り直して僕達がソファに座り直し,メイド達が持ち場に戻ると,マリア様が優雅に首を傾げる。
その姿に先程の威圧はないものの,威厳は健在だ。
「えーと,なんかアゼリアさんがどうとかって話だよ」
リリーがいつもどおりの笑顔で答えると,マリア様は少し目を伏せたあと,僕達を見つめた。
「アゼリアは……そうですね。わたくし達に深く関わっていながら,今この場に現れることはありえない人間です」
「……何でですか?」
目で促されたのでそう尋ねると,マリア様は少し俯き気味になって桜色の唇を解いた。
「アゼリアは……私の実____」
「マリア様! 今,門番からマリア様にお話したい事があると連絡が!」
マリア様の言葉を遮って,扉近くにいたメイドが声を上げる。
明らかな妨害かつ不敬だが,別に嘘ではないようで,シェイラが少しだけ首を傾げてそのメイドから話を聞いている。
その様子を見たマリア様が話を続けようとした瞬間,シェイラが「何ですって?」と声を上げた。
眉を寄せたマリア様はシェイラに目を向けると,「ごめんなさいね。また明日」と此方に小さく呟いて,シェイラの方に歩いて行った。
(……いや,明日?)
「えー……? 明日って言った……?」
「そう聞こえたけど……?」
「き,聞き間違いじゃないかな……」
四人で額を寄せて呟き合う。
間違いなく明日と言った。
「えっと……どういう?」
ヒロ君がマリア様に聞こうとすると,シェイラに事情を聞いてから少し顔色が変わったマリア様はミュリエルさんに何かを耳打ちした。
「えっと……マリア様より皆さんの事を任されました! わたっ,私にご同行くださいませ!」
ぼんやりと眺めていると,ミュリエルさんが僕達の前でそう言った。
「ごめんなさい。説明になってないです」
「へ?」
「あの,僕等は明日まで何をすれば」
僕が至極真面目にそう問うと,ミュリエルさんは「あー,マリア様に説明されてませんでしたね」と呟いて,んんっと咳払いした。
「皆様は旅生活でお疲れでしょう? なので,今日と明日,此処華国の華城に寝泊して頂きます! 女王陛下直々の命令です!」
(……はい?)
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:結果的にアゼリアのこともミュリエルのことも明らかになりませんでしたね。ものすごい焦らされてます。そろそろ……そろそろですよ……多分……。




