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最初の移住者

設計図の線が止まった。音のせいで。


石畳を踏む音ではなく、革袋が揺れる音だった。中身が詰まっている——布か、道具か、何かがぶつかり合って鈍く鳴る音。一人分の足音。足取りが軽い。疲れていない足音だった。


カイは設計図から目を上げた。


宿舎の前、石の段差を上がってくる人間がいた。明るい茶色の髪。くせ毛が前髪に落ちていて、それを手で払う動作をしながら歩いてきた。革袋が肩から下がり、腰にもう一つ小ぶりの袋がある。靴が頑丈だった——踵の外側が広く擦れていた。片側に重心を乗せる歩き方。長距離を踏み続けた靴だった。


年齢はカイより上だろう。一、二歳。


カイと目が合った。


相手は止まらなかった。そのまま歩いてきて、石の段差を上りきって、カイの前に立った。


「ハルム村ってここですよね」


声が早かった。


カイは頷いた。設計図に目を戻したかったが、止まらなかった——相手の靴を見た。底が厚く、縫い目が丈夫だった。


「よかった。北街道から来たんですけど、案内板がなくて——分岐で三回迷いました。あ、俺はヴィルって言います。隣のレスク村から。聞きましたよ、ここに人が集まるって」


「誰から聞いたんですか」


「レスクの爺さんたちです。あとウォーカー商会の荷運びの人から。ハルム丘陵に誰かが入ったって話が出てたんで」


ヴィル、とカイは名前を一度頭に置いた。一文に経路と目的と情報源が全部入っていた。口が速い。


「移住希望ですか」


「そうです。あと、もし役に立てるなら働かせてください。俺、交渉と計算なら得意です。設計とか建築は分かりませんけど」


カイは設計図を一度見た。


宿屋の基礎測量の続きが残っていた。砕石の手配も終わっていない。グランが二日と言っていた材木の手配も、確認していない。カイが直接動くと、設計から離れる時間が増える。


「グラン爺に話してください」


「グランさんというのは」


「棟梁です。北の石垣にいます」


カイは設計図に目を戻した。ヴィルはまだ立っていた。


「一つ聞いていいですか」


何かを確かめている声だった。聞けばいい。


「あなたが設計をやっている人ですか」


炭筆が止まった。


「隣村の爺さんたちが言ってたんです。十五歳の子が一人でここを要塞にしようとしてるって。本当ですか」


「要塞都市です。要塞だけでは機能しない」


ヴィルが少し黙った。


「つまりこういうことですよね。要塞と都市を両方作る、ということで」


「そうです」


「一人で」


「今は三人です。これからもっと増えます」


ヴィルは革袋の肩紐を持ち直した。前髪を払う癖がまた出た。


「俺が来たので四人になりますね」


カイは設計図を見ていた。宿屋の配置。城壁一段目の予定線。三街道への見通し台の仮位置。まだ人が足りない。物資の調達経路も、人の誘致も、カイには動かせない部分だった。


