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部屋選びミスった。幽霊いるじゃん  作者: 時流話説
サイドストーリー
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63/66

テツ&アマ その12


谷瑞とアマが話をしているのを、遠目で見ることが増えた。

文化祭の準備について。

話しているのだろう―――。


学校行事の運営に関しては、アマの方が向いていた。

そう、気が付けば、俺が谷瑞に支えられている間に、アマはアマで、男子の側を進めていた。

あれはあれで生真面目な奴なので、計画にのっとっているようだった。

まああれで生真面目なところもあるから仕事も丁寧なのか―――全部を知っているわけじゃないし、むしろ、見ないようにしていたけれど。

仕切りが上手いところがあるんだろう。




羨ましい、とまでは思わなかった。

ほほえましいとは思った。

頑張ってほしいと。

それと同時に、嫌な感情もあったかもしれない。


―――なんで、あいつだけなんだろう。


俺、だって頑張って我慢しているけれど、なんであいつの方が楽しそうなんだろう。

お前、そんな感じだったっけ?

そういう奴だったっけ。

俺の方がクラスで目立っている、と最初は思っていた。

あれは勘違いだったのかな。

勘違いじゃあなかったと思う、あれは事実で、俺の方が上で、そしてこれからは、そうじゃない。

昔はそうだったというだけ。


幸せな人間が、クラスにいること、そしてそれが友達であること。

それは素晴らしいことだ、と思うけど―――今の俺には、眩し過ぎた。

涙が出そうになる時があった。

何をどうしようが、俺はこのクラスから去る―――。

あそこにはいられない。

毎日アマを見ることが、嫌になったのはこの頃からかもしれない。



まあ、元々谷瑞と仲良く話すことは、言うほど得意ではなかった。

アイツも基本は、女子同士でつるんでいるはずだから。

だから知っている仲というほどではない。

俺は女子のことが得意なのか、というとそうではなかった。

虚勢は張っていたが。


女子の笑顔。

ああ―――女子の笑顔。

俺は女子の笑顔が怖い。

女が、俺を見て、笑う。

複数の女が。

何事かを話しながら。

ああ―――俺は馬鹿にされている。

そうとしか思えないのだ。

そこに可愛いなとか、嬉しいなどという感情が、出てこない。

ああ―――人の眼が多い。

複数の眼だ。

という恐怖が、先行する。

彼女らは、決して極悪人ではない―――しかし、どう思われているかわかったものではない。

引っ越しのことを―――知っているのは本当に近所の奴らだけのはずだ、だがバレていない保証はない、そのことを噂されている?

じいちゃんのことを?

小学生の時の俺のことを………?

些細なことを考え出すと止まらない。


直視できず、目を逸らす俺。

そんな俺に、女どもは笑う。

決して、俺の方が弱いなどということはないはずなのに。

彼女らは、俺に近づいてくる。

しかし、ずっと一緒にはいない。

どうだったのだろう。

俺は、好かれていたのかな。

俺は―――苦手だった。

女子を。

得意になろう、ならなければ大人になれない、とは思っていた。

決めつけていた。



多くの女子の中でも、谷瑞は安心できる子だった。

彼女は文化祭の―――あくまで事務的な話を俺とするので、俺の眼を覗き込みはしないので、そういうところが―――安心できた。

あとは。

山田か。

彼女は―――美人ではあって、だから緊張はするはずだけど、不思議とそんな記憶はない。

どうしてだろう。

あんなに見ていたのに、一度も。

そういえば………彼女は、俺と目が合うことは、無かったのではないか。

でも、それが心地よいと感じもした。

おそらく、教育では―――(おおやけ)の場では、人の目を見て話しなさい、と。

そう教わることの方が多い、と思う。

よそ見して話せとか、地面を見て話せとか、そう教わるわけはない。

一応、覚えている。

言われたことはある、誰かに。


でも、冗談じゃない。

無理だよ。

特に、今は。

人の目を見て話せだと?

