4 戦闘準備
テルは部屋に戻ると装備を点検した。テルの槍は以前使っていたものとは違い、なかなかにいい槍に変えられていた。
主に攻撃より防御に主眼を置いて作られたテルの槍は、折れにくいサンゴを選んで作られており、滑り止めとして海藻がまかれていた。
握り具合を確かめてからテルはステータスと念じる。
テル
職業 イワシLV99
マーマンLV8
マーランスLV12
マーボーLV5
装備 ノエ
これは他の魚人には見ることは出来ず、テルにのみできる能力のようだった。
他の魚人の能力を見ることも、他の魚人に見せることもできない能力である。
タコスやノエに聞いても知らないようだし、魚人の能力について書かれている資料を読んでみてもステータスについては何も記載されていなかった。
そもそもテルがこの力に気づいたのは魚だった時である。魚人になったときに新たに獲得した力ではない。タコスが知らなくて当然であった。
わかったことは、このステータスで見えている職業レベルは目に見えてはいないようだが、誰もが持っているということだ。
第一に、魚人にジンカするときだが、すぐに魚から魚人になるより鍛錬をしてから魚人になったほうが能力は伸びるという。これはテルにとって都合がいい。テルはイワシというくくりではこれ以上ないレベル99でジンカしている。
影響は微々たるものだが、他の魚人よりも少し小回りが効くようだ。もしくはジンカしたときの個性、という可能性もあるがそれを考えると何も決まらない。
次に、同じ魚人でも多くの武器を扱った方が最終的には強くなれる、らしい。これは城の文献に書いてあったことだが、
昔、槍を極めたと言われる魚人2人のうち、片方が軽く剣も修練したら僅差だがそちらの魚人の方が強くなった、という昔話があった。
これは今のテルの職業にあるマーマン、マーランス、マーボーに当たるだろう。
これらを鍛えれば今よりも強くなれると思われる。
しかし、マーマン、マーランスはいいとしてもマーボーはなんなのかわからないが。マー棒だろうか? もしかしたら豆腐や春雨かもしれない。
そもそもテルはレベルをもう過信しなくなっていた。
イワシ時代に慢心を打ち砕かれているからだ。マーマンなどジンカ後の職業はレベルが上がりにくいのも、それに拍車をかけた。
体を鍛えることは悪くはないが、それが目に見えるからと過信をしていると手痛いしっぺ返しを受ける。魚人になってから忘れがちになるが世界は弱肉強食。
気を抜けば死んでしまう野生なのだから。
「これで十分かな?」
「いいんじゃないッスかね」
テルが自分の机に必要そうな装備をまとめ終わると、口の中からそれをみたノエが応えた。
そういえばとテルはノエに尋ねる。
「忘れてたがお前も何か必要なものはあるか?」
テルの言葉に「忘れてたんスかー」とつっこんだノエは少し考えて
「じゃあ美味しいご飯を少しお願いするッス」
と答えた。ご飯とはいえノエのご飯はテルのご飯の横取り分である。つまりはテルの持って行く食事をもうちょっと豪華にしろということだ。
戦争にいくのである。
戦争での移動は何日も移動するため、美味しくはなくとも腹持ちを重視するのが普通であった。
あまり贅沢な食事は持って行けそうにないが、食事くらいしかノエは娯楽がないのも事実であった。
「そうだな。日持ちはしないだろうけど、白パルをいくつか持って行こうか」
「たはは。悪いッスね、テルさん」
そういってテルの口の中で笑うノエだった。
「うーん」
装備の整理をして部屋を出ると、装備支給室で困っているフーカが見えた。
フーカの前には軍支給の服がいくつか並んでいる。重そうな鎧から軽い革の上着まで様々なものがあった。
気になったのでテルはフーカに聞いてみた。
「何を迷ってるんだ?」
「あ、テル」
フーカがテルに気づいて嬉しそうな顔をする。
そして再び鎧たちをみながら首をかしげる。
「どれでも支給しますってきたんだけど、どれを選べばいいかわからなくて」
「そうか?」
テルも一緒に見る。
鎧は肩まで貝などで覆ってあり防御力がたかそうだ。しかし、フーカの戦闘スタイルは素手である。動きを阻害する鎧はフーカの長所を潰すだろう。
革の服は防御力は弱いが動きを阻害しないため、素手で戦う者には人気である。そこまで考えてから、ふと視線をフーカの方に移した。
「? どうしたの?」
そのフーカの前にはとても大きい山が2つほど存在していた。テルは暫く考えてから、
「この革のジャケットにしとくか。入らないかもしれないし」
「うん? わかった」
わかってなさそうなフーカにジャケットを渡す。わかってもらっても困るのだが。
そもそもフーカはジンカしたときに魚の特徴を引き継ぎ、『サメ肌』を受け継いで魚人となったのである。
オンボロな槍ではフーカの肌に傷1つつけられない、どころか下手をすればそのザラザラした肌で槍の方が削り取られてしまうほどであった。このサメ肌こそフーカ最大の防御であり、武器であった。ティガと互角に戦えるのも納得である。
フーカは嬉しそうにジャケットを抱えてテルを笑顔でみた。
「選んでくれてありがとう、テル」
そんなにたいそうなことはしていないつもりではあるが、とても喜んでいるようなので水を差さず、テルは返事がわりにひらひらと手を振って残りの仕事を片付けに執務室へと向かって行った。




