テツ&アマ その11
―――人は一人じゃない。
―――キミは一人では生きていけない。
と言ったような台詞がある。
ドラマもある。
歌もある。
散々聞いた、色んな、時代ごとの―――でも、同じようなJ-pop。
「本当にそうかな」
確かに、人は集まったらそれなりに楽しい。
でも………やっぱり、一人で生きなきゃいけない奴もいるよ。
一人で、どこかに行かなければならない時があるよ。
そういう奴も―――いる。
例えば俺とか。
ふん。
俺は変な奴で、少数派なんだ。
そうなんだろ?
畜生が。
「テツ、お前さー最近谷瑞と仲いいよなー!」
学校の中なので、煙草は吸わずに、三人で話している。
滝川が何の気なしに言った。
「………それが?」
「んーん、別に、別に―!」
滝川がにやにやと笑い、つられたように、一応松本が笑う。
「いや、付き合ってんのかなーなんて」
「羨ましい限りだよ」
「や………」
俺は苦笑する。
そして否定しなかった。
付き合えたら―――それも、いいのだけれど。
いや、やはりいろいろ考えた末に、
まあこんなものは、本気で言っていない、ただ口を動かしていないと落ち着かない、浮ついた話を話題にしないといけないというような、ただそういうものなのだが。
「谷瑞は真面目ないい子だよ―――それだけだ」
「本当かぁ………?何もなかったのか?」
滝川がニヤニヤする。
うぜえ。
「あ、ほらテツって、実行委員だっただろ、文化祭の―――」
松本が言って、滝川が、ああ―――と納得がいったようだ。
「それを口実に近付いたってわけだ、あ、知ってるか一組の………おいテツ、一組の加藤がさ、お前のことタイプだって」
俺は単なる女たらしではない。
女子を笑わせることに全力を尽くしたいだけだ。
………。
「付き合ったら―――いいことあるのか?」
別に意味があっていったことではないが、俺はそう言って、二人は迷った。
なんとなく口が動く。
喋りたいのではなく、止めるのが面倒だっただけ。
ぼそぼそと呟く。
「女子と、なんだ………恋人になったら―――それでいいことあるのかよ」
二人はなおも、少し笑みのある表情だった。
俺は下を向く。
―――この家を捨てる気か。
―――どうでもよくなったのか。
家で聞いた、俺の家庭の声を拾い上げる。
ひどい罵声を選んで、思い出す。
家族の喧嘩。
捨てたくない祖父、仕事熱心な父。困惑、なだめる母親。
聞き耳を立て――何もしない俺。
何が正しいかわからない弟。
付き合って、どうするのだろう。
付き合ったら変わるのかな。
結婚して家族になったとしても、幸せになれない場合がある。
結婚して家族になったとしても、幸せになれない人はいる。
俺はそれを知っている。
知っているんだーーー毎日感じていた。
俺は幸せになる方法を知らないし、教えてもらってはいない。
あの親から、教わっていない。
俺の家は。
決して、まだ―――最悪ではない、もっと悪い家庭環境なんていくらでもあるだろうし、婆ちゃんの死という、原因は、ある。
誰が悪いというわけでもない、原因はある。
喧嘩するかもしれないのに、分かり合えないかもしれないのに、どうして女子と付き合うなんていう―――つまり、意味のないことをするのだろう。
わからない。
「彼女ができるなんて、なんでそんな意味のない―――ことを―――」
言いかけて、そろそろやめようと思った。
二人が、どんな表情だったか、真っすぐ見れなかったけど。
俺の、居場所をわざわざなくすのも馬鹿らしい。
「まあ、女子とも話さないといけねえ、真面目な奴がいて助かる。俺が実行委員に慣れてねえのは本当だよ」
なんとかそう言うと、二人は少し笑った。
まず最低限、家族を知ってからでないと、女子と付き合う資格はない。
このとき俺はそう考えていた。
だってそうだろう、おかしいじゃあないか。
俺の家のアレなんかではなく―――。
男子中学生だった、としか言いようがない。
今思えば―――男子はみんな、女子のことを、少し恐れていたのだろうと思う。
女子は、きっと強くはない―――はずだ。
だが、しかしわからない。
理解が及ばない。
自分たちと違う。
違い過ぎる。
だが女子とはある程度話せなければ示しがつかない。
ここが男子の悪質なところだ。
学校の。