そんな恐ろしいこと、出来るわけがない。

出来るわけないじゃないか。

俺は人の目を見ず、口先だけで乗り切ることはできる。

俺はそれに慣れていて、おそらく、得意で。

ただ―――楽だった。

安全地帯を維持できるような気がしていて。

………悪いことをしているわけじゃあ、無いはずだった。


俺は―――何がしたかったのかわからなかったが、今までのようにサッカー部にいる雰囲気にならなかった。

なんとなく、何も考えていない子供では、なくなった。

色んな事を―――考えて。

考えて過ごすようになった。

何が楽しいのかわからなかったが、冷静さ、思慮深さのようなものを、覚えようとした。

動けないから。

この学校で、俺は身動きが取れなくなったから。


しかし考えても考えても、わからないのだ。

人の気持ちが。

愛が、恋が。

人として持っていて当然と社会で大っぴらに公言されるものが―――心の底を探してもわからないのだ。


文化祭が目前になるにつれ、俺は小さくなっていった。

魂が、気力が、すり減って、小さくなる。

しかし―――人の気持ちさえわかれば―――大人になれる。

わからなければ人として失格だ。

そう思っていた。


少し安心できるときはあった。

自分より下の人間を見ているときだ。

見つけた時だ。

………俺は性格が悪い。

だが、この時の俺は消耗しきっていて、それくらいしか胸がすく想いがしなかった。


下の人間。

あの、俺のじいちゃんを馬鹿にしたクズ。

何も知らない人間。

うわべだけしか知らない人間。

あれからも度々、俺に話しかけて―――来たことがあった。

いや、あれは話だったのだろうか。

俺は、人と話をするのが嫌いになった。

嫌い?

