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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  沿岸調査

 ペリーが去った後で阿部正弘は海防強化を図っていた。

 その際に沿岸の防備を強化するための調査を江川英龍に命じている。



 江川英龍は嘉永2年のマリナー号事件の後から阿部正弘に目をかけられていた。

 嘉永3年には幕府に意見書を出している。

 その意見書の内容が「台場建設」と「農兵の取立て」である。


 農兵は有事の際に農民を兵として使うために訓練して育てようとする案である。

 戦国末期より兵農分離が進み戦をするのは武士のみとなっていた。江戸時代になるとそれは身分制度となり武士は特権階級となる。

 戦の際に戦うのは武士の義務である。だが、200年以上も大きな戦がない江戸時代において武士の気概は低下していた。諸外国から国を守るためには武士の力だけでは無理だと江川は考えていたのだ。

 しかし、武士が戦わずに農民が戦うとなると武士の存在意義が危うくなってしまう。江川ほどの危機感を持ってない幕府からすると考えられない話だった。

 台場建設においても必要性は理解していながら予算の問題で許可されなかった。


 それがペリーの来航により流れが変わった。

 海防の強化は幕府の最優先事項である。

 幕府上層部の会議は次にペリーが来る時はどう対応するか。長崎のロシア船にどう対応するかの外交問題に終始していた。その間隙を縫って阿部正弘は台場建設を強行していたのである。

 ペリー来航前の阿部正弘は調整型政治家で目立つ政策を強行していない。多くの協力者を求めて彼らの意見を尊重していた。

 ペリー来航後は独断専行に近いやり方で改革を政策を進めていく。だが、それが独裁のようには見えない。25歳から老中として政治にかかわり35歳となった阿部正弘は既に老獪といっていいほどの政治手腕を手に入れていたのだろう。



 この沿岸の視察に江川は1人の若者を従者として引き連れてきている。

 親友の斉藤弥九朗から託された青年は練兵間の塾頭となった剣術家であり長州藩の若き藩士の桂小五郎だった。

 桂小五郎は剣だけでなく学問についても斉藤弥九朗から学んでいる。

 弥九朗は若き頃に学者を目指していたこともあった。しかし剣の腕が良すぎたこともあり剣術家の道を選んだのだ。その弥九朗からすれば江川は日本一の学者であり愛弟子を預けるのにこれ以上の人物はいなかった。


 江川は桂小五郎に中間の変装をさせた。

 武士ではなく従者として視察に連れて行くことで下の身分の視線から物事を見ることを学ばせようとしたのだ。

 かつて江川と斉藤の2人が変装してお忍びで旅をして天保の一揆を未然に防いだという経験もある。

 桂小五郎は江川の元で学ぶことにより彼の先進的な考えや思想を身に着けることになる。

 松蔭の弟子と言われる長州藩士の中で桂小五郎が少し浮いているように思えるのは江川の教えが入っているからであろう。

 そしてこの時に学んだ変装術が10年後に「逃げの小五郎」としての彼を作っていく。



 視察を終えた江川は江戸湾の内部に台場を建設して砲台を置くことを提案した。

 台場とは江戸湾を埋め立ててそこに砲台を配置するというものだ。

 大砲が一つ二つでは防備の役には立たない。江戸湾に侵入してきた異国船をどこからでも狙えるように11基の台場を一定の間隔で建設することになる。

 その計画と実行の詳細は意見書を提出していた江川英龍に一任されることになったのである。


 それにともない8月6日には鳥居耀蔵により無実の罪で謹慎中であった砲術家高島秋帆の禁を解いて江川の配下に置いてもいる。

 それまで止まっていた海防に関する政策が一気に動き始めた。


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