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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
6/25

6 撤退

 押し寄せる敵の軍団に、味方は否応もなく一心不乱に逃げ出した。

 それはもう見事な逃げっぷりだった。

 追撃してくる軍団を見るやすぐさま逃げ出したのだ。逃げ切れるはずだった。


 しかし、暑さにより疲弊しているタコス軍はすぐに追いつかれそうになる。


「くそっ!」


 仲間を誘導していたテルは、槍を持ち襲いかかってくる敵の軍を追い払う。迫り来る槍をすんでで躱してカウンター気味に槍をつき入れる。


 ズカッ


 相手の喉に突き刺さりうまい具合に即死してくれる。しかし、敵はまだまだ襲いかかって来ていた。丁度ティガもおりなんとかゆっくりと逃げているが、味方を援護しながらなのでどうしても敵に襲われてしまう。

 また、ティガも体調不良は変わらず、どうにもスタミナ切れの感じが否めない。


「ティガ、無理はするな! 逃げるのに邪魔なやつだけを払い除けろ!」

「ああ! やってる!!」


 ティガの声に苛立ちが混じる。

 どうしても体の限界に近づくと、心も余裕をなくしてしまう。

 その時、テルの隣にいたタコス軍の兵士が大きく吹き飛ばされた。


 バキィ


 とっさに身構えるテルとティガ。吹き飛ばされた兵士は、首の骨が折れ即死だった。それぐらい強い衝撃だったということだろう。


「おいおいおいおい、脆いな。もろすぎるんじゃないのか?」


 声の方を見ると、そこに150cmくらいの小さい男がいた。橙と白の縞模様をした服を着ており、やけに砕けた口調で語りかけてきたそいつだが、侮れない敵であることは先ほどの攻撃が物語っている。

 そいつは先ほどの兵士がいたところに立っていた。だが、その位置には殴られた音がするまでそこには敵がいなかったことはテル達がよく知っている。


「おいおいおい、ぼーっとしてんなよ」


 テルの肩を『後ろから』叩かれる。気がつけば目の前の敵が消え、後ろに回り込んでいた。

 テルの背筋に冷たい殺意が奔る。


 ブンッ


「あーらら、外れちゃった」


 テルが反射的に体をかがめると、頭の上を拳が通り過ぎていった。先ほどの兵士が死んだ拳の威力から察するに、超スピードで動き回っていると思われる。それもテルが捉えられないようなスピードだ。

 テルが身構えてすぐに動けるようにしていると、すぐ横のティガが真横に吹っ飛ぶ。

 ガードの上からであり、決定的なダメージを受けてはいないが。


「これじゃ攻撃を当たらん!」


 ティガの言い分も最もである。

 ティガも高速移動をしているということまではわかるのだが、目で捉えられないので攻撃のしようがなかった。またもやテルが見ている前で消えたのだから。


「おらおら、観念しなっ!」


 縞模様の魚人をテルが睨みつけているとやはり殺気を背後から感じた。


「危ない!」

「フーカっ!?」


 それと同時にさっきまで周りにいなかったはずのフーカが敵とテルの間に滑り込んだ。とっさに目でフーカの動きは追えたものの、止めるには間に合わなかった。


 ガッ


 フーカはテルを抱きかかえたまま弾き飛ばされる。サメ肌のおかげでダメージはだいぶ抑えられたようだが衝撃までは逃せないはずだ。


「痛ってえ! なんだこいつ! ヤスリか!」


 殴った敵の拳が軽く血を出している。フーカのサメ肌にやられたのだろう。迂闊なフーカへの攻撃は自分へのダメージになる。やはり驚異の0歳児であった。


「フーカ! 大丈夫か!?」

「平気、大丈夫」


 先程兵士が首を折られ吹き飛ばされたのだ。

 その威力にテルは心配になって声をかけるが、何事もなかったようにフーカは顔を上げる。テルはフーカをかばうように前に出て、次の攻撃を気にしながら敵を睨みつける。そんなテルの手にフーカの手が重なる。


「テル。敵はそこだけじゃないよ」

「何!?」


 フーカの言葉に驚くテル。敵を見ると肩をすくめてみせた。


「チッ。姿を見せすぎちまったか。本当にただの女じゃねーな」


 その言葉に合わせ、姿をあらわす5人の全く同じ姿の敵。ティガも驚き、テルの方へ警戒しながら合流する。

 それを追撃する様子もなく笑う敵。


「「「「「カララトの支配者様の1番魚人。ボンジモ様の攻撃を見切ったのはお前が初めてだ。」」」」」


 そこには5人のボンジモがいた。

 タネが割れればなんてこともない。元から5人いて、砂の中を移動して出たり引っ込んだりしていたのだ。

 しかし、5つ子なのか息がぴったりであり、見破ることはできなかったのだ。


「フーカ、よくわかったな」

「離れて見てたから」


 テルとティガはボンジモに近すぎてわからなかったが、遠くからならわかるカラクリだったのだろう。しかし、カラクリがわかったところでやはり不利は不利だった。

 敵は5人いて、こちらは3人でしかも体調が悪いのだから。


 しかし、時間は稼いだ。

 味方はだいぶ逃げている。逃げ遅れつつあるテルはフーカの握っている手を強く握り返し、ティガに目配せする。ティガもわかったのか頷くが、ボンジモにも伝わってしまったようだ。


「おうおうおう! 逃すとおもうか!?」

「行くぞ!」


 追いかけてくるとわかっていても逃げるとなれば今しかない。このままではテル達は敵に完全に包囲されてしまうからだ。

 ボンジモの手がテルをつかもうとするがすんでのところでするりとかわす。

 よく考えればボンジモが超スピードであれば、テルがボンジモの攻撃を避けられるはずはないのだ。ティガの防御が間に合ったりするはずがないのだ。

 どうやら暑さによる頭痛と吐き気で考えが邪魔されているらしい。

 フーカを先頭に、ティガ、テルと続いて必死に逃げる。


 瞬発力ではテルの方が優っており、翻弄しつつ逃げるテル達。そこに追いすがるボンジモだったが、


「くそくそっ! お前ら邪魔だ!」


 カララト軍の群れがテル達の逃げ道に転がっている荷車に群がっていた。

 荷車の正体はタコス軍の食料や物資だった。それを略奪しようとボンジモ軍の兵士が群がっていたのだ。


「でも、これだけの品ですぜ」

「勝った後でいくらでも分配してやる! 今は追撃しろ!」


 そこらの兵士の言葉にボンジモが叫ぶがもちろん嘘である。

 戦争で手に入れた物資は基本的に大将や軍の持ち物とされる。だから、大将が手に入れたもののほんのごく一部を兵士に分配する可能性よりも、自分の手でしっかり確保する方を兵士達は選んでいたのであった。

 そして手に入れた物資を売ればそれは個人の財産になるのだ。手を止める兵士はいなかった。


 これがもし、物資が少なければ兵士たちも追撃していただろう。しかし、そこにはタコス軍のほとんどの物資があったのだ。


「ベーモン殿はきっちりと物資を捨てて逃げてくれたようだな」


 テルはタコス軍補給部隊長の少し小太りな魚人を思いだし、感謝したのだった。

 こうしてテル達はかろうじて敵から逃げだせたのだった。

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