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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
13/25

13 電気マーマン

 テル達はこの河で苦内が帰ってくるまで待つこととなった。

 そうなれば待つしかないテルとしては、訓練なんかをして時間を過ごすしかない。同じく手持ちぶたさな奈美と稽古をしようと声をかけた。


「奈美、時間はあるか? 暇なら訓練をしようと思って」

「あー、今はちょっと」


 奈美は薄い民達の訓練場にいた。

 そこでは魚人になったばかりのもの達が体に慣れるため、訓練をしていた。


 奈美は拳で戦うタイプである。

 その応用で体の使い方を教えているのだろう。元が魚である点も体に慣れる教師役としてはたしかに適任だった。


 しかし、そうなると暇なのはテルだけになる。


「あっと、邪魔したな」


 生徒役の生徒に空気を読め、みたいな目で見られたためそそくさと退場しようとするテルだったが、その時ちょうど正面からエルエイルがきた。


「おや、テル殿も鍛錬ですか」

「そうしようと思っていたが、邪魔したようだ。次の機会にしようかと」

「私でよければお願いしたいですが」


 テルが少し消極的なのを察してエルエイルから申し出る。エルエイルはジンカした薄い民の魚人の中でも早い段階で魚人になったグループであった。

 体への慣れは日常生活で十分問題ないレベルに達している。


「奈美殿が言うには対人練習の方が体が早く馴染むと言うことですし」

「そうね。兄さんにもちょうどいい練習になるとおもうわ」

「それだけ言ってもらえるなら」


 テルはそう言って練習用の棒を持つ。テルの武器はメインがヤリである。しかし、練習でけが人を出すわけにもいかない。そのためヤリの練習をするときは扱いが似ている棒で練習をするのである。


 正直言ってテルはあまりエルエイルと戦いたくはなかった。たとえ練習とはいえ。

 その理由はエルエイルの風貌にあった。

 顔はエラ張っておりかなりいかつく、本人の物腰は紳士であるにもかかわらず、スキンヘッドで現代日本で言えばヤクザな顔つきである。体格もいわゆるプロレスラー体系でガチムチ、ムチガチのまさしく理想的なプロレスラー体系である。

 ぶっちゃけ非常に怖いのである。それなら腕前に差があっても奈美と練習している方がテルの精神衛生的によろしい。


(まあ、奈美にも情けないところばかり見せているし、兄の威厳を見せておかないとな)


 テルは実力的に奈美にしっかり負けているのだ。せめて体の動きに慣れきっていないエルエイルくらいには勝っておかないと威厳もへったくれもない。


 お互いに準備すると対峙する。

 普段は落ち着いているエルエイルから闘気が発せられている、ような気がする。瞳孔が開き目が真っ黒に見える。

 その異様な雰囲気に周りの魚人達もテル達の戦いを見守る。それを抑える立場の奈美も止めても無駄だと悟ったのか、一緒に観戦に回る。奈美が観戦に回って魚人が体の練習をしないなら奈美と訓練していてもいいような気がしたが、テルは黙って目の前の相手に集中していった。


「行きますぞ!」


 テルにとってエルエイルは気を抜いて勝てる相手ではないからだ。一言断りを入れて急速に間合いを詰めるエルエイル。そこから大ぶりの拳がうなりをあげて振られる。


 ブンッ


 しかし、いくつかの修羅場をかいくぐってきたテルにとっては遅い動きだった。当たれば一撃で吹き飛ばされるであろう拳のうなりを右耳で聴きながらエルエイルの懐に潜り込む。テルのギリギリの瞬発力はボンジモの攻撃も避けれるのだ。


 振り切ったエルエイルの脇腹めがけて棒を突き出す。


「なんの!」


 バシィ


 棒の先をうまく掴むエルエイル。先端を防がないのは、これは練習とはいえヤリであるという想定だからだ。しかし、高速で動くヤリを掴むというのもなかなか、エルエイルも体に慣れているということだろう。


 そのまま棒を上に持ち上げられ叩きつける。テルはあえて流れに逆らわず、むしろ泳いで加速する。


「ぬぅ」


 エルエイルが感嘆の吐息を漏らす。エルエイルの予想を超えるスピードで棒が動いた結果、エルエイルの掴んでいた手が棒から離れたのだ。

 テルは川底にうまく態勢を整えて着地すると再び睨み合う。

 緊迫した戦いに観客の魚人も固唾を飲んで見守る。


(かなりできる)


