テツは。
中学の時の夢でも見れれば都合がいいのだが、狙って見ることができないのだなー、夢というやつは。
なんて思う。
だからいつも通り思い出そう。
俺と違って、あいつは入学当初から目立つ奴だった。
友達が多い―――活発な、人間。
みんなに愛される人間、そう思った。
運動部だ。
サッカー部だったはず………まあ俺もテニス部だし、体力的にはそれほど遅れは取らなかったが。
食べ物で言ったらラーメンとかカレーみたいな存在。
といっても俺より友人が少ない奴を探す方が、難しかったのだが。
どうも俺は、俺という男は、近寄りがたい、いやな雰囲気を持っているらしい。
だが入学してから、その嫌な部分を自覚しないようになった。
不安はなかった。
意外や意外、俺は入学当初から同じクラスになったテツと、隣の席だったからだろう、彼と友達になれたのである。
崇常燈ふうに言うならば、最速で友達になれた、というやつである。
あの女の発言を借りるのは、なんだか気が進まないが。
俺は若干舞い上がっていた。
その頃の俺は口がうまく回らないやつだったし、周りの奴らにからかわれることが多かった。
だから居場所を探した。
なんだろう―――安全な、場所を。
すぐ見つけたのが幸いだった。
運が良かった。
絶対にこの上質な友達と一緒にいよう、ここが居場所だと思った。
二年生の時だ。
あいつは文化祭の実行委員を、推薦されたが降りた。
その時点で少しおかしいな、と思ったのだが、他の委員会をやっていたし、部活も忙しかったのだろう。
再度くじ引きで、俺になった。
俺は企画が盛り上がるようにいろいろ工夫したが、テツはそれを聞いて面白がった。
と言うよりも文化祭以前から、休み時間にふざける仲ではあった。
漫才の真似事だってした。
しかし口下手な俺は、クラスメイトに命令を下すようなことが出来なくて困っていた。
それを上手くやってくれたのがテツだ。
テツは天才的だった、あいつが話すと全部の交渉が上手くいった。
そうだ、あいつは交渉が、話術が上手くて。
そこが一番の違いかもしれない。
俺は駄目駄目。
初江さんに嘘の話をした。
嘘、と言うか脚色だ。
文化祭当初は俺とテツのツートップで進めていた………それは真実である。
だがその前は、ワントップだった。
すなわちテツ。
テツがクラスの中心だった。
面白いものの―――中心だった。
だがそれを明言できないのが俺の弱さ。
女子の前ではできるだけ見栄を張りたい。
しかしながら、俺も引け目、負い目を感じているだけのつもりはない。
ヤツを見習っていたからか、だんだん口下手ではなくなった。
実際、あいつの話は面白く、いつまでも話していたかった。
あいつがいないとどうなっていたか。
今の俺は、確実にあいつの影響がある。
悔しいことだが。
だが、いつからだろう、企画が固まって、残り二週間ぐらいからだろうか。
テツはよそよそしくなった。
下を向いたり―――というか、俺を見なくなった、避けられている。
なんだか、見る影もなく、らしくもなく―――、影になった。
話しかけても、うわの空のことが多く、目を合わせても目が笑っていないような。
俺は途端に困った。
作業している男子、女子に指示を出すのが苦手だった………何か、命令口調のようになってしまう。
テツが気になって。
テツのようにうまくはやれない………そう気負い、口が回らなかった。
文化祭委員長なんだから、ビシッとしろよ。
そんな軽口にも、びくついた。
それは向こうにとっては、言った側にとっては応援、鼓舞だったのかもしれないが………それぐらい俺は臆病だった。
だって、クラスの奴らの考えていることなんて、すべて完璧にわかるはずがない。
三十人くらいいて、住んでいる場所すら知らないやつら。
全員、悪い人間には見えない―――見えないが、まとまるとは思わなかった。
テツがいないという時点で、まとめ切れるはずがない。
俺はまだ子供だ。
それでも、文化祭を真面目にやる層も多いようで、ほとんど話したことのないそいつらと、話しながら進めた。
テツとは話さない。
話すこともできない。
休み時間に、あいつは自宅に帰ったらしい。
クラスメイトにそう聞かされたときは、そんなことが許されるのかと驚愕したが、でも帰ってしまったものは仕方がない。
あいつがいない時間が増えた。
あれだけ堂々とさぼるやつも珍しい………奔放な奴である。
だんだん、良くないうわさを聞いた。
テツがサッカー部で別のクラスの男子を殴ったとか。
テツが夜遅くに町を徘徊していて、警察に補導されたとか。
タバコを吸っているだとか。
家出して、テツのおじいさんに追いつかれて、家に連れ帰られたとか。
担任の木津川が、廊下でテツを叱っているところを見かけたが、俺から見れば怒り方は浅かった。
人に好かれるのだけは天才的に上手い奴だ。
卑怯者め。
たまに見せる笑顔は、苦笑でさえもどこかで見た俳優のような―――なにかで。
どことなくハリウッド映画の俳優が喋っているような、俺と『違う』ものがあった。
山田とか………女子と付き合ってるっていう話を聞いたときは、好き勝手やりやがってと思った。
モテないやつの僻みだが………。
うん、この話は蛇足だったな。
まあ。
にぶい俺でも気づく。
テツは所詮、俺みたいな地味な奴はいつでも捨てることができたってわけか。
それでも、何故だろう、俺には、テツがそんな風な人間には見えなかった。
いつものようにくだらない話をして、なんなら漫才じみたことをして、ついでに文化祭の出し物のアイデアをもらいに行こうとした。
テツ、おいテツ。
教えてよ。これどうよ。
取り合わなかった。
偶然のように校舎内に存在したテツは、俺を明確に拒絶した。
嘲笑った。
ちからなく、笑った。
人よりもしつこい俺は、人よりも頑固な性格をもってしても、あいつをいつからか、あきらめた。
テツは学校を休んだ。
休むようになった。
クラスメイトはそれに関して悲しんだが、俺を責めた。
主に文化祭の件で。
そう、文化祭も。
俺とテツでの二人で進めてた企画が失敗して、テツが引っ越したんだから、全部俺、俺だった。
だって、知らなかったんだ。
テツには何か。
後日、転校。
テツは転校した―――。
テツの悲しそうな顔、力なく笑った理由がわかった。
転校がわかっていたから、それを俺たちに言い出せなくて?
俺に一言言ってくれれば。
ごめん、って一言いえば許してやらなくもないが。
後日手紙が届いた―――なんてことはなかった。
俺のことをどう思っていたのか。
怖い。
たかが文化祭に、本気なんて出さねえよ―――か?
俺のことなんて所詮地味で、人気のあるお前にとっては使い捨てできる人間だった?
お前はどうしようもない不良だったのか?
よくいる、迷惑なだけの奴だったのか。
まあ奔放な奴だったことは確かだ。
クラスの奴らも、その奔放さには慣れて、一種の習慣というか、雰囲気というか。
テツはああいうタイプだから、テツだから仕方がない、という空気が出来上がっていた。
どうしてだろう、それでも。
俺はあいつのことを悪人だと思えなかった。
テツの勝手さをビシッといさめる、咎める男子も女子もいた。
正しい。
だがいざ、テツの悪口を間近で耳にする、聞くと、とっさにそれは違う、と言ってくる心が俺の中にあった。
俺が甘かった。
甘ちゃんだった。
でも、なんでだ、テツ?




