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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
14/25

14 反撃ののろし

 それから数日間はテルは訓練に勤しんだ。

 奈美やほかの薄い魚人達と組手をして疲れなかったら1日の終わりにエルエイルの電撃を食らう。疲れ切っていてもやっぱり電撃を食らっていた。


 たまにタコスが来て笑うこともあった。


「兄さんはおかしくなったのかしら?」

「テルは昔からあんな感じだろう?」


 奈美の落胆した言葉が耳に痛かったが、タコスの言葉はより耳に痛かった。あまり昔から進歩してないということなんだろうな、とテルは訓練に集中した。

 エルエイルのアイアンクローを左手で受け止める。それと同時にバンっという音とともに左肩から先の感覚が吹き飛ぶ。物理的になくなったわけではないし、時間をかければ元に戻る。その隙に右手に持った棒ですかさず反撃を試みるも


 どん

 ガシッ


 片手で突く棒ではエルエイルを弾き飛ばす力もなく、あっけなくテルはエルエイルの残った手で頭を掴まれる。そして


 バンっ


「ご………あ」


 あっという間にフィニッシュである。数回手合わせをした頃にはもうテルはエルエイルに叶わなくなっていた。なぜならテルの攻撃程度ではもう、エルエイルの筋肉を突破できないのである。


 筋肉と脂肪の織り混ざったエルエイルの肉体は衝撃に非常に強い。刃のついたヤリならば斬り裂けるのだろうが棒では100回やっても勝ち目はない。近頃ではテルとの戦いではエルエイルの目は戦闘態勢を取らないくらいである。実力差がありすぎた。


「流石にこれ以上はお互いのためになりません。もうやめにしませんか?」


 エルエイルの慈しむ目が嫌で、棒を残った気力でエルエイルのアゴめがけて突き出した。それをエルエイルは手で防ぐ。


「練習じゃ俺は死なない。俺はまだ生きている。っていうことは何かを得ているんだ。無駄じゃない」

「……そこまでいうのであれば、止めはしませんが」


 エルエイルはため息をつく。エルエイルとしてもやりがいのない戦いはつまらないのだろう。そこはテルも申し訳なく思っているのだが、付き合ってもらうしかない。


 テル

 職業 イワシLV99

  マーマンLV12

  マーランスLV14

  マーボーLV8

  電マーLV12

 装備


 電マーもいい感じでレベルが上がっている。レベルを過信はしないテルだが、油断もしないテルであった。正直電撃は痛いので毎回勘弁してほしいと思いながら受けているのだが。


 だが、テルは体感で感じていた。

 最初に電撃を食らった時は意識が飛んで気絶していた。次に電撃を食らった時は体は動かなかったが意識は保っていた。そして今、電撃を食らった直後だというのに、少しではあるが攻撃に転じれたのである。

 きっとエルエイルは気づいていない。奈美も気づいていない。テルだってきっと、ステータスがなければ慣れただけだと思って気付けなかっただろう。


 しかし、テルのステータスは確実に上がっているのだ。ならば、今のうちに鍛えておくことは役に立つはずだ。少なくとも無駄になることはないだろう。理不尽な死に対して何かができるようになるのかもしれないのだから。


 他にも炎とかに耐性があるマーマンとか職業にあるかもしれないがよくわからない。


(うーん。ゲーム脳ってやつかな?)


 テルは自重する。ひとまず目に見えるものを鍛えるのだ。そのためには体を張るしかない。今日のところは痺れでもう動けないとしても。


 意識を新たにするテルを見てタコスは奈美に伝えた。


「あいつは確かにおかしな動きをすることもあるだろう。そしてそれはこれからも続くと思う」

「それは…」


 奈美としては勘弁してほしかった。

 奈美から見た昔のテルは兄弟達にビシビシ指示を出し、すぐさま作戦を組み立て成功させる、魚人の鑑のような人物だったのである。そして、兄弟達がそこまで過去の兄弟の死亡を悼まないのに、死んだ人を忘れず想い続け、誰かの危険を見捨てず守る優しさを持つ英傑なのだ。