俺はと言えば―――他のことに精いっぱいで、この時、割とどうでもよかった。
俺は恋愛のエキスパートでもないし、サッカーボールの蹴り方を考えているときの方が楽で、楽しかったことは間違いない。
恋愛のエキスパートになりたいと願ったことはない。
少なくとも少し前までは―――小学生の頃は特にそうだった。
色恋沙汰とかから離れて、くだらない話は続く。
なんでもない話題がほとんどだったから、忘れたのだが、きにhなるのがあった
「お前さ、文化祭の実行委員なんてよくやるよなー?」
くじ引きで決まったことだから、としか言いようがないのだが。
「悪いかよ、祭りだぜ一応、フェスティバルよ。勉強よかマシだよ」
不真面目、不良アピール。
「いやいや、でもこういうのはさ、まじめな奴がやりゃいいんだよ」
二人は、へらへら笑う。
「お前見てると痛々しいんだよ、耐えられねえんだ、心配で」
そんなことを、マイルドに言われた。
優しく。
お前はアマに勝てなくてもいいんだよ、とでも言いたげな―――。
「………別に、悪いことしてねえだろ。ていうかくじ引きで決まったんだから仕方がねえじゃん」
二人は少し悩む。
「ていうか、お前らの方が心配なんだけどな………どうせそのうち、大人になったらよぉ、大人になったら、いろいろやらなきゃなんねーんだぜ………逃げてばかりもいられなくなる」
それでも、やつらはにやにやしていた。
だが―――口調はそうでなくなった。
少し、堅い雰囲気になった。
「―――高次の影響か?」
「………なんで、アマが出てくる」
唐突にアマの名前を出されて、俺も口調が変わる。
困ったような声―――しかし悟られてはいけない。
「あいつとかに、任せればいいじゃねえか。勉強とか学校行事とかよぉ」
こいつらは、まあ大きな声で言いはしなかったが、俺がアマと一緒にいることを、気に食わないらしい。
まあ、アマはああいうやつだから、アマのことを苦手な人間は多かった。
まあ、わからないでもない。
俺だってあいつのこと、得意じゃねえもん。
「わかるぜ俺は、別格だ。あいつは―――まあ、違う奴、だとは思うよ」
俺らみたいな半端モノとは違う―――。
学校行事、その企画。
そういうものに関しては。
「鼻持ちならねえよな―――そりゃあ勉強ができれば、学校は楽しいに決まってる。学校というか授業というか。そんでもって、俺らはそうじゃあない」
俺ら、と一括りにしてきたことに、なんだか苛立った。
だけどこいつらの言うことは、確かに一理ある、と思った。
文化祭は。
俺は―――俺は逃げたくなかった。
中学生である自分が、何に向いているかなんて、全容は把握していない。
それに、苦手なものでも得意になれるかもしれない、中学生の、今なら―――無理をすれば、何とかなるかもしれない、そう思ったのだ。
一歩踏み出せば今の、自分を変えられる。
それは大人になったら―――いつかは大人しくなるのかもしれないが。
大人しくなるのは、大人になってからでいいだろう。
といった前向きな心情だった。
「別に、そう思うのは勝手だけどよ―――」
俺は、色んなことに迷ってはいたが、アマのことを悪人ではないと認識していた。
そして、俺は残念に思う。
こそこそと煙草を吸っているだけのこいつら―――そして、その小物臭のする悪事すら、実はもうバレバレだという、こいつら。
この感情を何というのだろう。
正義づらをしたい、という気持ちもあった。
だが―――。
なんてつまらないんだろう。
なんて面白くないのだろう、この男たちは、とそう思ったのだ。
だが、俺は笑顔を作る。
優しく、甘く。
刺激しないように。
直接は言わなかった。
「なんか、やりてえだけだよ。なんかやってないと落ち着かないんだ」
そう答えた。
熱意がこいつらに伝わればよかったのだが―――結局最後まで、それはなかった。
「谷瑞、文化祭のことだけどさ―――アマにも手伝ってもらおう」
谷瑞に話した時、俺は言った。
別に、あいつらのように怠けたい、というわけでもなかった。
ただ―――予感がした。
「高次くん?」
「ああ、予定表、資料は煮詰まってるから、それを渡して一緒に考えればいい」
「………うん、いいよ!」
できれば全部任せたい、とまでは言えなかった。




