降下
体が動かない。指が辛うじて動くぐらいで、足は全身が固まったようだ。ミソラは覚醒と睡眠を繰り返しながら、状況把握を努めた。意識してそうしたわけではなく、脳の危機反応がそうさせたのだろう。
そうして時間が過ぎていき、空腹も限界を迎えて来たところで、奥から音が聞こえてきた。そこから光が差し込み反射的に目をつぶろうとしたとき、右目に違和感を覚えた。今は光を遮る大きな影に注意がいった。
誰かが入ってきた。二人の男が乗り込み、懐中電灯で顔を照らした。顔は逆光で見えない。
「あれ、生きてんじゃん。……うわ、顔が完全にただれてやがる」
「デリカシーなさすぎですって先輩。さっさと運び終えましょうよ。と、いけねえ忘れるところだった」
男の一人がミソラの目の前に何かを放り投げた。焦点がぼやけているが、レジ袋らしきものが転がっていた。
「飯ぐらいは食えよ。死なれちゃ困るからな」
そう言って男たちの爆笑が響き渡った。彼らの態度でどういう人間かは把握した。
「もの好きなやつがいるもんだ。ま、命かけた甲斐はあったよな」
「前金良かったっすもんね。成功報酬で俺達は自由! こんな人間を欲しがる人間がいるんだ。とっとと引き渡して好きな国でウハウハ過ごしましょうよ、先輩っ」
扉が閉まった。再び車が進みだした。
噴火中にミソラを連れ出したのは彼らのようだ。しかも依頼者がいて莫大な報酬を約束されているらしい。でなければ、あんな地獄みたいな場所から連れ出そうとはしないだろう。
状況はわかった。そして自分の身体におきた変化も知ってしまった。
「……左目、見えなくなってる……?」
光が差し込んできたとき、左の視界が暗くなっていた。何も見えていなかったのだろう。また顔がただれているとも言っていた。噴火による火傷か顔のコーティングが剥がれたのかは定かではないが、外に出せない状態なのは違いないだろう。
「……私は、ちょっとずつ、終わってしまうのね」
誰かに売られてしまうようだが、いったいどこのもの好きがミソラを手にしようと画策しているのか。ザルヴァートか。いいやありえない。彼女たちはユキナを連れ去ることを目的にしていた。ミソラは路傍の石としか思っていなかったはずだ。だとしたら、ザルヴァート以外の勢力があの場にいたということになる。
なんだかおかしい。まるでザルヴァートが日本で事を起こすことをあらかじめ知っていたような気がする。でなければ、ミソラはあの噴火に巻き込まれて塵となっていたはずだ。思考を埋没させていこうとすると、ふいに意識の喪失感を覚えた。また眠ろうとしている。
それを全身に力こめて踏みとどまった。片腕が鎖に繋がれていることが分かった。
「……そうよ。終わり、なんかじゃない……」
己の腑抜けた心に火をくべる。いくら心と体がすり減っていたからといって、歩みを辞める理由ではないだろう。
「──ユキナさんを、助けないと──」
ミソラは目の前にあったレジ袋に手を伸ばした。まずは体を動かすため、袋の中に入っていたおにぎりと水を食したのだった。
しばらく車に揺られて数時間ほどが経った。ミソラは体力の回復に努めるため眠っていた。万全とは言い難いが、施工するだけの力は取り戻せた。ついでに体の状態も知ることができた。
顔のコーティングが溶け、噴火の熱で火傷を負っているのはもちろんのこと、体を動かそうとすると叫びたくなるほどの激痛が走った。特に脚部はなるべく動かしたくなかった。ミソラにできる選択は、体力を減らさないように待つだけだった。
再び扉が開いた。ミソラは反射的に顔を上げた。
「着いたぞ」
「……足が、動かなくて」
「まったく仕方ねえな、車椅子あるからそれに乗せるか」
そう言って男の一人が部屋の中にあった車椅子を用意した。ミソラは男たちの肩を借りて光の外へと出ていき、車椅子へと腰を下ろした。