「グラン爺に話してください」


「さっきも言いましたよね」


「案内しません。北の石垣はあの丘の上です」


ヴィルは丘陵の方を見た。それから設計図を見た——テーブルの上に広げてあるものだ。少し首を傾けて、図面の線を目で追った。


「これが設計図ですか」


「読まなくていい」


ヴィルは一歩下がった。丘陵の方向を確認して、それからカイを見た。


「一つ聞いていいですか。最後に」


カイは答えなかった。聞けばいい。


「本当にここが要塞都市になると思ってますか」


「なります」


「根拠は」


「地形です。三街道の合流点はここだけ。北の荷が迂回で三日ロスしている。防衛上の高低差もある。なる場所だからなる」


ヴィルは少し考えた。


「つまりこういうことですよね——今はまだ廃村だけど、場所が正しいから必ずなる、という話で」


カイは設計図を見ていた。


「分かりました」


ヴィルは革袋の肩紐を握り直した。靴が石を踏む音。丘に向かって歩き始めた。


カイは設計図に目を戻した。




グランとヴィルが降りてきたのは、午後に入ってからだった。


足音が二人分あった。グランの歩き方——踵を浮かせた棟梁の足音と、少し速めの若い足音が並んでいた。カイはテーブルの上の設計図を畳まなかった。


「カイ」


グランだった。


「砕石の手配をロッホに任せようとしたら、このヴィルとかいう若者が口を挟んできた」


ロッホ——村の荷運びを一手に引き受けている男だ。動きは遅いが確実だった。


「レスクの荷運び業者を知ってるんです」ヴィルが素早く言った。「ロッホさんより半分の日数で来ます。値段も聞いてみましたが、競争させれば下げられます」


「交渉したんですか」


「まだです。でも顔は知ってます。話は通ります」


グランがカイを見た。


「使えるかどうかはお前が決めろ」とだけ言った。


カイは設計図を見た。


砕石の搬入位置。現状の工程表。砕石が早く来れば——指先が紙の上の線を押さえた。紙がわずかに沈んだ。その感触の下に、石の重さと地盤の固さが全部入っていた。


炭筆を持つ手が、一拍、動かなかった。


これは動く。


「頼みます」


「任されました」ヴィルが言った。「ほかにも動かせることがあれば言ってください。交渉と情報収集ならやります。あと計算も。設計は分かりませんが、数字の確認くらいは」


「今は砕石だけでいい」


「了解です。あと——移住者の話なんですけど」


「後で」


「カイさん、話が短いですね」


「問題ない。来週には終わる」


ヴィルは一瞬止まった。


「来週に何が終わるんですか」


グランが短く鼻から息を出した。


「砕石が来たら言います」


「つまりこういうことですよね——砕石が来次第、次の指示が出る、ということで」


カイは設計図に目を戻した。


ヴィルは袖から小さな帳面を出した。素早く何かを書き込んだ。指が速かった。書くことに慣れている。


「宿泊場所はどこですか」


「今は使っていない建物が二棟あります。グラン爺に聞いてください」


「また儂に丸投げか」グランが言った。


「わしに」——カイは言いかけて止めた。グランが「儂」と言ったのは初めてだった。古い言葉だった。棟梁の口癖が染み出てくることがある。


「グラン爺の方が建物のことを知っている」


「知っとるがの」グランは首を振った。「お前、飯は食ったか」


「昼はまだです」


「知っておる」


ヴィルが帳面から顔を上げた。カイとグランを交互に見た。


「毎回こうですか」


「毎回じゃ」グランは言った。「食わん。言わないと食わん」


「大変ですね」


「慣れた」


カイは設計図の続きを広げた。宿屋の基礎。砕石が来る位置の修正線。グランの言っていた水の集まる場所——そこへの対策を入れた修正案が、まだ紙の上に固まっていなかった。


「測量の補助ができる人間が必要です」


カイは設計図を見たまま言った。


「縄の端を持つだけでいい。数字は自分で読む」


「俺やります」ヴィルが言った。「縄の端を持つくらいなら」


「明日の朝、北の石垣の上に来てください。縄と木炭と測量紐は自分が持つ」


「何時に」


「日が上がったら」


「分かりました」ヴィルは帳面に書き込んだ。「明日朝、北の石垣。測量補助」


グランがカイの横に来た。設計図を上から見て、一か所を指で示した。


「砕石を入れる位置がずれておる。三寸南じゃ」


カイは線を引き直した。


「それで合ってるか」


「そうです」


「よし」グランは離れた。扉を開ける前に一度、カイからヴィルへ視線を動かした。何も言わなかった。「ヴィル、宿泊場所を案内してやる。荷物を置いてこい」


「ありがとうございます。あ、あとヴィルでいいです。さん付けはいらないです」


「呼び捨てにしとるが」


「そっちの方がいいです」


グランとヴィルの足音が離れていった。テーブルの上に静けさが戻った。


カイは設計図の線を見た。


修正した砕石の位置。基礎の深さ。宿屋の輪郭。城壁の仮線。この丘陵に何を建てるかは、頭の中ではとっくに決まっていた。問題は人だった。グランは石と地盤を読む。カイは設計をする。だが設計図と地盤の間には、物資と人と交渉と資金がいる。