 いまや、それを見る影もないが。


「あいつは昔から合理的なんだ。そのくせ妙に魚っぽくない所にこだわる」


 タコスの言葉に振り向く奈美。かまわずタコスは続ける。


「あいつが側から見たらバカみたいなことをしている時は理由がある時だ。それもくだらない顔じゃなく、あんなに真剣な顔をしている時はな」


 奈美はもう一度テルの顔を見る。確かにその顔は真剣そのものだった。タコスは見るところは見ているのだと奈美は悟った。


「さすがに何を考えているのかまでは知らんがな。それでもテルはこの俺様の1番魚人なんだ。ティガでもフーカでもなく、あいつがな」

「……そうですね」


 1番魚人。

 それは支配者が最も信頼している魚人。その支配者が治める地域で1番強い魚人。そういう意味にとらわれることも多いし、実際腕っ節が強いという理由で1番魚人を名乗る魚人もいるが、実は違う。

 魚にとっては上の存在と思われている魚人を下に見下す支配者が、唯一認めている魚人なのだ。

 その存在は他の支配者も一目おくほどの意味を持つ。


 公表されてはいないがアーラウト海域に住んでいる全ての魚が知っていることだった。アーラウト海域の支配者、タコスの1番魚人はテルという魚人だということを。

 奈美が見ている限り、テルにその事実を知っているというフシは見当たらないのだが。





 テルは次の日もまたぶっ飛ばされていた。

 苦内から連絡が来たのはその日の夜であった。


「長らく待たせてしまいました」

「かまわない。で、大悪魔の口はどの程度の規模だった?」

「はい、こちらをご覧ください」


 苦内は一枚の粘土板を出して来た。そこにはカララトとタロスの間にある砦の近くからカララトの首都であるポリフェルの近くを通り、アーラウトの手前で途切れている大悪魔の口があった。

 それを見たテルはよろこぶ。


「よし。これならいけるな」


 テルは顔を上げると苦内に確認をとった。


「苦内。ここから一二三のところまで連絡にどれくらいかかる」

「私単体であれば3日もあればいけます」

「…………それは早いな」


 テルは苦笑するしかない。

 元々苦内は忍者のような能力があるが、最近は輪をかけて強くなっているような気がする。

 テルが一二三のキャンプをでて2日ほどかけてポリフェルについた。

 この河の位置からポリフェルまでおそらく3日くらいはかかるだろう。

 つまり、5日はかかる距離があるということである。それを3日でいけるという。身長が変化したり魔法が打てる世界である。忍者みたいな能力があっても不思議ではないが。


「ではこの粘土板を持って一二三のところに行ってくれ。一二三ならこの粘土板だけでも大体のことはわかるだろうが、付け加えるなら」


 粘土板に書き加えるテル。そこは大悪魔の口の中で最もポリフェルに近い場所であった。


「ここだ。ここに先行して魔法部隊全てを送っておいてくれ。送り出した3日後、全部隊でポリフェルに進軍してくれ。敵が来たら逃げ出して、魔法部隊と合流するように」

「逃げるんですか?」

「そうだな。出来るだけわざとらしくない方がいいけど、そんな余裕もないだろうから」

「わかりました。テル様はどうされますか」

「兄さんで構わないよ」

「今は昔と違いますから…」


 こまったような顔をする苦内にテルはため息をつく。確かに今は昔とは違う。昔はほとんど兄弟だけでやっていたが今は軍を動かしているのだ。そのことに寂しく思いながらもテルは指示を出す。


「俺はこちらに指示を出し終わったら魔法部隊の待機地点に向かう」

「わかりました。では、早速」


 溶けるように消えた苦内のあとをみて、テルは1人呟く。


「といっても俺はただの1人の魚人でしかないんだがな」


 テルにとってみれば平のサラリーマンでしかないのだ。それもティガと一緒に雇われたのである。ティガの方が活躍をしているのでテルとしては自分がちょくちょく重要な局面で呼び出されるのを不審に思っていた。

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