仕組みがわからないが
屋台は午後からなので、俺は今自由時間だ。
自由行動で、校舎内を見て回れる。
今日は自由時間、午前にタイチと一緒に回ることになった。
「なあ裕一、どこから回る―?」
ベビーカステラを頬張って、タイチが言う。
祭り特有の甘ったるい匂い。
時計を見る。
「十時過ぎかあ………、面白そうなところから行こうぜ、お化け屋敷とか」
「うおう、行っちゃう?それメインディッシュじゃね?ヤバくね?」
「二年生の方だよな」
「でもさ、変だ………お化け屋敷って今年、禁止なんじゃなかったか?」
「それが出来るんだってよ、どいういうわけか。それで突然涌いたダークホースみたいな存在感あるって、コーヒーカップと張り合ってる」
「荒れるな、今年の文化祭は―――」
「俺ら一年だから今年が初めてなんだけどな」
「わはは」
怪談を昇って、さらに奥の廊下を進む。
立ち止まっている人が二人いた。
一点を怪訝そうに睨んでいる。
何かあったのかな、等と思いながらその脇を通る二人。
その先にあったのが、お化け屋敷、二年四組だった。
さらに奥ではコーヒーカップの二年六組がある。
受付の生徒に料金を払って、さっそく入る。
「おお、すげえ」
意図しない彩色の室内だった。
ステンドグラスを連想した。
奥にゆっくりと歩いていく。
―――がしゃん、がらがら
―――がこん!
やかんがいきなり跳ねた。
「うわ、すげえ!どうなってんだ、これ!」
動かす仕組みがわからないがそれでも進む。
布製のぬいぐるみが勝手に動く。
机を三つほど並べてあるスペースを、滑って行った。
それも驚いたが、出口付近の人体模型。
人体模型が動く。
直立状態だったが、通りかかった時、突然ファイティングポーズをとった。
「ぎゃっ!」
女みたいな声が出た。
「すげえ、すげえ―――」
よく見ると人体模型の上に紐が見えた。
動かす仕組み、ギミックがあるのだろうが、それがわかっても、よくできた代物だった。
「うわあ、俺らも来年作りたいな、タイチ」
俺が何気なく、そう言った時である。
タイチが俺の首すじを、するっと撫でた。
「うわ、おいふざけんなよ」
振り返ってタイチを見る。
彼は机上雑貨の中の時計を見ていた。
「え?」
とぼけるタイチ。
お前、今俺を触っただろ。
こんなのでビビると思ったのか。
「いや、俺は何も?」
「とぼけやがって、まあいい、もう出口だ、出るぞ?」
オレは、すずかはるき。
5さい。
岩屋幼稚園のキリン組の幼稚園児だ。
きょうは幼稚園のイベントでこの高校の文化祭にやってきた。
「いーい?部屋のなかのものに、触っちゃだめよー?高校生のお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが困っちゃいますからねー?」
「「「「「はぁい」」」」
―――と、同じ班の子たちと一緒に、返事する。
高校の文化祭というものに来るのは初めてだったが、どの程度のレベルのものなのだろう。
ただの子供だましだったら承知しないぞ。
オレはこどもだ。
身長は残念ながら『ひゃくせんち』に届かない。
だがそれでも、そんなオレでも、子供だましでお茶を焦がされるのが大嫌いなのだ。
お茶を濁すだったっけ。
オレが入る番だ。
ビビらないぞ。
絶対ビビるもんか。
怖い『おばけやしき』によって『おんなこども』は叫び声をあげて逃げるかもしれないが、『おとここども』であるオレは、ビビらないのだ。
屈したりしないぞ、オレは。
ゼッタイおばけなんかに屈したりしない!
進むぞぉ!
つくえの高さはオレの顔と同じくらいだった。
間近で見える。
近い、近いって。
ゴリラみたいなモフモフのぬいぐるみが俺に向かってすべて来た
うぎゃあ!
だ、だが叫び声は上げない。
みんなのわぁーきゃー言う声が聞こえる。
出口の人体模型は、ビビったが、それでも、最初から怖かったので、大丈夫だった。
人体模型は、怖い。
人体模型はいかにも、何かをしますよ―――というオーラをバリバリ放っていたので、オレは大丈夫だったのだ。
出口が近い。
俺は叫ばなかった。
『ぶゆうでん』だぜ、これは………ビビらなかったぜオレ。
首筋を、誰かが撫でる。
振り返る。
おんなの人の黒い髪が、上に―――。
「えっ?」
見上げて探す。
クレヨンみたいにいろんな色の布がたくさんあった。
それだけだった。
最後まで『叫び声』は上げなかったが、オレはそれを何度も探して、でも後ろから友達が来たから、一緒にここから出た。




