19 フーカの戦い
フーカはポリフェル城の前までタコス軍と一緒に進行していた。
今度の戦いの目的は、戦闘したらある程度戦って逃げることである。
今度は部隊の食料も必要最低限である。食料部隊は魔法部隊に同行している。
また、フーカのもう1つの目標はテルと出会うことである。
もう5日もあっていないのだ。今すぐ飛び出してテルの元へと会いに行きたい思いをぐっとこらえて、フーカは今戦いに向かっている。
テルはタコスの1番魚人である。その1番魚人と一緒に暮らしているフーカがそんなワガママを言ってはきっとテルに迷惑がかかるだろうとフーカは考えていた。
フーカはテルに認められたいのである。決して困らせたいわけではなかった。
だから、今もぎゅっと我慢して進軍している。
苦内の言葉もある。信頼している苦内お姉ちゃんの言葉を信じてフーカは進軍しているのであった。
「前方に敵兵です!」
斥候部隊が一二三に告げる。一二三は大きく頷くと全軍に伝える。
「敵を引きつけるためにまずは一度ぶつかり合う! その後説明したポイントへ向かうこと! そこからが本当の戦いになる! では全軍、突撃!!」
その指令に全軍が進んでいく。それを見て一二三はフーカの元へとくる。何か命令があるのかとフーカは一二三の言葉を待った。
「フーカには敵の大将が現れた時に対応を頼む。1人で無理そうならティガと共同で戦っても構わない。しかし、逃げるときはフーカ1人で引きつけなければならない。ティガには部隊を指揮してもらわなければならないからな。……できるか?」
「まかせて」
フーカは頷くと敵の中に突っ込んでいった。
ボンジモは驚いていた。
以前とは比べ物にならないくらい敵が強かったからだ。しかし、それはそうだろう。前回は暑さのせいでまともな働きができなかったタコス軍なのだ。
いまは暑さにもある程度なれており、戦うことのハンデはほとんどなかった。
「おおおおおお!!!!!!」
以前逃げ腰だったティガがカララト軍の兵士を容赦なく吹っ飛ばしている。拳が敵の防具ごと骨をへし折り、体を波に浮かぶ葉っぱのように浮かばせていく。
ティガの周りのカララト軍は戦意を喪失している部隊もいるようだった。
急いでボンジモはティガの正面に回る。戦いとは勢いであり流れだ。勢いがタコス軍にある以上、そのまま流されるわけにはいかない。そこを耐えて押し切れば今度はカララト軍が有利になる。そのためにもティガと戦えるボンジモが前に出るしかないのである。
「ようよう。調子に乗ってくれてるじゃないの!」
「来たか!」
バンバン!!
お互いの拳がぶつかり衝撃が広がる。
ティガの背丈の方が大きいが力強さはボンジモの方が上である。どうやら魚人である経験は圧倒的にボンジモの方が上であるようだった。その上
ざっ
「おいおいおい、俺たちのことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
ボンジモは5体いるのだ。背後から襲いかかる拳に、受けに回るティガには攻撃の手段がない。避けて受け止めて、受け止めて避けて。
徐々に受け止める回数が多くなっていく。
「そらそらそらそらそら! 動きが遅くなってるぞ!」
襲いかかる拳を拳で止めるティガ。実際押され気味なのは確かだし、避け切るにも限界はある。と、動きを止めたティガの目の前のボンジモが吹っ飛んだ。
バキィッ
「おい、大丈夫か!」
「チッチッ、気をつけろ。あの女も来やがった」
「……フーカ、来たか」
「遅くなってごめん」
フーカが横から殴り飛ばしたのだ。ボンジモも目の前のティガに注目しすぎており気づくことができなかった。ティガもやりてなのだから油断ができるわけでもない。
ティガとフーカ。2人揃うとボンジモも中々手が出せなかった。得意の砂の中に潜る戦術もポリフェル城に近づきすぎた現状、周りはサンゴがあり潜ることができなかった。
しかし、周りはそうではなかった。
最も強いティガとフーカを抑えているのだ。後の戦いは数で決まる。元々数はタコス7700人とカララト8500の差がある。
隠してはいるがタコス軍はさらに魔法部隊がいない。実際は6900人しかいないので余計不利なのだ。
「撤退だ!!」
ゲールラ将軍指示を出すと紫の煙がタコス軍の中から立ち上る。
撤退の合図である。
すぐさまタコス軍は決められた方向に向けて踵を返した。
ティガもすぐに撤退を開始する。ボンジモはその気配を感じ取ってすぐさま後ろに回り込む。
「けっ、させるかってんだ」
そのボンジモに向かいフーカが突撃をかける。体ごとの突撃に邪魔をしていたボンジモも流石に体を避ける。
ブウンッ
轟音が鳴り響き、ボンジモも戦慄を覚えた。その隙にティガは部隊に戻り撤退を開始する。
ティガはフーカにも撤退を促す。
「フーカ! お前も逃げろ!!」
「わかった!」
「させないって」
ボンジモの1人がフーカの体に蹴りを食らわせる。
「いってんだろおおぉぉ!!」