久々の空の下は曇天が広がっており、潮の香りが鼻腔をくすぐっていった。ようやく物がはっきりと見えるようになってくる。見知らぬ海沿いと自分が乗ってきた小型トラックがそこにあった。何より自分をここまで連れてきた二人の男もいた。
「……どこへ、連れてくの」
「さあてな。別のやつに引き渡す、それだけだ」
「マジで大変でしたよね。山中湖にいる宗蓮寺ミソラを誘拐して連れてこいなんて、変な依頼だったし」
ミソラは聴き逃がせないことを聞いてしまった。彼らに依頼してきた謎の存在は、ミソラが山中湖にいることを知っていた。ミソラたちの存在は日本政府により秘匿されていると聞いている。だが確信を持つには情報が足りない。ミソラは消沈した声音で尋ねてみた。
「……よく、無事でいられたわね」
「全くだよ。あんな噴火が起きるなんて思わねえだろ普通。けど、俺達はプロだからよ。ギリギリのところでアンタを見つけ出すことに──」
と、気を良くした調子で話した男が、もうひとりの男に小突かれた。
「おい、余計なこと言うな」
「す、すんません先輩っ」
二人の関係性が垣間見えるやり取りだった。先輩と後輩でタッグを組んでいる彼らは何者だろう。考えたくないが、人を誘拐して利益を得ている人たちと見ていいのだろうか。彼らは前金をもらって依頼を引き受け、達成報酬にも莫大な利益が約束されているらしい。彼らにとっては、ミソラを引き渡すことが最後の仕事だ。車椅子と二人の男は、海沿いから離れた路地へと進んでいった。
ミソラは道中で考えに更けていた。彼らは聴き逃がせないことを口走った。後輩の男は噴火が起きるなんて思わなかった、と言った。つまり彼らはザルヴァートによる噴火が起きることを知らなかった。それ以前から山中湖村へと入り込み、ミソラを誘拐するべく動いていたのだ。
当然あの場にいた誰もが、噴火が起きるなんて想像すらしていなかったはずだ。いくら富士山が活火山だからといって、今日は大丈夫だろうという楽観が占めていた。ならば結論は一つだ。二人に依頼してきた何者かは、ザルヴァートが引き起こしたこととは関係なく、ミソラが山中湖へ来ることをあらかじめ知っていたということになる。
一体なにものなのだろうか。行き着く先で出会えるなら、あえて乗ってもいいと思っている。チャンスはあるはずだ。
「なあ、アンタはあの宗蓮寺ミソラなんだよな」
「……なに、とつぜん」
男の一人、先輩と呼ばれた男がミソラの正面にたった。それから突然、顎を掴んで握り締めてきた。激痛が走る。傷を負った顔に圧力が加わってきて、同時に吐き気を催してきた。
「てめらのせいでな、路頭に迷うやつが増えたんだよ。職にも就けないような弱者が辛うじて生き延びる手段が、”新たな秩序”って奴が奪っていきやがった。俺達がこんな仕事をしてんのもそのおかげだ」
男の目には恨みがこもっていた。今にも殺したくてウズウズしている、そんな様子だ。ミソラは力強く返すことができなかった。彼らの言い分に興味はない。
「澄ました顔をすんのも今のうちだ。引き取られた奴らの末路は菊に耐えねえらしいからな」
「……あなたたちは、ずっとそんな仕事を?」
「ああ。幸せなやつは不幸になる義務がある。お前もそうなるんだよ」
顔から手が離れ、車椅子が進んでいく。別に彼らの言葉に反論する余力はない。まだ脱出の道は見えていないが、チャンスは必ず訪れるはず。こんなところで死ぬわけにはいかない。
周囲の景色が不気味なほどに木々などが生い茂っていき、寂れた建物が増えていった。いわゆる限界集落と呼ばれるものだろうか。人気はない。放逐されたのだろう。そこに大きな工場らしき建物があり、その建物の中へ入っていった。
カビとホコリが混じったなんともいえない匂いが、いかにも秘密の取引を行うにふさわしい場所だと思った。扉の先に人が待ち構えていた。数は十人ほどでラフな格好をしており、全員が二十代ぐらいの若者だった。
