川西美和子、自宅に異世界人が来ます
よろしくお願いします!
昨日は疲れ切って眠ってしまった。
今日は平日で仕事があるのになかなか起きられず、暫くベッドの上でゴロゴロする。
昨日充電し忘れた携帯をチェックした。まだ80%はあるから大丈夫だ。
次に『キューピッドくん3号』を手に取った。
画面の電源を付けるとバッテリーが20%を切っていた。
相変わらず、どこに電力使っているのかわからないぐらいに『キューピッドくん3号』は、バッテリーの減りが早い。
これはどうにかして欲しいポイントだ。
10分ぐらいしてから、のろのろとベッドから這い出して出勤準備を始める。
作業をしながら、私はぼんやりと昨日のことを思い浮かべていた。
昨日は朝から晩まで本当に目まぐるしい1日だった。
朝方は、アキラのことでやたちゃん先輩に泣きつき、生涯未婚になりかけ、そうこうしていたらケイが助けに来てくれて……。
ケイに正直に不安を告げて前に進むことを決めた結果、彼は私を好きだと言って不安を解消できるように頑張ると言ってくれた。
そして会う機会が少ないからと、毎日夜に1時間会うことになったわけだが、展開が早すぎて心の整理が追い付かない。
思わず一人呟く。
「あぁ~。何故こんなことに……」
今も当然ながら、アキラの事を考えると、胸の奥がずきずき痛む。
そんな簡単に忘れられるなら苦労しない。
アキラに聞きたい事、言いたい事は色々ある。
しかし世界の違う私達は連絡の手段がなくなれば、もう二度と会うことは出来ない。
ケイも言っていたが、偶然街ですれ違うことなんて絶対ないのだ。
アキラがリーナさんと幸せになることを望んだのなら、私はもう何も出来ないし、するつもりもない。
元カレみたいに人の心は変わるものだから受け入れる。
むしろもともとアキラの心は、ずっとリーナさんのところにあったのかもしれないし。
出会ったころから何となく考えていた不安が現実になった、ただそれだけだ。
欲を言うなら、メッセージで一言だけではなく、説明してほしかった。
「……ほんと、私、ダメだな」
結局は応援すべきという理性や見栄に心が追い付かないでいる。
『あえ~る』のメッセージ画面にでてくるアカウントは、もう一つだけだ。
その画面に切なくなるが、過ぎたことはもう戻らない。
とりあえず忘れられなくても、今手元にあるものを見る。昨日そう決めた。
だがしかし、肝心のケイからの連絡はない。
連絡の頻度は落ちたままのようだ。
暫くは忙しいと昨日言っていたし、いろいろ大変なんだろうな。
仕事はいつも通りに出勤して、いつも通りにこなしていく。
パソコンに向かって献立を立てながら、今度はケイの事が度々頭をよぎった。
おかげで上司の貧乏ゆすりが気にならなくなって助かる。
ケイ自身がプライベートをあえて話さなかったのは何故なんだろう。
今日は何を話してくれるのか?
そこには、あのメッセージの違和感の秘密も含まれているのだろうか?
そもそも、昨日のあの流れで告白された事が衝撃だった。
例えもともと気持ちが透けて見えていても、言葉にするのとそうでないのは大違いだ。
ケイは本当にマイペースすぎる。
そして、昨日のケイを見て、ちょっとケイの性格を見誤っていたかもしれないと思った。
想像以上にぐいぐい来るタイプだったようだ。
まぁなんにせよ、帰ったら少しでもリビングを片付けよう。
帰宅すると約束の時間まで後2時間程あったので、ご飯を済ませ、少しでも部屋を片付ける。
リビングに放置していた雑誌を寝室に持って行く時に、寝室の本棚に飾ったぬいぐるみが見えた。
動物園に行った時にケイにもらったものだ。せっかくなのでリビングに連れて行こう。
ソファ前のローテーブルにぬいぐるみを飾った。
暫く片付けに没頭していると、ピンポーン! とチャイムがなった。ついに来たか。
出迎えると、そこには紬さんと渉さん、ケイ、セントさん、白衣の人、仲人さん。
もう少し人数減らして来て欲しかったな。家、狭いんですけど。
「美和子さん! お仕事、お疲れ様です。ケイさんお届けに上がりました~!」
紬さんがお茶目にウインクしながらケイを差し出す。
「あ、ありがとうございます?」
「紬。近所迷惑になるから少し黙ってて。美和子さん大人数ですみません。今回だけですので、別室で待たせてもらっていいですか? 明日以降は2人で会っていただいていいので」
「いいですよ。狭いですけど、どうぞ」
「ありがとうございます」
別室と言われたが、家には寝室とリビングしかない。結局全員リビングに入ってもらった。
夜なのでカフェインレスのコーヒーを出す。
ソファーにケイと一緒に座り、他の皆さんはリビングテーブルの椅子に掛けてもらった。
「昨日ぶりだね。ミワコ、今日の仕事はどうだった?」
「うーん。職場はいい空気ではないけど、何ともなかったよ。昨日色々ありすぎて、なかなか集中できなかったかも」
「そっか。悲しいことはなかったんだね。良かった。ふふ、仕事中も僕の事考えてくれたの?」
2人掛けのソファーに隣り合って座っているので、ただでさえ近いのに、ケイは顔を近づけてスッと私の手を握る。
「「「ぶっ」」」
ギャラリーの男性陣が噴出した音が聞こえた。
テーブルを見ると紬さんはキラキラした目でこちらをガン見しているし、渉さんは完全に空気を読んでいるのか視線を泳がせながらコーヒーを啜っている。
ケイの仲人さんはクールに茶菓子をつまんでいて、セントさんは般若みたいな顔をしているし、家にまで白衣で来た人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「ケイくん」
「なあに? 敬称付けるのヤダ……」
「う、ケイ、分かったからもうちょっと離れて。近すぎるよ?」
「…………分かった」
ケイは物凄く、渋々といった顔で体を離してくれた。
「私の話はいつでもできるでしょ。今日はケイの話をしたいな。聞かせてくれる?」
「うん。言えることなら。何が聞きたい?」
いざそう聞かれると、何から聞いていいのか分からなくなる。
しばらく考えていると、ふととても気になる事を思い至った。
「とりあえず、あの白衣の人、誰?」
読了ありがとうございました。




