5 ボロボロの行軍
カララト海域に向けて軍団を進めていると、斥候部隊のワドワルドがタコスに声をかけた。
「ここから先がカララト海域となります」
「よし、周りに気を配れ」
タコスの指示でゆっくりと進んでいた軍団は、さらにゆっくりと進み始めた。
テルたちはあれから12日をかけてカララト海域に来ていた。軍団としての食料はまだ半分以上残っており、槍部隊を先頭にじっくりと進んでいた。
それまで快適に過ごせていた軍団だったが、カララト海域に着いた瞬間、違いがはっきりとわかった。
明らかに海水温が違うのだ。まだアーラウト海域に近いので我慢できるが、離れれば離れるほど海水温が高くなっていくのがわかった。
そして暑くなればなるほど吐き気とめまいがぐるぐると頭の中を回り始め、足取りもフラフラと怪しくなる。
「うわ。確かにこれはきついな」
「テルさん。流石に自分、胃液はいらないッスよ」
テルのフラフラした頭に呼応するようにノエの言葉が口から出てくる。しかし、ノエの言うとおりで一部の魚人は胃液を吐き出していた。
海水温の違いというのを忠告されていたが、ここまで違うとは思っていなかったのだ。
「いま敵に襲われたらおしまいだな」
「そういう不吉な言葉は言わないのがいいッスよ」
流石にこの世界に来てまでフラグなんてのはないだろう。
フラグというやつはあれである。
ケーキが落ちるときはクリームから落ちたり、殺人事件でわしは帰るといった人がターゲットにされたりというやつである。押すなよ押すなよ、というと押されるアレである。
ただ、ジンクスというのはどこの世界にもあるのだろう。
辺りを見回すと砂浜地帯であった。
岩やサンゴが豊富なアーラウト海域とは景色すらが全く違う。
砂の山に海藻がまばらにぽこぽこ生えている程度である。揺らぐ視界と相まってそれはさながら海の砂漠であるといえた。
「しっかし、これは慣れれば楽になるものなのか?」
テルのつぶやきに答えてくれるものはいなかった。
みんな吐き気と頭痛に耐えながら行進しているのだ。
テルもまた、しばらくすると暑さにより黙々と行軍に加わった。
早い段階で休憩を繰り返し、休み休み移動したおかげで夜にはだいぶんマシになった。
しかし、依然として体は弱っており力がなかなか入らなかった。
また、熱帯夜と言わないがなかなか寝付けず、次の日には寝不足もあわさって余計にフラフラとしていた。
そしてそれは2日目よりも3日目、3日目よりも4日目とひどくなり5日目には疲労はピークに達していた。
「これじゃ戦争にならないぞ」
テルは少し離れているタコスのところまで泳いでいって進言した。タコスもそれは薄々わかっているのだろう。しかし、このカララト海域を超えなければ世界征服など夢のまた夢。それもやはりわかっていたのだった。
「ここの地域特有の種類以外の魚でも慣れれば温度に適応できることは証明されています」
一二三が暑さにへばりながら、タコスの代わりに答える。それは、商人がカララトとアーラウトを交易していることからもわかることだ。しかし、暑さに慣れている商人と暑さにまだ慣れきっていない軍人では慣れるまで時間がかかるだろう。戦えるまでの体調になるにはさらに時間がかかるだろう。
「保険も一応かけてはいますが…」
「それまで敵が大人しくしているか?」
一二三の言葉にテルがそう言ったとき、砂山の奥から大きな喚声が聞こえて来た。
「「「「「おおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」
それは地鳴りのように響き渡りこちらに向かって来ていた。色とりどりの色をした魚人たちだ。
数はパッと見ではこちらと同じくらいの数である。しかし、こちらは体調不良。向こうは元気はつらつだ。
「よし! 全員、手筈通り」
タコスの元気な声が響き渡る。
「撤退だ!!!!」
内容はなんとも情けないものであったが。