「よう、あんたらが仲介人か」
「ソウダ。女ハ宗蓮寺ミソラデ間違イナイカ?」
「確かめてみろ」
先輩が車椅子を押して集団に近づかせていった。ミソラは相手方の男たちを確かめた。顔たちは日本人と似た感じだが、片言の日本語で話していた。また耳打ちで聞こえてくる言葉を聞こえ、中国人だと確信した。言葉の意味まではわからないが、言語の種類ぐらいは聴き比べることができる。
中国人の男、そのリーダー格らしき人がミソラの顔を注意深く眺めた。端末の写真とミソラを確かめているのだろう。男は急に不機嫌になり、声を荒げた。
「顔、全然違ウ! 偽物カ!?」
「ちげえよ! ほら、テロ組織が富士山噴火させただろ!? こいつはそこにいたんだ。顔がこうなっても仕方ねえだろ!」
中国人たちが一斉に騒ぎ出す。どうやら日本語が通じるのはリーダー格の男だけらしい。それからリーダー格の男が一旦離れて言った。
「──面影ハ有ル。本当ニ間違イナイナ」
「ああ、前金もらったんだ。この女がザルヴァートのシャオとやり合ってたのも見た」
先輩が声を張って叫ぶ。ザルヴァートという名前に中国人たちが動揺するものの、リーダー格の男は笑みを浮かべ、騒ぎ立てる男たちを腕を上げて諌めた。
「良イダロウ。依頼ハコレデ終ワリ。報酬ヲスグ払ワセヨウ」
「おう、確かに受け取った。ごくろうだったな。これで失礼すんぜ」
ほらいくぞ、とビビっている様子の後輩を引っ張り上げ、廃工場からさろうとする二人。その足取りから、一刻も早く立ち去りたいという気持ちを隠せていなかった。そしてミソラは見た。中国人たちが懐から何かを取り出そうとするのを。
「逃げなさいっ、撃たれるわよ!!」
すぐさまミソラは力いっぱいに叫んだ。二人は後ろを振り返って驚愕の表情を浮かべた。だがそれも一瞬で、駆け足で扉へ駆けていった。慌てて銃弾が放たれていくも、誰も傷つけることなく静かに終わった。
中国人たちがミソラに形相を向け、リーダー格の男が激昂した。
「何故教エタ!?」
「……さあ。あの人達、私のせいで人生めちゃくちゃになったみたいだから、その罪滅ぼしみたいな感じ」
思ってもないことを口にした。別に彼らが何をしようがどうしようがどうでもいい。ただ目の前で人が死ぬのは我慢がならない。それだけだ。
回復した体力を発揮するならここだ。まずはこの場をどうにかして生き伸びる。
「どうして彼らを殺そうとしたの?」
「予算削減ノ為ダ。前金デ五百万、成功報酬千万。割リノ良イ仕事ダガ、我ラト変ワラナイ金ヲ手ニイレル。不公平ダト思ワナイカ?」
「……どう考えても、噴火のなかで私をさらってきた彼らの方が多く貰って然るべきじゃないの?」
「黙レ!!」
男が車椅子を蹴り飛ばした。ミソラごと車椅子が倒れる。中国人たちの憤った眼差しが向いていた。それからリーダー格の男が転がっているミソラの髪を引っ張り上げた。何本か、人工移植した髪の毛が抜けていった。
「やめ、て」
「少シ痛メツケテヤル。二度ト歯向カエナイヨウニナ!」
このあたりで男がミソラを抱えようと腕を伸ばしてきた。チャンスはここしかないと思った。ミソラは伸びてきた腕を両腕でつかみ、上へとねじり上げた。男から悲鳴が上がる。ミソラは立ち上がった状態のまま、男のみぞおちに前蹴りを放った。中肉中背だったので程よく吹き飛び、中国人の集団へと転がっていった。とどめに近くにあった車椅子を掴み、思い切りよく彼らに向かって放り投げた。車椅子は放物線を描いてリーダー格の男へ直撃した。
中国語で心配の声を上げる彼らを尻目にミソラは扉へと駆け出した。当然、彼らはそれに気付き追ってきた。先程の男たちとは違い、銃弾を放つようなことはなかった。やはりミソラを連れてくるのには生存という条件が必須のようだ。ならばその条件をありがたく利用するだけだ。
