テツ&アマ その14
テツとは文化祭の直前に、俺と喧嘩をしてしまい―――喧嘩になってしまった理由が、よくわからないが。
別れた。
別れ方は、良くなかった―――のだろう。
何か気に障ることを言っただろうか。
そりゃあ、俺は人に好かれるタイプではないが―――。
あの日、図書館でテツが俺をにらんで何か、小さな声で呟いて、どこかに行ってしまった後、俺は悪態をついた。
「なんだよ………」
テツ、最近のお前は見ていられない。
見ていられないんだよ、俺の友達ともあろう存在が、そんな表情をしていて、いいわけがない。
いいはずがないんだよ。
覇気がない。
ワンピース的なアレじゃなくていいから。
なんか面白いこと見つけろよテツ。
図書館で勉強の話なんかは、確かに楽しくはないだろうよ。
でも、何か―――あいつは何かやってないと、駄目だと、思ったんだ。
それが、そのなにかが勉強じゃなくてもいい………から。
―――でも、そうか。
引っ越しか。
だからそんな顔をしていたのか。
………言ってくれよ。
テツはいなくなった。
俺はひとしきりショックを受けたり、落ち込んだりして。
そして―――「でも自分は悪いことはしていない」と思い―――こういうところが、俺の、短所なのだ、他人の心を逆撫でする点なのだと気づくのには、それから五年ほどかかった。
カツアキと話した。
カツアキは、俺を責めるかと思いきや―――何も言わなかった。
ただ、困った顔をするだけだった。
「知らない―――けれど、引っ越しのこと、お前は聞かなかったのかよ?」
「………誰にも言わなかった、のかな、カツアキよぉ………せっかく新しいの作ってきたのに」
「新しいの?」
「ベートーベンMk-2」
「………」
カツアキは半笑いになった。
どうすんだよ、という表情。
でも。
俺はテツに、最後まで、勝てた気がしない。
あいつは面白くない話を絶対にしない奴だった。
教室で、確かに雰囲気が欠けた。
テツの引っ越しは当然のように噂になり、こんな話は止そう、もういいという奴もいたり、あるいは気にしない奴がいた。
色んな奴が、いた。
………そうだな、気にしている奴らは、本当はどれくらいいたのだろうか。
クラスの、バラバラの空気が苛立った。
大事件だろうが、もっと気にしろよ。
俺も、俺で、何故か怒りが沸いた―――気がする、いやあ、どんな感情で、どうすればいいのかがわからなかった。
自分の力ではどうしようもなかったということを、知ったが、怒るしかなかった。
どうしようもないことがあるって、認めたくなかった。
困った、というのが一番近いのかもしれない。
いや、ガキなのか。
ガキだからとりあえずキレるしかないのか。
よくわからないのは―――委員長がひどく泣いていたこと。
「―――私は、ちゃんとしてほしくて―――だから、」
「大丈夫、大丈夫だよ………」
谷瑞が、そっと話しかけていた。
肩に指先を触れて。
励ましているのか………?
なんなのだろう、委員長、テツのことが―――好きだったのか?
………いや。
安易な恋愛沙汰だと思いたくなかった。
それは、詳しく俺が知るところじゃあないし。
なんだか、あまり知ってはいけない、と直感し、目をそむけた。
この気持ちを何と表現すればいいのか。
確かに、なぜか。
俺は、テツを、追いかけなければいけないという使命感に駆られた。
あいつに手を伸ばしたくなったのだ。
だって、テツは。
俺より優れているとか、強いとか、格好がいいとか、男らしいとか。
そんな風には、見えない男だった。
確かに人が集まる、人間ではあったのだが。
明るい人間には、見えないときがあった。
消えていきそうに見えた。
テツの引っ越しのこと、言われなくても、どこかで、なんとなくわかっていたのだろうか。
俺の中の、心の―――深層心理のような部分で。
俺は、確かに俺は空気読めない堅い奴かもしれないが―――しかし、しかし。
でも、なんだろう。
でも。
だって―――だってテツは、男子にしてはやけにきれいで。
常人離れしていて。
綺麗、と言うよりも透明。
透明で、清潔で。
今にも、ふっと消えていきそうで。
それが俺にとって、なんだろう。
たまらなく恐ろしかったのだ。
見ているだけで不安になった。
俺は耐えられなかったのだ。
あいつは―――そう、あんなやつは。
まるで幽霊みたいだった。