今日まで、その部分が空白だった。


ヴィルが来た。


交渉と情報収集ができると言った。口が達者だった。数字を帳面に記録していた。砕石の手配を「半分の日数」と言った——根拠のない言葉ではなかった。業者の顔を知っていると言った。知っているだけでなく「話は通ります」と言った。信頼関係があるということだ。


頭の中の設計図に、空白があった。物資の調達経路。情報の入口。数字を人に変える橋渡し。そこに今日、ヴィルという名前が入った。


炭筆が次の線に動いた。


東街道への見通し台の位置。ここは岩盤が地表に近い——この丘陵に初めて足を踏み入れた日、斜面を歩きながら靴底から伝わってきた硬さで知った。足で測った場所だ。基礎が浅くても持つ。石材の量が減る。工程が短くなる。


岩盤の固さが、今も靴底の記憶として残っていた。手が炭筆を動かした。線が伸びた。それから伸び続けた——いつの間にか紙の端まで来ていた。どれだけ描いていたか分からなかった。


見通し台の基礎位置を示す線を引いたとき、指先が止まった。石材の割り付けと合わない。一段目の壁に使える石が足りない——基礎を広げると石材が二十ほど不足する。砕石を早く頼まなければこうなると分かっていた。


「問題ない。来週には終わる」


声に出てから、誰もいないことに気づいた。


手の中の炭筆が止まった。一拍、二拍。折れた線を見た。引き直す。


出てしまったものは消えない。カイは設計図に戻った。




夕方、ヴィルが荷物を置いて戻ってきた。


宿舎の前の石段に腰を下ろして、帳面を広げていた。日が傾いて、石の表面が橙色になっていた。カイはテーブルの上の設計図を畳み始めた。


「聞いていいですか」


カイは設計図を畳む手を止めなかった。


「一人でここに来たのはなぜですか」


ヴィルは少し間を置いた。帳面の表紙を指で叩いた。考えているときの癖か、それとも言葉を選んでいるのか。


「商機があると思ったからです」


「それだけですか」


「……三街道の合流点に拠点ができたら、交易ルートが変わります。今は北の商人が王都に荷を運ぶとき、ぐるりと遠回りしています。ここが使えるようになれば、距離が三分の二になる」


