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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
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9 ターゲット

 魚たちの賑わいの中、ポリフェルに入り込むテル達。


 基本として魚人達は城の中でない限り警護なんてしていない。流石に城は入り口で変な魚人が入ってこないか警戒しているものだが、魚は基本としてフリーパスでもある。


 そういうわけですんなり潜入したテル達は街の賑わいの中を泳いでいた。


「すごい賑わいだな。みんな、はぐれるなよ」

「ああ」

「はい」


 テルはタコスと奈美の手を繋ぐ。苦内は基本として単独行動である。こちらを気にして動いているそうなので、共感能力のある奈美とテルがはぐれない限り、こちらの場所がわからなくなることはないだろう。

 しかし、テルは少し顔を赤くして手を握っている奈美に気づいた。


「どうした?」

「えっ!? いや、兄さんと手を繋ぐのは少し照れるなーって」


 そんな事を言われてもテルも困ってしまう。あまり女性と話した経験がないテルも、女性と手を繋ぐなんて大層な事は照れるのだから。だからあまり意識しないようにしていたのだ。


「変なこと言ってないでいくぞ。俺はあまり共感能力は強くないんだから、はぐれると俺が困る」


 そう、奈美だけであれば実は困らない。苦内と合流してもいいしテルと合流してもいい。いざとなったら奈美の戦闘力なら多少の荒事なら切り抜けられるだろう。


 しかし、テルは発信できても受信できない。

 兄弟達の大体の居場所も分からなければ考えも分からない。さらに言えば偵察のため武器を持って来ていないテルはタコスよりマシという程度であろう。


「わかってるぅ」


 ノリのいい奈美が腕を組むと、一緒に歩き出した。

 逆に引っ付かれても困るテルであったのだが。


 しばらく進むとポリフェルが賑わっている理由がわかった。

 確かに元から賑わっているようなのだが、今日は浮かれているのである。その理由は戦勝祝いであった。

 そこかしこでボンジモを讃える声が聞こえてくる。

 それも長い間、まともな死者の出る戦争がなかった地域での戦争の話である。


 これがボンジモの負け戦であるのならば、一転してお通夜の空気となったのであろう。しかし、勝ち戦である。世間はいかに勇猛なボンジモが華麗に戦ったかということで持ちきりであり、奪った物資が売りに出され、金を持った一般兵士が浮かれているのだ。

 そりゃあ喧嘩の声がそこかしこで聞こえるというものである。血気に猛っているのだ。


「肩身がせまいな」

「そうですね」


 タコスとテルが肩をすくめる。カララトが勝って嬉しいのなら、その逆、タコス軍は悔しいのも事実である。

 と言っても元から体が慣れる前に戦いになれば逃げるのがわかっており、物資も届く目処が立っている今、タコス達も逆襲の機会を狙っているのである。

 わかりやすくいうなら「今に見ていろ」というやつであった。



 そんな時、大通りの向こう側。ポリフェル城の正門が開いて人々の歓声がわっと響いた。


「な、なんです?」


 奈美が驚きの声を上げる。人々の視線を見るとその視線はある一点を見つめていた。


「コノワタ様だ!!」

「コノワタ様が来られたぞ!!」


 ざわざわと人々がざわめく。しかし、人がひしめき過ぎていてその姿は全く見えなかった。

 タコスがスッと軽く下を見つめる。

 一体コノワタとは誰なのか。少なくとも前の戦いには出て来ていなかった。前の戦いに出て来ていたのはカララトの支配者の一番魚人でありボンジモである。コノワタという名前ではない。


 ではこの人気はなんなのか。


 不思議がるテル達が立っていると人々がザザっと、それこそ潮が引くように一斉に跪いた。

 周りの魚人達が全員跪いたおかげでテル達にもその人を見ることができた。


 コノワタと呼ばれる男は大きな大きな絨毯にあぐらをかいて乗ったまま、宙を泳いで来ていた。その周りを警備の魚人達が囲んでいたが、その絨毯に乗って宙にいるためよく見えた。

 よく見ればその絨毯は尻尾があった。

 大きな大きなマンタである。

 テルは人間の時を含めて初めて見たが、ヒラヒラしていてとても優雅だった。


 対して、上に乗っているコノワタという人物はでっぷりと太っていた。

 目も線のように細くなっており開けているのか閉じているのかも分からない。肌は黄色くて表面はゴツゴツしていた。しかし、着ている服は立派なものでとてもちぐはぐな印象を受けた。


「とてもすごそうな魚人に見えませんね」


 テルは太っていることから戦闘系の魚人ではないと思った。しかし、内政向けの魚人でもここまで太ることも難しい。そもそも海中では常に泳いでおり、ひきしまった体になるならともかく、でっぷりと太るのは難しいからだ。


「魚人に見えない? そりゃあそうだろうな」


 テルの言葉に答えるようにタコスの言葉が聞こえる。テルが隣を見るとタコスは顔を上げていた。その顔には野生の戦闘欲むき出しの、純粋な好奇心がいっぱいにあふれており、剣呑な犬歯が牙のように口から顔をのぞかせていた。


「あいつは支配者だ。このカララトを支配する支配者、コノワタだ」


 そのタコスの言葉にバッと振り向くテル。

 そこには正に、戦うべき敵のボスがいたのだ。よく見れば周りにはいつだか見た橙と白の縞々の魚人。ボンジモが5人勢揃いで護衛に当たっていた。


「あれが、ここの支配者」


 前を泳ぐマンタに乗っている支配者の堂々とした姿に威圧されるテル。なるほど、合点がいっていた。

 コノワタという魚人は聞いたことはない? それはそうだ。そもそも魚人ですらなく支配者なのだから。

 讃えるならボンジモではないのか? そもそもそのボンジモが仕えているのがコノワタである。この場合、讃えるのはコノワタでもボンジモでも同じような意味を持つ。


 そこまで考えてふと、テルは疑問に思った。


「タコス」

「なんだ?」

「なんでお前はコノワタを知ってるんだ?」

「俺様がアーラウトに赴任する時、どうやったってこの海域を通る。その時に挨拶したからな。顔は覚えてるんだ」

「向こうも覚えていると思うか?」

「覚えているだろう。そこらへんの魚人どもではなく俺様は支配者だぞ? たとえ少々鼻つまみ者扱いされているとはいえ」

「そうか」


 テルはコノワタを見ていた。

 ………コノワタもこちらを見ていた。

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