ミソラは近くの林の中へ入っていった。走る度に痛みが走るものの、二人の男たちと初対面したときと比べれば良い状態といえる。あのときはまだ足が動かない状態だったが、おそらくエネルギー不足とシャオと戦ったときの疲労が残っていたせいで動かなかった。食事と休養を経て足は動くようになっていたいが、「動ける」ということを切り札にするためギリギリまで隠していた。あとは逃げ出すタイミングを伺っていた。ただ、欲をかきすぎたかもしれない。
「扉開いたタイミングで逃げるべきだったわ──」
逃げるタイミングを二つ定めた。次に扉が開いたときか、次の受け渡し先を知ってから脱出するかだ。どちらにもリスクは高いが、前者のほうが比較的容易に逃げ出すことができる。後者は情報を得る機会を得るものの、失敗すれば見知らぬ土地へ連れ去られるおそれがあった。そしてミソラが選んだのは後者だった。ミソラをさらおうとしている連中 の目的、なにより不可解なタイミングでの介入は一連の事態と無関係でいるはずがない。
ミソラは林の中を縦横無尽に移動した。自分でも居場所が把握できていないが、追手側も迷うことを恐れ追いかけてこないと踏んでのことだ。自然に囲まれた利点といえる。
「……ここまで、逃げれば」
気力と体力をすべて使って逃げたからかめまいと動悸が押し寄せてきた。木に寄りかかって呼吸を整える。これから人のいる場所へ行き、〈P〉に報せるために動くべきだが、まず近隣住人がいるかどうか怪しい土地だ。第一村人は期待できない。
「……私の誘拐に、どれだけの人を介しているのかしら」
工場にいた中国人たちを思い浮かべる。日本から中国、その先はどこへ連れて行かれるのか興味はあった。だが日本を離れるのは抵抗があった。ユキナは連れ去られ、アイカやヒトミにユズリハの生存が怪しい中で〈P〉だけは東京から指示を送っているはずだ。見つけてもらうことも可能だろう。
だが状況がそれを許してくれるはずもなかった。激しくなっていく物音が近づいていき、いつのまにかミソラを取り囲んでしまっていた。中国語で捲し立て、祝詞のように頭に響いてくる。逃げる力もなぜだが湧いてこない。
「体力ガ限界ダッタヨウダナ。瞳孔ガ開キカケテイル。死ニ近イ所ニイルゾ」
ミソラの前に立ちリーダー格の男が言った。ミソラは自分の認識を誤っていた。すでに体力は限界を迎え、まともに動ける状態ではなかったのだ。たとえ早めに逃亡しても、どこかで野垂れ死んでいた結果を迎えていただろう。
「死体デモ我ラノ任務ハ達成サレル。オマエノ意思ニ価値ハナイトイウコトダ。可哀想ナ奴ダ」
男たちの放つ残酷な言葉を浴びていく。ユキナを救うと息巻いていた気力も失い、残ったものは宗蓮寺ミソラの残り滓のようなものだった。ここに曲が作れて、蹴り技を放てる二十歳の女はいない。
「──は」
乾いた笑いがでてきた。なんて無力だろう。少しは道を切り開ける人間に慣れたと思った。勘違いしたまま進んで、周りの人間を宛にして、強くなったと思い込んでしまった。こんな人間が家族を見つけ出すとか、誰かを助けることなんてできるわけがなかったのに。
ミソラは男たちに引きずられていった。喪失感が旨を支配していき、再び意識の喪失がやってこようとしたそのとき、ふと空を見上げる形になった。
「……なにか、通りすぎて……」
ミソラのつぶやきで引きずる手が止まった。男がたちが一斉に空を見上げた。木々で覆い隠されている中、ちょうどその場所だけ天幕が開いたようになっていた。そうしているうちに、空から何かが降り注いできたのが見えた。
黒い何か。片方の視界ではそう形容するのが精一杯だった。黒い何かは森の中へと入っていき、音を立てながら墜落したようだ。
なんだろうか、と思ったその時、うめき声があちこちから聞こえてきた。中国人たちは今までとは打って変わり慌てふためいていた。一つ、また一つと何かが落ちていく音。男たちの恐怖にあえいだ。ミソラも不安を覚えてなんとか周囲の状況を確かめようとした。