「知っています」


「知ってましたか」


「この地に最初に踏み込んだ日、街道の交差角から計算した」


ヴィルは帳面を膝に置いた。前髪を払った。石段の橙の光の中で、初めて少し違う顔をした。値踏みではなかった。確かめている顔だった。


「正直に言いますね」


カイは設計図の束を道具袋に入れた。炭筆を持つ手を——置かずに持ったままにした。


「廃村に一人で来た十五歳が何者か、見てみたかったんです。商機は本当です。でもそれだけじゃなかった」


「見てどうでしたか」


「設計図を見ました。読めないですけど——線の数が多かった。一日二日で引けるものじゃなかった」


カイは道具袋の口を縛った。


「どれくらいかかったか分かるんですか」


「商家の息子なので、仕事の量の見当はつきます。あれを引くのに、最低でも二週間はかかる。たぶんもっと」


「一ヶ月です」


ヴィルは少し黙った。石段の橙の色が、足元の石に長く伸びていた。


「一ヶ月で、あれだけの線を」


「まだ途中です」


炭筆が指の間で動かなかった。ヴィルが次の言葉を探す気配があった。カイは待たなかった——道具袋の紐を引いた。革の擦れる感触だけがあった。


ヴィルが帳面を開いた。何かを書き込んだ。カイは道具袋を持ち上げた。革が肩に来た。父の手帳の重さが底から来た。一度濡れた紙の、乾いても抜けない硬さだった。


「移住者の話を聞きます」


カイは言った。


「今ですか」


「座ってください。長くなるなら」


ヴィルは石段に座り直した。帳面のページを新しく開いた。


「レスクとその周辺の村に、土地の余った家族が七世帯あります。うち三世帯は移住に前向きです。残り四世帯は様子見の状態」


カイは道具袋を石段の端に置いた。七世帯。数字を地図に当てた。レスクからハルムまで、荷を持った家族で二日。道は整備されていない。


「宿屋が完成したら動きますか」


「目に見えるものがあれば決断しやすいです。三世帯は」


「宿屋は八週間で完成します。砕石が来れば」


「砕石は五日以内に来ます。業者に明日の朝、話を通します」


「八週間と五日。その後、三世帯に話を持っていけますか」


「持っていけます」ヴィルの炭筆が帳面に走った。「ただ、何を提示するか決めておく必要があります。土地の割り当てとか、仕事の保証とか。口頭だけじゃ動かない人もいます」


「土地は選んでいい。仕事は建設作業と街道の整備です。賃金は物資での支払いになります」


ヴィルの手が止まった。


「物資で」


「今は金貨が少ない。石材と食料で払います。後で金貨に換算します」炭筆を持つ手が待っているのが分かった。「計算はヴィルに頼みます」


「……俺がやるんですか」


「口で言っていた。計算が得意だと」


「言いましたね」ヴィルは帳面に戻った。短い笑いが混じった。罠に嵌められた笑いではなく、自分で言ったことが回ってきた笑いだった。悪くなかった。「分かりました。やります。石材と食料の換算レートを先に決めておいてください」


「グラン爺に聞けば出ます」


「また丸投げですか」


「グラン爺の方が詳しい」


「つまりこういうことですよね——俺がグランさんから話を聞いて数字を出し、移住者に持っていく。カイさんは設計に集中する、ということで」


「そうです」


ヴィルは帳面に素早く書き込んだ。日が石段の先まで伸びていた。橙の色が石の表面を横切っていた。


「問題ないですか」とヴィルが聞いた。


「問題ない」


「来週には終わりますか」


カイは答えなかった。


ヴィルが顔を上げた。緑がかった茶色の目が、設計眼でもなんでもなく、ただ面白そうにカイを見ていた。


「さっき独り言で言ってたので」


「問題ない。来週には終わる」


「そうですか」ヴィルは帳面を閉じた。「俺はそれで動きます」


グランが宿舎の扉から顔を出した。


「飯にしろ」


「今行きます」カイは言った。


「お前が先に言ったのは珍しいな」


「今日は聞く前に言いました」


グランは短く鼻から息を出した。扉が閉まった。


ヴィルが帳面を袖に差し込みながら立ち上がった。靴が石段を踏む音。


「カイさん」


カイは宿舎の方に足を向けた。


「三世帯の移住者が来たら、次はどうするんですか」


「次は七世帯にします」


「その次は」


「十五世帯」


「倍々ですか」


「違います。次の建物が完成するたびに増やします。建物が人を呼ぶ。人が建物を支える」


「なるほど」ヴィルが隣に並んだ。「つまりこういうことですよね——宿屋が完成するたびに、受け入れられる人数の上限が上がる。俺の仕事は、その上限いっぱいまで人を連れてくること、で」


「そうです」


「分かりました」


夕の光が丘陵の上に残っていた。三街道の合流点が夕光の中に見える。その場所を、カイは最初にこの丘を踏んだ日から知っていた——街道の交差角を足で歩いて測り、地盤の硬さを靴底で確かめた。廃村だった。雑草が石畳を割っていた。それでも場所は正しかった。


明日、砕石の話が動く。道具袋の底で、父の手帳が揺れた。指先に硬さが伝わってきた——見通し台の基礎の折れた線を、明日の朝に引き直す。




あとがき: |

第6話です。ヴィル登場の回です。口が達者で情報密度が高い割に、きちんと「役に立てるか」を先に確認してから動く——その誠実さをカイが無言で受け取る場面を中心に書きました。「つまりこういうことですよね」の翻訳パターンを初披露しています。カイとヴィルの役割分担が一話の中で自然に決まっていく流れを意識しました。次話は石積み作業開始です。

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