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「へ?」

「ありがとう。ニーナ、私にこんなチャンスをくれて。きっと一人だったら無理だった」


 てっきり良い顔をされないと思っていたニーナは、あっさりと了承したメアリーに面食らってしまう。予想とは違い、真剣な面持ちでニーナたちの案に乗るというメアリーは、このチャンスを逃したくないと強く思っていた。


 葛藤がないと言えば嘘になる。大事な母の教えを破ることへの罪悪感もある。きっとここに母がまだいたら、メアリーは母の教えを守っていただろう。それでも母は、魔界に行って、連絡も無くまったく帰ってこない。


(私は、森の外の世界を見てみたい)


 それは、リヒャルトとニーナがいたからこそ思えたメアリーの新たな願いだった。メアリーがこの願いを夢見たのは、ついさっき。


 ニーナを見て感慨深くなっていた時だ。森の外へ憧れはあったが実際に出てみたいとは思わなかった。でも、ニーナやリヒャルトみたいな人に出会えるなら、魔女である自分と分かり合える人がいるなら、もっとその人たちと話してみたい。


 丁度、そう考えていたのだ。


「いいの?本当に?無理はしなくていいんだよ」

「無理してないよ。本当にそう思うの。私、街に行ってみたい」

「そう……それならいいの。私とバルデーさんがいるから安心してね」


 説得するのが大変そうと思っていたニーナは、メアリーのきっぱりとした決断に拍子抜けしつつも喜ぶ。二人が手と手を取り合うと、クッキーを食べ終わったパァウルがぴょんと二人の手の上に乗った。真剣な場面で空気の読めない愛らしい行動に二人は吹き出す。


「ふふ」

「パァウル、もうクッキー食べたの?早いねぇ」


 クッキーをもっと、とキュウキュウ鳴くパァウルにニーナとメアリーの緊張感は解け、ニーナはパァウルにクッキーをあげた。


 そんなことで、ニーナの決死の誘いはあっさり終わったのだった。


「実はニーナに伝えたいことがあるの!サプライズしようと思ってたんだけど、ニーナに先こされちゃったから」


 ニーナが一安心して少しした時、エミリーはこう切り出してしたり顔した。


「サプライズ?」

「うん。実は、あともう少しで魔眼の解呪出来そうです!」


 エミリーとニーナが出会ってすぐ、邪眼の解呪をしようとエミリーは行動してくれた。邪眼の呪いは、珍しく強力なため、呪いを打ち壊す魔法陣を探すことさえ一苦労で。

 メアリーの母親の書斎で、やっと見つけたと思ったらその材料は、珍しかったり希少で値段がとんでもなく高い植物と苦労を乗り越えては、苦労があった。珍しいものはニーナが必死に探して、希少で高い植物はパァウルが森で探してきてくれたり、植物自体が高いので種だけを手に入れたりしてメアリーが育てたりした。


 そして、もっとも難しいのは魔法の加減だ。魔素を取り入れすぎて体内許容魔素量のキャパシティを超えれば失明、または最悪死んでしまう。弱すぎては、反対に邪眼の力を強くしてしまい、精霊器具より邪眼の呪いが強くなるから精霊器具が使えなくなる。


 絶対に失敗してはならない魔素の調節は、その魔法、魔法陣によって調節が必要であり初めてその魔法を使う場合は、それなりの練習が必要となる。メアリーは、その練習をニーナのため毎日行っていたからこそ魔眼の解呪が可能になったのだ。


「本当!?」

「うん。もう100発100中、100連続成功したからニーナも大丈夫」


 魔素の量や質によって時々人は、病を患う。それを治していたのが魔女で、昔は魔女を医者がわりにしていた地域は多い。今は、忘れ去られたその風習は魔女を絶対的に信じているから身を任せるとも言えるだろう。

 特に、ニーナの場合は一生に関わる問題だ。もし失敗したら取り返しがつかない。医師だからこそ安心出来るわけではないが、自分より幼い魔女に一生を任せるのは、相当な覚悟がなければ出来ない。


「そっか。うん、じゃあ、メアリーの準備が整い次第解呪お願いしてもいい?」


 それでもニーナはお願いした。ニーナの楽観的な性格のせいでもあるのかもしれないがニーナは何故か成功することを確信していた。

 メアリーの100発100中という言葉が大きかったのかもしれない。


「次に会うときにお願いできる? 」

「勿論!」



 その後、二人はニーナが持ってきた材料でパウンドケーキを作った。

 小麦粉と卵、牛乳、砂糖、木の果実で作れるものだがニーナには難しかったようで悪戦苦闘しながら、メアリーはニーナが持ってきた作り方のメモを見ながらさっさと作る。


 初めは私を頼ってとばかりに得意げに説明をしていたニーナは最後はメアリーに教えてもらいながら、小麦粉を混ぜる。二人は、料理の経験値が違った。


「思ったより沢山出来たね」


 出来上がったパウンドケーキは、全部で8つ。気合いを入れて作りすぎたようだった。


「じゃあ、誰かに……バルデーさんにでも渡す?」

「リヒャルトさんに?そ、そうだね。確かにチョコレートのお礼もしたかったし。で、でも、甘いの嫌じゃないかな?もっと凝った食べ物の方が良かったり……」


 ニーナはリヒャルトにパウンドケーキをあげることを想像してソワソワしだすメアリーをにやにやと見る。


(ういのぉ。ういのぉ)


「大丈夫だって!腐っちゃわないように、私がバルデーさんにあげてくるからニーナはケーキに添えるお手紙でも書いて」

「うん、でも」

「バルデーさんなら、なんでも美味しく食べるって。メアリーからなら尚更ね!」

「そ、そうかなぁ。じゃあ、これとこれ」


 メアリーは、8つの中で出来が良い2つを選んで白い布に包んで、それにあった籠に入れた。その白い布には、メアリーの想いが包んであるようだった。


「なんて書こうかな?」

「さあ、バルデーさんならなんでも喜ぶよ。それより、私達は冷めないうちに食べよう?」

「え、うん。あとで、何書くか決めるの付き合ってね」


 ひとりの人にそんなに必死に、嫌われたくないって少しでもいいから好かれたいって思う気持ちが恋だと知らないメアリー。ニーナは、彼女の様子につい助言をしたくなる。それは、特別な好き、じゃないかと。だが、メアリーの行く末を考えたらそれはまだ言わなくても良いと思う。

 そもそもニーナに、女友人なんていなかったからこういう時どうすればいいのかも分からなかった。


 出来上がったパウンドケーキは、きっと恋の味がしただろう。















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