 テルは純粋にエルエイルの戦闘能力に驚いた。ついこの間魚人になったものの動きではない。おそらくティガやフーカと同じような戦闘欲の強いタイプなのだろう。

 なにか決め手になるものの手がかりを求めてテルはステータスを開いた。


 テル

 職業 イワシLV99

  マーマンLV10

  マーランスLV14

  マーボーLV6

  電マーLV1

 装備


 なんか増えていた。

 電マーってなんだろう。電動マッサージ機でないのは流石にわかる。というか職業が電動マッサージ機だったら嫌すぎる。肩こりをほぐすプロフェッショナルなわけがない。

 じゃあ、一体なんなんだ。マーはこのままだと「海の」とか「魚の」とかいう意味がありそうだ。マンは英語で男の人なのだから。じゃあ女はマーウーマンなのかと言われればそんなのは聞いたことがない。というか人魚はマーメイドか。海のメイドさんとか最高だな。何がとは言わないが。

 テルも人並みのオタクであったのだ。メイド喫茶くらいは夢見たことがある。40のおっさんが入るのは気恥ずかしくて入ったことはなかったが死ぬ前くらいは入ればよかった。やっぱりにんげん、なんでもやるだけやっておけばよかったものだと、「兄さん!!」


 奈美の声でテルが我に帰ると、エルエイルの手のひらが眼前に迫っていた。


「う、があっ!!」


 とっさに後ろに下がって避けようとするが避けきれず、ガッシリと手のひらに包まれる。そこから万力のように顔に、頭にエルエイルの指が食い込んでいく。


 メキメキメキメキっ


「が、が、が、が、が!!!」


 下手に口を開けた状態で捕まってしまったせいでテルの口から変な声が漏れる。ちなみにノエはとっくの昔に脱出している。テルが顔なんかを殴られるとそのままノエにもダメージが入るからだ。戦闘訓練しようとした時には口から出している。


 ここでさらに、


「必殺!!」


 エルエイルの叫びとともにテルの目の前が真っ白になる。意識だけはかろうじて繋いではいるが、体の神経回路が全て焼き切れたようにいうことを聞かない。もがいていた手も力なくだらりと下がり意識に反して無抵抗となる。


 エルエイルは手のひらから極小範囲に電撃を流したのだ。これにより観客にまでその被害を広げることはない。手でがっしり掴んでいるからテルの頭部にしか電撃は走らない。

 たしかに食らえば必殺であった。食らったテルがそれを全て物語っている。


「ああっと、やりすぎてしまいましたかな」


 急いで手を離すエルエイル。そのまま力なく漂うテルを介抱する。まだ体に力の入らないテルは放置していると川の流れに流されてしまうからだ。


「「「「わあああああぁぁぁ!!!」」」」


 周りで見ていた魚人達が歓声をあげる。それはそうだろう。練習をすれば薄い民でも海水の魚人を倒すことができるとわかったのだ。また、エルエイルは薄い民の中でも強い方だ。薄い民の魚人達の誇りとなっただろう。


 エルエイルにとってみても最高の訓練であっただろう。身体能力を研ぎ澄ますことができ、さらに魚人になっても引き継がれる種族固有の能力を使って戦うことができたのだから。


「何やってるのよ、兄さん」


 顔を抑えため息をつく奈美の言葉がテルには痛かった。しかし、体がまだ動かないのでフォローの入れようもない。普段のテルならばおそらく捕まったりはしなかったのだろう。捕まらなければ周囲に影響のある電撃はあまり使えない。仲間にも被害が出るからだ。そしてエルエイルにとって、掴むにはテルはすばしっこすぎるからだ。


(それもこれも変な職業のせいだな)


 そう思って再びステータスを見る。


 テル

 職業 イワシLV99

  マーマンLV10

  マーランスLV14

  マーボーLV6

  電マーLV2

 装備


 電マーのレベルが上がっていた。そこでテルは気づく。


(電気耐性のあるマーマンの略か)


 もしくは電気を受けたことのあるマーマンの略である。電動マッサージ機でなくてよかった。この小説がR18になるところである。


 しかし、この電マーのレベルを上げるのは大変そうだとテルは思った。なにせレベルを上げる方法が今のところエルエイルの電撃を食らう、という方法しかないのである。

 先を思いやってテルは、電気の痺れが残っていてため息もつけず、天を仰いだ。

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