「──え」
人が倒れている。中国人の男たちだった。うめき声は倒れたときのもので、何かが落ちていく音は倒れたときの衝撃だったようだ。では何が起きているのか。リーダー格の男はミソラを羽交い締めにし、こめかみに銃口を当てて叫んだ。
「誰ダ! 動クトコイツヲ──!」
「無駄」
男のうめき声と共に、再び前触れのない沈黙が降りた。ミソラを羽交い締めした男の力がほどけ、拘束から開放される。ミソラは足から崩れ落ちるが、寸前で誰かの手が支えた。
「大丈夫……もう、大丈夫だから」
聞き覚えのある誰かの声。こんなに優しい言葉と噛み合わなくて、別人なのではと警戒してしまう。しかしミソラをそっと抱きしめる彼女のぬくもりに余計な力が抜けていった。
「よく頑張った。ここには、あなたを脅かす人はいない。……いまはゆっくり休んで、宗蓮寺ミソラ」
瞬間、全身に鋭い刺激がやってきた。ああ、やはり彼女だったようだ。疑問でいっぱいになる前に、ミソラは深い眠りへと落ちていくのだった。
眠らせたミソラを一旦木の幹へ預けたあと、女は森の向こう側へ目を向けた。無数の足音がこちらへ近づいてきている。
「──早く病院へ連れていきたいところだけど」
空中から降り立つときの衝撃で崩れた服を整えながら、彼女はひとりつぶやいた。
「邪魔者を蹴散らしてからでも遅くないか。準備運動にもちょうどいいし」
全身が凝り固まって仕方がなかった。何分、数ヶ月も塀の中で暮らしてきたのだ。また向こうはこちらの攻撃を警戒して手と指を何重にも拘束した。日常生活では食事は誰かのあーんでいただき、その他でも係員の手を煩わせてきたはた迷惑な受刑者だった。
それがいまでは全ての拘束が解除されている。首に嫌なものが装着されているが、手指が自由に動くのと比べたらまだマシだった。今日はいかんなく手指の──いいや、掌を使ったストレス解消に興じるとしよう。
それから向かってくる中国人たちを掌底で一突き、また一突きと倒していった。敵事態は脅威ではなかったが、ミソラの体調はいいとはいえなかった。このためだけに塀の中から呼び出され駆り出されたときは面倒だと思った。たとえある条件と引き換えにしていたとしてもだ。しかし、宗蓮寺ミソラの様子を見たらそんな感情は吹き飛んだ。ただミソラが可愛そうだ。
長い黒髪とゴスロリ衣装。少しばかり痩せた松倉リツカは端末で連絡をはじめた。
「救出に成功したわ。現場の雑魚はなぎ倒しておいたから、あとは好きにして」
『ごくろうだった松倉リツカくん。君を解放して正解だった』
「そりゃどうも。ていうか、早く彼女を回収しなさい。もうひどい衰弱。このままじゃ確実に死ぬ」
『了解した。そのままヘリで君たちを回収しよう。──それと分かっていると思うが、逃げようなどとは思わないことだ』
リツカはため息交じりに言った。
「私はそのときまで”生き抜く”と決めてるの。貴方こそ、私の扱い方を見誤らないようにね。今度はこちらが利用するかも」
『これは一本取られたな』
「こちらのセリフ。死刑囚を解放するなんて正気じゃないわ。私たちに負けて馬鹿になったの?」
ちょうどヘリが真上に到着し、タンカーと救助隊員がロープで降下してきた。
「でもちゃんと役目は果たすわ。──この子の救出と護衛。その間は束の間の自由を堪能するとしましょう」
ミソラがタンカーに載せられ運ばれていく。
何が起きてもおかしくなくなった今の世で、またしても少女に苦難が降りかかろうとしている。いいや、すでに起きてしまったというべきだろう。
移り変わる世の中を宗蓮寺ミソラが切り拓いていくのか、また絶望の只中に飲み込まれていくのか。
ミソラを回収し終えた後にリツカもロープに捕まり、ヘリへと運ばれていった。