「う、ぐう!」
ボンジモの蹴った足もダメージを受けるが、逃せなかった衝撃にフーカもダメージを受ける。
その間にボンジモは全軍に指示を出した。
「全員、追撃しろ! 奴らを逃すな!!」
それはボンジモの主君、コノワタの指示であった。コノワタは異常なまでに敵のタコスを恐れている。その恐怖をなくすのがボンジモの仕事であった。
カララト軍は逃げ始めたタコス軍に追いすがる。今回は前回のように食料や物資がないのだ。今回も何か得られるだろうと必死になって追いかけ始めたのだ。
ボンジモはフーカの状態を確認し、フラフラしているのを見て、ダメージを受けていることを見抜いた。さすがにボンジモの攻撃を完全に防げるほど、フーカの『鮫肌』も万能ではなかった。
そして、それを見逃すボンジモでもない。
「勢いをつけて攻撃を当てるんだ! 向こうの方がダメージがでかいぞ!」
「やいやいやい、手間かけさせやがって!」
ぐるぐると周囲を旋回し出す5人のボンジモ。泳いで逃げ続けるフーカの周りを回りながら追いかけ続ける。
「フーカぁ!」
「いいから逃げて…!」
ティガが心配して戻ってこようとするのをフーカは声で制する。
その最中でも十分な勢いを乗せたボンジモが1人、また1人とフーカへと突撃をかけてくる。
ティガが戻って来てはいけないのだ
ティガはその強さゆえに今はいくつかの部下を率いている。ティガが戻ってくるということはその部下を危険に晒すことと同意だ。それは作戦に反することとなる。
フーカはガードを固めながら逃げ続けていた。時には生えているサンゴを盾にしたり、攻撃を避けながら進んだり。しかし、フーカの戦い方は基本的に自分の才能に頼っている部分が大きい。
ティガのように後ろからくる魔法に気づいて防いだり、ということはできないのだ。多少の攻撃であればフーカの体には傷1つつかないだろう。
だが、相手はカララト軍の1番魚人、ボンジモである。その全てがフーカ1人を狙っているのだ。もう、そんなにもつものでもなかった。
(でも私は頑張れる。きっとテルは待っていてくれるから)
フーカの顔にボンジモの拳が当たる。
吹き飛びながらもなんとか態勢を立て直し、フーカは泳ぎ続ける。正面から蹴りが飛んでくるのが見えて、手をクロスさせて防ごうとするフーカ。
しかしそれはフェイントで、後ろからの蹴りに前につんのめるフーカ。口の端から血が流れ出る。きっと口の中を切ったのだろう。
フーカは自分の血の匂いと味に、クラクラとする。
(まだ、だめ)
避けることも防ぎきることも敵わない状態でフーカは泳いだ。もう少しでたどり着くのだ。そこで待っているテルのためにフーカは泳ぐことだけはやめなかった。
「!」
ついに大悪魔の口まで泳いだフーカ。しかし、遅れて来たからか周りにタコス軍はなく、崖のようになっている場所はサンゴもない砂地のみの殺風景な場所であった。
「観念しろ」
後ろからボンジモの声が聞こえ振り向くと、カララトの大軍が控えていた。
ボンジモが正面から歩み寄ってくる。
「ここまでよく戦ったと言いたいが、ここが貴様の墓場だ。ここは大悪魔の口。もう逃げも隠れもできんぞ」
にじり寄るボンジモから離れるように後ろに下がるフーカ。きつく睨む目は金色の美しい瞳であった。
ボロボロのフーカはキッと敵を強く睨む。
「それはこっちのセリフ。観念するのは貴方達。テルはきっと貴方達を倒すわ」
そういうとフーカはふっと柔らかく微笑んだ。
「約束してもいい……」
そのまま身を翻すとフーカは身を乗り出した。崖に向かって。とっさに手を伸ばしたボンジモが捕まえようとフーカの服を掴むが、その服がするりと脱げる。
それを選んだのはテルであった。
革のジャケットは前を止めていないため、フーカの体はボンジモが止めることもできず大悪魔の口の中へ飲まれて行った。
「くっ……敵ながら、なかなかやる」
大悪魔の口というのは伊達ではないのである。
ボンジモ達熱帯魚がその崖から飛び降りれば体の自由が効かなくなり、動けないまま徐々に体は沈んでいき最後には飲み込まれで消えて行く。そうやって沈んでいった魚は決してこの崖から這い上がってくることはない。だから、ボンジモ達カララトの住人は決してこの大悪魔の口に近づこうとはしないのである。
ボンジモは大悪魔の口を覗き見る。敵であるとはいえあれほどのボンジモの攻撃を防ぎ切ったのだ。それは十分に賞賛に値する行動であったのだ。
それを惜しいと思わずになんと思えというのか。
そう思いのぞいたのだが、その目には信じられないものがあった。
白い服を着たフーカをしっかりと抱き止めている魚人の姿だったのだ。
それは以前ボンジモ達の攻撃をすんでのところでかわしていた目障りな魚人。
力は明らかに他の2人の魚人よりも劣っているのに、なぜか倒しきれなかった魚人だった。
その魚人はにっと笑うと叫んだ。
「反撃開始だッ!!!!」
テルは強い思いを胸に、叫んでいた。




