川西美和子、異世界人の兄に会います
よろしくお願いします。
「とりあえず、あの白衣の人、誰?」
私の渾身の質問により、白衣の人に皆の視線が集まった。
彼はこちらにひらひらと手を振っている。
皆気付いてなかったの? 私、見知らぬ人物を部屋にあげている状態なんですけど。
「あぁ、彼はジン。僕の兄さんだよ」
「え」
ケイの顔を見てはジンさんの顔を見る。それを何度か繰り返した。
うーん、見れば見るほど似ていない。
ケイはかっこよくもあり可愛くもある中性的な顔立ちの美人で、紫色の髪や目が綺麗。
ジンさんはきつめの目つき、さっぱりした黒髪の短髪、端正な感じの男前という印象だ。
にやりとした笑い方も男前だから許される。
「あんまり似てないね」
「うん。母親が違うからね」
「よろしくな」
おお! 声も渋めだ。
白衣に黒のカッターシャツを着ているイケメン。お医者さんか研究者だろうか?
「あんなのでも、一応医者なんだよ」
「だから白衣なんだね……」
「ううん。あれは私服らしいよ」
「え! ……そうなんだ。エレクタラって服装に流行とかがないのかな」
「いや、あれはエレクタラでも変だよ」
「……」
「……」
沈黙が訪れる。ちょっと変わったお兄さんの様だ。
私はここで話題を変えることにした。
「ケイは兄弟いたんだね。私、弟がいるんだけどお兄さんやお姉さんが欲しかったなぁ」
「そうなんだね。ふふふ。あ、僕と結婚したら上の兄姉が出来るよ?」
誰かのマグカップがゴトンっと音を立てた。
「……そうだね。検討しとくね」
「うん、嬉しい」
にこにこと屈託ない笑みを浮かべるケイに、私は内心冷や汗を掻いていた。
なんでこんなに平然と口説けるのか? このままではまたケイのペースに飲まれてしまう!
話題ってどうやって変えるんだっけ?
頭をフル回転させている私、とそんなことなど気にも留めずケイが「あ」と声を漏らした。
しめた! ここで話題を変えて、ケイのペースにならないようにしよう!
何でもない風を装って答える。
「ん? どうしたの?」
「このぬいぐるみ、この前の動物園の時の……」
「そうだよ。ケイにもらった子だからね、大事にしてるよ」
「良かった……でも、これ…………」
頬を緩めていたケイが、急に口をへの字にしてぬいぐるみを手に取った。
ぬいぐるみの首に巻かれた雫型のチャームが付いたネックレスを指で掬っている。
これはぬいぐるみにとってはネックレスだが、外してブレスレットとして身に着けることができるようになっている。
ケイは以前、これを私に着けて欲しいと言っていたので、そのことを言いたいのだろう。
「ごめんね。ぬいぐるみの首元が寂しくなるかなと思って外さなかったの。この子の方がきっとこの石が似合うと思うよ」
「そんなことないよ……ミワコが自分でしないなら僕が着けてあげる」
私がそう言うとケイは更にむっとして、ぬいぐるみからネックレスを外し、お茶請けにだしたクッキーについていた茶色いリボンを代わりに巻いた。
そして私の左手を取って自分の膝に乗せ、サッとブレスレットを着けてしまった。
「――うん、僕の思った通りよく似合ってる。これでぬいぐるみもオシャレだし、ブレスレットはミワコに着けてもらえる。僕はミワコに着けて欲しいな。ダメ?」
顔を近づけて上目遣いで「ダメ?」と聞かれると、断りずらい。
「これを見ていつも僕の事を考えて欲しいんだ。ね、お願い」
手を握って距離を詰めながら可愛くおねだりされる。う、ううううう。
――負けた。
「分かったよ。ちゃんと私が着けるね。くまさんはこのリボンにするから、だから、手を離してくれるかな?」
「……ありがとう。ミワコ大好き。とても似合ってるよ。可愛い」
手をゆっくり撫でられる。
ケイの指先は私の腕の上を手首の方へすすすっと下りてきて、ブレスレットを指に絡めて弄び、最後は指先にキスをする。
とてもナチュラルな対応で、まるで自分がお姫様として扱われているんじゃないかと錯覚してしまう程だ。なにこれ怖い。
「……」
ギャラリーの無言の視線が痛い。分かっている。私の顔も絶対真っ赤だ。
ダメだ。話を変えても甘くなってしまった。もう、何でだろう?
何で、このギャラリーがいるときに限って、こんなに甘いの?
これがわざとじゃなさそうなのが余計に怖い。
ケイは特に気にした様子もなく普通にぬいぐるみをテーブルに戻している。
前々からちょっと感じてはいたが、ケイはお付き合いの経験はなくても、女性の扱い方はスマートで思っていたより距離感が近い。
全体的にボディタッチが多いかもしれない。
「ケ、ケイ、て、離して? はずかしい、から……」
「ミワコ真っ赤。可愛い」
やっとのことで手を開放してもらった頃には、私はもう顔が熱くって、熱くって。
ケイは基本的に美形なので、顔を近付けられると心臓が凄く煩い。
火照った頬に両手を当てると、いつもより手が冷たく感じる。
「ミワコに毎日会えるの、嬉しいな。明日からはどんな話をしようかなって、考えられるのが幸せ」
ケイの周りにお花が飛んでいるのが見える気がした。
本当に幸せそうにそう言ってくれるので、なんだか緊張とかドキドキとか、もうどうでも良くなってくる。
私たちは言葉もなく暫くの間、にこにこ微笑みあいながら見つめ合っていた。
お互い沈黙は嫌いじゃない。特にケイの沈黙は重くならない。むしろ安心できる沈黙だ。
「2人とも、そろそろ1時間ですよ」
渉さんがこの時間の終わりを告げる。
「……分かりました。じゃあミワコ。また明日だね。今日はゆっくり休んでね」
「ありがとう。ケイもね。おやすみなさい」
「美和子さん。明日からの事なのですが、明日からはネックレスを媒介にしてもらっていいので、ケイくんの転移が美和子さんのネックレスに呼応して直接この家に来ることができるようになりますので、我々は付いてきませんから。何かあったら連絡してください」
エレクタラ組が転移していなくなった後、渉さんが明日以降の事を説明して、そのまま帰って行った。
今日聞けたのはケイの兄弟の話、ジンさんの話だった。初めて家族の話をしてくれたのがとても嬉しい。これからもいろんな話ができるといいな。
そして人前ではもう少しスキンシップを減らしてもらうようにしよう。
あれって素でやってるのかな? だとしたら随分な天然女たらしだ。
ぼんやりとベッドに置いたままの『キューピッドくん』を見る。
「やっぱりきてない、か……はぁ。私何考えてるんだろ」
画面に映るのはケイのアカウントだけ。
ケイからの【おやすみ】のメッセージに頬が緩むが、アキラのアカウントが消えたことに悲しみを覚える。
「アキラ……ケイごめん」
いつかちゃんと前を見られるようにしよう。
この毎日会える期間中はしっかりケイを見ることを頑張ろう。
ケイの気持ちに応えられるように頑張るから……少しだけ時間が欲しい。
私はそのまま落ちる様に眠りについた。
読了ありがとうございました!