いや、気が進まない、というべきだ。

少なくとも、あのクラスでは。

そもそも当時の俺はあのクラスから去ることが目的であり。

幸せになる気がなかったのだから、自業自得といえばそれまでだが。


で。

奴が、何だったか、詳しいことは風の噂だから、知っているが間違っている恐れもある。

だが事実として、他の生徒と揉めて停学だか退学だかに、なったらしい。

罰を、しかるべき罰を、受けたらしい。

………まあ、時間の問題だった。

どんな理由があるにしろ、失礼な奴は排除されるか、少なくとも嫌われる。

というか何がしたかったのだろう、あいつは。

何しろ、俺の視界から消えた。


―――あんな奴、ほっとけよ。

どうしようもない奴だ。


と、言う人間は、小学校のころからの友達の中に、いた。

それは極めて正しい―――本当に、それをお勧めする。

多くの人には。

だが少数派の俺は―――少しだけ、思うことがあるのだ。

停学になったことについて。

俺だって、学校を休みたい日は多かったのだ。

羨ましい―――と、少しだけ思う自分がいた。


………いや、あいつを、助けたいという気持ちはあった。

何しろ中学生だ。

性格が曲がっていても、更生の余地はあるだろう、みたいな。



場面は変わり。

それは図書館での話だった。

図書館で一人で勉強しているところなど、クラスの人間に見られたくないのだが、当時の俺はその自習室で勉強していた。

受験前ならまだしも、中学二年生の時に相当の努力家か、もしくは見栄っ張りである。

まぁ。

理由は色々とあるが―――。

クラスの連中と話す時間が苦痛になったのと、

どんな顔をしてあいつらと一緒にいればいいのか。

サッカー部の連中とも、付き合いが悪くなった。

どんな顔をしてパスを出せばいいかわからなくなった。

ああ、ちゃんと笑顔は作ったよ。

いつも笑顔でいたつもりだ。


そんなこんなで、俺は問題集に取り掛かる。

難しいものではなかった―――はずだった。

平常時の精神で問題を見れば、解ける問題が多かった。



だが、気が進まない。

字が荒れた。


「………俺が決めたことじゃないのに、畜生、なんでこんなことをやらされるんだよ」


呟く。


勉強は何のためにやるのだろう。

そんな―――しょうもないことを考えたりもした。

答えなんてありそうもないことを。

進路なんて言うものは、結局、親の一声で全部決まってしまうものである。

俺の家もそうだし。

俺と同じような奴は―――たくさんいるだろうに。


気が付くと、問題から意識がそれている。

………いやいや、雑念だ。

今は、出来ることをやるんだ。


「ああ、くそ―――解けない、なんでだ、何がいけない。わるいことやってるわけじゃないのに」


俺は、悪いことをしていない―――善良な、健全な、しかも―――ちゃんとした被害者なのに。


男子生徒が、俺のすぐ近くに立っているのに気付いた。

その生徒がなかなか離れないので、見上げると、アマがいた。


「やっぱり、テツじゃん」


「は、はぁ………?」


なんでお前がここにいるんだ?

図書館なんかに来るんだ………カツアキとか、友達とかと一緒にいろよ。


「なんだよ、勉強熱心ってやつ?」


好奇心むき出しの表情で、俺の手元を覗き込む。

俺は混乱の中で、奴の眼を見た。

その焦点は俺ではなく問題集らしい。


「―――悪いかよ」


「………悪くはねえよ!いいじゃないか」


アマは嬉しそうだが、違うんだ。

違うんだ………この勉強は。


「試験範囲がわかっているなら、あとはそこを繰り返すだけだよ、そしたらどこで失敗しやすいかわかるし―――あれ?」


俺はとっさにそれを隠す。

カバンに入れる。


「………今のところ、テスト範囲じゃないよな」


あいつは感情を込めずに言った。

俺は、苦笑いでこたえる。


「帰れ………」


「な、なにそれ、今の、なにかふざけてんの?」


「いや、帰れよ、文化祭、あるだろお前」


「………?」


納得がいかない表情のアマ。

気持ちはわかるが引き下がれ、まったく笑いどころがないものなんだ。

ああ、本当に―――笑えない。


「いや、勉強の邪魔はしねえよ」


アマが言うが、その平坦な口調になぜか腹が立った。

表情は半笑いだ。


「なんだよ、手伝うぜ」


「………」


タイミングが悪すぎる。


「勉強が、できればいいのか」


「うん?………まあ勉強すればいいよ」


「勉強ができれば、何でもうまくいくのか?」


「ま、まあたいてい」


「たいてい?」


俺はアマをにらんだ。

アマを憎たらしく思ったわけではない、ただーーー会話を終わらせたかった。


「いやぁ、」


俺が怒っていることには、少し困惑するアマ。

だが、引き下がるそぶりはないらしい。

別に悪いことじゃないし―――と、色々と、早口で付け足すアマ。


「あの、テツ、ちょっと待て、何かを頑張ることはいいことだって言っただけで、まあ―――」


ガンバレバ―――ウマクイク?


「がんばればうまくいくのか?」


「そうだよ、勉強もそうだし、努力次第で………」


それからはなんとも言い難い、それこそ小学校低学年の子供でも言いそうな正論が、つづいた。

俺は―――馬鹿にされているんだなと、だけ思った。

わかりあえないなと知り、下を向いていた。


「範囲から間違っていたらどうしようもないよ、出るところがわかってるんならそこだけやればいいんだから、何回も繰り返せば―――」


「範囲なら、合ってるんだよ」


小さく言った。

言いたくないことを、小さく言った。

思いのほか、聞き取りやすい―――正確な、響きになった。


「え?」


「なんでもできるんだな?勉強すれば」


「え?いや、何でもってわけじゃあないけど、でも―――」


おいテツ、なんで怒ってるんだ―――と、奴は言った。

狼狽えていた。


「もういい」


俺はカバンを持って、背中をアマに向けた。

ああ、ここに来たのは失敗だったみたいだ。

ここもか。

ここにも、いてはいけない。



その問題集は、クラスメイトには見られたくないものだった。

テスト範囲は中間試験でも期末試験でもない。

この学校のどのテストとも違う。

『向こうの中学』―――引っ越し先への転入試験だった。


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